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『蛇が蛇になった日3』

「誰にも認められない俺にとって、お前達は幸福の全てだった」
「…じゃあ」

「どうしてこんな事を」と、ミユカが言おうとした時。

「だが違った」
「え?」
「ある人が言った。その幸せが俺の才能を埋もれさせていると」

ソウマの顔から笑みが消えていく。

「それに興じている限り、研究者としての俺の存在が失せると!」

再びソウマ手に力が入る。
そして父が放った次の言葉に、ミユカは驚愕した。

「だからアミを殺した!そしてお前を殺そうと、作っていた毒蛇を使ったんだ!!なのにお前は死ななかった…この化け物がぁあ!!」

―――お母さんを、殺した?

―――私を殺そうとした?

―――そんな理由で?

ミユカの心に怒りの灯が点り始める。

―――ねえ、お父さん。

―――私達の事が大好きだって、言ったよね?

―――大事な研究よりも、もっともっと大事だって。

―――言ったよね?

―――なのにどうして。

―――どうしてお母さんを殺して、私を殺そうとしたの?

―――そんなの、お父さんじゃない

―――お前なんか。

―――お前なんかお前なんかお前なんかおまえなんかおまえなんかオマエナンカ。

「…なんか」
「は?」
「お前なんか…お父さんじゃないッ!!」

怒号を口にしたミユカの目は、人間のものではなくまるで―――蛇のそれだった。

「!?」
「お前なんか殺してやるーーーッ!!!」

溢れんばかりの憎悪と怒りをぶつけるかの様に、ミユカは父と呼んでいた男の首筋を狙い、牙を向けた。


その後、理由もなく学校を休んだミユカを心配して来た友人達が、気絶しているミユカと死亡している彼女の父、そして毒蛇の骸を見つけたのは、数十分後の話である。
その時、蛇の体に空いた小さな穴に、誰も気づく事は無かった。





ミユカが中学生になった頃。
両親が死んでから、友人達や近所の人達に助けられ、それに感謝しながら、毎日を過ごしていた。
そんなある日―――。

コンコン

「? はーい」

家のドアをノックする音を聞きつけ、ミユカは玄関へ走る。

ガチャ

「どなたですか?」

目の前にいたのは、キャップ帽をかぶった、やや浅黒い肌をした男だった。

「ウスワイアの者だ」
「ウスワイア?」

聞き慣れない言葉に、ミユカはきょとんとする。

「特殊能力者保護施設、それがウスワイアだ」
「特殊能力…」

そこでミユカはハッとする。
あの日、父を殺した力。
あれこそ普通の人間が持たない力である事に、ミユカは気づいたのだ。

「……じゃあ、私の力が何なのか、知ってるんですか?」
「情報によれば、恐らくお前はナイトメアアナボライザーだろうな」
「ナイトメアアナボライザー?」
「ナイトメアアナボリズム。通称、悪夢と呼ばれる特殊能力だ。一度死んだ奴が生き返り、死因を能力にする」
「死因を…」

自分の死因―――毒蛇による中毒死。
それを思い出すのに時間はかからなかった。

「私は能力者。だから…」
「保護する。最も、理由はそれだけじゃないけどな」
「え?」

ミユカは顔を上げる。

「特殊能力者を狙う組織、ホウオウグループから守るためでもある」
「!!」

ミユカは「ホウオウグループ」という言葉に反応する。

「? 知っているのか?」
「…父の、日記にその言葉が」
「何?」
「日記に、書いてあったんです」

ミユカは亡き父、ソウマの日記に書かれていた事柄を全て話した。
ある日、ホウオウグループの人間に会ったこと。
その組織から、世間や同じ研究者たちから認められなかった、自分の才能を認めてくれたこと。
命令で毒蛇を作っていたこと。
そして―――その組織の人間から、『あの日の言葉』を言われたこと。

「そうか…となると、益々お前を保護しなきゃならない」
「え?」
「ホウオウグループは、自分等の存在が世間に漏れることをよしとしない。そうすると、認知しているお前や周りの人間に危険が及ぶ」
「そんな…皆にも?」
「多分な」

