「くあ…ッ」
ミユカは傷の痛みと飛び退いた勢いで倒れる。
柱の影に隠れていた
シグマが、ミユカに駆け寄ろうとする。
だがミユカは、
「来ちゃ駄目!」
「で、でも…」
「私の言う通りにして!て!」
渋々隠れるシグマ。
「少し悪夢の力に頼りすぎていたようですね」
不敵な笑みを浮かべるゼア。
それに対し、ミユカはいつものいたずらっぽい笑みを返す。
「キシシ…バレた?」
「どうもおかしいと感じたんですよ。私が攻撃する度に蛇の様な目になっているんですから。しかも必ず攻撃を避けてくる…」
という事は、と前置きしてゼアが言った。
「蛇の瞳で私の動きを読み取っていた。そうでしょう?」
「ご名答…これ結構気に入ってる戦い方なんだけどね」
よろめきながらもミユカは答えた。
「私が先程言った通り、あなたに勝つ可能性など無いのですよ…残念でしたね」
「残念?」
ミユカが唐突に呟いた。
「まだ終わってないよ?」
「…その体でまだ戦うつもりですか?」
「それ以外に何があるの?それにこのぐらいの傷、『再生』すれば治るし」
「ほう…しかしその深い傷では時間がかかるのでは?」
「キシシシシッ。これもバレた?」
と、ミユカが咳き込んだ。
その拍子で口から血が数敵、床に飛び散る。
「…!」
シグマの表情に陰りがつきまとう。
そんなシグマとは対照的に、ミユカは明るい表情でこう言った。
「大丈夫だよシグたん」
「どこがだよ!そんな深い傷なのに…」
「大丈夫って言ってるでしょ。それに、ウスワイアで私言ったじゃん。
保証するって」
「!」
シグマはハッとして顔を上げる。
そこにはさっきまでと同じ、太陽の様な明るい笑顔を浮かべたミユカが立っていた。
「だから!絶対にこいつを倒す!」
ミユカがゼアに向かって飛び蹴りを放とうとする。
しかし―――。
ズキッ!
「痛…ッ!」
「無駄ですよ」
その隙を突いたゼアが、ミユカを横に殴り飛ばした。
壁に激突したミユカは立ち上がろうとするものの、傷と壁に当たった背中の痛みでへたりこんでしまう。
成す術も無くなったミユカの前に、ゼアが幻龍剣を手に立つ。
「では…とどめです!」
光の刃がミユカを襲う―――その時だった。
「やめろぉお!!」
能力を発動し、体を狼の四肢に変化させたシグマがゼアに飛び付き、牙を向いた。
「! この…ッ!」
驚いたものの、ゼアはシグマに向かって幻龍剣を振るい、両足を切り裂いた。
「シグたぁああんッ!!!」
悲痛な悲鳴を上げるミユカ。
強烈な一撃を食らったシグマは、そのまま床に落下した。
ミユカは思わずシグマの元に駆け寄る。
「シグたんッ!シグたん…しっかりして!」
ミユカの呼び掛けに、シグマはうっすらと目を開ける。
「ご…めん…ミユカ…助けようとしたんだけど…」
「馬鹿…まだまともに戦えないくせに…ッ!」
ミユカの目から涙が溢れ出る。
「な…かないで…ミユカ」
「泣くに決まってるでしょ!」
「ミユカに…泣いてるのは似合わないよ…」
「え…」
シグマの手が涙を拭き取るように、ミユカの顔に触れる。
「ミユカは笑ってるほうがいいよ…」
「シグたん…」
「ミユカには笑って欲しいんだ。だって―――
俺の大切な…『友達』だから…」
「…!」
シグマの意識がそこで消えた。
「っ、シグたん…ッ!」
その時ゼアが冷たく言い放った。
「クズ兵器が…私に逆らうからこうなるんですよ」
ピクッ
「ク…ズ…?」
ミユカが立ち上がる。
その時ゼアは、ミユカの様子に違和感を覚えた。
するとミユカが振り返り、顔をうつむかせたままゼアと向き合う。
「!」
ゼアは驚きを隠せなかった。
ミユカの腹部にある傷がみるみるうちに塞がっていく。
―――短時間で傷を…?
その時。
ギロッ!
「!?」
ミユカの鋭い蛇の瞳に、ゼアは気圧される。
そして自分の異変に気付いた。
―――体が動かない!?
