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『蛇、獣と一緒に外に行く13』

「くあ…ッ」

ミユカは傷の痛みと飛び退いた勢いで倒れる。

ミユカ!」

柱の影に隠れていたシグマが、ミユカに駆け寄ろうとする。
だがミユカは、

「来ちゃ駄目!」
「で、でも…」
「私の言う通りにして!て!」

渋々隠れるシグマ。

「少し悪夢の力に頼りすぎていたようですね」

不敵な笑みを浮かべるゼア。
それに対し、ミユカはいつものいたずらっぽい笑みを返す。

「キシシ…バレた?」
「どうもおかしいと感じたんですよ。私が攻撃する度に蛇の様な目になっているんですから。しかも必ず攻撃を避けてくる…」

という事は、と前置きしてゼアが言った。

「蛇の瞳で私の動きを読み取っていた。そうでしょう?」
「ご名答…これ結構気に入ってる戦い方なんだけどね」

よろめきながらもミユカは答えた。

「私が先程言った通り、あなたに勝つ可能性など無いのですよ…残念でしたね」

「残念?」

ミユカが唐突に呟いた。

「まだ終わってないよ?」
「…その体でまだ戦うつもりですか?」
「それ以外に何があるの?それにこのぐらいの傷、『再生』すれば治るし」
「ほう…しかしその深い傷では時間がかかるのでは?」
「キシシシシッ。これもバレた?」

と、ミユカが咳き込んだ。
その拍子で口から血が数敵、床に飛び散る。

「…!」

シグマの表情に陰りがつきまとう。
そんなシグマとは対照的に、ミユカは明るい表情でこう言った。

「大丈夫だよシグたん」
「どこがだよ!そんな深い傷なのに…」
「大丈夫って言ってるでしょ。それに、ウスワイアで私言ったじゃん。





保証するって」
「!」

シグマはハッとして顔を上げる。
そこにはさっきまでと同じ、太陽の様な明るい笑顔を浮かべたミユカが立っていた。

「だから!絶対にこいつを倒す!」

ミユカがゼアに向かって飛び蹴りを放とうとする。
しかし―――。

ズキッ!

「痛…ッ!」
「無駄ですよ」

その隙を突いたゼアが、ミユカを横に殴り飛ばした。
壁に激突したミユカは立ち上がろうとするものの、傷と壁に当たった背中の痛みでへたりこんでしまう。
成す術も無くなったミユカの前に、ゼアが幻龍剣を手に立つ。

「では…とどめです!」

光の刃がミユカを襲う―――その時だった。





「やめろぉお!!」

能力を発動し、体を狼の四肢に変化させたシグマがゼアに飛び付き、牙を向いた。

「! この…ッ!」

驚いたものの、ゼアはシグマに向かって幻龍剣を振るい、両足を切り裂いた。

「シグたぁああんッ!!!」

悲痛な悲鳴を上げるミユカ。
強烈な一撃を食らったシグマは、そのまま床に落下した。
ミユカは思わずシグマの元に駆け寄る。

「シグたんッ!シグたん…しっかりして!」

ミユカの呼び掛けに、シグマはうっすらと目を開ける。

「ご…めん…ミユカ…助けようとしたんだけど…」
「馬鹿…まだまともに戦えないくせに…ッ!」

ミユカの目から涙が溢れ出る。

「な…かないで…ミユカ」
「泣くに決まってるでしょ!」
「ミユカに…泣いてるのは似合わないよ…」
「え…」

シグマの手が涙を拭き取るように、ミユカの顔に触れる。

「ミユカは笑ってるほうがいいよ…」
「シグたん…」
「ミユカには笑って欲しいんだ。だって―――





俺の大切な…『友達』だから…」
「…!」

シグマの意識がそこで消えた。

「っ、シグたん…ッ!」

その時ゼアが冷たく言い放った。

「クズ兵器が…私に逆らうからこうなるんですよ」

ピクッ

「ク…ズ…?」

ミユカが立ち上がる。
その時ゼアは、ミユカの様子に違和感を覚えた。
するとミユカが振り返り、顔をうつむかせたままゼアと向き合う。

「!」

ゼアは驚きを隠せなかった。
ミユカの腹部にある傷がみるみるうちに塞がっていく。

―――短時間で傷を…?

その時。


ギロッ!

「!?」

ミユカの鋭い蛇の瞳に、ゼアは気圧される。
そして自分の異変に気付いた。

―――体が動かない!?

