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店長の素性―プロローグ―

店長の素性―プロローグ―

「…もしもし、KEA?」
閉店後の店内。店には店長しかいない。
静かな店内で受話器にそう、店長は呼びかけた。
『…なんだ、姉さんか。珍しいな。どうした?』
「大した用はないんだ。ただ、久しぶりにあんたの声が聞きたくなってさ…。」

『アースセイバーにこればいいのによ。』
「昼間は店がある。夜遅くの訪問も迷惑な話じゃない?」
『そりゃあ、確かにな。』

「由衣の様子はどう?」
『大分慣れてきたよ。ていうか戦闘慣れしすぎだろあいつ;』
「はは、そりゃそうかwあの子が望んだことだからね。せいぜい鍛えてやってちょうだいよ?」

『…姉さん、もしかして由衣見てて、過去回想してたのか?』
「…よくわかったね。流石。」
店長の口の端が少し上がる。
『姉さん、ずっと人を信用できない人生を過ごしてたもんな…。』

「ちがうよKEA。多分これからもそうだ。」


楠原 亜音
生まれはごく一般的な家庭だった。
両親は一般人。彼女には、生まれたばかりの双子の弟がいた。
いかせのごれに引っ越した当時も、ごくありふれた幸せな家庭で生活していた。

しかし、転機は突然訪れた。

「お母さん!お父さん!何処なの!?」
泣き叫ぶ少女。
夜遅く物音に目が覚めてみれば、眼の前に広がる世界は見なれたものではなかった。

崩れた壁。
倒された家具。
折れた柱。
赤く燃え盛る炎に囲まれていたのだ。

近くにいるはずの母親も父親もいない。
既に飛び火で火傷した体は、ほとんど動かすことができない。
横たわった体のまま、近づいてくる炎を、涙のたまった目でぼんやりと眺めていた。

しかし、彼女は気がつき、叫んでいた。
「乃亜は!?乃流は!?どこにいるの!?皆何処に行っちゃったの!!」
できたばかりの弟だ。この火事の中、一番最初に犠牲になってしまう。
「お姉さん」になったが故、自分よりもそのことが心配になり叫んでいた。
…そう、このとき叫ばなければよかったのだ。

誰かの足音がかすかに聞こえる。
誰かが来たんだ。親かもしれない。わずかな希望が眼の前に現れた。
「お父さん!?お母さん!?私、ここにいるよ!助けて!」
精一杯声を張り上げ、彼女は叫んでいた。
その声が届いたのだろう。こちらに向かってくる。
よかった、たすかっt――。

「!!??」

不意に首をつかまれ、軽々と持ち上げられた。
気道がふさがり、息苦しくなる。
黒いマスクで隠された顔は、誰だか判別がつかなかった。
しかし、彼女は気がついた。
この人は、自分の親じゃないと。

「…使えないな。」
低い、機械的な声が頭に入ってくる前に、首に鋭い激痛を覚えた。
「うあああああああああああああっ!?」
悲鳴が上がる。そのまま体は投げ出され、もろい壁にあたって伏せこんだ。

不自然な方向に首が曲がる。
痛さが薄れ、意識が遠のいていく。
何が起こったのか分からないまま、その眼から光が消えた。

「…そこの餓鬼二人は連れて行け。こいつはもう始末した。」
仲間であろう黒ずくめが数人、二人の赤ん坊を連れ去る。
それを確認したあと、自分も立ち去ろうとしたその時だった。

何かが足首をつかんだ。
そこをみやると、「殺したはず」の少女が、足首をつかんでいた。
「…返してよ…。」
憎悪を込めた声でそう言われると、そのまま足首の骨をへし折られていた。


焼失した家から泣き声が聞こえた。
近所の人がそこへ行く。
火傷だらけで泣いている少女と、骨という骨を折られ死んでいる男がそこにいたという――。





「弟たちにきいたんだけどね、あの後「黒ずくめ」が逃げてる途中にホウオウに出くわして、片方を奪われたらしい。奪われた側が乃亜で、そのまま施設に連れ込まれたのが乃流だった。」
『本当に子供のころ、離れ離れになってしまったんだな…。』

「人間不信は私だけじゃない。きっと、弟たちもそう思っている。でも、先が長い二人だけでも、人を信じられる子に成ってほしい。」
私はもう、と小さくつぶやいた亜音。
なだめるようにKEAがいう。
『で、でも今は俺たちがいるし、姉さんとこにも由衣ちゃんとか奏ちゃんとかいるだろ?大丈夫だって!』
「…そうだといいわね。」

「ごめんなさいね、こんな夜遅くに。」
『いいんだよ。俺も姉さんの声、聞きたかった。』
「じゃあ、無理しない程度に頑張って。元気でいるのよ。」
『ああ。お休み。』

受話器を置き、月の光が差し込む窓を見た。
ここ最近集中して起こる騒動。自分は極力成り行きを見守るつもりだ。
しかし、苦しんでいる皆を見ても、このところ何も感じなくなっている。
働き過ぎかもしれないけど、自分の無常さに絶望した。
「本当の意味で人を信用できる日、か…。」

「…一生、こないだろうな。」

月はただ冷たく、紅の髪を照らし出していた。

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最終更新:2011年04月04日 13:13