「火波スザクさんですよね?」
「・・・」
ストラウル跡地を後にしたその後にスザクが出会ったのは、見慣れない制服を纏った男であった。
身なりの良さから相当地位の高い者であると察することが出来るが、
そのようなことなど彼女にとってはどうでもいい事であった。
「そう、邪険にならないでください、・・・と言っても、無理ないですよね・・・
トキコちゃんのあんな姿を見てしまったのだから。」
トキコちゃんのあんな姿、それを聞いた瞬間ぶわりと揺れた。
あの姿を知っているということは、それはつまり・・・
「!・・・っお前!」
「少しお話しません?彼女のことについて。」
男は調子を崩さず、話し続ける。
その表情に嘲笑いも恐怖もなく、どこか違う雰囲気があった。
思わず幻龍剣を出しかけたが、何故かこの誘いに乗らなければいけないような、
そんな気もしたのだ。
「・・・・・・・・・」
「君には知る権利がある、彼女を愛したいのなら尚更のこと。」
「・・・一体、お前は何者なんだ?」
男は、ああ、とうっかりした様子で帽子を取ると丁寧にお辞儀をし、
自分の素性を明かした。
そして、と男は言葉を続ける。
「シギはカルーアトラズ刑務所の看守長で、トキコちゃんの父親。
・・・トキコちゃんを怪我させた、張本人だ。」
火波スザクは、再び自分の感情が怒りで高まるのを感じた。
そしてその喉元へ剣を突きつけると、叫んだ。
「っそいつは、そいつは今どこにいる!?殺してやる・・・!!」
「それは教えられない。言っただろう?俺はシギの友人、
友達が殺されると知っておきながら、わざわざ場所を教えるわけがない。」
「黙れ!!喋らないなら、」
「殺すか?それでもいいぜ、俺一人の身で君の気が済むなら。」
そう言って、アルトはただ真っ直ぐにスザクを見据え、死を待った。
もし彼女が少しでも手を動かせば、すぐその喉に刃が突き刺さるだろう。
それでも彼は、何もせずにスザクを見ているだけであった。
「・・・・・・・・・」
しばらく二人の間に沈黙が訪れたが、ややあってから、
スザクは、剣を仕舞った。
「・・・悪かった。」
ただそれだけ、口にして。
その様子に男は安堵し、先程とは砕けた様子でスザクに言った。
「あー、良かった・・・俺ここで人生終わるかと思ったよ・・・!
この仕事やってる内には何十回も思ったけどね。」
「・・・・・・・・・」
「・・・ま、まぁ積もる話は立ちながらじゃ難だし、
レストランにでも行って話そうか。
お金はこっちの奢りっつーことで。」
スザクはしばらく黙っていたが、分かった、と呟くと、
その返事に満足した男は彼女を停めていた車に乗せて、レストランへ向かうことにした。
(アルト視点)
「えーっと、コーヒーと・・・スザクちゃんは?」
「なんでも。」
「それじゃあオレンジジュースで。」
「・・・・・・・・・」
「・・・カフェオレで。」
「かしこまりましたー。」
注文を受け取った女の子が、厨房まで走っていく。
ロビン・・・あぁ、俺とシギの上司ね、タメの。ロビンが言うには、
ここは元アースセイバーの人が経営しているお店らしい。
能力者やら何やら、そういう事情抜きでここの料理は美味しい、お店の雰囲気が良い、
と色々評判だそうで、いかせのごれに一度来たら寄ったほうがいいよ~、と
勧められたことがある。
本当はシギと行きたかったけど、それは叶わずに終わりそうだな、と
仏頂面を浮かべながら水を飲むトキコちゃんの友人を見てそう思った。
・・・いや別にあいつが殺されるとか、そういうことを想像してるわけじゃなくて、
おそらく、いかせのごれに今いる期間中に訪れることはないだろうなって、
そういうこと!
「・・・おい、」
「ウェ!?」
「話があるんじゃないのか、・・・トキコについて。」
「あ、あぁ・・・そうだった。」
「まさかここまで連れてきてどうでもいい事を・・・」
「それはない!それはないから!!」
「・・・・・・・・・」
髪の毛が感情と比例するようにふわりと上がり、
その瞬間嫌な予感がしたので俺は慌てて彼女を宥めた。
・・・まぁ、こうして言葉を交わしているけれども、心中は決して穏やかじゃないだろうな。
いつだったか、シギとは別の任務でいかせのごれに来た際、
トキコちゃんの元へ訪れた時がある。
その時、彼女は嬉々して俺に教えてくれた。
『あのね!殺し合う約束をした子がいるの!私、あんな子初めて!』
・・・凄く言ってる内容は物騒だったけど、トキコちゃんは本当に嬉しそうだった。
どんな子だろう、と少し気になって、本人には内緒で下校途中の姿を見に行ったことが
ある。その時、この火波スザクという少女を知ったのだが、うっとおしそうに
トキコちゃんを扱うものの、どこか安心しているような、そんな様子だった。
それから何があったかは知らないけども、
この子にとってトキコちゃんは大事な存在となったんだろう。
さっき俺を殺そうとしたのが良い例だしな。・・・え、髪の色違うのによく気が付いたな?
