ここはいかせのごれの小さな診療所。
ここには腕がいい事で有名な医師がいた。
もっとも別の方面でも有名なのだが…
「先生ー、次の患者さんだいじょうぶですか?」
看護士が診療室にいる中年の男に声をかける。
先生と呼ばれた男はカルテに目を通しながらけだるそうに返事をした。
「おう、大丈夫だよ、カオリちゃーん」
そういい彼は看護士のお尻に手を回す。
が、すぐに手をつかまれ捻られる。
そのまま笑顔で看護士は男に話しかける。
「先生、患者さん部屋に入れて大丈夫なんですか?」
彼はこの診療所の医者であるが、見てのとおり女性にすぐ手を出してしまう。
もっともこの看護士とのやり取りはもはや日常風景であり、お互いもそれを理解しているのでさほど問題ではない。
頭をかきながら苦い顔で笑みを浮かべる男を見ながら、呆れ顔で看護士は言う。
「先生、馬鹿なことやってないで患者さんいれますよ。どうぞー」
この男の名前は
エダ タカシ、いわゆる特殊能力者だ。
このいかせのごれでは珍しくない存在だ。彼は生まれながらに肉体の細胞を操作できる力を持っている。
幼いころはその力を持て余し苦労したそうだが、今ではそんな風にはとても見えない。
今も笑顔で患者に接し適切な治療をしている。
今日はどうされました?他に何か変わったことは?ではお大事に
お決まりの言葉を言う時間。
特別なことがあるわけではない、だが彼にとってはそれが何よりの喜びなのだ。
幼いころは能力のせいで母親に迷惑をかけた彼にとって、誰かの役に立つことが今は亡き母親への親孝行なのだ。
診察をしている最中待合室から子供の泣き声が聞こえてきた。
エダは診察の手を止め看護士の名をよんだ。
「カオリちゃん外なんかあった?」
外と中、両方から声をかけられあたふたしつつ答える。
「キヨシ君が滑り台から落ちたそうで…先生どうしましょう」
痛みで泣き叫ぶ男の子にどう対応すればいいかわからずオロオロする看護士
少しの間をおきエダは目の前にいる患者に申し訳なさそうに声をかけた。
「あのー」
エダが言い終わる前に患者は返事をした。
「いいんですよ先生、先にあの子見てあげても」
エダの言うことを見越した返事だ。
エダは表情を明るくし、礼をして診察室から出て行った。
男の子は右肩を押さえ泣きじゃくっていた。
右耳からも地面に落ちたとき擦ったのだろう血がでていた。
エダはひとしきり様子を伺い落ち着いた声で看護士に指示を出す。
「カオリちゃん、消毒液とガーゼ持ってきて」
彼女はアタフタしたまま診察室へ走っていった。
「走っちゃだめだよー」
エダの声は届いていないようだ、それと間もなく部屋の奥からがらがらと崩れる音がした。
エダはもちろん、周りの患者、それどころか怪我した男の子まで笑っていた。
優しい笑いを浮かべエダは男の子に話しかける。
「しょうがないねえちゃんだな。男なんだからないちゃいけねえぜ?男はつねにさわやかな笑顔、それがモテる秘訣だ」
そういい男の子に触診を開始する。
男の子は痛みで顔を歪めたが、頑張って笑顔を維持している。
男の子の表情から傷の程度が思ったより浅い事を理解した。
エダは安心し男の子の肩をなでながら能力を発動した。
「おう、大丈夫だ、大丈夫。もうすぐ痛いの治るからな」
男の子の骨に入っていたヒビがエダの能力により再生され、男の子の表情も安らいでいく。
そこにあいかわらずアタフタした看護士が戻ってくる。
そんな彼女をみてまた周りに笑顔がこぼれる。
そんなこんなで診察時間も終わりが近づき、診療所内は落ち着きを見せ始める。
事務仕事をしながら看護士は診察室でのんびりしているエダに話しかける。
「先生ってほんとすごいですよね」
「はっはっは、どうしたの急に?」
「だって、今日のキヨシ君の手当てもすごかったじゃないですか、あんなに痛いって言ってたのに」
エダは苦笑いをうかべていた。
特殊能力を持っていることを看護士は知らない。
もっとも彼女以外でも知っている人間はほとんどいないのだが。
二人きりで聞こえてくる音は看護士の触るPCのキーボードのみ。
そんな静かな診療所に騒がしい声が飛び込んできた。
「おい!おっさん!!いるか?!」
突然の大声に驚く看護士とエダ
飛び込んできたのはエダと同じくウスワイヤに所属している特殊能力者の一人KEAだった。
看護士はすぐに笑顔になりKEAの対応をする。
「今日はどうされました?」
「お、おお、実は…」
二人のあいだにエダが割り込んだ
「KEAまたか…いい加減にしてくれよなー」
エダを見るや近づいていくKEA、そして距離をとるエダ
「おいおい、野郎が近づいてくんなって」
「そういうなよまたマッサージしてくれよ!あんたにやってもらうといい感じに疲れがとれんだよ!」
「俺だってお前の体さわりたくねえんだよ!」
「前はやってくれただろ?」
「あん時は、
アキヒロ君に言われて仕方なくだな…」
しばし、揉め揉まないの言い合いが続き、看護士が口を挟む。
「いいじゃないですか先生マッサージしであげたら」
突然の口出しに焦りだすエダ
「おいおい、カオリちゃんなにいってんのさ」
「今日はもう患者さん来なさそうですし、揉んであげたらいいじゃないですか」
それにKEAが言葉を被せる
「そうだぜ、この姉ちゃんの言うとおりだ」
二対一の状況になり苦悩の表情を浮かべるエダ、だが咄嗟に思いつき発した。
「じゃあ、誰か女の子つれてこーい!!」
エダの提案に思わず二人は声をそろえた
「なんだってー!!」
しばしの沈黙の後KEAが口を開いた。
「…わかったよ、だから早くマッサージしてくれよ(
チャド辺りを引き渡せばいいだろ)」
言葉を聞くやいなや上機嫌でKEAを診察室に招き入れた。
「約束だぞ!」
「はいはい…」
診察室にはいる二人を見送り看護士は頬を膨らませぽつりとつぶやいた。
「まったく、すけべめ…」
最終更新:2011年04月01日 15:51