疑わしきは…?

疑わしきは…?

「はぁ?店休んで姉さんもいく!?;」
その宣言はあまりに突然で、星は思わず身を乗り出した。

平日真昼のレストラン。
客と言えばマナだけだったので、星がいなければ静かなままだった。
それゆえ、その星の声は店内に響き渡った。
年中無休だったのに、急に行くとなれば話は別である。

「どうしてまた。月光も店に手伝いに来るって言ってただろ?;」
「それが、そうもいかなくなったのよね。」
亜音はそういうと、ポケットから名刺入れを取り出した。
そこから一枚の名刺を引き抜き、星に見せた。

「『異能殺し 白波 シドウ』…?」
「昨日この店に来たんだ。ぱっと見、なかなか胡散臭い男だったよ。」
店長は顔をしかめる。
「でも、言ってることに嘘偽りはまずなかった。『異能殺し』とはその名の通り、能力を無効化する力らしくってね。現にその時だけ、私も「人体移動」を封じられて使えなくなった。」
「そんな力があるのかよ。」

でもそういえば、そんな能力を持つ人がいたら誘ってくれないかという連絡は前に彼女自身からはいっていた。
能力の存在自体は、彼女自身知っていたかもしれない。
見たか見てないかは別にして。

「その男が、今度の旅行に参加するという話を持ちかけてきた。自費は負担するし、困ることにはならないだろうと言っていたが、どうにも信じられない状態なんだ。」
「弟たちのこともあるだろうからな。そりゃ今のあんたなら警戒するだろうよ。」
「一応月光君にもついてくるよう言っておいて。大人が多ければなんとかなるわ。まぁ、一人だけ差別はしたくないから、彼の分もまとめて払うけどね。」
「ああ。特に月光は能力関係ないからな;」

「まぁとにかく、大切なのは子供たちの安全だから。ごめんね、リフレッシュのつもりで誘ったのに…。」
「いいんだよ。あんたの優しさは譲れない。」
星は立ち上がった。

「そういや、そこの女の子は誘わねぇのか?」
「マナのこと?こないってさ。まぁ、人それぞれだから強制はしないけど。」
「そっか。残念だけど仕方ないか。」
星はマナに手を振ると、店を出た。


その直後だった。
「胡散臭い男で悪かったな。」
ついさっき通ったレストランのドア。
そして、星の背との間に、その男はたっていた。

「…いつからいやがった。」
「君が叫ぶあたりから。」
「全く気がつかなかった…。」
「気配を消すのは得意でね。」

警戒するように星は向き直った。
予想していたよりかなり若い男だ。ただ、作り出す空気がどうにも星は好きになれなかった。

「どうしてまた、旅行に参加する気になった?」
「極端に悪くなきゃ誰でもよかったみたいだったからね。それに、能力を封じておいてほしい人がいると聞いたから。」
環のことだろう、と星は直ぐに気がついた。
しかし、何処の誰だか知らない男が、何故そんなことを知っているのかが分からなかった。

「皆警戒しているようだけど、悪いことは何もしない。約束する。」
「信用ならないな…。」
男を睨みつける星の眼は変わらない。
この息苦しさが誰かに似ている気がしないでもなかったが、「記憶を失っている」星には、それが誰なのか見当もつかなかった。


「でも、『異能殺し』は信じるだろう?現に今、君の力は通用していない。」
「!」
思わず左手を上げる。『異能殺し』は確認のうえ、振り向いた時から「重力操作」を発動していた。
しかし、封じるどころか使う瞬間まで把握された。
こいつ、ただものじゃないと星は一層警戒を強くした。

「…まぁ、疑われても仕方ないか。」
あきらめたように男は息を吐いた。
「いいよ、どんな風にとらえてもらっても。」
男は軽く笑うと、踵を返そうとした。

「おい、まてよ。」
星が呼びとめ、男は店のドアの取っ手をつかんだまま止まった。
「お前、『白波』を名乗ってたよな。ブランカと関係があるのか?」
行き成り核心を突き、動揺を図る作戦だ。だが、男は動じることもなく静かに答えた。

「さぁね。ただ、これだけは約束しよう。私は嘘は、絶対に吐かないと。」

店の中に消えていった男の背を、星はただ茫然と見送っていた。

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最終更新:2011年03月13日 14:49