シックな雰囲気の隠れ家的バー
今なら丁度営業時間のはずが、扉にかかる看板には「close」の文字が
休業日でもなんでもないし、バーテンダーはお店の中にいるのだけれど
中で行われる会話は、ある決断のもたらした結果のお話
店内には、バーテンダーであるロゼがノンアルコールカクテルを振舞っている
それを受け取ったのは、同じ顔の少女が2人。エミとウミだ
バーはアルコールを扱う場である事もあって、2人はその場所に不釣り合いだ
なのに2人がここにいるのは少し事情がある
一口ライム・レモネードを味わった所でウミが尋ねた
「例の件、何かわかった?」
「ええ、何から話せばいいのか…」
磨いていたグラスをおいて、ロゼは話し始める
先日、「切裂き魔とその主」について、エミとウミ、2人の要望でクランケの監視をしていたロゼ
そのついでに、情報を集めていた
主が
ホウオウグループに監禁されている事、切裂き魔を知る人物はいなかった事
妖怪を召喚できるという主の能力「百物語」と、それを利用する研究部の計画
ホウオウグループ内で収集できるのはこれくらいかと思った時
クランケが行動を起こしていた
地下牢に向かい、紫髪の少女を連れて何処かへ行こうとする彼
もしや、と思い彼女の能力「アイコンタクト」を発動させてみたところ
…ビンゴ。少女は噂の主で、彼は嘘をついて主を連れだしていた
そのことは上に報告
リオトと
クロウの2人が処分に向かったが、突如現れた切裂き魔にしてやられたらしい
彼はホウオウ様に反中を翻し、結果としてホウオウグループを脱退した
「ここまでが、私の知ってる情報よ」
そう言って一息付くロゼ
エミは驚いた様子でロゼを見つめていた
何せ昨日の今日の出来事だから、今回の事を知る人物にまだ会っていなかったのだろう
そんなエミを傍目に、ウミが確認をとる
「まず主の能力だけど、妖怪を召喚するのよね」
「ええ。それで今まで数多の妖怪を従えてきたみたい」
「それなんだけど、昨日から様子がおかしくてね」
へえ?と反応するロゼに、エミとウミが交互に説明する
「街を歩いてたら主がどうとかって声が聞こえたみたいでね」
「力がみなぎるとか、一般人とは思えない内容だったの」
「追いかけようと思ったんだけど、声が聞こえなくなっちゃったみたいで」
「結局詳しい事はわからなかったわ」
「妖怪達の復活って所かしらね」
「そういや妖怪っぽい子、高校にいたよね」
「ええ、隣のクラスのノラ」
―――野乃 螺良華、通称ノラ。いかせのごれ高校2-1の生徒だ
明るく活発な少女で、エミ達も何度か話した事があった
いつも帽子を被っているが、その中には犬のそれと瓜二つな耳が生えているなど普通では無いようだった
「変な事考えてるなあって思ってたけど、あの子も妖怪だったのかな」
「『主の為なら頑張らなくちゃ』とか言ってたみたいだし、そうだろうね」
「『一度無くしたこの命!』なんて考えてた事もあったから悪夢持ちの子だと思ってたけどなあ」
「高校にまでいるなんて、妖怪ってどこにでもいるのね」
「そうね。人の恐怖の数だけいるとも聞くし」
「それなんかやだなあ」
そこまで話した所でエミがはぁーあ、とため息をついて、脱力した
「それにしても、クランケが脱退するなんてね」
「びっくりしたわ、いきなりだったんだもの」
「兆候とか何か無かったの?」
「うーん、ちょっと悩んでる所はあったみたい」
「けど辞めるつもりはないって考えてたし」
「忠告もしてあげたから大丈夫だと思ってたのにね」
「もう、なんで辞めちゃうかなあ」
拗ねた様子でマンゴー・ラッシーに口を付ける
そんなエミをみて一言
「エミって、クランケの事気に入ってたでしょ?」
ロゼの言葉に思わず噴き出しそうになった
「あら、図星かしら」
「へ?何いきなり」
「それ前から言われてるよね」
「やっぱりそうなんだ」
「だってあんなに言ってる事と考えてる事違う人も珍しいんだもん」
「それを苛めてたのよね」
「可愛がってあげてたんだよ、ウミ」
「クランケも時々愚痴ってたわ。弱みに付け込んで振り回されるって」
「そんなこといってたの?」
「ええ。まるで悪魔みたいだとも」
「結構考えてたわよね、気が擦り減るとか」
「むう、こんど会ったらただじゃ…」
あ、と何か思いついたようにぱあっとエミの表情が明るくなった
「ねえロゼ、クランケの処分ってもう決まったの?」
「ノアノルンと同じく存在の抹消だろうけど、誰がって事はまだみたい」
「昨日の今日だからね」
「そっか、じゃあさ、一つ頼んでもいい?」
「私ができる事なら。どうしたの?」
そう聞くとエミは笑顔であのね、と続けた
その時、ウミは一層悲しげな表情を見せたのだけど
「クランケの処分、私がやってもいいかな」
その表情は、曇り一つないほど晴れやかだった
決断の果てには
―――――
最終更新:2011年04月23日 21:11