企画されたキャラを小説化してみませんか?
- 1
:サイコロ:2008/04/19(土) 08:47:37
- 男擬人ムリ香さんが立ち上げた「キャラ企画つれっど」で企画されたキャラを
ショートショートストーリー化(短編のアナザーストーリー化)してみませんか?
age sage構いません。
それと、できるだけ自分の企画したキャラを搭乗させましょう。
ナイアナのキャラは、性格を変えないように。
気に入らなければ消してください、(有)さん…
- 751
:十字メシア:2011/03/12(土) 00:53:21
- 「人工白澤」については、ショウさんが言ったんじゃないかなと、勝手に推測しました;
次回は話にも上がった、ミユカとシグマのお出かけ話・・・多分w
- 752
:大黒屋:2011/03/15(火) 21:10:17
- 旅行編完成!大量にレスつかうのでご勘弁くださいorz
佐藤人形さんより「フウコ」「ネイロ」「ユウム」、十字メシアさんより「ユズキ」、しらにゅいさんより「玉置静流」、樹アキさんより「緑音ののか」、(六x・)さんより「冬也」「凪」、スゴロクさんより「白波シドウ」をお借りしました。
旅行のご参加、ありがとうございました!あんまりキャラ立たせられなくって、済みませんでしたorz
旅行当日
「整列!番号!」
「わんっ」「2!」「3!」「4!」
「ご…ておい、ちょっとまて!一番最初誰が点呼した!」
「マサムネですけど?」
「マサムネも「一人」だもんねーw」
騒がしく始まった旅行当日。
レストランの前に欠けることなく集まったメンバーを見、店長…いや、亜音は満足そうにうなづいた。
旅行は1泊2日。少し遠いが、九州に滞在する。
往復は新幹線とバスを使用。3時間程度かかるがたいそう疲れるわけではあるまい。
そして、亜音はこの旅行に、一つだけ決まり事を決めた。
「万が一の時以外は、決して能力を使わないこと。」
勿論、環の能力を抑えるため同行したシドウに関しては例外だが。
人の多い所に慣れていないからだろう。一人孤立し、環はおろおろしていた。
きょろきょろとあたりを見回すと、シドウと目があった。
「…よろしく。」
ふっと、シドウは微笑む。
「は、はい…。」
環はそれだけ言うのが精一杯で、俯いてしまった。
「星殿、大丈夫がか?」
「ああ。月光も悪いな、コロコロ予定変わってしまって;」
「いいんじゃよ、このくらい。星殿が優先じゃw」
月光は星の肩を支えていた。もうすぐ肝心の部分をみることができると意気込んでいる星だが、今回の提案がなかったら倒れていることだろう。
月光は何よりも、星の体が心配だった。しかし星は、あえて別行動を望んだという。
亜音の近くにいるつもりではあるし、いつも自分のことを気にかけていては、彼自身の体が持たないと配慮したうえであった。
「うう、昨日眠れなかった…;」
「大丈夫か?楽しみで眠れなかったとか?」
「そう、なんだよね;」
「全く、子供だなぁ、冬也は。新幹線での移動が時間かかるらしいから、ゆっくりねなよ?」
「そうするよ。」
何が楽しみって、旅行が楽しみなのもあったわけだが、凪姉との外出も楽しみだった。
自然と顔が赤くなる。凪姉に気付かれてはいないが、傍観していた奏が笑った。
「さて!全員そろったわね!旅行に出発よ!」
移動シーンは省略(単純にワンパターンになりそうだったから)
それからそれから。
「うわぁー!」
バスを降りた女子組が、一斉に声を上げた。
目の前に広がる広大な自然。そこにはきれいは「街」ともいうべき施設が並んでいた。
ここが今回の目的地兼宿泊地。
体をのびのびと動かし、いろんな体験を通して大切なものを学ぶのがモットーだ。
ここから先はチェックインまで解散。皆、思い思いに散って行った。
- 753
:大黒屋:2011/03/15(火) 21:11:52
- 細く繊細な音が入り混じるオルゴール館。
ネイロは小さな人形の回るオルゴールを手にとり、眺めていた。
横からののかも見、かわいいwと喜んでいる。
ただ一人、環はオルゴールを見るものの、手に取ろうとはしなかった。
「…あれ、環さん、オルゴール見ないんですか?」
ののかが、環の浮かない顔に気がついた。
環は驚く様に反応し、両手を振った。
「わ、私はいいの。見てるだけで楽しいから…。」
「でも、近くで見ないと分かんないこともありますよ?」
「だからいいのよ。…壊しちゃうかもしれないし。」
手にとるものが高確率で壊れた。
昔からずっとそうだ。
そして、壊したわけでなくても弁償になる。
なら最初から触れなければいいと、外のものを触れることはなくなった。
でも、眼の前のののかはそれに気付かず、一つオルゴールを持ってきた。
「ほらこれ、かわいいでしょ?」
「だ、だから私は…;」
「いいからいいから!」
そういい、環の手をとると、オルゴールを乗せた。
思わず目をそらした環だったが、掌の上でオルゴールは変わらずに音を奏で続けていた。
「あ、あれ…?」
「ね?かわいいでしょ?」
笑顔を向けるののかに、環はとまどったような表情しか見せることができなかった。
その外、オルゴール館付近のベンチにシドウは座っていた。
中で戸惑う環は、おそらくこういった「モノに好かれる」状況に置かれたことがないのだろう。
どれだけ能力に苦しんだかが目に見える。
しかし、そんな環をみると、何故かほほえましいと感じてくるのだ。
「…ああ、シドウさん。ここにいたんですか。」
声に振り返ると、ソフトクリームをもった静流がいた。
そのソフトクリームを差し出す。
「いります?ののかさんの分なんですけど、当分出てきそうにないので溶けちゃいますから。」
「…ああ、それならいただくよ。」
先程向けられた屈託ない笑顔。
どうやら彼は、シドウが疑われている人間だとは知らないらしい。
よほどの経験と「自分を騙す」ことができなければ、自分を偽ってそんな笑顔は向けられないのを、シドウは知っていた。
「ののかさんも環さんも、仲良くできているみたいですね。特に環さんは、ネイロさんと同じ年ですし…。」
「ああ、玉置さんは環ちゃんの付き添いもあって来たんでしたね。」
「でも、実質シドウさんがついてくれているので、安心してますよ。」
「…玉置さん。俺にはね、娘が一人いるのですよ。」
シドウは、ひとり言のように切り出した。
「娘さん…?」
「丁度環ちゃんと同じくらいの娘でね。いかせのごれに住んでいるんです。」
「そうなんですか。かわいい盛りでしょう?」
「…でしょうね。」
静流は、今の返事に違和感を感じた。
「でしょうね」という予測したような言い方。つまり、しばらく娘に会っていないような言い方だったのだ。
「…娘さんは、今日同行されていらっしゃらないようですが…。」
「体が弱くてね。こういうところにもなかなか行かせてあげられないんですよ。」
「その…娘さんに、お会いしてないんですか?」
「!」
「…面目ない父親ですから、娘に合わせる顔がないのです。」
それだけいい、シドウは立ち上がった。
「ごちそうさまでした。これ、代金です。」
ベンチに220円置き、彼はオルゴール館へ入って行った。
- 754
:大黒屋:2011/03/15(火) 21:12:30
- 「…今のところ怪しい動きはなし、と。」
フードコートで亜音が呟く。その横には大量の皿。
決して亜音が食べたものではない。その隣、星が食べた分である。
高く積み重ねられた皿を見、ノアもノルンもユウムも唖然とする。
「調子が悪い…割に食べますね;」
「ん?ああ。腹がへってはなんとかいったろ?」
「にしちゃ食いすぎだろ;」
「でもよかったねぇ、運よく大食いチャレンジあってて。」
ユウムが指さす先にあったのは、一枚のポスター。
フードコートの料理を合計5000円以上完食すれば、無料になるというものだった。
正直一般人には無理な話だが、既に星は7000円分は食べているだろう。店員の顔がそろって青ざめている。
「私より姉さんのほうが食うぜ?」
「え?そうなの?」
「私がっていうか、兄弟そろってね。」
「前に競争したけど、私完敗。」
食器の間から星がひらひらさせる手が見える。
一体どれだけ食べる気なんだ、とユウムはほんのすこし寒気を覚えた。
オルゴール館の隣、ガラス館。
ガラスでできた商品がたくさん置いてあることは言うまでもない。
その建物の端、ガラス製品の工房を冬也は眺めていた。
「あれ、冬也さん?なにみてるんですか?」
奏が近づいて話しかける。
「ああ、あのガラス細工みてるんだ。オーダーメイドしてくれるらしくってね。」
窓の向こうの灼熱の世界で編み出されるは、それに相容れないほどに繊細で冷たいガラス細工。
幾本もの透き通った棒は赤く熱せられ、掌に乗るほどの大きさに変わっていった。
「わぁ、綺麗!」
「ありがとうございます!」
小さな袋に包まれたキーホルダーを、大事そうに冬也は受け取った。
袋を開け、中身を取り出す。
色のついていない四角のキーホルダーだ。青い紐がつけられている。
そしてその中ほどに、赤いガラスで「N」と書かれていた。
「ん?あれ、冬也さん。これ、Nって…。」
「ああ、これでいいんだよ。これはある人に渡すために…。」
「おーっ?ついに冬也も彼女できたかーっ?」
突然、後ろから凪が抱きついた。
思わず冬也は飛び上がる。
「な、な、な、凪姉…ぇ;」
「なんだよ、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。」
「後ろから襲われたら吃驚するよ!」
「HAHAHA☆」
二人の親しげな様子を見、奏は笑った。
そして、邪魔しないようにそっとガラス館を出た。
「ひゃっほー!」
不思議な形の大岩を、由衣は軽々と飛び越えた。
のびのびと体を動かせるアトラクションコート。子供から大人まで楽しめるイベントがそろっている。
しばらく暴れていなかった由衣が暴走気味だ。ついていく月光もやっとである。
「あーあ、もうあんなとこまでいっちゃった;」
遠くのベンチに座って眺めるフウコ。
その横でユズキがスケッチブックを広げている。
「ユズキ、追いかけなくていいの?」
「いいよ。面倒だし。」
紙の上を走る鉛筆は、少しずつ笑顔を描き出していく。
「あの子、あんないい笑顔できたんだ。」
「…本当よね。学校じゃあそこまで笑わないってのに。」
二人は走り回る由衣を眺めていた。
いかなる理由で由衣がいかせのごれに来たかは、聞かされていない。
ただ、過去の話をするとひどく悲しそうな顔をする。
その過去の影響だろう。「満面の笑み」というものを、人前にあらわしたことが由衣はなかった。
いや、今こうして笑っていることに、由衣が気付いてるかもわからない。
「…今度学校に行ったらさ、由衣の過去、受け止めてあげない?」
「…いいね。話すかどうかは本人次第だけど。」
ユズキのスケッチブックには、いつの間にか決して綺麗とは言い切れない、綺麗な横顔があった。
- 755
:大黒屋:2011/03/15(火) 21:13:09
- 時間になり、メンバーが集まる。これから宿にチェックインだ。
宿といっても、ホテルのように何部屋もあるわけではない。
小さな丸い家のようなものが敷地内に所狭しと立ち並び、所謂一つの「集合住宅」を形作っている。
「よし、全員いるわね。今から部屋割を発表します!」
全員を見回し、亜音は名前を呼んで行った。
「235番、ノア、ノルン、ユズキ、冬也、由衣。
236番、奏、ネイロ、フウコ、凪、ののか。
237番、環、シドウさん、月光君、ユウム。
で、238番に私と星ちゃんと玉置先生、それからマサムネね。」
亜音は代表一人ずつに鍵を渡した。
「晩御飯は各自でとること。何かあったら携帯に連絡。お風呂はこの先に温泉があるけど、個室にもついてるから。あとは大丈夫ね。」
もうここまでくるとすっかり亜音が姉さんしてます。はい。
「由衣さん、ご飯食べに外いきましょう。」
部屋に入り、ベッドに寝転がっていた由衣を、ノルンが呼んだ。
「ん。わーった。ユズキは?」
「冬也さん連れて先に行きました。ノアはここにいます。」
「…丁度いいや。」
由衣は起き上がると、ノアとノルンを一度部屋に引き入れた。
「な、なんですか?」
「聞きたいことがあってな。」
「ユズキ達待たせてるんだ。さっさとしろよ。」
由衣は正面切って、二人に訊いた。
「ホウオウから抜けたこと、あんたら後悔してねぇのか?」
「「…え?」」
「そのまんまだよ。特にノルン。あんたはホウオウを実の父のように慕ってただろうが。」
由衣にはそれが、ずっと気になっていた。
親を亡くした由衣にとって、「親」は何より大切な存在だからだ。
「ホウオウを抜けたことで、今はその親に狙われてんのに。」
