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クロウ、火波姉妹と遭遇する

午後10時、とある公園。

「ぬうう………」

任務失敗。その事実は、クロウにとっては重圧と言ってよかった。
捕縛していた少女・秋山 春美を虚偽の報告で逃亡させ、その幇助を行い、明確に離反の意志を表したクランケ・ヘルパー
その始末に失敗したのは、全くもって自身の油断からだった。

(何なんだ、あいつは)

キリ、と呼ばれていた男。情報によれば奴も妖怪の類らしいが、それはこの際いい。問題なのは、奴相手に遅れを取ったということだ。決め手となる一撃を受け止めた時、勝ちを拾ったはずだった。
ところがあの男は、鋏を持っていた手で拳銃を逸らし、その鋏を口にくわえてこちらを地面に倒しこんで動きを封じる、というアクロバットをやってのけたのだ。
不可能ではない。が、著しく困難な業。

(……いかんな)

無様といえばそれまでだが、これまで通りの戦い方ではダメだ、とわかったのが唯一の収穫か。
殺されなかったのはクランケの意志だろう。

「まあ、いい。次の機会には、確実に――――」


「確実に、何ですの?」


「!!?」

聞き覚えのある声に慌てて振り返る。
そこで微笑を浮かべていたのは、透水の瞳に白雪の髪を持つ、少女。

火波 アオイ……!」

天敵と言ってもいい女子高生が、そこにいた。





「ごきげんよう、鴉さん」

にこやかな挨拶に、クロウは答えない。答える謂れもなかったし、以前の遭遇では人を馬鹿にして去って行った、喰えない女。今度は何のつもりか。
と思っていると、彼女はとんでもないことを言った。

「患者さんと妖怪さん、取り逃がすどころか返り討ちに遭ったそうで。酷い手際ですわね」

ついこの間起こったばかりの、クランケの件についてだった。

「貴様……それをどこで!?」

くすり、と笑い。

「事実があれば、それを知っている人間はいるものですわ」

クロウの知る限り、この少女とクランケ、及びそれを取り巻く人間に接点はない。では、どこから知った?

「裏切り者がまだ……!?」
「あらあら、邪推は禁物ですわ。ホウオウグループはそういう組織でしょう? ……それとも」

アオイの笑みが、急に冷たい色を帯び。

「そんなだから、あなたは組織から浮いているのですわね?」
「! ……余計な世話だ」
「あら、つれないこと。でもあいにく、わたくし世話好きなもので」

表情を元に戻し、ころころと笑うアオイ。仮にもホウオウグループの幹部を目の前にして、大した度胸ではある。が、クロウにとっては苛立ちでしかない。

(……度胸だけは買うが、無謀に過ぎたな)

今回は目を見てはいない。認識を操られる心配はない。いつぞやの借りも、ここでまとめて返す。
さりげなく、袖に仕込んだ拳銃を取り出し、照準して引き金を


「僕の妹に何するんだ?」


引けなかった。背後から突然蹴り飛ばされ、たたらを踏んでしまったからだ。視界が戻った時には、既にアオイの姿はそこにはなかった。振り返ると、

「アオイ、何してるんだ、こんな時間に。探したぞ」
「ああ、姉様。ちょっと、お話をしていたのですわ」

嬉しそうに笑うアオイの隣で、少しばかりの呆れを混ぜた苦笑を浮かべている火波 スザクの姿があった。
以前から、幾度もホウオウグループの活動を阻んで来た、人間兵器の成り損ない。
――――他ならぬクロウが破壊した施設にいたらしい。まあ、今となってはどうでもいいことだが。

