■最大なる受難者
タカユキ君にほぼ無理矢理携帯にアドレスを登録されてから、
わたしの携帯に彼からの着信はない
といっても、携帯が鳴ったところでパニックに陥るのはわかっているので、
内心ビクビクしているのだ
『おい。なんだよまた本読んでんのか?』
『あ…
ハヤト』
同じウスワイヤのハヤトは、
どうやらクラスメイトに雑用を頼まれて図書室に足を運んできたらしい。
両手にはいっぱいの荷物を抱えていたが、カウンターにそれらを置くと
ぐったりしたように椅子に腰かけた
『つっっっっかれたぁ……』
『ハヤトは本当に使い走り体質みたいね』
『否定はしない…つーかできない…』
はぁ、と盛大なため息をついて机にうなだれるハヤトに
くすりと小さく笑うとぎょっとされた。
驚くからそういう反応はやめなさいよ。まったく
『
パニッシャーん時も思ったけど、スイネがちゃんと笑うとびっくりすんな』
『失礼ね』
『いや、ウスワイヤにいるときいつも…なんつーか険しい顔のイメージがあったしさ。近寄りがたかったというか』
『わたしの鎖の餌食になりたいみたいだね。了解した』
『嘘、嘘!!』
ハヤトが、がしがしと自分の頭を乱暴にかきむしって、
ホントイメージと違うんだよなー。と呟いたのと同時に、ムーッムーッというマナーモード特有のバイブ音が響いた。
微かに自分のポケットが震えていたので液晶画面を見ると、
信じられない文字の羅列に凍りついてしまった
【発信者:タカユキ君】
『あ、電話?じゃあ俺席はずし…』
『ややややややだ!!行かないでハヤト!!』
『ちょ、ぐぇっ!襟元をひっぱるなよやめろって!』
『わ、わ、わた、わたしどうしよう。これどうしたらいいの?!』『なんでそんな取り乱してんだよ!ヤバイ奴からの電話なのか?!』
『わたしからしたら今まで対峙してきたどんな敵よりもヤバイ相手よ!!』
『(誰だよ!?)』
『ととととにかくどうしよう、わたし電話なんて、そんな、何を話したら…』
『とにかく出たら?用があるから向こうが電話してきてんだろ?』『…そ、それもそうよね』
震える指で『通話』のボタンを押して、携帯を耳に押し当てる
………しばらくの無言
《…スイネ?》
『は、はい!』
声がひっくり返ってしまう。
直接鼓膜に響く低い声に心臓がドキドキと暴れまわる
…こんなに緊張したのは、
自分の母であるイブと対峙した時以来ではないだろうか
(いや、同じにしちゃいけないとは思うけれど)
《…》
『…』
《……》
『………!!』
助けてほしい気持ちが沸々と胸に溢れて、
ハヤトを見つめるけれど、ハヤトも困ったようにボリボリと頭をかいて
『なんかごめん』と呟いていた。謝罪はいらないから頼むから助けて!
《日曜日暇だろ》
『暇です……え?』
《朝十一時半、駅な》
『えっ?!あっ…』
ツーツーという通話が途切れたことを示す電子音に
あんぐりと口を開けたまま突っ立っていると、
ハヤトがふらふらとわたしの眼前で手をふった
『おい、どした』
『日曜日…駅?』
『おまえそれデートってやつじゃね』
『デデデデデデートぉ?!』
『絶対違うわよ!なにバカなことを言って…』
『何時に待ち合わせなんだよ』
『え?…ああ、十一時半』
『それ、一緒にメシ食おうってことじゃねえの』
『な…』
とたんににやにやしはじめたハヤトが、わたしに
『そーかそーか』とゲスな
(酷い?的確な表現じゃない!)
笑みを浮かべながら何かをポケットから取りだし
わたしの左手に握らせた
『これは………?!』
話しには聞いたことのあるそれ。けれど一度も見たことの無いそれ
『な…な…なに、これ』
『いや、何ってコンド』
『死ねー!!!!』
低集中で具現化を可能にする『鎖の執着』を発動させて
ハヤトの首を絞めると、『ぐぇ』と情けない声をあげた
『やめろよ一般校舎で!』
『それはこっちの台詞よ!まだ夕方の図書室。誰かがいたらどうするつもりだったのよ!!こんなところ…見られでもしたら…』
『わりぃって、わりい!……てゆかこの鎖』
『あんたの“性に対する執着”よ。このドスケベ!!』
『俺まさかのムッツリ?!』
とにかく落ち着いてくれよ。な?
よく考えてもみろよ。男と二人、日曜にデートだろ?
しかも健全な高校生男女が、
なにもしない保証なんかないんだぜ?
もっておいて損はねーから!!
…などとまくしたてられてしぶしぶ鎖を解放すると、
ハヤトはぐったりとうなだれてしまった
『容赦ねーんだもんな…』
『もう。いい気味よ』
そう言いながらハヤトの背中を撫でている姿を、
誰かが図書室の影から見ていたのだけど、
この時のわたしは、その穴が開くほどの視線に気づくことができなかった
『…俺帰るわ』
『またね』
『おう』
『……げっ!これわたしに持たせたままじゃない!!……こ、んなの、捨てるに捨てられないし、ハヤトのバカアアアアア!!』
おまけ
『
KEA、よかったな。スイネがオーケーしてくれて』
『は?』
『日曜誘うって言ってたじゃねえか。いやー、よかったよかった』『俺まだ誘ってねーけど』
『……』
『………あー』
『…誰だよ相手えああああああああ!!!!!』
『知らねーよ俺につっかかんな!!!!!』
最大の受難者は
スイネでも、KEAでもなく
ハヤトだったという――
最終更新:2011年03月18日 21:21