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「クランケの思考」

少し古びた長い廊下を長いマントをなびかせながら歩く銀髪の男――クランケがいた
ここはホウオウグループの基地、宿舎連の中だ
今は昼間と言う事もあってか、そこにいる人間はクランケだけだった

1人足音を響かせる彼。その顔は険しく目線は足元へ向かっている
ホウオウグループとしては冷酷な彼だが、その表情は演技等ではなく今の彼の心情そのものだ
そんな表情を浮かべているのには理由がある


親友である天河星が、「ホウオウグループへの宣戦布告」を叫んだ
それによってホウオウグループの構成員であるクランケは、彼女の宿敵の1人となってしまったのだ
彼はそうある事を望んではいない。しかし敵ではない事を証明する事はホウオウグループに刃向かう事と同義となる
組織自体に不満がある訳ではない、且つ組織の目的である「世界の合理化」にはむしろ賛成している
それだけに、組織を抜ければ待っている反逆者の末路――存在の抹消――を辿るには材料が足りない
その結果、彼は友情と組織から板挟みにあっている状態だ。

そんな中で、「切り裂き魔」を名乗る男から今の状況を打破する代わりに協力をしろと要請があった
…藁にもすがる想いで飲んだそれは状況を悪化させるような事ではあったが。


クランケは追い詰められていた。
今のままではいられない、ならばどう動けばいい?
必死に考えるそれは堂々巡りをするだけで、肝心の解決法に至ることはない
そんな中で出来る行動は、切り裂き魔の言葉に従うこと。それしかないのか…?


「クランケ」


静かであった廊下に、少女の声が響いた。
背後から聞こえたそれに振り返れば、見知った顔で


「なんだ、エミか」
「何、もっと可愛い子の方が良かった?」


そういって軽口を吐きつつも少女の表情は明るく、そして何かを腹に含んでいるようにも見える





――エミ。ホウオウグループの構成員であり、
幼いころから組織にいる彼女はクランケにとっても良く見知った存在だ
そして、5本の指に入るほど苦手な存在でもある
その理由は、彼が組織の中においては冷酷な存在を演じている事を知っている数少ない存在だからでもある
そして、そのネタを使い彼を弄ぶことも原因の1つだ


「黙れ戯けが」
「クランケ、まだその演技続けてるの?」
「その事は他言無用と言ったはずだ!」


演技という言葉に思わずあたりを見回す。これがもし誰かに聞かれたら果たしてどうなる事だろう
制止の言葉に思わず力が入る
しかしエミの言葉は止まない


「本当は優しいくせに、全然似合ってないよ」
「いい加減にその口を閉ざさねば…!!」


力ずくでと言わんばかりにメスが入っている懐に手を伸ばした!


「じょーだんじょーだん!」


その行動を制するかのように、一層明るい声で声を上げた
まるで彼がそうすることを見透かしていたかのように、焦りの様子も見えない


「クランケも大変だろうしね、拷問でもされない限りその演技、誰にもばらしたりはしないよ」


たとえ上総幹部が相手でもね。そう付け加えると彼女はクスクスと笑顔を見せる
そういうのならば、今この場に2人の会話を聞く事ができる人物はいないということだろうか
クランケは警戒をするが、彼女に対する警戒は体力の無駄と悟りそれを解く





「それより今、悩み事があるんでしょう?」


彼は驚く。そしてそれがわかるような表情をしていたのかと、自身の油断に対して後悔する
彼女はそんな彼の様子を楽しんでいるようだ


「当ててあげる。あなたは小さいころからの知り合い、唯一無二の親友の事で悩んでいる」
「!!」
「内容は、強いて言うなら“信念の違い”って所かな?」


いくら彼女であってもそんなところまではわからないはずだ。なぜなら、そんな情報は渡した記憶が無い
まるで思考を呼んでいるような発言に驚いた
それと同時に、彼女1人の仕業ではないと気付く


「近くにウミが隠れているのか」
「さあ、どうでしょう?」


――ウミ、エミの双子の妹で、その能力は一定範囲の人間の思考を“聞く”事ができる
さらにテレパシー的な事も出来るらしく、任意の相手と思考を用いて会話することも出来る
それ故にエミとウミはいかせのごれ高校にて情報収集班をやっているほどだ


「悪趣味な事を…」
「ま、そのことで頭いっぱいみたいだから誘導尋問でもすればバレバレだったけどね」
「……。」


最悪だ
考えている内容が組織に関わる事なだけに、組織の人間にだけは知られたくなかったというのに
この2人が上に報告しないという確証はない。最悪の場合、すぐにでも始末される事になるという可能性も拭えない


「…私が言える事はないかな。あなたはもうヒントを手に入れてる」





しかし彼女からでた発言は、彼が予想していた反応とは真逆のものだった
彼女の表情から先ほどまでの笑みは消え、真剣な面持ちでクランケの為となる言葉を紡いでいる
…もしかして、信用してもいいのだろうか?


「そのヒントは、解決の糸口になるのか?」
「さあね。1つだけ言えるのは、最終的な判断はあなたに委ねられてるって事」
「そうか」


彼女は、真剣に自身の意見を発しているのだろう。
いままで堂々巡りだった思考の中から、彼が欲していた言葉の1つをとりだしている
いつも彼をを弄り倒しに来るエミから、まさかこんな言葉が出てくるとは彼にも予想外だった
そして少しの間の後彼女はふぅとため息をつき、いつもの笑顔に戻った


「でもね、ノルンとノアみたいな行動はやめてよ?ただ消されて終わりなんだから」
「あの2人は、そう簡単に消えはしないさ」
「頼もしい護衛が付いてるから、でしょ?」
「まあ、な」


その日初めての頬笑みを彼女に向けて、またクランケはまた歩き出した
思えば、彼が今回の件を人に話すのは初めてのことだった
そして肩の荷が少し降りたのかどうかはわからないが
今度は目線を足元ではなく前に向けて、また演技を始めることはできていた





“切り裂き魔とその主…か。ウミ、何か情報あったっけ?”
“その主さんはここの地下に幽閉されているのよね、それなら心当たりが一つ”


エミがただ考えただけのことにウミは考えることで反応する
彼女たちの会話ともとれるそれはウミの特殊能力によるもので、外部に漏れる事はまずない


“地下である女の子の仲間を生物兵器にするって計画があるみたいなの。なんでも今取り調べ中みたい”
“生物兵器ねえ、ホウオウグループってそういうの好きだよね”
“でも不思議。今のその子と接触できるのは見張りの人だけで、助けなんて呼べないはずなの”
“へえ?それが本当なら切り裂き魔ってのは案外透明人間だったりしてね”


エミの考察は、いかせのごれではあり得ない事ではないが確信が無い
現時点ではそうではないことが証明できないように、そうである事も証明出来ないのだ


“なんにせよ今のままでは情報不足ね”
“その2人について調べる必要がある…か”
“面白くなってきた?”
“まあね”


そう言ってエミの口は弧を描いたのだろう、その事実は彼女にしかわからないけれど。
そして私たちは彼女の言う面白い事を満喫することにした


――私に面白いという感覚はわからないのだけどね

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最終更新:2011年03月22日 21:05