「貴様ら……」
「何だ、何か文句でもあるのか」

あからさまな敵意を向けて来るスザク。こちらとしても馴れ合う気はない。
と、

「ん?」

微妙な違和感……気付いた。白かったはずの髪が、戦闘中と同じく真紅に染まっている。
向こうでもその視線に気づいたのか、フ、と笑い。

「これか? この間からこうさ。まあ、僕としては元に戻っただけなんだけどな」

やや自慢げに言った。その表情が、一瞬で元に戻り、

「さておき、今アオイを撃とうとしたな?」
「敵を排除しようとしたまでだ」
「そうか? なら、僕もそうしようかな」

右手を握り、身体の前に持って来るスザク。幻龍剣を呼びだす体勢だ。が、

「姉様、その必要はありませんわ」
「え?」

隣のアオイが、やんわりとそれを止めた。

「姉様の刃を、このような薄汚い鴉の血で穢すことはありません。どうせ何も出来ないのですから、放っておけばよろしいのですわ」
「!!」

湧きあがった怒りにまかせ、銃口を向ける。が、その前に、スザクは静かに龍義鏡を展開していた。

「気が短くないか、あんた?」
「所詮、こんなものですわ」

姉妹揃ってフ、と笑う。全く以って不愉快な2人だ。
とはいうものの、冷静に考えて見ればここでの戦闘はリスクが大きい。どうもアオイが出て来ると自分は冷静さを失う傾向にあるようだが、今回はそれに敗北の重圧が重なって判断力が落ちていたようだ。……というか最近、夜の警戒や緊急の呼び出しが多く、ろくに寝ていない気がする。

「…………」

理解した途端にどっと疲労が襲ってきた。拳銃をしまい、踵を返した。
背中にアオイの嘲笑が降って来る。

「あらあら、逃げるのですか? 臆病ですこと」

そんな彼女を、スザクが嗜める。

「……アオイ、ちょっと容赦なさすぎないか?」
「何を言いますの? 姉様から全てを奪った者たちですのよ、これくらいは当然ですわ」
「…………」
「あ、その、もちろんトキコさんは違いますわよ? 姉様の大事な方ですもの、ね」

何なんだ、一体。そんなことを思いながら、クロウはその場を去った。





「……そうか、トキコか」

夜の道すがら、クロウはアオイがクランケの件を知っていた理由に思い至っていた。
トキコとスザクが懇意にしていることは、こちらも情報として知っている。恐らくは、彼女を通じてアオイはその事を知り、何らかの手段で裏を取ったのだろう。

(やれやれ、余計なことをしてくれる。総帥からの命令がなければ、対処にかかっていたのだがな)

本来なら、アースセイバーの協力者に情報を流したトキコの行為は見過ごせないが、肝心のホウオウから「成すがままに任せよ」、つまりは「好きにさせておけ」という命令が出ている。これでは咎めようがない。
まあ、今回の情報はそれほど重要度の高いものではないし、大筋に問題はなかろう。

(しかし、総帥も随分とアバウトな指令を下される。好きにさせておけとは言うが、それで問題が起こったらどうす――――)

足が止まる。思考が一瞬停止する。―――待て。ちょっと、待て。

(……問題が、起こったら?)

ホウオウから出たトキコに関する命令―――それは、彼女の意志で行動させ、それをグループの意志によって制限はしないということ。つまり、彼女が誰かを敵に回しても構わない、ということだ。

そして、誰にも言ってはならぬ最重要秘匿情報として、ホウオウ本人から伝えられた事項――――いかせのごれ高校の生徒・スイネ=かつて離反したファスネイ・アイズという事実。
これがもし明らかとなれば、狂信者たるトキコはスイネ、いやファスネイを確実に敵に回す。
回す、が……。

―――その時、総帥はどちらを取る?

かつてファスネイを取り戻そうと、人工神を指し向けたのは記憶に新しい。そして、ロゼの店でのホウオウの振る舞いを考えれば、その答えは見える。
2人の少女に対する優先度、それを考えれば――――「その時」切り捨てられる札は、赤い髪をしているだろう。……だが。

(とはいえ……なぁ)

あくまでもこれは推測にすぎない。前提条件にもやや無理があるし、ホウオウが本当にそう考えているのかもわからない。所詮は強引な憶測、想像の範疇を出ない。

(やはり、俺では真実には迫れん、か)

あくびをかみ殺しつつ、クロウは益体もない想像を脇へ追いやり、夜の街を歩いて行った。



クロウ、火波姉妹と遭遇する

(鴉の推測は真実か妄想か)
(最後に欲すは赤か青か)
(全てを知るは、黒き不死鳥のみ)

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最終更新:2011年03月27日 00:46