「あれ? あれーっ? ないぞー?」
ある休日。部屋で読書をしていたスザクは、集めているシリーズもののうち、一グループが丸ごとなくなっているのに気付いた。
「おっかしぃなぁ……ついこの間買ったばっかりなのに」
「あら? 姉様、お探し物ですの?」
部屋の外から声。目線を向けると、アオイが部屋を覗きこんで不思議そうな顔をしていた。
「ああ、アオイか……いや、『幻想物語』の第4シリーズが全部なくなってるんだ。どこ行ったのかなぁ」
「幻想……姉様がよく読んでらっしゃる本ですわね。それがないのですか?」
「どこにもないんだ。んー、あれまだ一冊も読んでないのになぁ」
スザクが好んで読む本は、SH文庫出版の「幻想物語」である。言うなればそれは、『普通の幻想』とは趣を異にした、『少し違う幻想』をそのまま物語に起こしたような本だ。
全7シリーズで構成されたそれらを、スザクは全部持っている。
第1シリーズ「Chronicle~黒の歴史」全21巻+外伝1巻。
第2シリーズ「Tanatos~死の使い」全7巻。
第3シリーズ「LOST~喪失~」全11巻+ブックレット1冊。
第4シリーズ「Elysion~楽園~」全11巻。
第5シリーズ「Roman~求め続けて」全11巻。
第6シリーズ「Moira~語られぬ神話」全15巻+予約特典1巻。
第7シリーズ「Merchen~歪な童話」全9巻+プロローグ「森へ至る道」1巻。
内容は一見した所ではバラバラだが、実はそれぞれのシリーズは相互に繋がりを持っており、背景も実は共通。第3シリーズを除き、どれもこれも結末は暗い。のだが、スザクはこれらの本をほぼ毎日のように愛読している。特に「黒の歴史」と「喪失」、そして「求め続けて」の6巻「緋色の風車」が相当お気に召したらしく、図書室に持ちこんでまで読み耽っている。
そんな彼女だが、人気の高い第4シリーズだけはこれまでなかなか手にすることが出来なかった。
しかしどうしても読みたかった彼女は、伝手を頼って本屋のハシゴをし、つい先日ようやく見つけ出したのである。
が……。
「アオイ、知らないか?」
「知りませんわ。姉様、ご自分の本は一冊残らずご自分で管理されておりますもの」
「そうか……あっ!?」
いきなり声を上げるスザク。頭の中に走った予感が、無性に嫌なものであったからだ。驚くアオイを無視して大慌てで外に走り、家の裏を確認した所でそれが確信に変わった。
「あぁあああ~、やっぱりかぁぁ~………」
思わず頭を抱えてしまった。スザクが駆け付けたのは、今朝出したばかりのゴミが置いてあった場所。そこにちょうど、2巻「Ark」についていた帯が落ちていたのである。つまり……。
「何で買ったばっかりの本を古本に混ぜちゃうんだよ、僕は~!」
常識では考え難い大失敗に、盛大に落ち込むスザクであった。
その頃、アオイ自室。
「………誰もいませんわね?」
きょろきょろと周囲を見回し、素早く、静かに部屋へと戻って来るアオイ。
後ろ手にドアをぱたん、と閉めたところで息を一つし、机の引き出し……の裏にある隠し棚を開ける。
そこに鎮座していたのは、真新しい11冊の本。表紙に仮面の男と何人かの少女が描かれたそれらは、「幻想物語」の第4シリーズ「Elysion~楽園~」。裏タイトル「ABYYS~奈落~」。
スザクがなくしたと大騒ぎしていた、件の本である。
「姉様、許してくださいませ」
そう、このシリーズはスザクが間違って古本として出した……わけではなく、こっそりアオイが隠していたのである。なぜ彼女がそんなことをしたのか、そしてなぜこのシリーズだけを持ち出したのか、そこには理由があった。
各シリーズのテーマである。「幻想物語」は、各シリーズごとにテーマが存在する。
第1シリーズは、「決定された運命」。
第2シリーズは、「死の価値」。
第3シリーズは、「なくすということ」。
第5シリーズは、「始まりと終わり」。
第6シリーズは、「見えるもの」。
第7シリーズは、「裏側」。
そして、アオイが隠した第4シリーズのテーマは、
「今の姉様に、こんなものはお見せできませんわ」
――――――「歪んだ愛」。
梧桐、気を揉む
(その在り方が姉に重なり)
(妹はそうなることを恐れた)
(愛とは何か、未だ知らぬがゆえに)
『無用な心配だと思うんだけどね、綾歌……? 綾音が初めて本気で好きになったのが、たまたま敵で、女の子だった。それだけのことなんだから』
最終更新:2011年05月15日 19:09