草木も眠る、丑三つ時。
起きているなら、夜行性の動物かイカレしかいないだろう。
…まぁ、その通りかもしれない。
自分も「怪盗」なんてやってるイカレの一人だろう。
ひっそりと輝く月の光を集め、反射する銀の髪。
赤い髪止めは、白い姿によく映える。
眼もとを隠す仮面の奥の表情は、誰にもわからない。
先日、
パニッシャーを通じて聞こえた「宣戦布告」。
他人なら聞き流していただろう。ただ、聞き流せない相手だったのだ。
自分を見失っていたときに、助けてくれた。
左目を奪った自分をあの時許してくれた。
そして今も、ずっと仲良くしてくれている。
その「宣戦布告」は、ある意味では彼を大いに追いつめるものだった。
自分は
ホウオウグループだ。
必然的に彼女の敵になる。
しかし、彼女をかばえば間違いなく抹消されるだろう。
正直、ホウオウに反対する気もさらさらないのだ。誤解されても困る。
板挟みの立場に立たされた自分は、どうすればいいのか分からなかった。
「…こんな時、貴方ならどうしただろうか?」
小さく呟き、空を仰いだ。
彼の直接的な長だった者に、彼は語りかける。
返事はない。いないのだから当然だ。
彼はふっと溜息を吐き、屋根から降りようとした。
「…何をそんなに悩んでいるのでありマスか?」
後ろから声。驚いて振り向く。
ボロボロの軍服に上着を羽織った男。
黒い髪で顔は隠れ、表情は見えなかった。
包帯が巻き付けられている体は、肋骨が見えるほどに細いのだが、それとは裏腹に、放つオーラは禍々しかった。
反射的にメスを構える。ところがその男は、片手で制した。
「あっと。落ちつくのでありマス。小生は、貴方の敵ではない。」
「何だと…?」
「強いて言えば、小生は貴方の味方になりたいのでありマス。」
軍服の男は両手を挙げ、少しこちらに近づいた。
「お前…誰なんだ?」
「くく…。『切り裂き魔』とおよびいただきたいのでありマス。」
「どうして僕のことを知っている?」
「噂でよく聞く大怪盗だとお聞きしたでありマス。なぁに。すぐに貴方も小生のことを知ることになるでしょうから。」
「…。」
彼はメスを下ろし、男を見た。
「小生と小生の仲間なら、きっと貴方のお役に立てるでありマス。」
「…本当なのか?」
「勿論。ですがそのためには、すこしこちらに協力していただきたいのでありマス。」
男は骨同然の細い指をすっと上げた。
「小生たちの主を、貴方の手で救い出してほしいのでありマス。」
「主はまだまだ若い。これから様々な経験を積んでいかなければならないのでありマス。」
語るように男は言う。
「しかし主は閉じ込められ、狭い世界しか知ることができない。主自身も怖がっている。」
「そこで、助けてほしいというわけか。」
「さよう。貴方なら可能でありマス。」
「それで、その主は何処に?」
「ホウオウグループの地下牢でありマス。」
その言葉に、彼は大いに驚いた。
しかし彼の心境を知ってか知らずか、男は踵を返した。
「期待しているのでありマス。」
男の後ろで、彼は頭を抱えた。
最終更新:2011年03月22日 01:21