「…そうですねぇ。」
ノルンはふっと息を吐いた。
「後悔してない…わけではありません。ホウオウ様と縁を切るのは、正直辛かったです。」
「!」
すこしばかり驚く由衣をよそ眼に、ノルンは続ける。
「でも、それよりも自分の生きる意味を見つけたかったんです。たとえそれが、ホウオウ様を裏切ることになっても。」
「そうまでして生きがいを…。」
人としての道を残されなかったノルン。
それに「人としての道」を作ってくれたのは「親」であるホウオウだった。
だからこそ、「人としての」生きがいを見つけたい。
それが、僅かに残された人の自我が願う、ノルンの願いだった。
「俺は…ただ単に面白いものを求めてただけだから。」
ノアも口を開く。
「ホウオウには何も未練はねぇ。それよりも双子の兄として、乃流になんかしてやりたかったんでな。」
「…そうか。後悔してないんならいいんだ。」
意味ありげに彼女は呟き、立ち上がった。
その口調にどんな意味が込められてるか。それは、彼女自身にしか分からなかった。
「…ちぇ、結局渡せなかった。」
袋からキーホルダーを取り出し、冬也はぼーっと眺めていた。
透き通った四角いキーホルダー。渡す相手は勿論決まっている。
しかし先程は不意打ちを食らい、渡しそびれた。
「なーんでこうもうまくいかないんだろ…。」
「冬也君?食べないの?ほとんど減ってないみたいだけど。」
心配したユズキが声をかける。由衣達がとんでもない量を食べているのだから当然と言えば当然か。
「え?あ、いえ。ちょっと考え事をしてたので。」
冬也はキーホルダーを仕舞うと、箸をとった。
(どうやってわたそっかな、このキーホルダー…。)
- 756
:大黒屋:2011/03/15(火) 21:13:54
- 「さ!女の子がこれだけそろえば、やることなんてひとつでしょ!」
「その出だしどっかで聞いたことありますよ、凪さん;」
先に風呂に入って来た236番室一同。スイッチはもう恋バナモードだ。
作者としては勘弁してほしいとこなわけだが、女の子が集まると必然的にこうなるのだから仕方ないorz
「凪ちゃんから切り出したんだから、あんた彼氏いるんでしょ?」
「え?私はいないよ~。きいてて楽しいだけw」
「あ、ずるい!自分だけ逃げる気?」
「本当だってば!そういうフウコはどうなのよ?」
「私にはネイロとユウムがいるから。彼氏は当分いらない!」
「…それ強がりでしょ、フウコ?」
「それをいうなぁっ!」
「でも、いい人ってなかなかいないものですからね。」
「特に男なんてみんなそうじゃない?」
「わかるわかる!」
「えー?でもたまちゃんはいい人ですよ?」
「ののかちゃんの場合は恋愛対象じゃないでしょw」
「いいんです!たまちゃんはいい人ですから!」
「まぁ、確かに優しいしねw」
「「「あはははw」」」
「…へっくし!」
そのたまちゃん…静流は小さくクシャミをした。
「どうした、玉置先生?風邪でもひいた?」
「誰かが噂でも立ててるんでしょう。ていうか「先生」つけるのやめてもらえませんか?同僚でしょう?;」
「元だよ、元。」
「ウスワイヤから抜けたわけではないでしょう;」
緊急時の拠点になる238号室。
ここでは温泉などで外出することを避け、できるだけ部屋の中で片づけていた。
現在、風呂に星が入り、亜音と静流は待機している。
若い時からのよしみだ。3人にはほとんど隔たりがない。
それゆえ拠点にいるのもある。
「あんた、まだ動物ムツゴロウやってるわけ?」
「当たり前でしょう。ね、マサムネ?」
「わん!」
「それで保健室によくやってられるね。動物嫌いが来たらどうするのよ。」
「それも何回かあって…;」
こうして朗らかに話すのも何時振りだろうか。と考えたその時だった。
風呂場からガシャンという激しい音がした。
その音に驚き、慌てて風呂場のドアを開ける。
散乱する洗面具。出しっぱなしの水は跳ね、寝間着に着換えていた星の上半身を僅かに濡らしていた。
「星ちゃん、どうしたの!?」
亜音が駆け寄る。星は虚ろな目で鏡の前の自分を見つめたまま、呟いていた。
「…分かった…、何もかも…。私の左目を、奪った奴を…。」
包帯が滑り落ち、隠れていた「左目」があらわになる。
途端におとなしかったマサムネが吠えだす。
奇怪なその眼は、長年の付き合いである亜音や静流にも稀有なものに見えた。
星はただ一人、呟き続けていた。
「…「重力操作」こそが、私の先天性能力だったんだ…。」
- 757
:大黒屋:2011/03/15(火) 21:17:50
- 三日月の上る真夜中。
電気は消え、あたりは静まり返っていた。
237号室も例外ではない。環も月光も静かに眠っていた。
「…環ちゃん、起きて。」
肩をゆすられ、環は目を覚ます。
ふと顔を上げると、そこにはシドウがいた。
「靴はいて。今から外に出るよ。」
「え?何でですか?こんな夜中なのに…。」
「いいから。」
靴をはいた環の手を引き、シドウは外に出た。
直ぐ近くの原っぱまで彼女を引き連れた彼は、そのまま諭すように肩をつかんでしゃがんだ。
「よく聞いて。君は自分のこと、ただの不幸な女の子だと思い込んでないかい?」
「!」
「そして今日の旅行、今まで起こっていた事故が何一つ起こらなくなり、不思議に思っていただろう?」
「…;」
今、シドウはろくに環と目を合わせていない。
それがまた、彼女の不安を掻き立てた。
「な、何がいいたいんですか…?」
「…君の不幸は「体質」じゃない。「完全嫌悪」という「能力」なんだ…!」
「…ニャフフwこれはおもしろくなってきたねぇ…w」
二人の様子を、寝たふりをしていたユウムが窓から眺めていた。
「これはぜひぜひ!トキコちゃんにお知らせしなきゃ…。」
ユウムは携帯を取り出すと、送信画面を開いた。
――翌朝。何事もなかったかのように、全員がそろった。
この日はお土産を買って帰るだけだったので、バタバタしすぎて何をやったかほとんど覚えていない。
同じようにバスと新幹線を乗り継ぎ、無事、いかせのごれに帰って来た。
旅行後の変化?
…大きく分けるなら二つだろう。
星がとある大きな決意をしたこと。
そして、引きこもっていた環が、保健室登校から始めたということ…。
――――――――――
小説外になりますが、
・環はシドウによって能力のオンオフがつけられるようになったこと
・シドウはその後消えるようにどこかにいったこと
・冬也は未だにキーホルダーを渡せずじまいなこと
・どうやらユウムやトキコは環をホウオウに誘いたいらしい(ぇ こと
を付け加えておきます
話題に挙げるときに参考に。
上がらない気もしますけどね;
- 758
:十字メシア:2011/03/15(火) 23:19:09
- ミユカとシグマのお出かけ話の前に、カナミ話を;
『感情爆裂~ウスワイアにて~』
ウスワイア、談話室。
数分前から、薄紅の長い髪の少女が、満面の笑顔を浮かべて小躍りしていた。
そこに、アースセイバー独立隊員―――ミユカが入ってきた。
「あれ、カナちゃんどしたの?」
カナちゃんと呼ばれた少女―――カナミが髪をなびかせて振り返る。
「あ、ミユカちゃん!ついさっき、風月堂で人気の苺大福買ったんですよ~♪」
喜色を含んだ声で話すカナミ。
すると―――。
「おわ!は、花が!」
突如、カナミの周りに花が咲き始め、何故か蝶や小鳥が現れた。
「あ、ごめんなさい!」
「いや、別に大丈夫だよ。カナちゃん、今凄く嬉しいんでしょ?」
ミユカの言葉に、はにかんだ笑みを見せるカナミ。
ミユカと同じ、アースセイバーの独立隊員である彼女の能力は、ハートブースター―――「感情増幅」。
喜びや悲しみ、怒りといったあらゆる感情を増幅し、エネルギーに変える。
今、彼女は「喜び」の感情を増幅・エネルギー化し、周りに活力を与えているのだ。
学校では上手く制御しているが、ウスワイアではどうも緊急が解けるらしく、感情を表す度にこうなっている。
「今お茶入れてくるので、見ていて下さいね」
鼻歌混じりに、カナミは談話室を出て行った。
「もう少し控えめにすれば、子供っぽく見られないんだけどな~…」
自分だけになった談話室でぼやくミユカ。
「ま、カナちゃんらしくていいか」
「ここにいたのかミユカ」
背後から男の声がした。
ミユカは振り返って見る。
「何だ、やーさんか」
「…その呼び方やめろ」
眉間にシワを寄せるのは、ヤクザの様な風袋の能力者、蒼井 聖。
「見た目ヤクザだからいーじゃん」
「俺はヤクザじゃねえ!」
「あはは、こわ~い」
言葉とは裏腹に、全然怖がってない様子のミユカ。
そんなミユカを見て、聖はこめかみに青筋をピクつかせた。
- 759
:大黒屋:2011/03/16(水) 14:32:27
- 構成できてるうちに投下!
ネモさんより「七篠 獏也」をお借りしました。
天ノ川ノ叫ビ~失ト得~
木・火・土・金・水
東・西・南・北
春・夏・秋・冬
陰・陽
裏・表
青龍・朱雀・白虎・玄武・麒麟
ありとあらゆる摂理は
常にその例外なく
私たちを取り巻く
その日この世に希望の光を見て生まれた命も
様々な摂理に縛られ、生きるはずだった
ただ
「盗まれること」さえなければ――
暗い暗い地下に、同じ音程の声は絶え間なく響き渡っていた。
白い光が真っすぐ降りる台座に寝かされたのは、何も纏わない赤子。
その横に、一人の少年が立った。
光を反射する銀の長髪に、赤い髪止めが映える。
二人を囲むように、たくさんの人が並んだ。
一歩前に出たのは、彼らの長。
少年の眼の前に立ち、布に包まれた「それ」を差し出した。
「…分かってるな。「これ」と、この赤子の左目を入れ替えるのだ。」
「…。」
少年は「それ」と、泣きじゃくる赤子を交互に見た。
人の情がまだ残っているその眼には、迷い以外に何もうつらなかった。
だが、長は続ける。
「…これは私の、「怪盗ギルティー・キング」の命だ。断ることは許さん。」
「…。」
「やってくれるな、「クランケ・ヘルパー」?」
少年は「それ」を受け取ると、台を引き寄せ、メスを取り上げた。
物心付いた時は、山奥のおばあさんと二人暮らしだった。
よく木から木に飛び移り、はだしで山を駆け上って遊んだものだ。
しかし、彼女に「友達」はいなかった。
鳥は逃げ、熊は威嚇し、人は気味悪がって近づかなかった。
やがてウスワイヤに保護されたが、よく施設を抜け出して街に出た。
世界を知らない無知な少女は、きっと誰かが自分をみとめてくれると信じていた。
しかし、人の反応は変わらない。
同じくらいの子供は、罵倒し、殴り、石を投げた。
そしてボロボロになったところを見つけられ、連れ戻された。
その日も例外ではなかった。
街角の端に座り込み、見て見ぬふりをして歩く人を見、泣きだしそうなのを必死にこらえていた。
「…どうして…?」
鏡を見たことがなかった彼女は、どうして自分が忌み嫌われるか分からなかった。
「…どうしたがか?」
不意に、声をかけられ、顔を上げた。
紫色の髪の同い年くらいの少年だった。
少年も例外ではなく、彼女の顔を見てひどく驚いた。
その顔を見、少女は「ああ、またか」と目を閉じた。
しかし、次の瞬間彼が発した言葉は
「おいで。けがの手当て、してあげるぜよ。」
というものだった。
少女は驚き、安心したように笑い、同時に泣きだした。
少年の着物を引き寄せ、大声で泣いた。
少年は少女の明るい金髪を、ゆっくりなでた。
少女はしばらく、少年の家である寺で過ごし、少年の手を引いてウスワイヤに戻って来た。
そして、獏也を呼ぶと、彼女ははっきりと言ったのだ。
「私の今までの記憶、全部預かってくれ。」
鏡の前でもう一度、その隠れた左目をあらわにする。
思えば、この「左目」のせいで全てを奪われ、全てを与えられた。
記憶の前半だけですべてを把握した星は、記憶の「後半」を返してもらうつもりはなくなった。
「…わるいな、クランケ、月光。私、うそつきになっちまうな。」
星はふっとわらうと、もう一度左目を隠すために包帯をとった。
「白」に隠れゆく「赤」の奥底にうつる「黒のエンブレム」を、鏡ははっきりと映し出していた。
- 760
:サト:2011/03/16(水)
16:03:38
『わたし、神と言うものはとても崇高な存在だと信じてやまないの』
目の前のいとおしい女は、
その優しそうな笑みをいっそう深めて、にこやかにそう言ってみせた
『わたしたちに命と、性別と、出会いを授けたもうたのは
まごうことなき神であり、
わたしたちを引き合わせたのは神のおぼしめしなのよ』
美しい髪がなびいて、弧を描いていく。その小さな指と指を絡めて、
まるで何かに祈るように目を細める
他の人間が同じことをしたならば、酔狂めいたその仕草さえ、
