同じように
ストラウルの廃ビルの屋上に上ることは、最早ロゼの日課と化していた。
かなり見通しがいいそこは、遠距離から監視するのに向いている。
監視する相手は勿論、離反の意を示した
クランケ・ヘルパー。
もっとも、自分は興味本位で観察を続けているようなものだ。
先日バーに立ち寄ったエミから聞かされた「クランケの処分は自分がやる」という宣言。
とはいいつつ、それ以来変化を観察しているのだが、観察を始めて数日。何の変化もない。
なによりクランケが滅多に外に出ないのだから仕方あるまい。
「…今日も出てこないのかしら…。」
双眼鏡を覗きながら呟く。
待つことに苦はないが、いい加減飽きが来るものである。
「今日はこの辺で切り上げようかしら。」
そう言ったその時だった。
小さな建物から誰かが出てきた。
真っ白なその姿。見間違えるはずもない。クランケだ。
何か用があるのだろう。そのまま外に出てくる。
双眼鏡でその姿を追った。
向かった先は人気のない森。
あそこは確か暗くて気味が悪いはずだが、何の抵抗もなく彼は森に入って行った。
出てくるとすれば、その先の平原かUターンだろう。そう思い、暫く双眼鏡を暫くのぞいていた。
が、一向に出てこない。
「おかしいわね。そんなに深い森じゃないのに…。」
彼女は少し思案し、気がついた。
(もしかして…こっちの偵察に気付かれた!?)
『やっと気付いたのね。全く、鈍感っていうか。』
突如、頭の中に声が響いた。
はっと顔をあげ、あたりを見回すが誰もいない。
しかし、頭の中に響く声は止まらない。
『まさか
ホウオウってそんな鈍感の集まりなわけ?』
「…誰よ?隠れてるのなら出てきなさい!」
『隠れてないわよ。ここから堂々とあんたを見てやってるわ。』
くすくすと笑うその声は、女のものであろう。
自分は聞いたことがない声だった。
「嘘ばっかり言わないで。本当だというのなら証拠を見せて。」
『証拠?そうねぇ。ここから包丁でも飛ばしてみようかしら。』
物騒なことを軽くいってのけ言葉を切り、思いついたようにつなげた。
『あ、でもやっぱり』
「ここに来た方が早いかもね。」
「!?」
今度は後ろから耳に声が届いた。
振り向くと、先程までいなかった女がそこにたっていた。
綺麗な長髪。エナメルで統一された服。一目だけ見れば美しい女性。
しかしその顔は大きなマスクで隠され、眼は不気味な血の色をしていた。
「突然ごめんなさいね。ま、あんたもクランケみてたからお互いさまってことで。」
「…;」
何を考えているか分からないような言動。禍々しいオーラ。少し引きながらも、ロゼは女の眼を見た。
能力「アイコンタクト」。これを使って彼女の思考を読み取るつもりだった。
しかし。
「…!!」
しかと眼を捕えたはずなのに。
(思考が…全く読めない!?)
ありえない、こんなことがと焦ると、眼の前の女はまた声を殺して笑った。
「…何がおかしいのよ?」
「焦ってるでしょ。思うようにことが進まなくて。」
「そんなまね、私には通用しないから。」
「!?」
自分の能力を見ず知らずの女に見抜かれた。しかもそのうえで通用しないと警告した。
何、この女…。
「といっても、私はそんな大した能力者じゃないわ。」
笑いを含みながら彼女は言った。
「他人よりちょっと眼と足がいいだけ。それだけよ。」
「それだけで私の能力が通用しないなんt」
「だから「眼」がいいのよ、私は。」
「でもまぁ、折角あったんだから忠告しておくわよ。」
彼女は笑うのをやめ、真っすぐ向き直った。
「クランケの偵察はもうやめた方がいいわ。もう彼は弱くない。強力な仲間もいる。」
「!」
「上司に伝えておきなさい。恐怖を『語られる側』になりたくなければ、即急に手を引けと。」
「…。」
「私は失礼するわ。…そうそう。」
彼女はロゼに近づくと耳元で一言囁き、消えるように立ち去った。
その言葉を受け止めた彼女は、信じられないという眼で空を仰ぎ、茫然とその場に立ちつくしていたという。
森から出てきたクランケが小さな家に戻ることも知らずに。
『私を、下等な化け物と同じように見ないでよね…。』
最終更新:2011年04月26日 21:49