思遣反発
寝癖が残る髪を掻き、由衣は階下の
レストランに降りてきた。
当然のように店長はカウンターでコーヒーをのんでいる。
白い湯気が立ち上るコーヒーの香り越しに、店長はこちらを見た。
「おはよ、由衣。」
「…はよざいます。」
「…何の用?」
「!」
驚いて由衣は顔を上げた。
店長は微笑む。
「あんた分かりやすいからね。大切な話があると、無理して早起きして、私のところに来る。大切だから、できれば誰にも聞かれたくないんでしょ?」
「…店長、あんた本当に何者なんすか;」
「店長は店長ですっとw」
「実は、何言いたいかも大まか分かってるのよね…。」
真顔で店長…いや、亜音は言った。
「…分かってるなら早いや。」
由衣は店長の向かい側に立った。
「…亜音さん。私に、アースセイバーに入る許可をください。」
「…。」
無言で亜音は考える。
由衣は続けた。
「知ってしまったんです、今、この街で起こってること、何もかも。そして、それを助けるどころか全く知らずにのうのうと暮らしてきた自分が、悔しくて…。」
「…悔しいとか、感情だけでどうこうできるようなものじゃないのよ。」
口調を強め、亜音は言った。
「あんたは強いわよ。でも弱い。心が。感情に振りまわされるようじゃ、戦えない。」
「でも…!」
「分かってる?もしかしたら、あんたの知った顔と戦わなきゃいけないのよ?」
そう。それは情に厚い由衣にとって、最大の難点。
友人や知り合いを敵に回してまで、戦える覚悟が彼女にできるのだろうか。
できるわけがない。これであきらめてk――。
「分かってるよ!!」
「!」
憤慨したように由衣は叫んでいた。そのまま、一気にたたみかける。
「分かってる!でも、今の私は昔より弱い!皆を守るためには、強くなきゃいけない!情報も欲しい!でも、今の私にはそれが足りなさすぎる!」
分かってる。彼女に見えている世界はきっと、過去の記憶と重なった世界。
過去と違うのは、彼女があまりに無力で、誰一人として守れていないこと。
死んだ両親や「死んだ」妹を見ている由衣は、これ以上「赤」を見たくないのだ。
そう、無理やり染めた青い髪の残像のような赤を。
「…約束しなさい。任務にいっても、ちゃんと生きて帰ってくること。そして、レストランでの仕事はさぼらないこと。」
「!」
「いずれ言い出すとは思ってたのよ。でもこのことは奏にはしばらく内緒ね。」
亜音はもういちど笑顔を作ると、由衣に笑いかけた。
「私も、家族を眼の前で失った一人。あんたの気持ち、重々把握してるつもりだから。」
「店長…。」
「それに、個人で毎日特訓してたんでしょ?いや、誰かに付き添ってもらって、かな。」
「な、なんでそれを;」
「毎日砂埃だらけの汗だくだった。喧嘩なんてしないって決めたあんたが、あそこまで暴れるようなことそうそうしないとおもってね。」
「…結局なにもかもお見通しってことか。」
やっと、由衣も笑った。
由衣がアースセイバーに入るのは、この後すぐの話である。
追記
「そういや、店長ってノアや
ノルンと兄弟だったんだよな。何が起こって別れたんだ?」
「そうねぇ…。いずれその話も、教えないといけないんだろうなぁ。」
最終更新:2011年04月01日 15:49