神秘的で、たおやかなひとつの儀式に見えるのだから
この女こそ、世の“理想”をあてはめるにふさわしい存在だと思った
『あなたは信じないの?』
『俺は…どちらでもない』
『あら、もったいないわ』
くつくつと笑って首に触れてくるその腕を引き寄せて抱きすくめると、
女はまぶたを伏せて
『神よ…感謝します』
と、呟いた
『わたし、生まれ変わるならば神になりたいわ。
そうすれば、
きっとわたしたちのような出会いをもっとたくさん増やしてあげられる』
膝の上で眠りこけている、女によく似た顔の少女の頭を撫でながら、
さも幸せそうに顔を赤らめて言葉を灯していく女の胸に揺れる十字架に、
女の信仰心がみてとれて、なぜだか胸が粟立った
それからすぐ後の話だった。女は旅行先の集団強盗に巻き込まれて死亡した
最期の最期まで、十字架を握りしめて神に祈っていたらしい
『…様、ホウオウ様!』
ハッとして声がした方に振り返ると私直属の部下であるクルセが、
訝しげに私を見ていた
『どうかなされましたか?』
『…無駄口をきくな』
『は…』
ガラスプールの中を泳ぐ美しい長い髪や、
身体の輪郭は、まさに私の“理想”を形にしたもの
神を許した覚えはない
いつだって私の最大の敵は、ケイイチたちアースセイバーではなく、
すべてに平等の愛をなどとほざき、裏切り続けている神なのだ
けれど、女の願いを叶えることができるのは、
他ならない私だけだ
『お前は“女神”になるのだ。』
こうして、“神の子”
ファスネイ・Isは産まれた
神という偶像
━━━━━
勝手な妄想ケイくんママ
ずいぶん前~に打ち立てた、『ホウオウ様はケイくんのパパなんじゃないか』説がかなりいい感じに流れていてびっくり
ファスネイはホウオウ様の“理想”の固まりであり、溺愛していた。加えて、彼の大事なものは“妻と子供の写真”
ファスネイのベースはケイくんママであるというね
まぁそうなると実際ケイくんはママ似なわけだからファスネイおっおっ?ってなっちゃう訳なんだけど、
まぁそこはおめめ開けてるし、背もちっこいし
笑った顔がとても似ているとか、そういうのイメージだな
写真みるかぎりではケイくんママは微乳そうだったので
『はー。もうすこし胸があったらなぁ。神様のいじわる』
なんて呟いてたのをホウオウ様がさりげなく聞いてて、ファスネイちゃんにはママの“理想”である胸を与えたと(ここまでくるとただのバカ話みたいになってきたけどw)
これで伏線回収大体完了した。ふぃー
- 761
:大黒屋:2011/03/16(水) 18:02:47
- 自キャラオンリーです。
1日2本は今まで書いたことなかったですね。
動き出す流星
万年金欠状態の天童探偵事務所に、久しぶりにテレビがついていた。
ニュースキャスターが無表情でニュースを読み上げていく。
既にブラックコーヒーとはいえない、激甘のブラックコーヒーを飲みながら、星はテレビを見ていた。
「あれ、珍しいぜよ。テレビがついとるなんて。」
「ああ、月光。帰ってたんだな。久々の寺はどうだったよ?」
「相変わらずじゃ…て!あしの団子また勝手に食うとる!」
「ははw」
真実を導き出した星は、記憶にうなされることはほとんどなくなった。
前と変わらず、のんびりとした生活を送っている。
しかし、こころなしか最近星の表情が険しくなったと月光は感じるのだ。
「お前さぁ、陰陽師の息子ならいい加減術使えるようになれっての。」
「仕方ないじゃろ。元々素質がないんじゃ。」
「幼いころに修行さぼって剣術ばっかり極めてたからだろ。お前この先もっと強力な能力者が出たら太刀打ちできないぞ。」
「今までどうにかしてきたんじゃ。これからもどうにかするぜよ。」
反抗期の子供のようにベー!と舌を出し、月光は奥に入って行った。
『…ストラウル跡地の建物が、突然つぶれたとの情報が入ってきました。』
月光はアナウンサーの声を聞きながら、木刀の手入れをしていた。
『目撃者の情報によりますと、何もない所に行き成りクレーターのような穴があき、建物がつぶれるように崩れ、全壊したということです。幸い、怪我人はいませんでした。』
(またホウオウあたりじゃろうか…。)
月光はため息をつき、木刀を置いた。
と、机の上に紙が置いてあるのを見つけた。
気になって取り上げる。ウスワイヤから定期的に届く報告書だろう。
さらさらと目を通していたが、最後の報告に、月光の眼は釘づけになった。
『ストラウル跡地建造物破壊
先日、ストラウル跡地の建造物が、上から強い力で押しつぶされるような形で崩壊しているのを発見
能力者の力によるものと思われる
建物は元・ホウオウグループのアジトと思われる(裏付けるホウオウのエンブレムが数個見つかっている)
現在使用されていないため、中に人はいなかったが、兵器の保管庫として使用されていた可能性大』
「…これって…。」
月光は慌てて、星の元に向かった。
星は変わらずニュースを見続けている。
「星殿!この報告書…。」
「…ああ、読んだか。相変わらず察しがいいな、お前は…。」
星は振り向き、月光に笑顔を見せた。
「流石、私の助手だw」
「月光、この間の、前言撤回するわ。私はホウオウに全面的に反発する。」
- 762
:スゴロク:2011/03/16(水) 19:35:50
- 安心した所で、今回はこういうお話です。2本行きます。
朱雀ニアミスに嘆き、異能殺しは詠み人を巻き込む
「な、なんだって―――――ッ!?」
その時、僕は耳を疑った。マナから突然メールでもたらされた情報―――即ち、
『異能殺しを名乗る男、レストランで目撃。本日出発の旅行に同行。名は白波 シドウ』
――――と。
正直、僕は本気で歯噛みした。ずっと探していた「異能殺し」、行方不明になったランカの父親、無責任にも程がある義務放棄男が、こんなに近くにいたとは。
なのに取り逃がした!
(くおぉぉぉ……!)
死んでもおかしくなかった僕を救ってくれたランカは、僕にとってはまさに恩人、他の誰にも―――トキコやシスイでさえも―――かえられない、一番の親友だ。
その彼女を置いて突然姿を消し、失意の底に叩き落とした「奴」を、僕は許すことが出来ない。何としても見つけ出し、ランカの前に引きずり出して謝らせてやる。
それが、僕の自身にかけた宣誓だった。それを実現するチャンスが近くに在りながら、僕は何をしていたんだ!?
「灯台もと暗しとはよく言ったもんだよ、全く……」
「ね、姉様? どうなさいましたの?」
気遣わしげなアオイの声に、ようやく僕は自分の状況を思い出した。下校途中で、アオイと連れだって歩いていた所だ。トキコも誘おうとしたんだけど、
「鴉さん」とか言う人に呼び出されたらしく、どこかに行ってしまった。前にトキコが言ってた名前だ。誰だそいつは、何のつもりだ。間男だったら叩き潰してやる。
ともかく、そんな時にマナからのメールが来て、何だろうと見て見たらこれ。突然叫んでしまったら、そりゃ驚くよな。
「いや……ちょっと、な。友達のお父さんらしき人が、見つかったって」
「友達の……あの、もしやブランカさんの?」
「へ?」
な、なんでアオイが知ってるんだ? ランカの事は今日話すつもりだったのに。
「マナさんに教えていただきましたもの」
……なるほど。やけに僕らのことに詳しいと思ってたら、あいつの入れ知恵だったか。まあ、説明の手間がはぶけるのはこの際ありがたいけど。
「……それなら話は早い。異能殺しをタッチの差で逃がした。手の届く場所にいたのに」
「残念ですわね……けれど、相手が能力無効化では、わたくし達では手の出し様がありませんわ」
「そこなんだよなぁ」
奴の能力は、読んで字のごとく「異能殺し」だ。僕やアオイを始めとする能力者の大半がそうであるように、能力が無効にされれば戦闘力はガタ落ちする。奴自身の戦闘力はわからないが、真っ向からぶつかれば勝ち目はかなり薄い。
しかも記憶にある限りでは、あの能力は視界に入る人物全てを対象にすることも出来るようだ。
ともかく、
「悔しいなぁ……もう少しだったのに」
「古人曰く、『逃した魚は大きく見える』ですわ。焦っても仕方ありません、次の機会を待ちましょう」
「……そうだな。アオイ、ありがとう」
「どういたしまして、スザク姉様」
相も変わらず、偽名で呼び合う僕達。これは、僕たちなりの戒めのようなものだ。もっとも、本来ならアオイ……綾歌にその必要はない。
だけど、僕の事情を知っている彼女は、僕に心理的な負担をかけないようにと、自分も偽名で通している。その細やかな心遣いが、本当に嬉しい。
(……ありがとう)
心の中でそっと、もう一度だけお礼を言った。
- 763
:スゴロク:2011/03/16(水) 19:36:33
- それから数日。
「旅行に行った感想はどうです、シドウさん」
「悪くは……なかったな」
某所。旅行から帰るなり姿を消したシドウと、彼を送り出した人物―――エイト、即ち「夜波 詠人」が会っていた。
「環は?」
「能力のスイッチ化が起きた。当面は安心だろう」
実年齢より外見が倍近く若い男は、ぶっきらぼうにそう言った。(どこから聞いたのか)マナ情報では別人のように人当たりのよい性格だったらしいが……。
「―――キャラ作るのは大変だったんじゃ」
「割合そうでもない。10代の頃はああだった」
何年前の話をしているのか。
「それに」
「それに?」
フ、と口の端に笑みが走り。
「子供は嫌いではない」
「…………」
声音には自嘲。一人娘を置き去りにしている身で言えた義理ではない、と思っているのか。
「用事はそれだけか?」
「いや。本題はこのあとですよ」
「……何があった?」
すい、とシドウの目が鋭く細まる。
「天河 星、って知ってます?」
「あの重力探偵浪人か? 知った顔ではあるが」
「重力探偵浪人って……」
何ともそのまんまな表現だ。事実ではあるが。
「左目のことは?」
「奪われた、くらいしか知らん」
「それ、どうもホウオウグループ絡みらしいですよ。やる気のようで」
その言葉を聞いた途端、シドウから何か、気迫のようなものが感じられた。それは、敵意。
「……奴らか」
「ですね」
「合理化……神への挑戦、か。意気込みや考えはわからんでもないが、犠牲を厭わんのであれば俺の敵だ。合理化を目指すならば、その犠牲さえ払わん道を探すべきだと思うがな」
「愚痴ってもしょうがないですよ。それで、どうします?」
「ここまで聞いて知らない振りが出来るか。行ってやる」
それさえ聞ければ用は果たした。エイトはそう思い、踵を返した。シドウの能力は、視界に入った相手の特殊能力を封じ込める、あるいはコントロールを与えること。
その力があれば、ホウオウグループの能力者相手でも圧倒的なアドバンテージを確認できる。加えて本人も弱くはない。これならば、多少の事があってもなんとか
「待て」
「ぐう!?」
突然襟首を掴まれ、つんのめってしまった。振り向くと、シドウが腕を伸ばして自分を掴まえていた。
「な、何ですか?」
「そこまで知っていて傍観者を気取る気か? 俺を引きずり出した責任は取ってもらう。お前も来い」
「え、ええっ」
「ええもああもない。いいから行くぞ」
文句を言う暇もなく、シドウに引きずられたまま、エイトはその場を後に「させられた」。
―――「黒髪の少年を引きずって探偵事務所に入っていく渋めの青年」の姿が見かけられたのは、それから少し後のことだったそうな。
というお話です。
- 764
:十字メシア:2011/03/17(木) 00:49:17
- 「ところで、何の用?」
聖が苛立っているのに気づかず、ミユカは本題に入った。
マイペースなミユカを殴り飛ばしたい衝動を抑えつつ、聖はミユカの質問に答える。
「シグマの訓練相手を担当する奴が、別の用事でいなくてな、お前に代わりをやってほしいと隊長が」
「私が?」
「シグマの能力を一番把握してのるが、お前だからという事だ」
「ふーん…分かった、カナちゃん戻って来たら行く」
「あのガキくさい娘か?」
聖の言葉にミユカの表情に嫌悪の色が浮かんだ。
「そんな言い方ないでしょ?」
「事実だろ。大体、俺はあいつがアースセイバーにいるのが気に食わねえんだよ」
「何で?」
声にも苛立ちが含みはじめる。
「あいつの能力って、只浮かれたり喚いたりするだけじゃねーか」
「そんな事ない!それにカナちゃんは、能力以外にも凄い所が―――」
「頼りない勘で一般人とホウオウグループの人間を見分ける、だろ?」
「頼りなくなんかない!!」
次々と出て来る聖の皮肉と嫌味の混ざった言動に、ミユカは怒声を上げた。
「普通に考えてあんなガキくさい奴、アースセイバーにいれる立場なんかじゃあ―――」
その時。
ギロッ!
