2001年10月25日、ストラウル跡地の廃ビルが倒壊する事故があった
ストラウル跡地―――三年前、超能力の研究を行っていた組織ストラウルが壊滅したことで廃墟になった場所だ
「発見できた生徒は高校生の男女二名です」
十数人が収まる程度の大きさの会議室
ふわふわとした金髪、長身の青年は淡々とした口調で事故の実態を説明している
その場にいる者は皆、またかとでも言いたげな表情で青年の声に耳を傾けていた
ストラウル跡地で事故が発生するのは初めてではない
いや、小さな事故も含めれば数えきれないほどの件数になるからだ
壊滅後2年ほどには大規模な建物の倒壊、近い時期でも廃ビルが炎上するなどといった事も起きている。
今まで幾度も世界を守ってきた組織アースセイバー。
普通の人々には扱いきれない事件を担当とし、解決してきている
この場所にいる彼らはみなその一員であると同時にストラウルの事件の当事者である者がほとんどである。
しかし先ほどのような一般的な事故となればそれの調査があるかないか
普通の事故は全て警察が受け持つのが当たり前だからだ
事故現場が普通では無かったため情報は全て入ってくるものの、
警察が処理できる事故ならばアースセイバーの出る幕は無いのが現状だ
もっとも、組織の表の顔であるウスワイヤの仕事が増加してきている中で普通の事故まで背負い込むのも難しいのだが
『奴ら』との関係は?との質問に「恐らくないかと…」そう告げて事件の説明も終わり
この会議も終了かと思った時、発言を求める声が飛んできた。
「もう一度、ストラウル跡地の安全調査をさせてくれないか」
そう言ったのは全身を白と黒で包んだ、長身で体格もいいどこか風格を漂わせている男であった。
「でもよ、バク。スト跡地の調査ならもう済んでいるし、レイスの件が原因だろうからあまり意味が無いんじゃないか?」
狐目で屋内にも関わらず帽子を被った青年が言う。
たしかに現場の調査は3年前に行われている。しかしバクと呼ばれた男は落ち着いた様子で、いや、と呟く。
「あの場所ではもう何度も事故が起きている。これはレイスの影響だというのもわかるが、それ以外の危険があるという可能性も拭えないだろう
事を未然に防げるのならそれに越したことはない。」
何か釈然としないという顔を見せる帽子の青年。それを横目に、いいだろうと隣にいた男は承諾の言葉を出す。
「事故の直後では警察の人間が多いだろうから、そのあたりは俺が調整する。同行者が必要だろうが、誰にするつもりだ?」
バクが感謝の念を伝えた後、「オレがやってやるですぜー!」と声が上がるのを帽子の青年がツッコミを入れるという漫才を見つつ。
「今回は只の調査だ、前回の調査内容や緊急時なども私が対処するから皆のような熟練者は必要ない。
むしろ今回は、連れて行きたい奴がいるんだ」
11月に入り外に出れば息も白くなる時期。
比較的温暖ないかせのごれ周辺も例外ではなくどこに居ても寒さを感じる季節になった
そんな中世間、特に学生達は受験シーズン真っ只中だ。受験生達は皆勉学に追われ
それまで遊び呆けていた者たちも危機感と焦りが生まれはじめている
しかしどんな所にも例外というものはある
とあるアパートの一室で対戦ゲームに没頭していた二人の少年もその例外の中のひとつだった
その一人の少年は肩まである癖毛な黒髪と小柄な体系で中性的な雰囲気を持っている
名前は「
ハヤト」、いかせのごれの隣の県にある
扶余中学校に所属している三年生だ
彼もまた受験生ではあるのだが受験をまじめに考えた事が無く、
どんな高校でも中卒よりはいいだろうと考えている為上記のように危機感を覚えているわけでもなかった
そんなわけで、この日も傍らにいる友人のケンジと一緒に遊んでいた
しかし日も傾き始めた頃、今までやっていたゲームにも飽きたところでハヤトが別のゲームを探していた時
そうだ、とケンジが声を発した
「あ、俺そろそろ塾の時間だから」
そう言い放って席を立とうとするケンジ。その言葉にハヤトは耳を疑った
「は?お前塾なんか行ってたの?」
そういってハヤトはただでさえ大きい目を更に大きくし身を乗り出して疑問を投げかける
投げかけられたケンジもまた疑問の内容か大きな声か、
または両方かに対し豆鉄砲を食らった顔で「あれ、言ってなかったっけ?」と間の抜けた声をひねり出した。
「わりいわりい、俺一か月くらい前から塾に行かせられる事になってよ
理由はアレだ、このままだといかせのごれ校にしか行けねえみたいだから。もうちょい上を目指してんだよ」
「はあ?んなの聞いてねえよ、てかそのいかせのごれ校の何が悪いんだよ」
