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梧桐の呼び声

「………あっ」

マナがそんな言葉を発したのは、3人が沈黙してからしばらくの時をおいてからだった。
ランカからの緊急連絡を受け、急行したゲンブが到着した、まさにその瞬間のこと。
その彼が、息を切らしつつ言う。

「どうした、マナ」
「もしかしたら、スザクが眠っている原因は……昨夜の、シドウさんの話かもしれない」
『え?』

3人の声が合わさる。アオイに関しては、まだよく事情を呑み込めていないのもあるが。
それには構わず、マナは推測を語る。

「ゲンブ、思い出して。スザクは今まで、何のために行動してた?」
「それは……」

ゲンブにとっては自明の理。ホウオウグループへの復讐と、ランカの父親を探しだして彼女に謝らせること。それが、スザクを突き動かしていた。
しかし、そこにこそ原因があると、マナは言う。

「そう。それが問題」
『?』
「スザクにとっての最優先は、一人。他の誰より―――そう、場合によってはトキコよりも、ランカが優先される。自分を救ってくれた、恩人だから」
「なるほど。トキコにとってのホウオウと同じ、か」

頷くマナ。

「信頼のレベルは桁が違うけど、認識としてはそんな感じ。まさしくランカはスザクの存在理由であり、その父親を探すという目的は、彼女の存在意義だった」

ここに来て、ランカとゲンブが「はっ」と気付いた。

「も、もしかして……お父さんが、帰ってきたから……」
「そう、か……そういうことか」
「ど、どういうことですの?」

一人、事情を呑み込めていないアオイに向け、ゲンブは説明する。
彼女の最愛の姉が、なぜ眠りに落ちてしまったのかを。

「スザクの目的……自身で定めた存在意義、つまりアイデンティティは、『ランカの父親を探し出し、その行いを詫びさせること』だった。その根源には、4年前の突然の失踪と、それによってランカと自分の負った心の傷がある。しかし、昨夜の父親本人の『自分の意志での帰還』と失踪の真実を告げられたことにより、スザクは恐らくこう考えたはずだ」


「自分がして来たことは、全て無駄だったのではないか、と」


そこまで言われて、ようやくアオイにも掴めた。スザクが今、どんな状態に在るのかを。

「つま、り……姉様は、絶望のあまり自分で自分を打ちのめし、心の闇に閉じこもってしまっている、と……」

ああ、とゲンブ……水波 大悟は頷く。

「完全に正解ではないだろうが、おおむねそれで正しいはずだ。とはいえ」

ちらり、と奥のベッドに眠るスザクを見つめ。

「それがわかったところで、神ならぬ俺達ではどうしようもない」

これが問題だった。原因も理由も推測は立ったが、対処の方法がない。しかも、懸念はさらに発生する。

「綾ちゃん……もしかしたら、もう目を覚まさないんじゃ……」
「な、なぜですの!?」
「……辛いことだけど、ランカの言う可能性も十分にある。ゲンブが今言ったスザクの存在意義は、彼女が戦い始めた4年前から、ずっとその心を支えて来た、『火波 スザク』という存在の心柱だった。それを一度に失った今、スザクが自力で目覚める可能性は……」


「ほぼ、ゼロに等しい」


無情なマナの宣告を受け、アオイがぐらり、とくずおれる。

「そ、んな……姉様……」

そのまま、ふらふらと立ち上がり、眠る姉の傍に歩み寄る。どさり、と崩れ落ち、震える手でスザクの手を握り、消え入りそうな声で、呟く。

「姉様……綾音姉様……あなたが、いなくなってしまっては……わたくし、また一人ぼっちに……なって、しまいますわ……どうか……どうか、目を覚まして……」


「わたくしを、一人にしないで……」


「…………」

切なる願い。絶叫にも似た囁きに、答えは返らない。
沈鬱な空気が流れる中、一人マナは思う。

(……希望があるとすれば……ほんの、微かにでも)

それは、先ほどの同調の時に感じた、


(スザクではない、誰か……)



梧桐の呼び声

(その声は届いても)
(その心は届かない)
(しかして、闇を訪う者あり)

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最終更新:2011年04月06日 14:38