「ッ!?」
聖はミユカの変貌―――蛇の目つきに変わり―――に驚愕する。
鋭い蛇の様な目で聖を見据えながら、ミユカは静かに怒りを表す。
「いい加減に人を踏みにじる様な言い方はやめて…首筋噛むよ」
その言葉に思わず、聖はミユカの口を見てみる。
口の中からは鋭い牙が覗いていた。
とは言っても小さい為、首筋を噛む事は出来ないが、それでも殺意は剥き出しになっていた。
「…チッ、わーったよ」
「じゃあいい」
いつの間にか、ミユカの目は人間の目に戻っていた。
―――こんな目して、自分で気づかないっておかしいだろ。
少しでも怯んだ自分に苛立ちながら、聖は思った。
「よーミユカ。お前、この前シグマ連れて外出したんだって?」
再び談話室に入ってきたのは、黄色のバンダナを頭に巻いた、黒髪の少女―――ではなく少年、ハヤトだった。
- 765
:akiyakan:2011/03/17(木) 10:39:38
- ※さて・・・・・・疎遠になってた分、一気に行きます。もしかすると、これで「行ってきます」になりかねないですが。
幼い人形
「あ。みーつ、くーん!」
「?」
ミツが図書館にいると、この場所に不似合いな人物が声をかけてきました。
「トキコ……さん?」
「ねー、学校にはもう慣れたー?」
「えぇ、まぁ……」
以前二組に顔を出して以来、何かと彼女はミツの世話を焼いてくれています。しかし、トキコさんは、博士の事が嫌いだった筈。それなのに、実質博士の部下であるミツの面倒を見てくれる。一体なぜなのでしょう。
「……あの、トキコさん」
「んー? なーに?」
「トキコさんは、なぜミツに良くしてくれるのでしょうか」
「えー? だってみつくん、社会人初心者でしょー? 初心者を助けるのは、先輩として当然の事でしょー」
「ジングウの部下でも……ですか?」
「ジングウ」。その言葉が出ただけで、ピクリと彼女が過敏に反応したのが分かった。どうやら、名前を聞くだけでNGのようです。
「みつくん? ……その名前、今度口にしたらひどいよ?」
それは私がですか? それとも、私が貴方に酷い目にあわされるのでしょうか……怖くてそこまでは聞けませんでした。
「すいません……」
「……まぁ、ね。あの人は嫌いだけど、だからと言ってそれに関係のある人まで嫌いってわけじゃないから」
「はぁ……」
ミツの主観で言えば、そうやって割り切るのはなかなか難しい気がするのですが……なかなかどうして、トキコさんの精神は成熟しているのかもしれない。
「ところでみつくん、さっきから何やってたの?」
「……見ての通りですが」
どう答えようか一瞬考えた後、ミツはそう答えました。
「ふーん……」
トキコさんはミツの方を笑いながら見つめると、ミツが読んでいた本を覗き込みました。
「読書しながら――スイネちゃんの事見てたんだ?」
「…………」
ミツの座っている場所から窓を覗き込むと、そこから運動場で遊んでいるスイネさん達の姿が見える。目ざとい……いや、大した観察力です。
ここは図書室の窓際。トキコさんはおそらく、ミツの様子を図書室の扉から見ていたのでしょう。しかしそれでも普通に見ていれば、ミツは本を読んでいるようにしか見えなかった筈――でも、彼女はミツが本ではなく、スイネさんを見ていた事に気付いた。
(……疑われている)
- 766
:akiyakan:2011/03/17(木) 10:40:23
-
昨日の今日です。スイネさんが襲われたあの事件以降、彼女のガードは固くなっている。アースセイバーは元より、ホウオウグループ側も彼女に対して興味を抱いてしまっている。そんな状況下で、ミツがスイネさんを観察していた――博士と繋がっている事も考えれば、ミツが怪しまれても当然です。
「……ええ、そうですよ」
「ふーん……何、興味あるの?」
そう言うトキコさんの表情は、さっきよりも楽しげな笑みになっている……彼女は楽しんでいるのだろうか。けれども、一体何を?
「興味ですか。ありますよ」
「ふーん……みつくんって、しょーじきなんだね?」
自分が試されているのか、それともこれはただの世間話なのか……どちらなのか、分からなくなってくる。下手すると混乱しそうです。
「正直、ですか……あまり、言われないです」
「あ、そう? だけど、正直者は得するよ? 正直者は長生きするんだから」
「はぁ……トキコさん、もしかして嘘吐き嫌いですか?」
ピタ、とトキコさんの動きが不自然に止まった。表情は笑顔なのに、なんだか正体不明の威圧感を感じる……こ、これは一体……
「嘘吐きはね――大っ嫌い」
「……やっぱりですか」
「だって、嘘をつくって事は、その相手を騙す事なんだよ? そんな事、許せるわけないじゃん」
……それには、ミツも賛成ですがね。でも、だからと言って嘘をつく=騙しの行いとするのは、少々極端すぎるような……
「嘘には許せない嘘もあるけど、優しい嘘だってありますよ」
「カンケー無いよ。酷い嘘だって、優しい嘘だって、どっちも嘘に変わりは無いもの」
……こう言う時、「何となく」という言葉を使うのだろうか。ミツはその時、「何となく」トキコさんはどんな嘘でも許せない性格なのだと言う風に感じた。
「……相手を傷付けたくないから嘘をつく。それは確かに優しいかもしれないけど、でも――それが嘘だと分かった時、やっぱり相手は傷付くんだよ」
「…………」
そう言ったトキコさんの表情は――なんだか、少し悲しげに見えました。
「そう……ですね」
そう口にするものの、ミツはまだ誰かに嘘をつかれた事が無い。組織で「狸」だなんだと比喩されている博士ですら、「言わなかったり」「ごまかしたり」するだけで、聞けばちゃんと答えてくれる。ミツに嘘をついた事はありません。
だからミツはまだ、嘘をつかれる、その悲しみが理解出来ない。想像は出来ても、そのすべては分からない。
……改めて、自分が「不完全」である事を感じる。トキコさんが当たり前に知っている「痛み」ですら、ミツは知らない。様々な経験を経て学習する筈のものなのに、ミツからはその学習を得る期間が抜け落ちてしまっている。
合成人間としてミツが「不良品」でない事を証明したけれども、「人間」としてミツはまだ「不完全」だという事を思い知らされる。ミツはまだ、知らない事が多過ぎる。
「ま、そんな話はもう無し無し! なんで私が聞きたかったのに、みつくんが私の事聞いてるの!」
「それは話の流れかと……」
それで怒られても、ミツは困るんですが……
「……話し戻すけど、みつくんはスイネちゃんの何に興味があるの?」
「……他人の気がしない、って事ですかね」
トキコさんは嘘が嫌い。そう聞いた直後です。迂闊な事を言っても、彼女は気付いてしまう。下手をすれば、「裏」の任務まで感付かれてしまう。そういう懸念が完全に無かったかと言えば、おそらく嘘になる。
けれどもその時ミツはなぜか、そう答えるのが一番適当であるかのように、ごく自然にトキコさんに対して答えていた。
- 767
:akiyakan:2011/03/17(木) 10:41:08
- 「他人の気はしない?」
「ええ……不思議な話なんですけど」
嘘ではない、でまかせではない。任務に不必要な考えは排除しようと無視していたが、それは確かな事だった。ミツはスイネさんに対して、初めて会ったとは思えない感情を抱いていた。
スイネさんの親にあたる人工神は、博士が創造した。そしてミツもまた、基礎設計に関しては博士が関わっている。ミツとスイネさんのルーツは博士(ジングウ)にある。だから、他人とは思えないのかもしれない。しかしミツは、それだけじゃない、何かしらの「親和性」を、スイネさんに感じていたのです。
「ふぅん……言われてみれば、みつくんとスイネちゃんって何か似てるかも。なんか作り物めいているところがあって――もしかしたら、スイネちゃんもみつくんみたいな人造人間だったりして?」
「そ、それは流石に無いと思います」
余計な事をしたか。一瞬、ドキリとした。
スイネは人造人間。それは答えとして、ある意味で遠くて近い。反射的にミツがその可能性を否定すると、トキコさんは「そぉ?」と首を傾げた。どうやら、本気で口にしたわけじゃなさそうです。
「んー……ねぇ、それだけ?」
「え?」
「スイネちゃんに興味があるの……それだけ?」
笑みを絶やさず、トキコさんは聞いてくる。
彼女は笑っているだけだ。それも、ひまわりが華が咲いているかのような明るい笑み。けれどもミツはその笑顔に見つめられて、鼓動が高鳴っていく。
彼女の笑顔が魅力的だったとか、恥ずかしくて高潮しているとか、これはそういうものではない――ミツはその時、内心で戦慄していた。
スイネさんに対して、他人とは思えないような感情を感じる。本音ではないが、嘘ではない事実を告げる事で、彼女の追及を乗り切ったのだとミツは思った。しかしトキコさんは尚も話しかけてきた――ミツはその時、彼女にミツが隠している事を感付かれてしまったのだと、そう思ったのです。
「…………」
顔に緊張が出てしまうのを堪え、ポーカーフェイスを努める。生唾を飲み込みたくなるのも堪える。
どうする? どうすればいい? 嘘をつく事は出来ない。どうしたらいいか迷い、ミツはただ黙秘を続ける事しか出来ない。
笑顔のトキコさんと、無表情のミツ。そんな二人のおかしな睨めっこが続く。
しかしやがて、
「ふふっ、やっぱり言うのは恥ずかしい?」
「え? な、何を――」
「言いたくないなら言わなくてもいいよ。これ以上聞くのは野暮ってものだし」
そう言って、なぜかトキコさんは追及の手を止めてしまった。一体なぜなのか、ミツにはさっぱり分からない。
「……あー、そうそう。一つちゅーこくしておこうかな?」
「?」
「スイネちゃん狙っているなら、そーとー努力しないと駄目だよ? スイネちゃんはタカさんの事がだーいすきだから」
それだけ言い残し、トキコさんは去っていった。一人残されたミツは、ただ呆然としている。
(狙っている、って……まさか……)
彼女は、ミツの目的に気付いている? いや、それにしてはトキコさんは、ミツに対して好意を持って接してくれていた……
分からない。彼女が一体何を考えているのか、ミツにはさっぱり分からない。
(これは、気を抜けない状況になってきたかもしれない……)
――後にミツはその事をジングウに報告するのだが、彼に大笑いされてますます首を傾げた。
「どうやらトキコさんは、貴方がスイネさんに気があるものだと勘違いなさったようですねぇ」
「気がある? 博士、気があるとは一体どう言う意味ですか?」
「私が言わなくても、その内分かりますよ」
「気がある」。ミツがこの言葉の意味を理解するのは、かなり後の事であった。
※しらにゅいさんの「朱鷺子」をお借りしました!
- 768
:akiyakan:2011/03/17(木) 10:42:05
『黒騎士』
「な、何だか物々しい……ね?」
そう言って、スイネさんは苦笑した。全くだ、と俺は心の中で同意する。
「仕方ないよ、スイネさんは今狙われているんだし」
「そうね……」
先日の襲撃事件以降、スイネさんには護衛役がつく事が決定した。パニッシャーはともかく、スイネさんを体育館裏に呼び出したと言う「謎のバイクスーツ姿の人物」。その人物の発言から、そいつがスイネさんを狙っているのは確定的に明らかだったからだ。再び彼女を襲撃する可能性は多いにある。
それに備え、バク教官から俺、都シスイ。そしてハヤトの二人が、スイネの護衛役として就く事になったのだった。
「……しかし俺はともかく、何でハヤトが……」
「ん、スイネの護衛役に名乗り出たからに決まってんだろ」
そう言ってハヤトは、俺に向かってどや顔を浮かべる……どうせなら光一とか、戦闘能力の制限があまりされない能力者の方がありがたかった。ハヤトの能力は広域破壊には向いているが、周囲に与える影響を考慮すると全力は出せない。
数日前、蒼井聖が街中で戦闘したという記憶を掘り出す。アースセイバーでも屈指の戦闘能力を持つ彼が、パワードスーツを装着しているとは言え素人も同然である相手に苦戦を強いられた。それがなぜかと言えば、街中という環境ゆえに全力を発揮出来なかったからだ。もしその時の戦いが街中ではなくスト跡地のような廃墟街だったならば、彼が苦戦するような事は無かっただろう。
能力者にとって、「全力を出せない」という足枷はそれだけ厄介なものなのだ。
「いやー、しかしラッキーだぜ。まさか、こんな形でスイネとお近づきになれるなんてー」
そんな事を分かっているのか分かっていないのか、ハヤトはそんな事をのたまっている。
「おいハヤト、そんな事呑気に言ってる場合か?」
「分かってる、分かってるって! スイネが危なくなったら、ちゃんと俺だって真面目に仕事するって」
「本当にかぁ? どうにも不安ばかり残るんだけど……」
「……ってか、世の中不公平じゃない?」
「はい?」
「お前さー、日常的にスザクとかトキコとかと絡んでいるのにさー……何? 今度はスイネの護衛役? 何でお前ばっかおいしい思いしてるんだよ!?」
「知らねぇよ! つか、おいしくもなんともねーし! お前いっぺんトキコの奴に振り回されてみろ! 絶対後悔するぞ!」
「後悔どころか望むところだ! 女の子に振り回されるとか、最高のシチュエーションじゃねぇか!」
……分からん。そりゃ、まぁ、迷惑を感じる一方、それを楽しんでいる自分がいる事実を否定しないけど……でもだからと言って、そーゆーのを自分から望むか、普通?
「シスイぃ……あんたは恵まれているんだよ……そして、恵まれている奴は俺みたいな奴の苦しみを一生理解出来ないんだ!」
「なんでそこまで卑屈になってんだよ!? お前だって、結構恵まれてるだろーが!?」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ、俺とハヤト。とても護衛をやっている人間とは思えない光景だ。スイネさんの方を見ると、彼女が笑っているのが見えた。
(……まぁ、いいか)
パニッシャーはこれまでの傾向から、能力者かつ戦闘能力の低い者を狙う。加えて、出現は単独で限られている。俺もハヤトも今までパニッシャーに襲われた事は無く、向こうから見れば対象外なのだろう。そして、その対象外の能力者が二人スイネさんに張り付いている限り、彼女がパニッシャーに襲われる危険性は少ない。仮に出現したとしても、俺とハヤトの二人なら敵じゃない。
懸念事項はバイクスーツの人物だが、それも大丈夫だろう。俺がそいつを引き付けてハヤトとスイネさんを撤退に専念させれば、少なくともスイネさんの身を守る事は出来る。だからまぁ、大丈夫だろう。
(それにしても……)
俺はちら、とスイネさんの方を見る。彼女はハヤトと会話しており、俺の目ではそれを楽しんでいるように見える。
スイネさんについて多くを知っている訳じゃないが、彼女の能力が何であるかは知っている。「自分のイメージを実体化する」と言う、非常に稀で破格の能力だ。
口にすれば強力だが、そこまで便利な能力でもない。一回使う為には、イメージを形にする為に強い集中力と体力をたくさん使うらしい。その為戦闘向けの能力とは言いがたく、アースセイバーの所属ではあるものの、スイネさんが出動した事例はほとんど無い。パニッシャーのターゲットにされてしまったのも、おそらくそのせいだろう。
(だが、バイクスーツの人物……そいつは、どうやってそれを知った?)
