『切り裂き魔』と『孤高の主』
空気が冷える地下。
灯りは点々と通路にあるだけの、薄暗い空間だ。
何も言うことなく、何も感じることなく、軍服の男はその通路を歩く。
途中で何度かすれ違ったのだが、男の姿が見えていないかのように通り抜けていった。
「全く、人間というのは実に下等でありマス。…あっと。小生の主も人間でありマシたね。」
やがて男は、一つの牢屋の前に立った。
隅の方。眼を凝らして見ると、小さな女の子がうずくまって座っていた。
男は鉄格子をすり抜けるように中に入り、女の子の肩をたたいた。
女の子は顔を上げる。男を見ると、少しだけ安心したような表情を見せた。
「…あ、「キリ」君…。」
「「主」、大丈夫でありマスか?」
「うん。…今、何時?」
「○月△日、午前7時28分でありマス。」
「ありがとう。」
「本当にごめんね。キリ君ばっかりに頼っちゃって。」
「いやいや。主に使われてこその小生でありマス。」
「とかいって。また人間襲ってたでしょ?ほどほどにしてってあれほど言ったのに。」
「…やはり鋭い;」
男――キリは頭をかいた。
「…まだ能力を使えそうにないのでありマスか?」
「うん。なんでか分かんないけど。使える時も、見張りが目の前にいるから、下手な「語り」できないの。」
「困ったものでありマスねぇ。」
「勿論、語っていいっていわれても絶対しゃべらないよ。あいつら、私の仲間を皆、つかまえて生物兵器にするつもりみたいだから。」
「賢明な判断でありマス。そうしてくだされば、こちらも力を使えないとはいえ、確実に助ける手立てを立てられるのでありマスから。」
「主」と呼ばれた女の子は、その場にまたうずくまった。
「私が能力を使えれば、キリ君も力を使えるのに。」
「仕方ないのでありマス。今はしばしの辛抱。やっとの思いで、助けを呼び掛けることができたのでありマスから。」
その言葉に、主は顔を上げた。
「本当なの!」
「ええ。たまたま夜中にお会いした男性に。彼が来なくとも、きっと誰かがここに来るでありまショウ。ですからもうしばらく。」
「…あっと。足音が聞こえてきたでありマスね。小生はそろそろ。」
キリは立ち上がり、主の頭をなでた。
「また来てくれるよね?」
「勿論。やはり一日に一度は主にお会いしなければ気が済まないのでありマスから。」
そう言い、キリは消えるように立ち去った。
「…春美、今、誰かいたのか?」
「いいえ、誰も。」
「そうか。…いい加減お前の力、見せてもらおうか?」
「頑としてお断りします。」
最終更新:2011年03月22日 20:56