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ホウオウグループのお医者さん

ホウオウグループの基地内
ウミが廊下を歩いていると、童顔で赤眼の少年、リオトがいた
リオトはウミの姿を目で捕えると、駆け寄ってきた
聞けば、エミとウミの2人を探していたらしい

「今日は一人なのか」
「ええ、私達に何か用事?」
「ゼアが呼んでいたんだ」
「残念、エミは今ホウオウグループのお医者さんの所よ」
「お医者さん?…ああ、クランケのことか」
「ええ、この前任務外のケンカで無茶してね」

先日起きたウミの言うそれは、あくまでも情報収集の一環だった
しかしエミはそれによって予定外の傷を負った
と言っても相手が強かった訳でも何でもなく、エミの意識の低さが招いたものである
その事を思い出し、ウミは憂いの表情を浮かべる
エミには後で伝えておくとウミが引き受け、リオトの人探しは完了

だが、リオトには任務外の事より別の事が気になったようで

「そういや、クランケとエミってどんな関係なんだ?」
「あら、気になる?」
「よく一緒にいる所は見るが、クランケはエミの事嫌がっているように見えるからな」

ウミは意外だとでも言いたげにリオトを見る
リオトにとっては純粋に気になっていた話題のようだ

実際、エミは以前からウミと協力してクランケを弄って遊んでいる
ウミにとってはよく飽きないね、と思うほどだが
よっぽど気に入ってるのか、エミはクランケ弄りを続けてきている
クランケも多少は慣れたようで、本来のお人よしな性分もあってかただ迷惑しているわけでもないらしい
といってもこの状態を好き好んでいるということでもないようだが

「どんな関係、ね。傍目からみると不思議かもしれないけど」
「エミはあのクランケの事どう思っているんだ?」
「そうね、あんまり話すと怒られちゃうし、本当の所どうなのかは曖昧。でもしいて言うのなら…」

一呼吸おいて、こう呼ぶのが一番いいだろうと考えた

「玩具みたいな存在、かしらね」





「いたたっもっと優しくやってよ!」
「ここまで酷ければ痛いのも当たり前だろう、我慢しろ」
「ひどーい、クランケってそんな非道な人だったっけ?」
「…黙って大人しくしていろ」
「はいはーい」

医務室の一画
エミはそういってむくれた顔で治療を受けている
そんな顔をするなら無茶しなければいいのに

エミがこの部屋に訪れたのはついさっき
いつも通りの笑顔と、それに見合わない、真っ赤な包帯を腕に付けて
聞けば、それはわざとつけさせた傷だという
ホウオウグループでは冷酷な演技をしようと努めているが、これには流石に顔をしかめた
そして、その反応にご満悦なエミにも

治療を始めて、傷を目の当たりにしてもそれは同じだった

「随分と派手にやったな」
「そう?腕だけだから大丈夫だと思ったんだけどなあ」
「場所の問題ではないだろう、ヘタをすれば機能しなくなっていたかもしれないのに」

きょとんとしたエミに、ため息を吐きたくなる

「今回の傷はいつもより深い。避けれる攻撃なら避ければよかっただろう」
「痛みも何も分からなくできるから大丈夫だって」
「…それが問題なのかもしれないな」
「へ?」

エミの能力は微弱な電流によって人体にあらゆる効果をもたらす事ができる
自身には潜在能力の引き出し、痛覚マヒなどの有利な効果を
敵には動きの操作や封じ、心臓を止める事も可能だと言っていた
でも、自身の身体能力や耐久力は変わらない





「痛覚は戦う上でデメリットに働くのはわかるが、同時に体を守る働きもあるんだ、
 もし痛みを感じるのなら、わざわざ敵の攻撃を貰いに行くような事も無かっただろう?」
「でも痛みがあったら隙も出来ちゃうし、戦いづらくなるんだよ」
「だから、痛みを感じないのは強さじゃないんだ」
「クランケには関係ないでしょう」
「医者としては患者に忠告するのは当たり前だろう」
「もう、これ使わないと戦えないの!」

反発するエミ、自身の信じて来た戦法を否定されているようなものだから無理もないかもしれない
しかし、最悪命にも関わる問題だから医術を持つ立場としては黙ってもいられない
潜在能力引き出しもリミッターを外すものだから、合わせて酷使すればかなり危うくなる
…素の自分を理解している彼女になら、こう言っても大丈夫だろう

「エミ、もっと自分の体を大事にしてくれ」
「っ!?」

労わりの言葉に、今度は軽く困惑しているようだ
ウミもいないから、こちらが何を考えているかわからないのだろう
…そういえば、こうやって心配する事を言うのはホウオウグループでは初めてかもしれない
素は出さないようにしてたのに、失敗したかもな
でも僕もこの表情を見るのは初めてだから、おあいこだろう

「余計なお世話、クランケの癖に生意気よ」
「癖にとはなんだ癖にって」
「それにね、もし動かなくなっても、千切れても、クランケが治してくれるからいいの」
「まて、いくら医者でも出来る範囲があるんだ、医術は魔法じゃない」
「怪盗って人外なんだからそれくらい簡単じゃないの?」
「それとこれとは関係ない、特殊な技術がつくものではないんだ」
「なんだ、つまんないの」
「あのなあ…」

そうやってまた笑うエミに、拍子抜けする
さっきの話を聞いていなかったのか?
ああ、またペースが狂う。これだからこいつは苦手なんだ





包帯を巻き終えて、ぽんとそれを軽く叩いた

「終わったぞ」
「なにこれ、ぐるぐる巻きで動きづらいよ」
「あれだけ大きい傷だったからな、しばらくは安静にしていろ」
「もう、こういうときは意地悪なんだもんな」
「なんとでも言え」

むくれるエミを他所に、治療道具の片づけを始めた

「…ねえ」
「ん?」

顔を上げれば、彼女はドアの前に立っていた
さっきまでのむくれた様子は無く、いつもの様子でこちらを見ている

「次もよろしくね」

そう言うと満面の笑みを浮かべ
こちらの返事も聞かずに部屋から出て行ってしまった

「…あいつは話を聞いていなかったのか?」

呆れてため息を吐きつつも、頼られる事にまんざらでもないのは否定できなかった


 ホウオウグループのお医者さん


(しかし、次が訪れる事はもうないだろう)
(約半年後、クランケはホウオウグループを脱退)
(それを受けてエミは彼の処分を名乗り出た)
(忠告は、彼女には届かない)

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最終更新:2011年05月24日 03:31