- 769
:akiyakan:2011/03/17(木) 10:43:34
-
スイネさんの能力は、アースセイバー内でさえ機密にされている情報だ。俺自身、能力については知っていても、スイネさんの出自についてまで知らされているわけじゃない。そしてアースセイバーの性質上、それが外部に漏れる可能性は少ない。
しかし、バイクスーツの人物はそれを知っていた。また仮に知らなかったとしても、スイネさんが何かしら特殊な能力を持っている事は知っていた。奴はそれを知ろうとして、スイネさんを襲ってきたのだから。
(なんだ……俺達の身の回りで、一体何が起こっている!?)
俺達の知らない場所で、明らかに何が起きている。その実態がまったく掴めない。それを俺は不気味に感じていた。
「――おいっ、シスイ!」
「んげっ!?」
その時、俺の思考を止めさせるようにハヤトが俺をど突いた。
「な、何だよ、ハヤト……」
「さっきから何黙ってんだよ? お前らしくねーぞ」
「そ、そうか?」
「そうだよ……ったく、お前はこういう時あれこれ考えるよなー」
「いや、考えて普通だろ。むしろ、考えないのがおかしい、っつーか……」
「お前の場合考え過ぎ! 考えても分かんない事まで考えてたら、その内頭オーバーヒートしちまうって!」
……不覚にも、ハヤトの言葉に納得してしまった。
考えても分からない。それもそうだ、今は情報が少なすぎる。それなのに俺は、「無理なのに考えよう」としていたのかもしれない。考えても仕方の無い事に頭を使っても、変に体力を使うだけだ。ハヤトの言うように、俺は考え過ぎだったのかもしれない。
「……それもそうか」
「そうそう。今は取り合えず、楽しい事でも話して気分盛り上げようぜ?」
「うん、そうだな――」
「――つーわけで、スザクとトキコ、どっちが本命なのかゲロっちまいな」
「…………はい?」
目が点になった。なんでここでそういう話になる!? 見れば、スイネさんまで何かを期待するような眼差しで俺を見ている。……おいおい、なんだ、この空気は。
「なんでそうなる」
「またまたー、カマトトぶっちゃってー。どっちかに気があるんでしょ、旦那?」
「いや、さっぱり分からない。何でそんな話になる」
「……シスイ、スザクとはどの位の付き合いになるの?」
そこで、不意にスイネさんが口を開いた。
「ん、スザクとの付き合い? んー……かれこれ、一、二年になるのかなぁ」
俺がアースセイバーに入ったのが、十五歳の時。スザクと出会ったのも、大体それ位の頃だった。任務先でばったり顔を合わせて、それから何やかんやで力を貸してもらったり、助けてもらったりしている。
「へぇ、お前らそんな長い付き合いになるんだ?」
「そーだな。俺にとっちゃ、大切な戦友――「そう、戦友!」ウェ!?」
俺の言葉を遮り、突然スイネさんが声を上げた。い、一体何事!?
「最初は見ず知らずだった二人が、戦場で出会い、そして手を携える。いつしか二人の間には友情が芽生え、お互いにとってかけがえのない存在になっていった――その友情がいつしか愛情に変わるって、よくある話でしょ!?」
「スイネさん、落ち着いて! あんた、キャラ変わってるよ!?」
ずいずいとスイネさんは俺に向かって迫ってくる。その表情は期待感に満ち、瞳はキラキラと輝いている。
俺とスザクに愛情? 無い無い、そんな訳無い!
「スザクは大切な仲間だとは思ってるけど、恋愛感情は無いかなぁ……」
「本当に?」
「いや、本当に――」
「よーく自分の胸に聞いて。もしかしたら、恥ずかしくてそうじゃないと思い込んでいるだけかも」
「……そんなに俺とスザクくっつけたいのか、あんた」
……女の子って、本当にこういう話好きだよなぁ……
- 770
:akiyakan:2011/03/17(木) 10:44:09
- 「んじゃ、トキコは?」
「トキコもねーよ。あいつはただの友達」
「ただの友達に、毎度お弁当のおかずをあげます?」
「あげるでしょー? それに、あれは俺があげてるっつーより、あいつが俺にたかってるっつーか」
「ふーん……ところで、スイネさん?」
「はい、なんでしょう?」
「実はですねー……数日前、シスイの奴が〝店長〟のレストランでトキコと一緒に飯食ってたらしいんですよ」
「あらあら、それって……」
……楽しそうだな、あんたら。つか誰だ、その情報リークしたの。店長か、ナツカさんか? 後で追求してくれる。
「トキコもねーよ」
「じゃあ、何で姉さんのレストランで一緒に飯食ってたんだよ?」
「デート?」
「違う! ……この間、トキコの奴学校休んだんだよ。それでその日の放課後街中走ってたら、偶然あいつ見かけて……で、話しかけたらなんか機嫌悪いし元気無いし……で、景気付けにと思って飯に誘って……」
「ヒュー……やっさしぃ」
「茶化すな! 仕方無いだろ、見てられなかったんだから!」
元気だけが取り柄のあいつが、信じられない位元気無かったんだぞ!? なんかしてやりたくなるだろ、フツー!?
「優しさだけが、シスイの取り柄だからね」
「だけってなんだよ、だけって……」
「優しさぶっ飛ばして、ただのお人よしの気もするけどな」
「悪いかよ」
「いや、悪くは無いけど」
いつの間にか、二人に遊ばれている……まぁ、誰かに弄られるのはいつもの事だけど。それに、こうしてふざけ合うのは嫌いじゃない。
――しかし、あちらさんはそれを許してくれないらしい。
「!」
真っ先にスイネさんが気付いた。それから、俺達もそれの出現に気付く。歪な人の模造品が、俺達の目の前に立っていた。
「パニッシャー……」
出現の予兆が全く無かった……流石だ。探知型能力者でなければ察知出来ないというのは本当らしい。こうして対峙していても、奴からは「現実感」を感じない。
「ハヤト、スイネさんをしっかり守っていてくれ」
「おう!」
「天子麒麟」のオーラで全身を包み込む。それに対応して、いくつもあるパニッシャーの目が俺の方を向く。その手に、マシンガンを構えるのが見えた。
「――ッ!」
一気に加速し、相手との距離を詰める。弾丸が飛んでくるが、「麒麟」の力を纏った俺に、こんなもの銀球鉄砲と何も変わらない……!
(相手が殺人機械なら――躊躇は要らない!)
相手が構えているマシンガンを奪い取り、一撃で粉砕する。続けてパニッシャーを組み伏せ、俺は拳を振り上げた。
(狙いは一点……首の駆動用バイパス!)
人間の首の骨と同じだ。こいつの首の部分には、その運動機能を司る太いケーブルが走っている。そいつを破壊すれば、一撃でこいつは止まる!
- 771
:akiyakan:2011/03/17(木) 10:44:45
- しかし――
「な、え!?」
「!?」
ハヤトの声が聞こえ、俺はそちらに顔を向けた――その瞬間、俺は自分の目を疑ってしまった。
「な――!?」
スイネさんとハヤトの背後。そこにもう一体の機械人形――パニッシャーが立っていた。
(そんな馬鹿な、パニッシャーは単独行動するんじゃなかったのか!?)
俺は急いで二人の傍へ向かおうとして――しかし出来なかった。俺が組み伏せていたパニッシャーの体のあちこちから、無数のケーブルのような物が延びて俺の自由を奪ったのだ。
「な!?」
パニッシャーにこんな機能無かった筈――じゃない! 駄目だ、強化した膂力でも引き剥がせねぇ!
「ハヤト、スイネさん!」
二人の方を見ると、ハヤトがパニッシャーに組み付いていた。どうやら俺と同じように組み伏せ、その隙にスイネさんを逃がそうとしているらしい。
だが、
「うわぁっ!? な、なんだこれ!?」
そのパニッシャーからも、無数のケーブルが生えてきて、ハヤトの身体に絡み付いていた。スイネさんはどうしていいか分からず、その場で硬直しているのが見えた。
(このパニッシャーは――)
俺は絡みつくケーブルを引き剥がそうとしながら、このパニッシャーの行動の意味を考えていた。
このケーブルに、殺傷能力のようなものはない。あくまで俺達を捕らえ、動きを封じようとするだけだ。パニッシャー本体も、ケーブルで俺達を捕縛する以外に動こうとはしない。つまりこのパニッシャーは、捕らえた俺達を動けなくする事だけが目的のようだった。
(俺達を動けなくする。その理由は――!)
そこで一つの考えが思い浮かび、俺はゾッとした。
「スイネさん、逃げて!」
「え、え?」
「ここから逃げて、スイネさん! こいつらの目的は――」
俺が言い終わるよりも先に、スイネさんの背後の空間が揺らいだ。思わず、俺の顔から血の気が引くのが分かる。まるで水面に浮かんだ波紋のような揺らぎを潜り、そこに三体目のパニッシャーが姿を現した。
「な、三体目!?」
ハヤトも、その出現に気付いた。スイネさんは振り返って悲鳴を上げ、後ろに数歩後ずさる。
- 772
:akiyakan:2011/03/17(木) 10:46:11
- 「こ、この……」
ギチギチと音を立てながら、少しずつ拘束が外れていく。しかし、今から向かっても間に合わない……パニッシャーが握っている銃が、ゆっくりとスイネさんに向けられていく。
「スイネさん――!!」
駄目だ、やられる。俺も、そしてハヤトも、そう思ってしまった。
その時だった。
「きゃ――!」
どこからともなく、三発の光弾が飛来した。二発はパニッシャーに当たり、その内の一発はスイネさんの前に留まる。スイネさんを狙っていたパニッシャーは爆発し、残っていた光弾が爆風からスイネさんを守った。その場で自ら弾けるようにして消え、それによってパニッシャーの破片を押し返したのだ。
「い……まのは?」
何が起きたか分からず呆然としていると、俺を拘束していたケーブルから力が無くなった。一体何が起きたのかと思って見てみると、パニッシャーの頭の部分に風穴が開いている。その部分が、バチバチと音を立てていた。
「痛ててて……」
「ハヤト、大丈夫か!?」
ハヤトの方も拘束が解けたらしく、俺は無事を確認しに駆け寄った。その身体に傷らしい傷は無く、見るとハヤトを絡め取っていたパニッシャーも頭部を一撃で破壊されている。
(俺達を避けて、パニッシャーの急所を一撃で……!?)
並みの能力者に出来る事じゃない。これをやった人物が、相当な技量を持っているという事が分かる。
しかし誰だ? 周囲を見渡しても、それらしい人間の姿はどこにも無い。
「あ!」
その時、スイネさんが何かに気付いて上の方を指差した。俺達も、それに連れられて上を見上げる。
俺達のすぐ傍にある電柱。その上に、それは立っていた。まるで兜のごときヘルメットで頭を覆い、全身を鎧のごときバイクスーツで包んでいる。漆黒の甲冑に身を包んだ騎士が、そこから俺達を見下ろしていた。
「あいつは……まさか……」
俺がスイネさんの方を見ると、それに気付いて彼女が頷いた。つまりこいつが先の襲撃事件の際、彼女を体育館裏に呼び出した張本人か!
「黒騎士」は電柱から飛び降り、俺達の目の前に立った。反射的に、俺とハヤトは身構える。
「……都シスイとハヤト、だな」
ボイスチェンジャーで変換された、くぐもった声が聞こえた。俺の目からでは、こいつが男なのか女なのか判別がつかない。
「……そうだ、と言ったら?」
「……かつてジングウと戦い、それを打ち滅ぼしたその力――」
「!」
こいつ、ジングウの事を知ってる!
「――どれ程のものか、見せてもらう」
そう言い終ると、「黒騎士」の全身を包むように光の球体が出現した。そしてその回りに、無数の光弾が浮かび上がる。
「シスイ、こいつ!」
「みなまで言うな――来るぞ!」
俺が注意を促すのと、「黒騎士」の攻撃が飛んでくるのはほぼ同時だった。相手の周りに浮かんでいた光弾達が俺達目掛けて殺到する。
- 773
:akiyakan:2011/03/17(木) 10:48:20
-
避けたら後ろにいる二人に当たる。そう思った俺は、その場で飛んでくる光弾を撃ち落そうと構えた。しかし拳が光弾に触れた途端、思いっきり軌道を逸らされるような、或いは押し返されるような感覚があった。光弾を消滅させる事が出来たが、腕が反動で震えている。
「く――重い! ハヤト、スイネさんを連れて逃げろ!」
予想以上に光弾の威力が高い。そう何発も受け止めきれるものじゃない。そう思ったら、気が付くと俺は二人に向かってそう声を上げていた。
「逃げろって……お前はどーすんだよ!?」
「適当に時間を稼いだら俺も逃げる――大丈夫だ、俺の逃げ足知ってるだろ?」
目の前の敵に注意しつつ、俺は二人に向かって笑ってみせる。それで決心がついたのか、ハヤトはスイネさんを連れてその場から走り去っていく。
「……さて、と」
俺は「黒騎士」の方を振り返る。奴は自分の周りに光弾を漂わせてはいるが、不意打ちなんかせずにその場で待っていやがった。もしかしたら、力試しにわざと力を抜いている線もあるが。
(奴の能力は厄介だ……)
俺の見立てでは、こいつの能力はジングウと同じエネルギーコントロールタイプ。無数のエネルギーボールを、まるで自分の手足のように飛ばしてきやがる。しかも一発一発の威力が馬鹿にならないくせに、一度に複数出現させる事が出来る。本当に厄介だ。
(何発も食らってやる訳にはいかない……)
強化した拳で止めてこのザマだ。直撃を、それもあれだけの数を受けたら間違いなくやばい。かと言ってあの光弾すべてを避けきれるかと言えば、それは無理な話だ。
「だったら――」
俺に取れる選択肢は、一つしか無い!