俺、女の子の顔は結構覚えるほうだからね。
「お待たせしました、カフェオレとコーヒーになります。」
「お、ありがとう。」
「・・・・・・・・・」
女の子が運んできたコーヒーを口に含む。
うーん、豆だけでもだいぶ違うな・・・流石評判なだけある、これはくせになりそう。
「・・・さて、じゃあまずはトキコちゃんの昔話でもしようかな。
・・・キミは、トキコちゃんの家まで行ったことある?」
「・・・いや、行ったことはない。」
じゃあ、あの惨状は知らない、ということはトキコちゃん自身は
自分の身の上の話はしてないんだな。・・・彼女が
ホウオウグループであることは
知っているのだろうか、とは思ったが、今この場で話すにはふさわしくない。
例えコーヒー豆に感動しても、ここの女主人がアースセイバーであった事を忘れてはならない。
なら、今この場で語れるのは・・・彼女の過去だけ、か。
思案している俺を、火波スザクは訝しげに見つめ尋ねた。
「それが何か関係あるのか?」
「大有りだ、・・・なんせ、彼女の家は家じゃないからね。」
「・・・どういうことだ?」
「それは・・・」
そこから、俺の知る限りの彼女の過去を火波スザクに話した。
俺の知る、トキコちゃんの過去。それはトキコちゃん自身から語られたものだ。
シギが知っていて、知らないふりをする娘の悲劇・・・この話は、本当に話したくない話だ。
聞いている火波スザクにも辛いだろうが、話す俺も結構辛い。
けど、これは知らなければならない。
俺は火波スザクに希望を託したいから、話すのだ。
十数年間、二人を元に戻そうと奔走した俺には出来ない、彼女になら出来るかもしれない。
トキコちゃんを、本当の意味で救うことが。
「・・・・・・・・・」
俺の知り得るすべてを話し終え、火波スザクはどのような表情をしているだろうか。
正直、見るのが怖い。・・・ホント、俺の立ち回りって心臓が縮む役ばかりだな、はぁ・・・
「・・・まぁ、感想とか、そういうのは良いから、ね?あはは・・・」
「・・・本当に、それはトキコにあった話なんだな?」
「・・・・・・・・・」
信じられない、けれども彼女の行動から思い当たる節はあった。・・・多分、
そんな気持ちなんだろうな。
「トキコは、」
「?」
「トキコは、ただ感情の赴くままに行動して、やりたいことをやって、
子供のようなふりをして・・・なんだろう、能天気なところがあると思ってた。」
それはそうかもしれない、と密かに心の中で賛同した。
けど、と彼女は言葉を続ける。
「一時期、あの約束を強調してきたり、
僕に言わずに一人で勝手に苛々している時があったんだ。
・・・思えば、僕はトキコのこと、なんでも知ってるような気がして、
実はそんなに知らなかったんだな・・・好きな人なのに。」
そう言った火波スザクの表情には、自虐的な笑みが浮かんでいた。
そして、今度はしっかりとした眼で俺を見据えた。
「それでも、僕はトキコが好きだ。・・・過去も未来も関係無い、
僕はあいつが好きなんだ。」
一世一代の大告白、・・・相手は違うけど。けれども俺はそれを聞いて、安心した。
そうだ、その答えが聞きたくて俺は火波スザクに声をかけたんだ。
俺は、本当の意味で安心して、自然と笑いが込み上げてくる。
「・・・?おい、大丈夫か?」
「へ?」
気が緩んだついで、涙も出てきてしまったようだ。
女の子の前で涙流すとか、俺も随分女々しくなってしまったものだなぁ。
大丈夫、と彼女に声をかけて俺は涙を拭う。
「へーき、なんか安心して・・・涙腺決壊みたいな。」
「そうか・・・」
「・・・君のその言葉が聞けて良かったよ、ありがとう。」
こんな素敵な人に想われるなんて、ホントトキコちゃんは幸せ者だな。
トキコちゃんじゃなくても俺が惚れそうかも。
「スザクちゃん、あのさ」
ピルルル
「・・・・・・ごめん、ちょっと待ってて。」
本題を切り出す前に、呼び出しをくらってしまった。
相手は誰だかわかってるけど、変に疑われない為にもここは出ておかなきゃなぁ・・・
そう思って、手持ちの携帯の通話ボタンを押した。
「・・・もしも、」
『ゴラァ!!アルト、てめぇどこに居やがる!?』
「・・・あー、えーっと、ちょっとそこで知り合った女の子とお茶してて・・・」
『いいか!?十分以内に戻ってこい、さもなきゃどぉなるか分かってんだろぉなぁ・・・』
うわぁ、鬼がいるよ鬼。
「わ、分かったから・・・ちょっと待ってて!じゃ!!」
ぷつ、と通話を切る。
すると、こちらをじーっと見つめる火波スザク。・・・もしかして。
ぞわり、と俺の背中に悪寒が走る。
まずい。
「・・・今の、」
「違う違う!!今の上司でさぁ、あはは!!
手荒いことに定評があるっつーの!?ほ、ホント困るよねー!!」
「・・・・・・・・・」
「まぁ、呼び出し喰らっちゃったから、また今度会って話そう!
あ、これ俺の携帯のアドレスと電話番号。」
「え、ちょ、」
「あ、あとお金ここにおいておくから!お釣りも取っといて!じゃ!!」
半ば逃げるように、コートを手に取るとばたばたと店を後にした。
・・・あ、大事なことを言い忘れてた!!
そう思い、車に乗る前にもう一度あの店に戻り、中に入る。
さっきの店員さんがびっくりした様子で俺を見ていたが、それには気をかけず、
再び火波スザクの元へ行く。
そして、言った。
「俺は、君の味方だから。」
朱雀と或る男
(初めて出来た『仲間』に感激し、)
(改めて見えてきた『希望』に歓喜する)
余談
「・・・思えば、怪しさ全開だよな俺・・・」
(男は車内で後悔ばかり駆られて、そのまま友人を迎えに行ったのだった。)
最終更新:2011年07月11日 11:38