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決意する朱雀、嗤う道化師、追う蒼龍

―――マナが、消えた。
突然僕達の前から姿を消し、連絡が全く取れなくなった。前から神出鬼没な奴ではあったけど、今回はそれとはレベルが違う。
いつもなら、不思議と「どこかにいる」という感覚があった。なのに、今はそれが全くない。

「どうしたんだ、マナ……」

何が欠けたわけでもないのに、心のどこかが少しだけ削れたような、そんな変な感覚がある。そしてそれは、僕の親友の一人が、僕達の前から消えてしまったことを意味していた。

「マナ……」

思えば昨日から、記憶が妙に齟齬を起こしている。マナといつ出会ったのか、その部分の記憶が綺麗に抜け落ちている。気が付いたら、妙に近しい仲として輪の中にいた。僕の記憶はそう語っている。
ゲンブとランカも同じような現象にあったらしく、しきりに首を傾げていた。さらにゲンブが「アルマ」とかいうアースセイバーのエージェント―――正体は謎だが、解析の力を持っているらしい―――にこの現象の意味を調べて貰った所、こんな結果が出たとか。


『恐らく、一連の記憶の齟齬は、記憶の改変とその修正に伴うものと高い確率で推測される』


つまり、マナが何らかの方法で僕らの記憶を弄り、仲間として紛れ込んでいたということなのだろう。その目的は未だわからないけど、多分、マナは自分の目的のために僕らに近づき、怪しまれないために記憶を改竄し、何食わぬ顔で仲間として振る舞っていた。そういうことになる。

が、それはそれとして、だ。

(どこで何してるんだよ、お前……)

とにかく僕は、マナが心配だった。最初がどうだったのかは実際のところ覚えてないけど、少なくとも、マナが今まで僕にしてくれたことは、はっきりと覚えてる。トキコとの関係に悩む僕に助言し、導いてくれた。店長さんが襲われた時に、一緒に戦ってくれた。
落ち込んだランカを叱ってくれたり、最近知ったけど凪を助けたりもしたらしい。それが何らかの打算の下に為された行為とは、到底思えない。

(そうだろ、マナ?)

誰が―――それこそ、マナ自身が―――何と言おうと、僕はマナを信じてる。

(仲間、だからな)

始まりがどうだったかなんて、関係ない。そこに拘って今までを反故にするのは馬鹿のすることだ。
だから、

(帰って来てくれよ、マナ……僕達がどれだけ心配してると思ってるんだ)

実際、ランカは「大丈夫かな、怪我してないかな」とおろおろし通しだし、ゲンブは「全く、好き勝手なことを!」なんて怒っちゃいるけど、その後が「帰って来たら三日三晩説教してくれる!」だ。
結局心配なんだ、みんな。……どうでもいいけど、ゲンブ。三日三晩の説教はアキヒロさんの専売特許じゃなかったか?

ともかく。

「マナ、待ってるからな」

どこかにいるだろう友達にそう語りかけ、僕は家路を急いだ。





家路で思い出したのはトキコのことだ。アルトが迎えに来ていた。
向こうは僕には気付かなかったようだけど、メールは前に送っておいたから大丈夫だろう。
さておき、その先に何が待っていたのか……安直な予想だけど、多分前と同じだろう。

(何なんだ……全く)

彼女がどんな目にあったかを考えると頭が焼き切れそうになる。だけど、アルトや聖さんの言う事もわからなくはない。それに、方向性が全然違うけど、シドウさんと……まあ、その、少しくらいは、同じ部分があるのかも知れない。多分意識してないところで。

(だからって、トキコに怪我させたのは絶対許さないけどな)

それも気になるけど、今僕がもやもやしたものを抱えているのは、このことやマナのこととは別にあったりする。要するに、だ。


(トキコに告白したいーっ!! あぁあああ………ッ)


つまりこういうこと。今のままじゃここから前に進まない。トキコにどう接するにしても、ここを変えないとどうしようもない。―――フラれたらどうしよう、という危惧はあるけど。
色々とおかしな僕らの関係だけど、足踏みしてたら進みやしない。その結果どちらに転ぶにしろ、進まないとダメだ。傷つくことを恐れてたらどうにもならない。傷つくのは怖いけど、嫌だけど、それを受け入れないと何もできない。

(悪い方にばかり考えるのもなんだけど、な)

それに、だ。
トキコがホウオウグループから万が一抜けてしまったら、「意味がない」。僕が交わした「約束」は、互いを懸けていつか戦う……というものだけど、それはゼアとの交戦後にかわしたものが基本だ。つまり、立場が敵同士でないとそもそも成立しない。味方同士で戦うことが出来ないわけじゃないけど、それだと僕は全力になれない。極論、トキコがグループを抜けてしまったら、その時点で約束が破綻してしまう。

(マナやゲンブに言わせると、敵同士で恋愛するってのがそもそも妙なんだよな)