「黒騎士」が俺に手を向けた――その周りにある光弾が、俺目掛けて飛んでくる。しかし、狙いは甘い。やはり力試しか? 何にせよ、俺にとっては好都合だ。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――!」
急所に当たりそうな弾は避け、それ以外は無視しながら俺は「黒騎士」目掛けて突っ込む。光弾の当たった場所に鈍い痛みが走るが無視。弾幕を突っ切ると、「黒騎士」の姿はすぐ眼前にあった。
弾一つ一つを防いでいたらキリが無い――だったら、それを出現させる本体を叩く! 俺は全身全霊の力を込め、「黒騎士」目掛けて拳を突き出していた。
今までにも、様々な敵を打ち倒してきた俺の拳。それなりに威力はあると自負している。
――だが、俺の拳は「黒騎士」に届いていなかった。
「な……に!?」
目の前の光景に、俺は自分の目を疑っていた。「黒騎士」の全身を包み球の形を作っている光の膜。それが俺の拳を受け止めていた。
「無駄だ」
「黒騎士」がそう言った瞬間、奴の周りに光弾が現れた。ハッとした時にはもう遅く、俺の身体はその光弾によって弾き飛ばされていた。
「が――!?」
起き上がろうとしたが、体中に痛みが走る。見ると、制服のあちこちが破れて痣になっていた。気合で起き上がろうとするが、身体が言う事を聞かず震えてしまう。
「……その程度か、都シスイ」
ザッザッ、と足音を立てながら、ゆっくりと「黒騎士」が近付いて来る。
- 774
:akiyakan:2011/03/17(木) 10:49:17
- 「こんなものではない筈だ……神への反逆者、ジングウを倒した麒麟の力は」
「なんで・・・・・・その名を・・・・・・!?」
こいつ、俺達がジングウを倒した事知ってやがる……一体何者だ……!?
「――言っておくけど、ジングウを倒したのシスイだけじゃないぜ」
「な……!」
その声が聞こえて、俺は振り返った。そこには、さっき逃げた筈のハヤトがいた。
「シスイ、伏せろ!」
言うが早いか、ハヤトが深く息を吸い込むのが見えた。それが何を意味するか理解し、咄嗟に俺はその場に倒れ込む。
「――……ッ!!」
音の無い咆哮、形無き砲口。音波を収束して生まれる衝撃波が、俺の真上を飛んでいくのが分かった。衝撃波を完全に避け切れず、俺が着ている制服が引き裂かれていくのが分かる。紙一重の肌一枚ギリギリに、人間一人殺すには十分な一撃が掠めていった。
思わず冷や汗が出た。下手をしたら死んでいた。顔から血の気が引いていく。
「大丈夫か、シスイ?」
「馬鹿か、お前は……無茶しやがって」
ゼェゼェ息をつきながら、ハヤトが近付いて来る。あの収束音波砲はめちゃくちゃ強力だが、普通に能力を使うよりもずっと体力の消耗が激しい。こいつの息が荒いのはそれが原因だった。
「そー言うなって。それとも何、お前ごとぶっ飛ばせば良かったん?」
「んな訳無いだろ……悪い、助かった」
「いいって事」
ハヤトに肩を貸してもらい、何とか立つ事が出来た……やれやれ、これじゃ格好がつかないな。
「奴は?」
「ぶっ飛んだ……まぁ、ジングウじゃあるまいし――これじゃあ、ただじゃ済まないだろ」
そう言ってハヤトが視線を向けた先では、もうもうと土煙が上がっていた。音波砲が「黒騎士」を吹き飛ばし、更に周囲の埃を巻き上げた結果だ。近くに倉庫のようなものがあった筈だが見受けられず、おそらく音波砲に巻き込まれたのだろう。
「殺してないだろうな?」
「してないしてない……多分」
「まぁバリアを張っていただろうし、流石に死んでない――」
「流石に死んでないだろう」。そう言いたかったが、俺は最後まで言う事が出来なかった。
足音が聞こえる。俺達に向かって近付いて来る足音が、はっきりと。それは砂埃の中から聞こえ、そして砂埃のカーテンの向こうから、それはゆっくりと姿を現した。
「嘘……だろ……!?」
「黒騎士」は健在。バリアは消失し、スーツの一部が破損して火花を上げていたが、それを除けばほとんど無傷。どんな怪物も一撃で仕留めるハヤトの音波砲が、全く効いていなかった。
「…………」
無言のまま、「黒騎士」が手を上げた。再び奴の身体が光の膜に包まれ、その周囲に光弾が現れる。
「まず――」
ハヤトが俺ごと攻撃を避けようとしたが、間に合わなかった。俺達二人とも吹き飛ばされ、そして地面に叩きつけられる。
「がはッ!?」
「うごっ!? ……くそ、チート過ぎねぇか、あの能力……」
「まったくだ……攻防一体って、そんなのありかよ……」
全身から震えが取れない。起き上がろうにも、這い上がろうにも、四肢に力が入らない……!
「ち……くしょう……!」
「黒騎士」はもう目の前にいる。こんなところで寝ている場合じゃないってのに……!
その時だった。
- 775
:akiyakan:2011/03/17(木) 10:50:01
- ザッ、と誰かが走ってくるような足音が聞こえた。自然と、俺の首は後ろの方を向いていた。
「な――」
一般人でも巻き込んだら大事だ。そう思っていた。でも現れたのは一般人ではなく、しかしむしろ、この場において一番いてほしくない人物だった。
「スイネ――!?」
おそらくここまで走ってきたのだろう。肩で息をしながら、彼女はそこに立っていた。
「馬鹿野郎、何で戻ってきた!?」
思わず、そう声を上げてしまった。
こいつの狙いはスイネだ。だから俺は残って「黒騎士」の足止めをしようとした。ハヤトだってここに戻ってくる前に、「一人で逃げろ」と一言何か言った筈だ。スイネを守る。それが俺達の役目だったってのに……!
「あ――貴方の目的は、私なのでしょう?」
そんな俺達を尻目に、スイネが「黒騎士」に向かって言う。「黒騎士」がそちらへ向き直った!
「よせ……スイネ……!」
戦闘型能力者の俺達二人がかりでも倒せないのに、戦闘向けじゃないスイネの能力じゃ分が悪過ぎる!
――そう思った、その時だった。
「……!」
スイネが目を閉じ、両手を組んだ。その姿はまるで、神に向かって祈りを捧げる修道士にも見える。
(なんだ……彼女は一体、何をしようとしている?)
「黒騎士」はその間もスイネに近付いている。しかし彼女はそれに気付いていないのか、それとも無視しているのか、その姿勢を保ったまま動こうとしない。
「――!」
すると突然、「黒騎士」の動きが止まった。何が起きたのか俺達もスイネの方を見て、思わず目を見張った。
彼女のすぐ傍に、何やら煙のようなものが漂っていた。一体いつからそこに出現していたのか全く分からないが――ともかくそれが漂っており、スイネの傍らに浮かんでいる。やがてそれは一箇所に集まり、そして何かの形を作ろうとする。
やがて出来上がったのは、霞で出来た馬だった。スイネの体格の倍以上はある馬。しかもただの馬ではなく、頭部に長い角を備えたユニコーンだ。
「っ……行って!」
能力使用の反動からか、一瞬スイネの身体がぐらついた。しかしすぐに彼女は持ち直す。そしてスイネが「黒騎士」に向かって指を指すと、霞のユニコーンはそれに命ぜられるようにして突進した。
「く――」
「黒騎士」はそれに対応して光弾を発生させ、ユニコーンにぶつけるが、弾が当たった瞬間ユニコーンは一瞬砕け散るものの、すぐにまた霞が一箇所に集まってその身体を再構成する。それは何発「黒騎士」が光弾を当てても、同じ事だった。
(あのユニコーンは……スイネの思念体で構成されているのか!?)
スイネの能力は、自らのイメージを具現化する事。俺の脳裏に、その事が思い浮かぶ。それならあれは、彼女のイメージが具現化したものなのだろう。
イメージを具現化する際、スイネは体力と集中力を消費する。それ故に、彼女は長時間の戦闘において自分の能力を効果的に発揮する事は出来ない……だったら、「自分の代わりに戦ってくれる存在を作り出せばいい」。今「黒騎士」と戦っているユニコーンは、つまりそういう事なのだろう。
- 776
:akiyakan:2011/03/17(木) 10:50:34
-
ユニコーンに対し、「黒騎士」の攻撃は一切通用していない。「霞を切り裂く術は無い」。その言葉の通り、例え砕けてもすぐにその形を取り戻す。ユニコーンの突進は止まらず、ぐんぐん「黒騎士」との距離が詰まっていく。
「――!」
そしてついに、ユニコーンの角が「黒騎士」を捉えた。ユニコーンの身体が「黒騎士」とぶつかり、その身体を覆っているバリアと力が拮抗する。エネルギーとエネルギーがぶつかり合う際生じる特有の放電現象が発生し、俺達の視界を閃光が覆う。
視界が回復し、再び俺の目に映ったのは――霞のユニコーンから後ずさり、その腕に傷を負った「黒騎士」の姿だった。
「くっ……」
「退いてください……加減なんか出来ませんよ!」
スイネがまるで、威嚇するように「黒騎士」に向かって言う。その表情は真剣そのものであり、これ以上抵抗するなら「加減なんか出来ない」という言葉の通り、ユニコーンを使って徹底的に打ちのめすつもりだ。
「…………」
スイネの本気を感じ取ったのか、それとも別の理由があったのか。「黒騎士」はしばらくスイネの方を見つめた後、その場から走り去っていった。
「だ、大丈夫ですか、二人とも!?」
「黒騎士」の姿が見えなくなると、スイネは俺達の方へと駆け寄ってきた。俺達は親指を上げて無事を知らせる。
「助かったぜ、スイネ……あんた、強いんだな」
「いや、その……何と言うか、無我夢中だったというか」
「守る側が、逆に守られちまったな……」
可憐に見えるが、騎士に守られるお姫様、って柄ではない。彼女も立派な、アースセイバーの戦士であり、俺達はそれをちゃんと認識出来ていなかったという訳か……やれやれ、締まらん話だ。
「……取り合えず、こんなんじゃ一歩も動けないわ。シスイ、ラー呼んでくんね?」
「いいけど、また莉絵さんに大目玉くらいそうだな」
「言えてる……ついでに、バクのおっさんにも叱られそうだな」
「だな」
同じ事を考えながら、俺達は顔を見合わせて苦笑を浮かべずにはいられなかった。
「〝物体具現化〟……なるほど、あれが彼女の力、か……」
戦闘エリアから離れ、人目のつかない場所まで来た時、「黒騎士」はBDのヘルメットを脱いだ。
『どうですかな? 私が興味を持つ逸材だという事が理解してもらえたでしょう?」
「まぁ、多少は……」
『パーフェクトウエポンの調子も良いようですしね……これからもよろしく頼みますよ、ミツさん』
通信機から聞こえてくるジングウの声に「彼」――ミツは「はい」と静かに答えた。
※サトさんの「スイネ」、鶯色さんの「ハヤト」をお借りしました!
※途中からシスイのスイネへの呼び方がさん付けから呼び捨てへと変わっていますが、仕様です。誤りではありません。
※スイネの能力を独自解釈した結果、劇中のような使用をさせていただきました……「こんな事出来ません!」だったらごめんなさい、サトさん……
※最後の部分ですが、本当は書きたくありませんでした……しかし一年間ここから離れなければならず、止む得ず設定だけ残そうと思ってこのような運びとなりました。詳細に関しては、後に企画キャラ版の方に載せておきます。
- 777
:akiyakan:2011/03/17(木) 10:54:24
- 神に挑む者達
「――まさか、こんなところで会うとは思いませんでしたよ……ホウオウ」
そう言いながら、私は目の前にいる男に向かって笑いかけた。私のすぐ隣にいたサヨリさんは驚愕の表情を浮かべたまま固まっており、レリックは目の前にいる人物が何者であるのか分かっていないようだった。
「……ジングウ、か」
「お久しぶりですね……言いたい事があるなら、烏を通さずとも自分から来れば良いものを」
「私からお前に対して言う事など何もなかった……ただ、クロウは私がなぜお前を泳がせているのか分かっていないようだからな。奴に分かりやすいように言ってやったまでだ」
「なるほど」
ホウオウと会話しながら、私は歓喜を抑えずにはいられなかった。この男は六年前から全く変わっていない。その事実が、私には無性に嬉しかった。そうでなくては面白くない……!
