無知が故の喜び
「凪っち~。数学教えて~っ。」
ふらふらとノラが凪の元に歩み寄る。
「今日の宿題さっぱりわかんなくってさ、真っ白なんだよ、ノートが;」
「わかった。正直数学は私も苦手なんだがな;」
「あたしよりできるからいいのっ!頼りがいあるしっ。」
ここがこうで…と教えてくれる凪をぼんやりと見るノラ。
黒緑色の綺麗な髪。かっこいい顔立ち。
才色兼備で正義感もあって、本当にうらやましい存在だ。
「…ねぇ、凪っち。」
「ん?」
「凪っち頼ってくれる人って、沢山いるでしょ?」
「そうかなぁ?そうでもないと思うんだが…。」
「ていうか、弟分いるって本当なの?」
「ああ。冬也がそうだな。」
「トーヤって、病気がちでしょっちゅう学校休んでるあの?」
「ああ。」
「でもでもっ、凪っちとトーヤって、結構お似合いのコンビだよね。」
「えっ?」
「あたし知ってるよ?トーヤ、髪に緑と青のピンつけてるの。凪っちがあげたんでしょ、あれ?」
「あ、ああ。」
「凪っちの緑とトーヤの青、みたいなw」
「あ、分かった?前に旅行に行ったときにお土産でもらったから、そのお返しになw」
「優しいね、凪っちwあたしもそんな人が欲しかったなぁ…。」
「え?」
「いや、こっちの話w」
妖怪に転身する前、まだ仔犬だったころ。
彼女は人の優しさというものに触れたことがなかった。
彼女はそれを恨んだことはない。
幼さゆえ恨むことを知らなかった。
心にはただ一つだけ。
「寂しい。」
妖怪という「恐怖の具現」に成変わり、
ばれれば忌み嫌われるというリスクの中、
彼女は初めて、人の優しさに触れた。笑顔を見た。
いつの間にか心の中のただ一つの感情は、変わっていた。
「うれしい。」
きゃんきゃんと騒ぐ仔犬の心は変わらずとも、今度はその声で思い切り笑える。
人懐っこい性格からも、彼女は沢山友達を作ることができた。
運命を変えてくれた「主」に、彼女は一番感謝した。
そして、彼女に出会ったと同時に、ずっとついていくことを誓った。
その主の計らいでいかせのごれ高校に転入。
今は(多少頼りないが)
ゴクオーと
ブレラもいてくれ、すごく心強い。
だから、心から学校を楽しみながらも、裏で平和を守る。
それが彼女の今の使命で、遣り甲斐で、喜びなのだった。
「…はい、これで分かったか?」
「うん!すっごい分かりやすかったよ!ありがとっ!」
晴れやかな笑顔のノラを見、凪もつられて微笑んだ。
無知な仔犬は知らぬ間に殺され
新たな姿を手に入れた
その牙を「人間」に向けないことを誓い
自らの居場所の均衡を守る
絶対の忠誠を誓うは
101番目の――
追記
「あ、そうだ。凪っちは隣のクラスの転校生知ってる?」
「ああ。なんかひかれたとかなんとかいってたやつか。」
「今度凪っちに会いたいらしいよ?」
「…はい?」
最終更新:2011年05月14日 20:14