「あー、
ハヤトちゃんだ」
「ちゃん付けやめろ。男の俺にそれはおかしいだろ」
「女の子顔で言っても説得力ないよー」
「女顔で悪かったな」
ばつの悪そうな表情のハヤトを見て、ミユカは「キシシシッ」と笑い声を上げた。
「お、上手そうなお菓子あるじゃん」
「え?」
ミユカはハヤトの視線を追う。
ハヤトが見つめていたのは、
カナミが
風月堂で買った苺大福。
ハヤトはそれに手を伸ばし、そして―――。
「いっただきー」
「あーー!!!」
ミユカはハヤトの行動を止めようとしたが、時は既に遅し。
苺大福はハヤトの口の中に入ってしまった。
「何だよ、大声出して」
「えと、それ…カナちゃんが買った物なんだけど…」
ミユカの言葉に、ハヤトは一瞬にして石になる。
「…マジで?」
頷くミユカ。
その時。
ガチャン!
「あ…」
「カ、カナ…ちゃん…」
気まずい空気が流れはじめた談話室に入って来たカナミの目には、大粒の涙が溜まっており、足元には抹茶が入っていたであろう、湯呑み茶碗が割れていた。
「わ、悪いカナミ!その、お前の物だったとは知らなくて…」
ハヤトは必死にカナミを宥めるが、落ち着くどころか逆に涙をこぼしはじめた。
「それ…1時間…も、並んで買っ…たの…にぃ…」
3人は更におののく。
カナミがここ―――ウスワイアで泣くと、決まって必ず、大変な目に会うからだ。
「ひくっひくっ…うぅ~…」
「カ、カナちゃん!泣いちゃ駄目だよ!」
「う、うぁ…」
この場の状況を判断してか、聖が談話室を出ようとした時だった。
「うわぁあああああああんっ!!!!!」
カナミがけたたましい声で泣きはじめる。
それが引き金となり、談話室に激しい嵐が巻き起こった。
「うぉおおお!?」
「ハヤトちゃんのバカポンタン!全部ハヤトちゃんのせいだよッ!!」
「だからちゃん付けやめろ!つかバカポンタンって何だよ!!」
「その前にこの状況どうにかしろ!!」
その時、大混乱の談話室にシノが入って来た。
「な…どうしたんすか一体!?」
「どうもこうも、ハヤトの馬鹿が、ガキの和菓子食って今の状況になったんだよ!」
「百科事典さん助けて~!」
「わ、分かったっす!」
そう言って、シノは銃を構えた。
「え、銃!?」
「大丈夫っす!これ麻酔銃っすよ!」
カナミの腕に狙いを定め、シノは引き金を引いた。
チュン!
軽い銃声が響いた後、カナミはその場に倒れ込んだ。
「た、助かった…」
「百科事典さんありがとー」
「いいっすよ、早めに抑えてよかったす」
「で、どーすんだ、こいつは」
何事も無かった様に眠りこけるカナミを見やって、聖は言った。
「アタシが治療室に運ぶっす。しばらくすれば起きるっすよ」
―――後日、カナミを泣かせた罰として、ハヤトは苺大福を買いに行かされたそうな。
最終更新:2011年03月18日 21:18