「じ、ジングウさん!」
「何ですか、サヨリさん?」
「相手が一体誰か分かっていらっしゃるんですか!? ホウオウ様ですよ、ホウオウ様!」
「そんな事分かってますよ……もしかして、カメラの機能が落ちましたか? ちょっと見てあげましょう」
「頭の先からつま先まで私は正常ですよ! 変なのはジングウさんの方です!」
「ぐー、このおじちゃん、だれ?」
「あーもう、りーちゃんまでー!!」
私達の態度が、ホウオウへの礼節に欠いたものだと思えたのでしょう。サヨリさんは頭を抱えたり天を仰いだり、「すいません、すいません」とホウオウに頭を下げていたりする。あまりにも予想通りである彼女の行動に、私は内心で可笑しいと思わずにはいられなかった。
「サヨリさん、この男がタメ口や呼び捨て位で所属員を切り捨てるような底浅で器の小さな奴に見えますか?」
「ちょ、ジングウさんー!」
「むしろ、本音を隠しておべっかを使う方が、この男にしてみれば無礼にあたるというものですよ」
「そうでしょう?」と私はホウオウの方を見る。彼は私の言葉に答える事は無く無言であり、それを私は肯定として受け取った。
「……それより、私に何か用があるんじゃないのか」
「いいえ? 強いて言うなればそう……貴方の顔を見てみたくなっただけです」
ホウオウが私を見据えた。一見すると無表情な中に、私を探っている感じがある。当然だ。彼からしてみれば、「現在の彼」をこんな風に見ているのは私位なのだから。
「……ジングウ。先の戦いでお前は、私を超えた、と言ったそうだが」
「失敬、それは耳が痛い。今思えば、あれほど慢心していたのは自分としてもどうかしていましたよ」
……あの五人の実力を完全に見誤っていました。
それぞれを単体一個として見ていたのが間違いだった。彼らは言ってみれば「部品」だ。一つ一つの力は大した事無いが、結び付く事によって強大な力を生み出す。その事を、私は失念していた。
またそれだけでなく、都シスイの徳性を私は甘く見ていた。彼が麒麟であるなばら、その母たる大地が力を貸さない筈が無い。私は五人の能力者を相手にしていたのではなく、実質いかせのごれの大地を相手にしていたのだ。「あの時の私」程度の力では、敗北しても当然の結果だ。
「……次のゲームでは、もう少しうまく立ち回らせていただきますよ」
「…………」
ホウオウはもう私に対して用は無いとばかりに、背を向けて歩き出した。しかし数歩進んだところで、不意にその足が止まった。
「ジングウ」
「はい?」
「……私に忠誠を誓う意志はあるか?」
「……一人の男として、貴方を認めてはいますがね……だからこそ、貴方に忠誠を誓うなど我慢ならない」
「そうか」
――見間違い……でしょうか。一瞬見えた奴の口元が、なんだか微笑っているように見えたのですが……
私が首を傾げた瞬間、瞬きをしたほんの一瞬の内にホウオウの姿が見えなくなった。やれやれ、現れる時もそうですが、去る時も一瞬ですねぇ。
- 778
:akiyakan:2011/03/17(木) 10:55:58
- 「じん゛ぐう゛さ゛ん゛~」
「何ですかサヨリさん、見っとも無い声を上げて」
私が顔を向けると、そこには涙目になったサヨリさんの顔があった。
「怖かったですぅ~、めちゃくちゃ怖かったですぅ~」
「だから言ったじゃないですか、あの男はタメ口や呼び捨て程度で首を切る程器の小さい男ではないと」
「それにしたってホウオウ様ですよ、ホウオウ様ー! 何であの人の目の前でそんなに堂々としていられるんですか!」
そりゃそうですよ。あの男程度でビビッているようでは、何時まで経っても神なんて超えられませんし。
――それに。
「あんまり、そうホウオウを「自分とは別の生き物」に考えたら、可哀想というものですよ」
「可哀想……ですか?」
「ホウオウは神への挑戦として合理的な世界を築こうとしている。そしてその志に共感し、今では百人規模のメンバーが集まった――集まった一方で、自分が「ホウオウの仲間」だと思っているのは、果たして何人いるでしょうね」
「え?」
「大方、構成員の大半は「ホウオウの部下」、或いは「しもべ」とでも思っているでしょうよ」
そこが、龍儀の使い手にしていかせのごれの救世者、ケイイチとホウオウの決定的な違い。
ケイイチとその仲間の結束は、それこそ「絆」と呼ばれる目に見えない、しかし確かに存在する強い結び付きで成り立っている。そして何より、彼は救世主にして英雄であるが、だからと言って仲間達は彼を恐れ敬うような真似はしない。自分と同じ血の通った人間、つまり「自分と同じもの」だと認識し、そして接している。
一方、ホウオウグループはどうか。グループ内における所属員同士の結束も、「仲間」のそれであると言えるでしょう。上下関係は実質無いに等しく、表向き仲が悪いように見えてその実仲が良いというのはよくある話だ。セキ君とバツの関係など良い例でしょう(だからと言って、あの烏男と馴れ合えと言うのは無理な話ですが)。
しかし、それが通じるのは「所属員の間で」のみだ。これがホウオウに関しては全く別になる。大半の所属員にしてみれば、ホウオウは絶対崇拝者のようなものであり、世間一般では言うところの神と同格だ。自分と同じ存在と思う事自体がおこがましく、自分と並べて考える事自体が間違っていると言ってしまう程だ。それ位、所属員にとってホウオウの存在は大きい。
だが、それ故に、ホウオウにとって真の意味で「仲間」と呼べるものは誰もいない。
「彼に「仲間」はいませんよ。なぜなら、仲間は自分と相手が「同じモノ」だと認識するところから初めて始まるのですから」
「あ……」
「しかし、誰もそんな簡単な事に気付いちゃいない。ホウオウを恐れるあまり、崇めるあまり、彼だって元々は我々と同じモノであったという事を忘れてしまっている。まるでさも「生まれた時からああであった」かのように誰もが思っている……」
崇拝する側にしてみれば、そうでなければ困るのだ。崇めるモノが、自分と同じモノであってもらっては困る。自分を支える為に自分と同じモノに縋っているなど、そんな事、崇拝者には耐えられない事実だ。それでは「都合が悪い」、のだ。
「で、でも……ホウオウ様にはきっと、仲間なんていらないんですよ。だって神を超えようとしている人なんですよ? それなのに仲間が欲しいなんて、何だか女々しいじゃないですか……」
「じゃあ実際、ホウオウは仲間なんていらないと思っているんですかね?」
「それは……」
「サヨリさんが言った言葉にしたって、それは崇拝する側が勝手に思い込んでいるだけかもしれないですよ」
何時の世も、大衆とは身勝手なものだ。人の上に立つものを、自分にとって都合のいい形に考える。
「神に近付けば近付く程、人は孤独になっていく。なぜなら、神の座は人の世からあまりにも遠過ぎるから。絶対者に近付けば近付く程、あの男は独りになっていくんですよ」
私はサヨリさんに教授するように、そう言いました。
――その時ジングウは、果たして気付いていたのだろうか。
「神に近付けば近付く程、人は孤独になっていく」。
それが真実ならばつまり、神を超えんとする彼もまた「独り」の人間であるという事に。
※本家より「ホウオウ」をお借りしました!
※後遅ればせながら、企画小説200作突破! このままだと300どころか1000も夢じゃない!?
- 779
:サト:2011/03/17(木) 18:13:03
- 節電協力のため携帯から失礼します
akiyakanさんご無事だったんですね!!本当によかったです。心配してたんですよ~!
さて、小説ですが、普段感想を書くのも他のお子さんをお借りするのも萎縮してしまってできるだけ自粛させていただいていますが、いつもスイネを使っていただいている上、一年もお会いできないとのことで感想を。
- 780
:サト:2011/03/17(木) 18:14:43
- スイネのイメージピッタリですね!!わたしが書くよりもスイネらしい!!w
彼女の具現化能力は、まさしくこんな感じで、彼女の思念がそのまま形になったものです
“少ない集中力で具現化する形としては『執着』のイメージを鎖にして相手を拘束することが主だった戦闘スタイルです”
ユニコーンかっこいい…!
スイネはある意味神話ベースに生まれてきた“神”ですから、こういう空想的動物は彼女らしいと思いました!
シスイくんやハヤトくんとの絡みも、ニヤニヤさせていただきました。人間らしいスイネの詰めよりかたにタジタジなシスイくんも可愛かったですー
それから、天然(というよりかは純粋に無知?)なミツくんも、どこか癒されますよ~!
そして、察しているのか勘違いをしているのか。トキコちゃんの満面の笑みが想像できましたw
これからakiyakanさんの作品がしばらく読めなくなると思うと寂しいですねー…
- 781
:大黒屋:2011/03/17(木) 19:04:17
- 依頼系列はこれでひと段落です。
スゴロクさんよりホウオウ兵器「パニッシャー」をお借りしました。
宣戦布告と赤き左目
その一瞬は、本当に突然ことだった。
人通りの少ない路上。
そこで組み合っていたのは二人。
いや、組み合っていたという表現は正しくないだろう。
不意打ちを食らい、胸に真っすぐ剣を突き刺されたのだから。
遡ること20分前。
旅行から帰って来た店長達は、いつも通りレストランを開いていた。
「皆無事でよかったです。」
「楽しめるのが一番だからな。」
昼時の忙しい時間帯。ノルンとノアも、店員に混じって手伝っていた。
「あのシドウさんとはあれから分かち合ったんですよね。」
「ええ。私と、シドウさんと、あと星ちゃんも。」
店長は鍋を振りながら明るく話していた。
「乃亜、食材きれたから買ってきてくれない?」
「あ?別にいいけど。でもなんで俺?」
「昼間だから人手が足りないのよ。あんた狙われてるのはあるけど、能力あるから大丈夫じゃない?」
「そういうことな。分かった、いってくる。」
ノアは財布を受け取った。
「いざというときは携帯で連絡しなさいよ。」
「分かってるって。行ってきまーす。」
気楽な様子でノアは出ていった。
まぁ、町のど真ん中で人襲うほど、ホウオウも馬鹿ではないと信じていた。
そう。このときまでは。
「ち…くしょう!!」
後ろに蹴りだし、刺さっていた剣を抜く。
不意打ちに対応しきれずあとから能力を発動したため、治りに時間がかかる上にダメージが残る。
ノアは後ろの人物から間を置き、振り返った。
ぎしぎしと関節が音を立てている。
それは「人」ではない。
ホウオウグループが開発した兵器「パニッシャー」だった。
(なんでだ…?パニッシャーは、ホウオウも放棄同然だったはずだろ…?)
体を支える足がふらつく。対するパニッシャーはこちらに拳銃を構えていた。
手探りで探していた携帯を弾かれ、眼の前に数発撃ちこまれた。
胸からの出血が止まらない以上、無防備も同然である。
それを知ってか知らずか、パニッシャーはゆっくりこちらへと向かってきた。
「…最悪っ…。ありえねぇだろ、こんな…。」
逃げ切れないまま、バランスを崩して座り込む。
その眼と鼻の先に拳銃を突きつけられる。
もう、ダメだと、ノアは顔をそらした。
遠くから、誰かの声が聞こえる。
最初は気のせいかと思っていたが、その声はだんだんと、はっきりとした言葉に変わっていった。
「…せろ…ぐ…。」
(…え?)
「ふ…今…っ!」
(何か…聞こえる!)
「ノア…!」
(俺の名前!)
「ノア!伏せろ、今すぐに!!」
言葉をとらえて上体を伏せたのと、頭上を何かが通るのがほぼ同時だった。
何かにぶつかったらしいパニッシャーは、胸から遠くに飛ばされる。
伏せていたノアの眼の前に、誰かが降り立った。
その姿を見、ノアは名前を叫んでいた。
「…星…。」
「悪い、遅くなっちまった、ノア。」
振り返った星は、見なれた星ではなかった。
左目を隠していた包帯がない。
いや、正確には星自身の手で取り払われていた。
そして、そこから覗く左目。
それはもはや「左目」ではなかった。
白眼も、黒眼も、赤く透き通っていた。
そこから生気が感じられるはずもない。
強いて言うなら、「石」。
その左目は「石」だったのだ。
驚くノアをかばうように立ち、その「石」で真っすぐパニッシャーを見据えた。
パニッシャーは立ち上がり、拳銃を構えた。
「…そんな玩具で、私に勝てんのか?」
星は強く笑い、手に握られていた包帯を振った。
握っていたところから原型が崩れ、形を変えていく。
それは連鎖していくように広がって行き、包帯は一つの帯剣へと形を変えた。
「重力操作」しか知らないノアはますます驚く。
星は、ひとり言のように語りかけた。
「ほら。これがお前らが望んでいた「能力」なんだろ…?」
- 782
:大黒屋:2011/03/17(木) 19:04:55
- ほんの一瞬の出来事だった。
正面切って飛び出した星の帯剣は、パニッシャーの胸を貫いた。
そのままつきあたりの塀まで押しこむと、壁を蹴り上げパニッシャーごと宙返り。
着地点で上にのしかかり、剣を更に奥深くまで突き刺した。
剣を突き刺したまま、パニッシャーの首をつかんで引き起こす。
「おい、ノア。これ、ホウオウと関係があるんだろ?」
「…ああ。でも、向こうも廃棄扱いだったからなんとも。」
「ま、いいや。誰か聞いてるだろ。」
「おい、聞きやがれホウオウグループども!」
星が声を張り上げた。
「てめぇらはうまくやったつもりかもしれねぇが、私は全ての真実を手に入れた!クランケに私の左目を奪わせたこと、怪盗一家をてめぇらの内にとりいれ、いいように利用していたこと。そして…。」
一度言葉をきる。これが、人生を変える大事な言葉。
大切に抱え、星は言いきった。
「この「賢者の石」はてめぇらの兵器で、私はこの石の媒介だということもな!!」
木・火・土・金・水
東・西・南・北
春・夏・秋・冬
陰・陽
裏・表
青龍・朱雀・白虎・玄武・麒麟
ありとあらゆる摂理は
常にその例外なく
私たちを取り巻く
ただ、本当に例外があるとするならば?
