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初めて他人の声を聞いたのはフラスコの中だった。
やれ生物兵器だとか、やれ自我があるだとか、やれ出来損ないだとか。
自分達が作ったのに文句ばっかり云われても僕にはどうすることも出来ない。
生まれ瞬間に、僕は、出来損ないのレッテルを貼られた。

生まれた意味を考えても結局は人殺しのためで、恨まれて妬まれて。
欲しいと言った事は一度も無いのに半不死身の体を与えられて。
それで僕が何を得るっていうんだ。僕が生きて何を残せるっていうんだ。
僕は一体何なんだ。

「うーちゃんって死にかけた事あるのー?」

砂糖を沢山入れたコーヒー冷ましながら、赤い彼女が聞いてくる。
ただ興味をもっただけ、悪気も他意も一切無く。

「え?ああ…、ありますよ、最初は」
「最初?」
「一ケタで死んでしまう時期、ですかね。高速で過ぎ去りましたけど」

あの頃はちゃんと心身共に痛くて、辛くて。
でも死ぬのは怖くて、僕を生んだ世界を、組織を恨むしかなかった。
生きるために殺してたのはその時期だけかもしれない。
二ケタを超えて、僕は何も感じなくなって、死にたがりになった。

「その時からうーちゃんは捻くれ者の死にたがりなんだねー」
「…死にたがりは認めますが捻くれてますか?」
「結構捻くれてるよー、ちなみにそれ何歳くらい?」
「トキコさんは天邪鬼ですよね、ちなみに10歳くらいだったと思います」

ふーん、と納得してからマグカップに口をつける、
顔を上げたときにはもう僕に興味を持っていなかった。
昔を思い出すとツンと鼻の奥に薬品の臭いが蘇って気持ち悪くなる。
僕を構成する物質の何割が化学薬品なんだろう、そもそも人型にしなければよかったのに。
鼻の奥に残る薬品の臭いが消えなくて、僕は外に出た。

「散歩?」
「ええ、まあ」
「ついでにお菓子買ってきてー」
「…流血なうですけど」
「グッて力入れれば止まるから大丈夫!」
「…………ああはい、行って来ます…」

風が髪を揺らす、少し肌寒いけど気分が落ち着く。
個人的に好きな場所へと足を運ぶ、高い所、空に近い所。
崩れかけたビルの屋上から街を見下ろすのが昔から大好きだった。
世界はこんなにも綺麗なのに僕はどうしてこんなに曖昧なんだろう。
少し体に力を入れて流れる血を止めて、人間ごっこ。

「……馬鹿馬鹿しい」

ふうと息を吐けば、また体からにじみ出る赤。
青い空が何処までも続き、自分が惨めに見えてしまう。
遠くに見える街は僕にとって別世界で、夢の世界。
同時に拒絶される世界。
トキコさんが羨ましい、リオトさんが羨ましい。
能力者だが人間だ、学校にだって遊びにだって喧嘩だって勉強だって何だって出来るんだ。
学校であった話、街で見た面白い物、美味しい物の話をしてる顔はキラキラしてて、
そんなキラキラした顔は僕には出来ない、そんな心も持ってない。
僕は、どうしても人間になれない。
だったらいっそ、狂気に落ちてしまえればいいのに、やっぱり僕は死にたがりで。
小さな頃から心にある、この感情の名前を僕は知らない、知らないけれど。

僕の両目から、重い思いが水分となって零れていった。

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最終更新:2011年05月10日 20:36