「…っうぇ…」
女子トイレの手洗い場。
鏡に手をつきながら口から胃袋の中の物を盛大に吐く。
さっき食べたお昼ご飯、全部出しちゃった。
やっぱり無理に笑顔を作って、喋りながら食べてたからかな。
でも、ああしないと情報だって収集出来ないし、
誰が能力者かを把握出来ない。
ホウオウグループに引き入れることも、出来ない。
だから積極的に接触しようとしているんじゃないか、私。
その為に何でもかんでも頭から突っ込んで、面倒ごとも引き受けて…
「…?」
___あれ、私そんなことまで考えて今まで皆と接していたのかな・・・
いや・・・違う、違うよね?何が、どうして、違くなったんだっけ?
考えなきゃ、考えなきゃ。
そうやって無理に頭を働かせれば、頭痛と吐き気が同時に起こる。
「うぅ・・・!」
そして、また嘔吐する。
元々考え事なんて私には無理なのに、最近・・・いや、昨日からずっと頭を使いっ放しだ。
お父さんのせいだ、お父さんがあんなこと言わなきゃ、こんなこと意識しなかったのに。
『お前、ホウオウに見捨てられるぞ?』
「・・・っそんなこと、そんなこと・・・!」
思わず力が入り、傷一つないブロックに大きなヒビが入ってしまった。
「・・・・・・・・・」
ああいっそ、こうして亀裂を入れてすっかり分けてしまえば楽なのに。
そんなことを考えて、ふと、鏡に映る自分を見た。
死んだような眼をしている自分と眼が合う。
まるで昔の自分を見ている気分だった。
*
「あ、トキコさん。」
「・・・・・・・・・」
授業も出ないで廊下を歩いていたら、養護教諭のたまちゃんに会った。
頭だけを下げて、その場を後にしようとする。
しかし、たまちゃんが私の腕を掴んで引き止めた。
「っ?」
「どうしたんですか?トキコさん。いつもより元気が無いですし、
顔色も悪いですよ?」
心配性のたまちゃんが優しく声をかけてくるが、私は笑いながら断る。
「・・・へーき、たまちゃんが心配するほどじゃないよ。」
「そんなことないですよ、保健室で休んでいったほうが・・・」
「平気だって、たまちゃんは心配しすぎなんだよ。」
こんなことしたらたまちゃんが凄い怒り出すっていうのは知ってるけど、
保健室に寄りたい気分じゃない。
というよりも、今は誰とも話したくない。
だから私は、彼の元から立ち去ろうとした、のに。
「え、っ!?」
ぐい、と掴まれたかと思えば壁に押え付けられる。
一瞬、何が起こったか分からなく、押え付けている人物の方を見上げた。
そこにいたのは優しいたまちゃん、ではなく怒ったたまちゃんであった。
その視線だけで人を殺しそうな、とても怖い眼。
「・・・お前、さっき覗いてただろ?」
「!!」
気付かれてた。
私は朝の内に
ユウムちゃんにあのメールの詳細を聞きに行き、
休み時間の合間をぬって氏型ちゃんを偵察しに行ってたのだ。
無論、ホウオウグループに引き入れる為に。
でも、どうして・・・こっち見てなかったのに・・・!?
「『あいつ』は気付いてねぇけど、俺が見逃すわけねぇだろ。
あれぐらいの視線、気付けなきゃ紛争でとっくの昔に死んでら。」
「っ・・・は、何?じゃあ私を殺すわけ?学生である私を?」
「調子に乗んな餓鬼が。」
そう言って、たまちゃんは手を離し、私を開放した。
押え付けられていた手が、痛い。
「てめぇが何考えてんのか知らねぇが、あそこは『俺』の縄張りだ。
あそこにいる奴等を狙うなら容赦しねぇぞ。」
「っはは!そんな優しい事言って、結局はウスワイヤにぶち込むんでしょ!?
いずれ自由を奪うんじゃない!」
「・・・・・・・・・」
私は立ち上がって、目の前の彼に言葉をぶつける。
「だいたい、あんたは優しい面してるけど心の底ではこんな平和に
唾を吐きたくて仕方ないんじゃないの!?なのに善人ぶって良い顔してさぁ、
私は、あんたみたいな嘘吐き大っ嫌いなの!!その上辺だけ繕って気持ちを
隠し続ける、その態度が気に入らないの!!」
「・・・・・・・・・」
相手の心を傷付ける為の、『壊す』為の言葉。
でも半分は本当で、半分は嘘の気持ちしか込められていない、中途半端な武器。
それを受けたたまちゃんは、怒りもせずにため息をつくと何も言わずに背を向けた。
相手にされない、それが無性に心に引っかかり、何故か引き止めてしまった。
「ちょ、ちょっと・・・!何で何にも言わないのよ・・・!?」
「・・・・・・・・・」
「っなんで、」
「お前、俺が上辺だけ繕ってるっつってるけどよ・・・」
たまちゃんが振り向く。
「それ、まんま今のお前だろ?」
「っ!」
「上辺だけ繕って、本当の気持ちを隠してるのは、お前だろ?」
「違う、っ私は・・・!」
たまちゃんは面倒臭そうに頭を掻き、哀れんだ視線を私に向けてくる。
そして言葉を発した。
「何かが面倒なら捨てればいいじゃねぇか。」
『俺は別に強制して言ってるわけじゃねぇんだよ。』
「ただ、そうやって抱え込んで苦しむぐらいなら早く決めろよ。」
『お前がホウオウを取るか、お友達を取るか。』
「『決めるのは、お前だろ?』」
「っ・・・!」
たまちゃんの言葉が一字一句、昨夜言われたお父さんの言葉とそっくり。
胸を締め付けられるような思いに駆られる。
搾り出すように、私は私自身の言葉を紡いだ。
「・・・っ何にも、何にも知らない癖に・・・!」
それしか、出なかった。
朱鷺と保健医
(走り去る朱鷺の後姿)
(保健医はただ、見つめるだけ)
最終更新:2011年04月04日 17:00