『ある日の白澤』
「暇っすね~・・・」
アタシは今、ウスワイアの屋上で寝転がっていた。
目の前にペンキの様な白い雲が漂う、真っ青な空が広がっている。
普段、アタシはレーシングスーツに―――たまに白衣を羽織り―――長い、茶色の髪を後ろに束ねているけど、
今は白いシャツに黒のスキニーパンツの格好。髪も束ねていない。
「平和だから、いいかな~」
ほどよい日差しと心地のいい風に、アタシは幸福感を感じた。
この前までのウイルス騒動が嘘の様に感じる。
まあ、また大変な事が起こるかもしれないけど。
「・・・今思えば、過去の事も嘘の様に感じる・・・・・・」
物心ついたときから、実験体として過ごしてきた幼少期。
薄暗い研究所、冷酷な研究員、毎日繰り返された実験。
そして―――自分の運命が変わったあの日。
不可解な実験により、アタシは脳死した―――はずだった。
自分に死因を与えた「知識」の耐性を得る為、アタシはナイトメアアナボリズム、「知識の悪夢」の力で生き返った。
そしてその力を使って研究員達を殺し、研究所を破壊した。
そしてウスワイアに保護され、「天才的な頭脳」を買われたアタシはアースセイバーに加入。
今に至る、というところ。
皆は今でこそ、アタシの事を「天才」だって言うけど、アタシは自分の事をそんな風に思った事は、一度も無い。
確かに他人から見れば、「知識を無限かつ永遠に記憶する」能力を持つアタシは、天才に見えるかもしれない。
でも只それだけだ。
天才というのは、少ない知識であらゆる事に応用する者の事。
記憶力だけが並以上に良いアタシは、只の「物知り」。
それでも皆はアタシを「天才」だと慕っている。
最初はそれに戸惑ったけど、今はこんなアタシでも役に立つと、嬉しく思っている。
その時ふと、ショウさんに言われた言葉を思い出す。
―――「人の手で作り出された知識の獣」。お前はまるで「人工白澤」だな。
アタシは「人工白澤」という言葉を呟く。
と同時に、あの日の実験の事を考える。
最初は何が目的か分からなかったけど、多分、あいつらは
ホウオウグループのアイの様な天才を、人工的に作り出そうとしたのかもしれない。
アタシが「一度死んだ」為、表面的には失敗したが、悪夢の力によって、アタシはそれに近い頭脳を手に入れた。
皮肉ながら、実験は成功したようなものだ。
「あ、シノさん。ここにいたんですね」
横から誰かがアタシを呼んだ。
起き上がって見てみると、黒髪黒目の少年―――
シスイがいた。
「シスイっすか。何すか?」
「いや、何か
アキヒロさんが言いたい事があるって・・・」
「あー・・・あの事か・・・」
「?」
「いや、実はこの前、ミユカが
シグマを連れて外出するのを、見逃したんすよ」
「え゛。確かシグマ君って、身分は・・・」
「アースセイバー加入『予定』のウスワイアの能力者っす」
アタシの脳裏に、満面の笑みを浮かべるミユカと、好奇心で満たされた目をするシグマが浮かんだ。
あまりにも楽しそうだから見逃したんすけど、遂にバレたか・・・
アキヒロさんの「言いたい事」っつーのは、ほとんどが説教。
見逃したとはいえ、何故あんなくだらない物を聞かなきゃダメなのか。
そんな物聞くぐらいなら、大好きなバイクに乗れないほうがマシな気がする。
というかバイクに乗って逃げたい。出来れば北海道まで。
「シ、シノさん?」
「あ、ごめん。現実逃避してたっす」
「そんなに嫌なんですか・・・?」
「当たり前っす」
「ははは・・・」
「まあ、ミユカとシグマは楽しかったみたいだし、2人の為にも大人しく受けますかね」
「じゃあ俺はこれで・・・」
ガシッ
「・・・シノさん、この、肩に置かれた手は?」
「シースーイー?アタシは何も「1人」でとは言ってないすよ?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!俺何もしてないですよ!?」
「あんたが自覚してないだけじゃいんすか?どっちにしろ道連れにするっす!」
「そ、そんなーーー!!!」
最終更新:2011年03月13日 15:04