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朱鷺と父親

「一角くん!鳥さん!見て見て!」
「ん?」
「どうしたトキコ?何か欲しい物でもあったか?」
「あれあれー!」
「…ナス?え、トキコ、あれが欲しいの?」
「うん!だって可愛いじゃん!」
「…うーん、でもあれ取りにくそうだなぁ…
どこにクレーンを引っ掛ければいいの…か?って、スザク?」
「トキコ、僕が取ってやる。」
「ほんと!?」
「いやスザク、無茶しないほうが良いぞ。これ意外に難しいし。」
「あのぬいぐるみをクレーンで掴めばいいんだろ?」
「鳥さんがんばれー!」
「掴むっていうかひっかけ…あー、ほら。」
「………」
「あーあー、鳥さんぶきっちょー。」
「もう一回!」
「スザク、そこじゃない!掴むんじゃなくて引っ掛ける、ってあー!」
「くそっ…!なんで掴めないんだ…!?」
「ナスさんー…」
「…シスイ、100円。」
「ウェ!?」
「こうなったら意地でもあれを取ってやる…!」
「スザク、マジで無理しないほうが…」
「あー!!」
「惜しい惜しい!あとちょっとー!」



 ***



バシャァッ!

「っ」
「起きろ、クソガキ。」
「………」

 目を覚ませばそこは、鳥さんと一角くんといたゲームセンター…ではなく、
廃れた自分の家、その中にある浴室であった。ぼんやりと見上げれば、
汚れたモノを見るかのように自分を見下す男、シギがいた。
あぁ、そうだった…私、学校が終わった後アルトさんが迎えに来て、
そのまま家に帰ってきたんだっけ。そして、家に帰ったらこいつがいて、
いきなり浴室まで連れて行かれて、水がいっぱい入ったバスタブの中に顔を沈められて、
窒息寸前のところで引き上げる…そんな虐待を受けてたんだ。
通りで頭は濡れてて、全身寒いわけだ。
治りかけていた傷はまた開いてるし、その上から新しい傷も付けられている。
冷水が当たって、ヒリヒリ痛い。
…なんだ、さっきのは夢で、これが現実か。
そう思うと、なんだか酷く笑えてきて、つい自虐的な笑みを零してしまった。
その瞬間、あいつに顔を蹴られ、私はそのまま床に倒れる。

「笑えるなんて、随分余裕だな?」
「…うるさいなぁ、笑っていなきゃやってらんないんだよ…っつ!!」

 シギが私の頭を踏み付け、グリグリとなじる。
足に力が入って、頭が痛い。

「口答えすんな、クソガキ。」
「クソガキ、っ言う、な…クソ親父…!」
「ほぉー…?」

 頭から痛みが引いたかと思えば、今度は前髪を掴んで無理矢理顔を引き上げられた。
目の前には残忍な笑みを浮かべるシギ。

「随分と物言うじゃねぇか?」
「っは…」
「今までちっさくて弱ぇ動物のようにビクビク震えてた癖に、なぁ!」

 シギが開いていた手で私の頬を引っ叩く。
叩く、というよりはグーにしていたから、殴るが正しいかも。
殴られて口の中が切れ、痛い上に鉄の味が広がる。
それでも臆することなく、血を吐いて、あいつに言った。
もう私は、弱い私じゃない。

「…誰、それ?ビクビク怯えてんのはあんたじゃないの?」
「は?」
「私に壊されるのが嫌だから、そうやって権力立てにして、私を殴るんでしょ…?」

 はっ、と嘲笑すれば、あいつはまたグーで私を殴る。
歯が取れやしないかと、心の片隅で心配した。

「生意気言うな、クソガキが。誰がてめぇに殺されるのが嫌だっつったんだ?」
「態度が物言ってんの、ばーか。」

 あ、また殴った。

「…あー、むかつくなぁお前…ほんっとに殺したいわ。」
「じゃあ殺せば?こうやってじわじわ痛め付けるより…殺したいならさっさと殺せば!」

 そう叫んだら、あいつは私を掴んだまま浴室の壁に叩き付けた。
額からどろりと血が流れ落ちていくような感覚、今ので頭を少し切ったかもしれない。
でも、まだ正常に意識があるから死にはしなかった。
頭がぐわんぐわんと痛い。
ハッ、と嘲笑してシギが言う。





「そこは『死にたくない。』じゃないんだなぁ?いいのか?死んだらお友達が悲しむぜ?」
「…っは?誰も悲しまないし…だって、私…『ホウオウグループ』だもん…。」

 …そうだよ、私が死んだって別に何もない。
ただ一人、ホウオウグループの構成員が消えるだけ。
ただ一人、クラスメイトが減るだけ。
それだけのこと。
それにアースセイバーの人達のことを考えれば、敵が減るのだからラッキーじゃない。
あ、でも…

「鳥さんとの…『約束』、守れないのは…悔しいなぁ…」

 あぁ、うん、やっぱり死にたくないや。
『約束』は果たせないし、ホウオウ様への私の願いが叶わなくなるのも嫌だ。
いや、『約束』よりもそっちが大事かも。
駄目、まだ死ねない。
そんなことをぼんやりと考えてたら、突然シギがしゃがみ、
私と視線を合わせた。

「なんだ?その『約束』って。」

 男の声色は妙に優しい、…何故だか、お母さんを思い出す。
そう感じてしまったせいか、ついその『約束』を喋ってしまった。

「鳥さん、と戦って…全部、貰うの…」
「貰う?何を?」
「鳥さんの、全部…」
「お前、その『約束』の為ならホウオウさえ裏切るのか?」

 何を言ってるんだ、この男は。
私が、ホウオウ様を裏切るわけないじゃないか。
ホウオウ様は絶対なのだから。
でも鳥さんの全ても欲しい、理由は分からないけど、欲しい。
そう言おうとしたのに、口が動かないし酷く眠い。
視界が段々暗くなっていく。
でもなんとか、首を横に動かして否定を表すことぐらいは出来た。
そして私は・・・力尽きた。

「………」

意識の最後に見た光景は、嬉しそうとも悲しそうともつかない表情を浮かべた、
父親の姿だった。










朱鷺と父親

「おと、う、さん…」

(なんでだろう)
(今そう呼ばないといけない気がした)









「・・・救えねぇ、な。」

(気絶した娘に制服をかけた鴫は)
(『無意識に』口から零し)
(かつて愛した女が死んだその場所を後にした)

(鴫もまた、救われなかった)

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最終更新:2011年04月28日 20:22