自己嫌悪
「…何が起こってやがる、この周辺で…?」
近くの公園に立ち寄った由衣は、ブランコに座って頭を抱えた。
隣のクラスのスザクの妹が現れ
娘を捨ててまでシドウが追っていた能力者がこの街に現れ
ホウオウではまた離反者が出
とらえられていた月光の姪が救出された
自分が把握できているのはこのくらいだ。
それも、自力で何とかして手に入れた情報。
アースセイバーと繋がりがある店長は、こんなこと微塵も教えてくれなかったのだから。
「…たく、いつまでも子供扱いかよ、私は…っ!」
店長の気持ちは重々承知だ。
預かっている「娘」を危険にまきこみたくない。そういう気持ちがあったのだろう。
しかし、どうしても由衣には納得いかなかった。
周りで今何が起こってるか。
それを知るのが、自分はあまりにも遅すぎた。
気がつけば、自分の周りはがらりと変わっていた。
その光景は、かつての「記憶」と重なり過ぎて――!
「うああああああっ!!」
日が沈もうとしている空に、由衣は吠えていた。
なにも…、能力者がこんなに苦しんでいるのに、なにも自分はできないのか。
そう考えただけであまりにも苦しかった。
不良をやってたあの時代。
ただ悪さをするだけでなく、家族のため、借金取りとも戦っていた。
時がたち、力を「不条理」で手に入れ、強くなったはずなのに、以前より何もできてないじゃないか。
青く染められた髪をめちゃくちゃに掻き回し、その場に崩れた。
弱い。私は弱い。人のために何もできない私は弱い。
その事実だけが、彼女を追いつめていた。
大粒の涙が、地面に歪な円を描く。
喧嘩はしないと決めた瞬間にこれだ。
あまりに護られ過ぎて、世界を見失っていた。
でも、喧嘩をすれば、自分の世界は再び赤く染まる。
自分に、自分に何ができるというんだ。
問いかけても、かえってくるのは自己嫌悪だけだった。
大声で泣く由衣を、通りゆく人は見て見ぬふりだ。
誰も、そばによって励まそうとしない。
青い髪の不良の噂は広まっており、誰もかかわろうとしなかったのだ。
だが、彼女の後ろで自転車のブレーキがかかる音がした。
足音が近づき、誰かが駆け寄ってくる。
肩をたたかれ顔を上げると、褐色の青年が白いハンカチを差し出していた。
「どうした?大丈夫か?」
「…。」
由衣はぽかんとした。泣きすぎで頭が回らないのもあるが、それ以上に自分に声をかけてくる人がいることに驚いたのだ。
そんな由衣の涙を、青年が白いハンカチで拭った。
「あ…どうも…。」
「いいっていいってw女の子の泣き顔なんて、誰も見たくないよ。」
やっと晴れてきた視界で、青年を見る。
褐色の肌に緑色の髪。まだ寒さが残るこの時期に白いTシャツと短パン、そのうえから黄色いエプロンをつけている。
出前の帰りなのだろう。空になった白いケースが、少し離れた自転車にくくりつけられている。
「何があったんだい?何なら、うちの店で話聞こうか?」
誘われたが、由衣はためらった。
能力者の話を、普通の人に話せるわけがない。
由衣は首を振り、立ち上がって無言で一礼すると、その場を走って立ち去った。
また、不意に涙がこぼれてきた。
無力な自分を嫌悪することは、終わってなかったのだから。
追記
「あーらら、逃げちゃった。折角いい女の子ゲットかと思ったのに。」
残された青年は、由衣の後ろ姿を見ながら呟いた。
「…ま、いいか。街中にいるならまた会えるよな。「主」に報告することできたし、今日くらい報告いれよっと。」
最終更新:2011年03月29日 21:52