まるで金縛りにあったかのように、ゼアの体は微動だにしなかった。
そこへミユカが高速の速さでゼアを殴り飛ばした。

「生み出しておいて…勝手な都合で捨てたくせに、シグたんの何が分かるのさ」

ミユカが怒りを秘めた声で話す。

「お前らに捨てられたあの子の苦しみや辛さを知らない癖に…分かってる様な口でクズとか言うなぁあああーーー!!!」

怒号を口にしながら、ミユカはゼアに向かってかかと落としを放った。
猛烈な蹴りを食らったゼアは、そのまま床ごと下へ落下していった。





* * *

私はシグたんの事全部知ってる訳じゃない。

でも分かる。

だって、見たんだ。

明かりの無い部屋の隅で、「お母さん」って言いながら泣いているシグたんの姿を。

その時のシグたんが、昔の私に―――大好きだった両親を亡くした私に似ていた。

そして―――決めたんだ。

シグたんを守るんだって。

もう涙を流させない為に。

いつも笑顔でいてほしい為に。

* * *

「……ん」
「あ、気付いた!」
「ミユカ、大丈夫か?」

ミユカの視界にシノと光一が映る。

「ここは…」
「治療室っすよ。ミユカ、ずっと寝てたんすよ?」
「ずっと…あ」

ミユカは思い出す。
自分がゼアを追い払い、ウスワイアに連絡した後、疲労と安堵で眠ってしまったことを。

「…っ、そうだ!シグたんは!?」
「シグマなら別のベッドで寝てるぜ」
「…そう」
「ミユカ?」

シノはシグマが無事であったにも関わらず、ミユカが気落ちしているのに疑問を感じた。

「シグたん…ゼアに両足とも斬られたんだ」
「え?」

ベッドのシーツを握りしめるミユカの手に涙が落ちる。

「私のせいで…シグたんが…もう、歩けないんだ…ッ!」
「あー、その事だけどさ、何かシグマの足…ちゃんとあるんだよ」
「…え?」

光一の言葉に、ミユカは思わず聞き返した。

「ある、の?」
「お前、俺の話聞こえてた?」

光一が眉をひそめて言った。
それでもミユカはまだ半信半疑の表情だ。

「でも…あの時確かに斬られた筈なのに…」
「アタシも、足が斬られているのを見たから不思議に思ったんすけど…多分、ミユカの再生と似た力を使ったんじゃないかな」
「…私の?」
「ミユカの再生は蛇の悪夢からきてるっすよね?となると、シグマに蛇の遺伝子が組み込まれていたのなら、足が元通りになっているのも辻褄が合うっす」
「て事は…歩けるの?」
「勿論」

と、シノが笑って言った。

「ミユカー!」
「おぶぅ!!」

不意打ちの如く、シグマがミユカに飛びついた。
その勢いでミユカは壁に頭を打ってしまう。

「大丈夫かミユカ?怪我ないのか??」
「だ、大丈夫だから、降りて~…重いよ~」
「あ、ごめん」

シグマが慌て降りる。

「ごめんねシグたん」
「? どうしてだ?」
「だって、私が油断したせいで、ゼアに足を…」

きょとんとしたかと思えば、シグマはいつもの笑顔を浮かべた。

「その事ならもういいよ。それに俺、嬉しいんだ」
「嬉しいって?」
「俺の事、クズとか言うなって、言ってくれた」
「え、聞こえてたの?」
「うん、その時だけだけど」
「……全く」

ニカッと笑って、ミユカはシグマの頭を撫でる。

「盗み聞きするなんてひどいなぁ」
「へへっ」
「あのさ、水を注すようで申し訳無いけど…アキヒロさんが話があるって」

その言葉でミユカが固まったのは言うまでもなかった。





「…今回みたいにな、アースセイバーに入っていない能力者を連れ出すという事は…」
「…ミユカ、いつ終わるんだ?」
「…3日間は続く」
「みっ…」
「でも大丈夫。もうちょい私の近くに来て」
「どうしてだ?」
「いいから」

不思議に思いながらも、シグマはミユカと距離を縮めた。

「これでいいか?」
「うん。よーし…開けシオ!」

ガゴン!

「「!?」」

ミユカの声に反応して、床から隠し通路が現れた。

「さ、逃げるよシグたん!」
「お、おお!」
「まっ待て!まだ話は終わってな…」

アキヒロが慌てて二人の逃走を阻止しようとする。
だがミユカが隠し通路に入った時、

「閉じろコショウ!」

再びミユカの声に反応して、隠し通路の入り口が閉ざされた。
上からアキヒロの怒号が空しく響いてくる。

「ミユカぁああッ!!勝手に隠し通路を作るなとあれほど…」
「凄いなミユカ」
「いたずらの時とかに便利なんだよね~。キシシシシッ」

ミユカが笑う。
それにつられてシグマも笑う。

「ミユカ」
「ん?」
「…俺、アースセイバーに入れる様に頑張る。だから、その時また外に一緒に行こう」
「うん、約束するよ」
「絶対だぞ!」
「大丈夫だって。あ、そうだ」

いつものいたずらっぽい笑みを浮かべるミユカ。

「…今からいたずら、しに行かない?」
「うん!行く行く!」
「そうこなくっちゃ!」


蛇は再び獣の手を引いて行った。
互いに笑顔を交わして。

~おまけ・後日談~

「百科事典さーん」
「ん?何すかミユカ」
「シグたんと外に出かけた時にね、百科事典さんにお土産買ってきたんだけど、渡すの忘れてて」
「お土産?アタシに?」
「うん。だってあの時見逃してくれたし、お礼のつもりで買ったの。はいコレ」
「サンキューっす。中身は何なんすか?」
「開けてからのお楽しみ。じゃね~」

(その場を去るミユカ)

「いたずらっ子だから忘れがちだけど、やっぱミユカは優しいっすね…それにしても中身何だろ。お酒かな…何ちゃって」

(箱を開けるシノ)


「ギャァアァアーーーーッ!!!」

「ど、どうしたシノ!?…ん?箱?」

(中身を見るKEA)

「…般若の面…ミユカか」

(溜め息を漏らすKEA)
(泡を吹いて気絶中のシノ)

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最終更新:2011年04月23日 23:59