墓に、花が供えられる
ここは、とある一つの墓地
その中のひとつの墓の前で、一人の男が手を合わせている
閉じていた目を開けて、彼は眼鏡越しにまっすぐと墓を見た
「あれから16年、か」
彼の名前はミキヒサ。いかせのごれ高等学校の教員であり、墓の中で眠る少年の親友だった
その少年――
カイリとミキヒサはいかせのごれの隣に位置する県の、
扶余中学校に通っていた
2人は昔からの幼馴染で、同級生で、部活の仲間でもあった
しかし一年生の秋頃にカイリは死んだ。包丁で一突きだったらしい
現場に残っていた包丁には彼の指紋が付いていたことから、自殺ということで片づけられている
―――というのが世間的に知られている事
カイリは、その時ミキヒサを殺したはずだったのだ
それなのに今カイリは亡き者になっていて、ミキヒサはこうして生きている
矛盾は「ナイトメアアナボリズム」という能力で全て説明が付くだろう
ミキヒサは毎年、命日付近には必ず墓参りに来ている
昨日はその命日だったから、彼は花を手にここに来ていた
彼がお参りを終え来た道を戻ろうとした時、道の先にいた少年と目があった
緑に近い色の癖毛と、眠そうな目
その姿は、墓の中にいる少年と赤の他人とは思えないほど似ていた
「兄の、知り合いですか?」
「え、ああ。子供の時にちょっとな」
「そうですか」
カイの、弟なのか
いままで弟がいる事は知らなかったが、そう聞くと妙に納得した
その少年は墓の前にしゃがむと、持っていた缶ジュースをその前に置いた
手を合わせるわけでもなく、感情の含まれていない目でただ墓を見ている
「兄は、どんな人物でしたか?」
少年は一人ごとの様にぽつりと呟いた
「傍から見れば完璧を絵にかいたような奴だったよ」
「…」
「でも実際は強情で、なんでも一番じゃなきゃ気が済まなかったみたいでな」
「そういう所はやっかいな奴だったかな」
懐かしむ様子で語るミキヒサ
意外だといいたげに少年は彼に目を向けた
「そんな所あったんですか」
「聞いた事なかったのか?」
「兄の事は、なんでも出来る凄い人としか聞いていません」
「…お前自身はカイとは、兄貴とは?」
「会った事ありません」
「兄は、僕が生まれる前に死にましたから」
ミキヒサは何処か気まずくなって目を逸らす
それを見て少年はふっと笑った
「僕は、兄の事が嫌いです」
「え?」
「いつでも優秀だった、完璧だった兄は僕の事を追い詰めました」
「兄の代わりに育てられたけど、どんなに頑張っても兄に足りなかったから」
少年の話を聞いて、彼は申し訳なくなった
兄が死ななければ少年は幸せだったのかもしれない
何か言おうとするも、何て言えばいいのか
「すみません、変な事言っちゃって」
「いや」
「なんでかな、あなたとは初めて会った気がしない」
少年は立ち上がり、供えていた缶ジュースを彼の前に突き出した
「聞いてくれたお礼です」
「いいのか?」
「どうせ捨てる予定だったので」
それを受け取ると、少年は「それじゃ」と言って去っていた
缶の中身はスポーツドリンク。ラベルは変わったものの、カイリが良く飲んでいた物だ
「本当の事を知ったら、どんな反応すんのかな」
ミキヒサは呟いた
少年は好意的だったが、それだけに次会う事があったらどんな顔をすればいいのか
…いや、もう会う事は無いだろう
いままで16年間、一度も会う事はなかったのだから
親友と同じ後姿を見ながら、そう思った
墓参り
(その後、親友と同じ名前を職場で発見する事を)
(春から毎日顔を見る様になる事を)
(その時の彼は知る由もなかった)
最終更新:2011年04月19日 00:17