まるで金縛りにあったかのように、ゼアの体は微動だにしなかった。
そこへミユカが高速の速さでゼアを殴り飛ばした。
「生み出しておいて…勝手な都合で捨てたくせに、シグたんの何が分かるのさ」
ミユカが怒りを秘めた声で話す。
「お前らに捨てられたあの子の苦しみや辛さを知らない癖に…分かってる様な口でクズとか言うなぁあああーーー!!!」
怒号を口にしながら、ミユカはゼアに向かってかかと落としを放った。
猛烈な蹴りを食らったゼアは、そのまま床ごと下へ落下していった。
* * *
私はシグたんの事全部知ってる訳じゃない。
でも分かる。
だって、見たんだ。
明かりの無い部屋の隅で、「お母さん」って言いながら泣いているシグたんの姿を。
その時のシグたんが、昔の私に―――大好きだった両親を亡くした私に似ていた。
そして―――決めたんだ。
シグたんを守るんだって。
もう涙を流させない為に。
いつも笑顔でいてほしい為に。
* * *
「……ん」
「あ、気付いた!」
「ミユカ、大丈夫か?」
ミユカの視界にシノと光一が映る。
「ここは…」
「治療室っすよ。ミユカ、ずっと寝てたんすよ?」
「ずっと…あ」
ミユカは思い出す。
自分がゼアを追い払い、ウスワイアに連絡した後、疲労と安堵で眠ってしまったことを。
「…っ、そうだ!シグたんは!?」
「シグマなら別のベッドで寝てるぜ」
「…そう」
「ミユカ?」
シノはシグマが無事であったにも関わらず、ミユカが気落ちしているのに疑問を感じた。
「シグたん…ゼアに両足とも斬られたんだ」
「え?」
ベッドのシーツを握りしめるミユカの手に涙が落ちる。
「私のせいで…シグたんが…もう、歩けないんだ…ッ!」
「あー、その事だけどさ、何かシグマの足…ちゃんとあるんだよ」
「…え?」
光一の言葉に、ミユカは思わず聞き返した。
「ある、の?」
「お前、俺の話聞こえてた?」
光一が眉をひそめて言った。
それでもミユカはまだ半信半疑の表情だ。
「でも…あの時確かに斬られた筈なのに…」
「アタシも、足が斬られているのを見たから不思議に思ったんすけど…多分、ミユカの再生と似た力を使ったんじゃないかな」
「…私の?」
「ミユカの再生は蛇の悪夢からきてるっすよね?となると、シグマに蛇の遺伝子が組み込まれていたのなら、足が元通りになっているのも辻褄が合うっす」
「て事は…歩けるの?」
「勿論」
と、シノが笑って言った。
「ミユカー!」
「おぶぅ!!」
不意打ちの如く、シグマがミユカに飛びついた。
その勢いでミユカは壁に頭を打ってしまう。
「大丈夫かミユカ?怪我ないのか??」
「だ、大丈夫だから、降りて~…重いよ~」
「あ、ごめん」
シグマが慌て降りる。
「ごめんねシグたん」
「? どうしてだ?」
「だって、私が油断したせいで、ゼアに足を…」
きょとんとしたかと思えば、シグマはいつもの笑顔を浮かべた。
「その事ならもういいよ。それに俺、嬉しいんだ」
「嬉しいって?」
「俺の事、クズとか言うなって、言ってくれた」
「え、聞こえてたの?」
「うん、その時だけだけど」
「……全く」
ニカッと笑って、ミユカはシグマの頭を撫でる。
「盗み聞きするなんてひどいなぁ」
「へへっ」
「あのさ、水を注すようで申し訳無いけど…
アキヒロさんが話があるって」
その言葉でミユカが固まったのは言うまでもなかった。
「…今回みたいにな、アースセイバーに入っていない能力者を連れ出すという事は…」
「…ミユカ、いつ終わるんだ?」
「…3日間は続く」
「みっ…」
「でも大丈夫。もうちょい私の近くに来て」
「どうしてだ?」
「いいから」
不思議に思いながらも、シグマはミユカと距離を縮めた。
「これでいいか?」
「うん。よーし…開けシオ!」
ガゴン!
「「!?」」
ミユカの声に反応して、床から隠し通路が現れた。
「さ、逃げるよシグたん!」
「お、おお!」
「まっ待て!まだ話は終わってな…」
アキヒロが慌てて二人の逃走を阻止しようとする。
だがミユカが隠し通路に入った時、
「閉じろコショウ!」
再びミユカの声に反応して、隠し通路の入り口が閉ざされた。
上からアキヒロの怒号が空しく響いてくる。
「ミユカぁああッ!!勝手に隠し通路を作るなとあれほど…」
「凄いなミユカ」
「いたずらの時とかに便利なんだよね~。キシシシシッ」
ミユカが笑う。
それにつられてシグマも笑う。
「ミユカ」
「ん?」
「…俺、アースセイバーに入れる様に頑張る。だから、その時また外に一緒に行こう」
「うん、約束するよ」
「絶対だぞ!」
「大丈夫だって。あ、そうだ」
いつものいたずらっぽい笑みを浮かべるミユカ。
「…今からいたずら、しに行かない?」
「うん!行く行く!」
「そうこなくっちゃ!」
蛇は再び獣の手を引いて行った。
互いに笑顔を交わして。
~おまけ・後日談~
「百科事典さーん」
「ん?何すかミユカ」
「シグたんと外に出かけた時にね、百科事典さんにお土産買ってきたんだけど、渡すの忘れてて」
「お土産?アタシに?」
「うん。だってあの時見逃してくれたし、お礼のつもりで買ったの。はいコレ」
「サンキューっす。中身は何なんすか?」
「開けてからのお楽しみ。じゃね~」
(その場を去るミユカ)
「いたずらっ子だから忘れがちだけど、やっぱミユカは優しいっすね…それにしても中身何だろ。お酒かな…何ちゃって」
(箱を開けるシノ)
「ギャァアァアーーーーッ!!!」
「ど、どうしたシノ!?…ん?箱?」
(中身を見るKEA)
「…般若の面…ミユカか」
(溜め息を漏らすKEA)
(泡を吹いて気絶中のシノ)
最終更新:2011年04月23日 23:59