そう聞くと今度はケンジが目を大きくした
「ハヤト、お前なあ、あそこの奴らの話してやったろが。覚えてねえの?」
「つまんねえから聞き流したし。」
「聞けよ!いいか?もう一度説明してやるからよーっく聞け。」
ケンジはそう言って話し出す。ハヤトにとっては興味がない話なので仕方ないと言ったような顔で聞き始める。
「あそこはなあ、やばい奴の巣窟なんだよ、
この前裏通りを通ったっけいきなりガン垂れて来るやつらがいてよ、そのままカツアゲされかけたんだよ。
そしたらそいつらに邪魔だとか言いだす奴らが来てよ、そのまま縄張り争いみたいのが始まったんだ。
先にいた奴らは5、6人いたが後から来た奴らはたったの二人でよ、
しかも先の奴らは武器とか色々もってたんだ。もう勝負は決まったようなもんじゃねえか。
だがな、その2人組の一人の頭もさもさしてる奴が「俺めんどくせえからパスな」とか言い出してよ、
一人で5、6人はマジ無理だろ?だからそいつらがキレてよ、もう一人のいかついのに飛びかかったんだよ
でもそっからが凄くてよ!そのいかつい奴が飛びかかってくる奴らを千切っては投げ千切っては投げ…で、次々とのされてくんだよ
いかつい奴はほんと体格やばかったけどよ、そいつらもひょろいわけじゃなかったんだ
そうっとうムキムキなやつも一人いた。それでもガンガンやられてってよ。もう腰抜かして動けなかったよ
んで結果はいかつい奴の圧勝。やばくね?そんな怪物が存在するんだぜ?あの学校は
しかも後からいっぱい人が来てよ、そのいかつい奴の舎弟っぽかったんだ
これはもうアウトだろ?もう無理、駄目、そんなグループがひしめき合うような所なんだよ!
他の奴の話ではしょっちゅう備品が不自然に壊されてたり、ある日には猫耳集団が作られてたり
更には“ゲルゲルゲル”とか言いながらいきなり分裂するような生物が生息してたりよ
今年に入ってからでっけえ事件も多いらしくてな
もう何人か死んでる奴もいるしよ、死ななくても大けがしてるやつも沢山いるみてえだし
これはもう人型破壊兵器や上半身もねえのに動き回る男、更には超能力者がいてもおかしく…」
ダァン!!
「ウェ!?」
興奮した様子で語る彼を制するように、ハヤトが机を思いっきり殴った
その音にか行動にか、驚き目を丸くしているケンジにハヤトは詰め寄った
「…俺の前でそういう話するなって言ったよな?」
「あ、そうだっけか…?」
そういえばそんなことを言っていた気もする
しかしこんな過剰反応を見る事は中々無く、オカルト話しが好きなケンジとしては驚くばかりだ
「あのなあ、超能力だとか殺人兵器だとか、そんなもんは存在しないんだよ」
「でもな、俺確かに聞いて…」
反論しようとしたケンジだが、ハヤトに睨まれ押し黙ってしまう
“やばい、殺される”
ケンジは焦っていた。彼はケンカにはめっぽう弱く、それに反するようにハヤトは強い
もしこのまま殴りかかりでもされたら…
そう思うと、震え上がる思いだ
怯える彼を睨みつけていたハヤトは、ふっと興味をなくしたかのように玄関へ向かった
「へ?」
「俺帰るわ」
「お前は勝手に妄想でもしてれば?」
そう吐き捨てて、ガシャン!とドアを閉めていった
残されたケンジは茫然としつつ、一つの疑問を浮かべていた
「あいつ、いつからこういう話嫌いにになったんだっけ…?」
苛立ちの逃げ場を作るように友人の家を出たハヤトは、ふらふらと帰路についていた
気付けばあたりは人気もない川辺の住宅地。川の流れる音がざあざあとうるさくて、心地いい
少し眺めていたくなって、川にかかる橋の柵にもたれかかった
夕焼けに染まり始めた景色、朱を帯びた空と雲、道を跳ねる様に歩く鳥
なにもかもが日常的で、先ほどのケンジの話などこの風景にはとても馴染むとは思えない
柵に掴まったまま空を仰いだ。そう、破壊兵器も、超能力も、この世には存在しないんだ
そう強く思うとケンジへの苛立ちが一層増すと共に、どこか安心した気分になった
不意に、ゴオオと音が聞こえたような気がした
そうすると、一瞬現代にあるはずもない飛行物体が視界を横切った
「!?」
赤と黄に染まったボディと、プロペラもない四角の形
少なくとも今までの人生の中では見た事が無かった
破壊兵器や超能力が、全てあの飛行物体に肯定されたような気分になって
「あー、くそ」
既に姿を消したそれを追いかけて、ハヤトは走り出した
非日常なんて存在しない。それを信じたくて、確かめたかったのだろう
そんな少年の滑稽な姿を、鳥はただ見ていた
『日常と非日常』
最終更新:2011年04月04日 20:05