ミユカの脳裏に、友人の顔が浮かぶ。
そして決意した。

「分かりました。でもその前に、友達への手紙を書かせてください」
「…よし、終わったら言え」
「すいません」

ミユカはすぐさま家を出る支度をし、友人への手紙を書く。

『突然でごめんね、ここを離れる事になったの。だからもう皆とは会えない。本当にごめんね。でも皆の事忘れないから、皆も私の事を忘れないでね ミユカより』

「…書きました」
「じゃあ行くぞ」
「はい」

鞄と手紙を持ち、ミユカは両親と共に暮らしていた家を出た。

「…さよなら」

その言葉だけ、言い残して。





「…思えば、あの日から『こっち側の人間』になったんだ」

ミユカはぽつりと呟く。

「あの時はお父さんの事憎んでたけど…でも、違うんだよね。初めて認めてくれて…嬉しかったんだよね?」

答えは出ないと分かっていても、ミユカは喋り続ける。

「研究者としての誇りを失いたくなくて、ああしたんだよね…でも本当…は…」

手に持った写真に、涙が落ちた。

「私と、お母さんが…本当に大事だった、から、苦しかったん…だよね。だって、分かるもん…」

そう言って、ミユカは最後に見た父の笑みを思い出す。

「あの時の笑顔…いつものお父さんが浮かばせてた笑顔なんだもん…ッ!」

そこでミユカはたまらず、しゃくり声を上げて泣いた。
今まで溜まった涙を流すように、泣いて泣いて、泣きまくった。

「お父さん、お母さん…今は、二人ともいないけど…でも、でもね」

涙を拭い、写真の中にいる両親に向かって話す。

「友達…いっぱいいるんだ。ケイやリーダーにトッキー、ハヤトちゃんと凪っちにカナちゃんにシーくん…他にも、いっぱい」

いつの間にか、ミユカの顔にいつもの太陽の様な笑みが浮かんでいた。

「私は一人じゃない…皆がいるから。だから心配しないで。その代わり」

一息置いて、ミユカは言った。

「私の事、見守っていて。それだけで充分だから」

その時、ミユカの目尻から涙がまた一筋、頬を伝った。

~その頃~

「あの、アキヒロさん」
「何だカナミ
「ちょっと聞きたい事があるんですけど」

ウスワイア、某室。
先程起こった戦闘について、カナミがアキヒロに報告していた時だった。

ミユカちゃんが怒った時に、無意識に蛇の目になる事…知ってますよね?」
「ああ」
「ならどうして、それを抑えないんですか?」

暫しの沈黙。
それを突き破ったのはアキヒロだった。

「ミユカがそうなる理由、知ってるか?」
「いえ?」
「…あいつは悪夢に目覚めた後、父親を殺した」

え、と声を上げるカナミ。

「といっても、死因は父親ではなく毒蛇だがな」
「じゃあ何で…」
「父親に酷い事を言われたらしい」
「酷い事?」

「俺も深くは知らんがな」とアキヒロは言い、話を続けた。

「それを聞いたミユカは、激しい怒りのあまり、父親を殺した。それ以来、怒りの感情を持つと無意識にああなるらしい」
「抑える事は出来ないんですか?」
「駄目だ、能力と怒りが深くリンクしてしまっている」
「そうですか…」

顔を俯かせ、落胆するカナミ。
そんなカナミを励ますように、アキヒロは肩に手を置く。

「そう案じなくてもいい。ミユカ自身は気付いてないし、持ち前の明るさで周りに馴染んでるだろう?」
「…そうですね。こんな事聞いてすいません」
「いや、親友として心配してたんだろ?気にするな」
「アキヒロさん…」

アキヒロに礼を言った後、カナミは部屋を出て行った。

「ミユカ…良い仲間を持ったな」

一人になったアキヒロは、ぽつりと呟いた。

―――少女は愛する両親を失い、蛇となった。
―――しかし、孤独の闇に堕ちることは無かった。
―――それの理由もまた、愛する仲間に囲まれていたからである。
―――そして今も尚、蛇は両親がいた時と同等の幸せを、噛み締めていた。
―――そしてこう言う。

「敵味方なんて関係ない、私は友達の為に戦うんだ。それが私に出来る、友達への唯一の恩返しだから」

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最終更新:2011年05月05日 15:56