過去そう言う事例がなかったわけじゃないけど、敵同士で恋に落ちた場合、最終的にどっちかが自分の仲間を裏切る、というのが通例だ。だけど僕らの場合、互いに立ち位置が敵同士のままでないと成り立たない、非常におかしな関係だ。変わるとすれば、それは約束が果たされた、その時。僕がトキコのものになるのか、はたまた逆か。

(別にそれでもいいよな? いいだろ、だって好きなんだから)

って、誰にのろけてるんだ、僕は。
ま、まあ、それはともかくとして、だ。

「……様子、見に行ってみようかな」

アルトから前に聞かされたトキコの過去は、想像するだに凄絶なものだった。家も廃墟同然らしいが……今日の流れを見ると、また傷つけられている可能性は高い。
本人はどうも僕を避けている節があったし、僕も最初はそれを汲んでいた。だけどもうダメだ。要するにあれだ、トキコに会いたいんだ、それだけだ。
―――より現実的な問題として、約束に関わる一連の事実をまだ何にも言っていない、ということもある。

「……自分に言い訳してないで、行ってみようか」

自宅は目の前だったけど、思い立ったが吉日、善は急げだ。その場でくるりと踵を返し、僕は心なしか弾んだ足取りで、トキコの家に向かった。

――――そこで、何を見ることになるのか、知る由もなく。





「……なんとまあ、聞きしに勝る荒れようですね」

「捻れた鴫」が立ち去るのを見計らい、当人言う所の「壊れかけの朱鷺」の部屋に足を踏み入れた道化師は、その荒れ模様に呆れ気味に眉をひそめた。あの少女のせいで幾度もシナリオを瓦解させられたため、今度こそは、と次なるシナリオの役者を求め、以前から注目していた彼女のもとに訪れたのだ。シナリオ自体は既に組めている。あとはキャストだ。メインアクターは確定、あとは「ヒロイン」だ。
「壊れかけの朱鷺」自身は壊しても面白みがないため完全に放置していたが、最近「移ろえる朱雀」の様子が変わった。妙にしっかりしているし、いかせのごれに来た最初の頃の記憶と照合すると、明らかに毅然としている。

(とはいえ、元が元ですからね)

壊れかけが修復された……つまり、前より頑丈になっている可能性があるということだ。なればこそ、壊しがいもあるというもの。そのために最も有効な「ヒロイン」は、「壊れかけの朱鷺」以外にはありえない。いや、実は「無垢なる幼虎」も候補だったのだが、「マニピュレイト」が効かなかったため除外した。
だからこそ、自ら「スカウト」に来たわけだが、

「……おや? いませんね」

室内を見渡しても―――荒れ過ぎていて、少々片付けなければ探し様がなかったが―――姿がない。
鞄と靴はあったので出かけているわけではないようだが……。

「む、もしやここに?」

目が行ったのは浴室だった。無論、デリカシーなどという概念はこの男にあるはずもなく。

「……いましたね」

ニヤリ、とその口の端が不気味に上がる。閉じない機械の右目が捉えたのは、制服をかけられて昏倒する、赤い髪の少女の姿。鮮血の跡がそこかしこにあるが、そんなものは興味の外。
遠慮も何もなく踏み入り、ぐいっ、とその襟をつかみ上げ、肩に担ぐ。さらに念のため、閉じた目をこじ開けて「マニピュレイト」をかける。この能力を使うとそれなりに身体に負荷がかかるのだが、シナリオのためなら手間は惜しまない。常ならば相手を解体せんばかりに抵抗しただろう少女を、何の苦もなくその手中に収め、その場を去る、

直前、


「……おぉっと、そこですか」


『!!』

自分のもとに届いていたその『意識』目掛け、二発目の「マニピュレイト」をかける。その『意識』の主たる『命なき少女』は、いかせのごれ全体に拡散させていた波動を一瞬で集約され、実体を現すと共にその場で昏倒した。
その様を、道化師は不気味な笑みと共に見つめる……。




同じ頃。

「いかせのごれってな、ここか」

芸備線から降り立った、一人の男がいた。

「そーいや、月光はここにいるんだったか」

くすんだ青の髪を風に流されるままに、男は呟く。

「何だかんだで15年近く会ってねぇんだよな……何してんのかな、あいつ」

呟くのは、随分前にここを訪れた時、どういうわけか意気投合した男の名。

「俺の事は……忘れてるな、多分。ま、それはともかく」

しかし、それは今関係ない。訪れた理由は、他にある。

「よーやく尻尾を掴んだんだ、逃がしゃあしねぇぞ……道化師さんよ」


―――道化師を追い、欠けた一角が降り立つ。



決意する朱雀、嗤う道化師、追う蒼龍

(朱雀の決心を嘲笑うかのごとく)
(道化師は傷ついた朱鷺をその手に収めた)
(描く筋書きは、崩壊にのみ連なる)

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最終更新:2011年04月29日 19:31