しばらく歩みを進めていた2人は、
風月堂の前に立ち止まった。
勿論そこにいる客の中には―――。
「カナちゃん!」
「あ、
ミユカちゃん。こんにちは」
ミユカと同じ役職の能力者にして親友の
カナミ。
和菓子が何よりも好きという彼女は、暇さえあればここ―――風月堂に立ち寄っていた。
カナミによれば、風月堂はいかせのごれ一有名な、老舗の和菓子店らしい。
時折行列が出来るほど美味しい和菓子が売られており、中でも一番人気の商品は苺大福と生菓子にみたらし団子だとか。
「今日は何買ったの?」
「えーっと、三色団子と、栗羊羹と、生菓子と、きんつばと、蕨餅と…」
「OK、もういいよ」
永遠に続きそうだと判断したミユカは、やや興奮状態のカナミを制した。
周りには何も影響を与えてないが、今の彼女の心には、大きな「喜び」が溢れている。
「相変わらず好きだねー、和菓子」
「ふふふ♪」
カナミの満面の笑みを見て、ミユカは苦笑いする。
「なあ、ミユカ。「わがし」って何だ?」
ミユカに「わがし」の説明を求める
シグマ。
その時、シグマを見たカナミは不思議そうな表情を浮かべる。
「ミユカちゃん。その子は…」
カナミの反応に、ミユカがしまった、という表情を浮かべる。
「確かシグマ君…でしたっけ。その子はまだアースセイバーには…」
「……」
「もしかして…黙って連れ出したんですか?」
「…ご名答」
はあ、とカナミはため息を漏らす。
「ミユカちゃんの気持ちは分かりますけど、バレてしまったら、
アキヒロさんから説教くらいますよ?」
「問題さえ起こさなきゃいーじゃん」
「ミユカちゃんたら…」
「とにかく、この事は内緒だよ」
「…仕方ないですね。分かりました、黙っておきます」
「ありがと~」
「ミユカ!!」
唐突にシグマが声を荒げた。
「ど、どうしたのシグマ」
「「わがし」の意味を教えろ!」
「あ…ごめん」
するとカナミが、
「私が代わりに教えましょうか?」
「お前がか?」
「はい」
にっこり笑って、カナミは説明を始める。
「和菓子というのはですね、日本独自のスイーツなんです」
「すいーつ?」
「甘い物の事ですよ。主に、餡子や餅等を使って作られるんです」
「あんこ?もち?」
「餡子は甘くて茶色い物で、餅はお米から作られる物です」
半分理科していない様な表情のシグマだが、カナミはお構い無しに説明を続ける。
「そして見た目もとても華やかなもので、味も上品な甘さなんです」
「……」
冷や汗を流し始めるミユカ。
「そもそも現在の様な形の和菓子は、江戸時代になってからでして、それまでは餅や餡子で作られた物が主流だったんです。そして、茶が日本に伝わると、和菓子も趣向を凝らすようになり…」
「…行こう、シグマ」
「え、何で?」
「いいから行こう」
熱中するカナミを置いて、ミユカとシグマは風月堂の前から去る。
その後もカナミは延々と説明を続けたらしい。(後日談)
「…カナちゃんまだあそこで説明してんのかな……」
風月堂の方角を見るミユカ。
あの親友ならやりかねない―――いや、絶対やるだろう。
そうミユカは思った。
「俺、全然分からなかった」
「そうだよねー…」
カナミ自身は分かりやすく説明してるつもりだろうが、あまりの情熱ぶりでシグマには全然伝わっていなかった。
しかも相手は幼い子供同然である。
「もうその事考えても埒が明かないや。シグマ、次どこ行こうか?」
だがシグマから返事がない。
「…シグマ?」
ミユカがシグマを見下ろす。
彼の視線は右の方角に向けられていた。
「シグマ?どうしたの?」
ミユカがもう一度を呼びかける。
今度は返事が返ってきた。
「あそこに何かいる」
「え?」
ミユカはシグマの視線を追う。
だが何も無い。
しかしシグマはその先を見続ける。
「…そういえばあの方角には―――」
―――ストラウル跡地がある。
そう言おうとした時、シグマが突然走り出した。
「シグマ!?」
訳が分からないまま、ミユカがシグマを追いかけた。
息を切らしながらも、ミユカはようやくシグマの元に追いついた。
そして、目の前に聳え立っている、廃墟のビルを見やる。
「ここは…ストラウル跡地…」
―――ストラウル跡地。通称スト跡地。
ある事件により、アンバランスゾーンと化してしまったゴーストタウンである。
その為か、奇妙な事件が多発している。
「ここ、何かいる」
「何かって…何が?」
「分かんない。でも絶対いる」
目の前のビルに強い眼差しを向けるシグマ。
「…とりあえず調べようか。私も身分が身分だし」
ミユカは自身の身分が「アースセイバー独立隊員」である事を思い出す。
本来、アースセイバーの能力者は、本部からの命令が無い限り、自由に動き出す事が出来ない。
だがミユカとその親友カナミは、アースセイバーからほぼ独立されている為、命令が無くとも自由に活動がする事が可能で、発見次第、敵と戦闘を開始できる。
それ故、どんな異変であろうと自身がそれを見つけた以上、対処しなければならない。
「でも入るからには気をつけてね」
「うん」
ミユカとシグマはビルの中に入っていった。
「…シグマ、どの辺りから感じるの?」
「んー…あっち」
シグマは南東の方角を指差す。
その方角に向かって、二人は慎重に歩みを進める。
そこにいたのは―――。
「お前は…ゼア…ッ!?」
最終更新:2011年04月17日 13:30