等価交換の法則、質量保存の法則を完全に無視し、手元に何かがあれば思い通りに物質を作り出すことができる「賢者の石」。
かつて錬金術が学問とされていたころ。それは伝説の道具としてあがめられ、作り出そうと何人もの人間が命を削った。
それが、圧倒的な科学力を持つホウオウグループにより開発された。
美しく、醜く、赤く輝くその石は、その時はまだ未完成だった。
そこで考え出された方法こそ、「人体を媒介にし、石を完成させる」方法だった。
メスを握りながらもためらうクランケ・ヘルパー。
それを急かすギルティー・キングも、尊い命が犠牲になることに涙をこぼしたという。
すべての物質を意のままに操る「練成」と引き換えに、彼女は左目を、愛を、命を自由に使うことを、失ったのだった。
「だからこそ、私はこの能力でてめぇらをぶっ潰す!私は改めて、てめぇらに宣戦布告する!!」
石の奥に刻まれた、黒いホウオウのエンブレム。
石のために自分が死ぬのが定めというのなら、その運命に抗うことはしない。
しかし、命を軽率に扱うホウオウは、自分が生きている間に潰してやると、堅く誓った。
ストラウル跡地の謎の崩壊事件も、「重力操作」による星のアンチホウオウ宣言。
彼女に迷いは、もうなかった。
胸の剣を抜き、パニッシャーに思い切り振り下ろした。
これがそう。ホウオウ崩壊への第一歩と信じて。
崩れ落ちるパニッシャーを横目に、星はノアに向き直った。
「怪我、大丈夫か?送っていくぜ。」
「あ、ああ。怪我は治った。でも危ないだろうから、頼む。」
ノアは立ち上がった。
「その…ありがとうな。」
「ああ、いいんだよ。私の個人的なことだったわけだし。」
「…その眼、ホウオウにとられたんだな。」
「結果的にはな。そんな感じだから、元の左目なんざ残ってないだろうよ。」
話して聞かせる星には、どこか吹っ切れたような空気があった。
「ま、とりあえずアンチホウオウ第1段として、お前らの護衛ってことで、どうだ?w」
「え!?」
「いいじゃねぇかw基本的に暇な浪人だし。月光にも協力してもらうし。」
笑いかける星が、ノアには心強く思えた。
「…分かった。ありがとう。そして、よろしくな。」
- 783
:十字メシア:2011/03/18(金) 00:05:42
- 「あー、ハヤトちゃんだ」
「ちゃん付けやめろ。男の俺にそれはおかしいだろ」
「女の子顔で言っても説得力ないよー」
「女顔で悪かったな」
ばつの悪そうな表情のハヤトを見て、ミユカは「キシシシッ」と笑い声を上げた。
「お、上手そうなお菓子あるじゃん」
「え?」
ミユカはハヤトの視線を追う。
ハヤトが見つめていたのは、カナミが風月堂で買った苺大福。
ハヤトはそれに手を伸ばし、そして―――。
「いっただきー」
「あーー!!!」
ミユカはハヤトの行動を止めようとしたが、時は既に遅し。
苺大福はハヤトの口の中に入ってしまった。
「何だよ、大声出して」
「えと、それ…カナちゃんが買った物なんだけど…」
ミユカの言葉に、ハヤトは一瞬にして石になる。
「…マジで?」
頷くミユカ。
その時。
ガチャン!
「あ…」
「カ、カナ…ちゃん…」
気まずい空気が流れはじめた談話室に入って来たカナミの目には、大粒の涙が溜まっており、足元には抹茶が入っていたであろう、湯呑み茶碗が割れていた。
「わ、悪いカナミ!その、お前の物だったとは知らなくて…」
ハヤトは必死にカナミを宥めるが、落ち着くどころか逆に涙をこぼしはじめた。
「それ…1時間…も、並んで買っ…たの…にぃ…」
3人は更におののく。
カナミがここ―――ウスワイアで泣くと、決まって必ず、大変な目に会うからだ。
「ひくっひくっ…うぅ~…」
「カ、カナちゃん!泣いちゃ駄目だよ!」
「う、うぁ…」
この場の状況を判断してか、聖が談話室を出ようとした時だった。
「うわぁあああああああんっ!!!!!」
カナミがけたたましい声で泣きはじめる。
それが引き金となり、談話室に激しい嵐が巻き起こった。
「うぉおおお!?」
「ハヤトちゃんのバカポンタン!全部ハヤトちゃんのせいだよッ!!」
「だからちゃん付けやめろ!つかバカポンタンって何だよ!!」
「その前にこの状況どうにかしろ!!」
その時、大混乱の談話室にシノが入って来た。
「な…どうしたんすか一体!?」
「どうもこうも、ハヤトの馬鹿が、ガキの和菓子食って今の状況になったんだよ!」
「百科事典さん助けて~!」
「わ、分かったっす!」
そう言って、シノは銃を構えた。
「え、銃!?」
「大丈夫っす!これ麻酔銃っすよ!」
カナミの腕に狙いを定め、シノは引き金を引いた。
チュン!
軽い銃声が響いた後、カナミはその場に倒れ込んだ。
「た、助かった…」
「百科事典さんありがとー」
「いいっすよ、早めに抑えてよかったす」
「で、どーすんだ、こいつは」
何事も無かった様に眠りこけるカナミを見やって、聖は言った。
「アタシが治療室に運ぶっす。しばらくすれば起きるっすよ」
―――後日、カナミを泣かせた罰として、ハヤトは苺大福を買いに行かされたそうな。
自分からは「カナミ」「ミユカ」「シノ」「シグマ」(名前のみ)、スゴロクさんから「蒼井
聖」、鶯色さんから「ハヤト」、本家から「アキヒロ」(名前のみ)をお借りしました!
ちなみに作中に出て来た「風月堂」は、カナミ行きつけの、いかせのごれ一有名和菓子店ですw
和菓子は上手い!(ぇ
- 784
:サト:2011/03/18(金) 19:05:27
- ■最大なる受難者
タカユキ君にほぼ無理矢理携帯にアドレスを登録されてから、
わたしの携帯に彼からの着信はない
といっても、携帯が鳴ったところでパニックに陥るのはわかっているので、
内心ビクビクしているのだ
『おい。なんだよまた本読んでんのか?』
『あ…ハヤト』
同じウスワイヤのハヤトは、
どうやらクラスメイトに雑用を頼まれて図書室に足を運んできたらしい。
両手にはいっぱいの荷物を抱えていたが、カウンターにそれらを置くと
ぐったりしたように椅子に腰かけた
『つっっっっかれたぁ……』
『ハヤトは本当に使い走り体質みたいね』
『否定はしない…つーかできない…』
はぁ、と盛大なため息をついて机にうなだれるハヤトに
くすりと小さく笑うとぎょっとされた。
驚くからそういう反応はやめなさいよ。まったく
『パニッシャーん時も思ったけど、スイネがちゃんと笑うとびっくりすんな』
『失礼ね』
『いや、ウスワイヤにいるときいつも…なんつーか険しい顔のイメージがあったしさ。近寄りがたかったというか』
『わたしの鎖の餌食になりたいみたいだね。了解した』
『嘘、嘘!!』
ハヤトが、がしがしと自分の頭を乱暴にかきむしって、
ホントイメージと違うんだよなー。と呟いたのと同時に、ムーッムーッというマナーモード特有のバイブ音が響いた。
微かに自分のポケットが震えていたので液晶画面を見ると、
信じられない文字の羅列に凍りついてしまった
【発信者:タカユキ君】
『あ、電話?じゃあ俺席はずし…』
『ややややややだ!!行かないでハヤト!!』
『ちょ、ぐぇっ!襟元をひっぱるなよやめろって!』
『わ、わ、わた、わたしどうしよう。これどうしたらいいの?!』『なんでそんな取り乱してんだよ!ヤバイ奴からの電話なのか?!』
『わたしからしたら今まで対峙してきたどんな敵よりもヤバイ相手よ!!』
『(誰だよ!?)』
『ととととにかくどうしよう、わたし電話なんて、そんな、何を話したら…』
『とにかく出たら?用があるから向こうが電話してきてんだろ?』『…そ、それもそうよね』
震える指で『通話』のボタンを押して、携帯を耳に押し当てる
………しばらくの無言
- 785
:サト:2011/03/18(金) 19:09:50
《…スイネ?》
『は、はい!』
声がひっくり返ってしまう。
直接鼓膜に響く低い声に心臓がドキドキと暴れまわる
…こんなに緊張したのは、
自分の母であるイブと対峙した時以来ではないだろうか
(いや、同じにしちゃいけないとは思うけれど)
《…》
『…』
《……》
『………!!』
助けてほしい気持ちが沸々と胸に溢れて、
ハヤトを見つめるけれど、ハヤトも困ったようにボリボリと頭をかいて
『なんかごめん』と呟いていた。謝罪はいらないから頼むから助けて!
《日曜日暇だろ》
『暇です……え?』
《朝十一時半、駅な》
『えっ?!あっ…』
ツーツーという通話が途切れたことを示す電子音に
あんぐりと口を開けたまま突っ立っていると、
ハヤトがふらふらとわたしの眼前で手をふった
『おい、どした』
『日曜日…駅?』
『おまえそれデートってやつじゃね』
『デデデデデデートぉ?!』
- 786
:サト:2011/03/18(金) 19:14:05
『絶対違うわよ!なにバカなことを言って…』
『何時に待ち合わせなんだよ』
『え?…ああ、十一時半』
『それ、一緒にメシ食おうってことじゃねえの』
『な…』
とたんににやにやしはじめたハヤトが、わたしに
『そーかそーか』とゲスな
(酷い?的確な表現じゃない!)
笑みを浮かべながら何かをポケットから取りだし
わたしの左手に握らせた
『これは………?!』
話しには聞いたことのあるそれ。けれど一度も見たことの無いそれ
『な…な…なに、これ』
『いや、何ってコンド』
『死ねー!!!!』
低集中で具現化を可能にする『鎖の執着』を発動させて
ハヤトの首を絞めると、『ぐぇ』と情けない声をあげた
『やめろよ一般校舎で!』
『それはこっちの台詞よ!まだ夕方の図書室。誰かがいたらどうするつもりだったのよ!!こんなところ…見られでもしたら…』
『わりぃって、わりい!……てゆかこの鎖』
『あんたの“性に対する執着”よ。このドスケベ!!』
『俺まさかのムッツリ?!』
とにかく落ち着いてくれよ。な?
よく考えてもみろよ。男と二人、日曜にデートだろ?
しかも健全な高校生男女が、
なにもしない保証なんかないんだぜ?
もっておいて損はねーから!!
…などとまくしたてられてしぶしぶ鎖を解放すると、
ハヤトはぐったりとうなだれてしまった
『容赦ねーんだもんな…』
『もう。いい気味よ』
そう言いながらハヤトの背中を撫でている姿を、
誰かが図書室の影から見ていたのだけど、
この時のわたしは、その穴が開くほどの視線に気づくことができなかった
『…俺帰るわ』
『またね』
『おう』
『……げっ!これわたしに持たせたままじゃない!!……こ、んなの、捨てるに捨てられないし、ハヤトのバカアアアアア!!』
おまけ
『KEA、よかったな。スイネがオーケーしてくれて』
『は?』
『日曜誘うって言ってたじゃねえか。いやー、よかったよかった』『俺まだ誘ってねーけど』
『……』
『………あー』
『…誰だよ相手えああああああああ!!!!!』
『知らねーよ俺につっかかんな!!!!!』
最大の受難者は
スイネでも、KEAでもなく
ハヤトだったという――
- 787
:サト:2011/03/18(金) 19:16:22
- 鶯色さんの『ハヤト』くん
本家から『タカユキ』『KEA』くんお借りしました
- 788
:(六x・):2011/03/19(土) 02:13:56
- 生きておりますです(六x^)
感想やらなんやら。
>大黒屋さん
旅行編見ました!冬也、プレゼント用意したまではよかったな。
しかも、完全に「彼女に渡す」と認識されてしまったしなww
・・・これって、私の小説で渡してもいいんでしょうか?
本編いっくよー
短めなの2つです。後者は続くかもしれない
ハヤト先輩と俺
「うう・・・どうすればいいものか」
冬也です。先日の旅行で作ってもらったキーホルダーですが、いまだに凪姉に渡しておりません。
「ん、お前時々凪と一緒にいるチビじゃん。どしたの?」
「どうせボクはそのへんの女子よりも小さいですよ。今でも中学生に間違われるんだからもう笑うしかねえwヴェッwwwwヴェッwwwあと、チビじゃなくて冬也です。」
「いや、まだ望みはあると思う。20歳超えてから伸びた人の話も聞くし。冬也もきっと伸びる!・・・よく見ると可愛い顔してんな。いや、変な意味じゃないよ。さぞかしもてるだろうなー。」
「そうでもないですよ。むしろ、一番振り向いてもらいたい人には相手にされません。」
「へえ、誰?」
「ん?」
「誰が好きかお兄さんに言ってみなさいw人生の先輩としてアドバイスをやろう」
「結構です。コウスケ先輩にそういうこと話したらダメだって言われてるんで」
「冬也」
「凪姉! Wリ*・ヮ・)ぱあぁ」
「おいお前ら、こいつに変なこと教えてないだろうなー。特にモコ」
「俺かよ!」
「冬也、大丈夫?<ピー>とか<バーン>とかの話聞かされてないか?何回したとか聞かれても答えるなよ。たちまち情報が飛散して裏でネタにされまくるからな。ソースは中学のとき同じクラスだったA太。」
「されてないですし聞かれてもないです・・・・///」
「A太哀れだなw」
「それから、<ピチューン>とか<アッー>とかもな」
「・・・///(ぼふっ」
「「お前のほうが危ないわ!!」」
「はぁ?」
「女子がそんなこと言っちゃいけません!俺的には歓迎だけど!」
「冬也の奴顔真っ赤になってプルプル震えてるぞ・・・」
「うるせーな、バカとエロがうつるからおうち帰るぞ冬也w」
「はい。」
「バカはともかくエロはうつってもいいだろ!」
「まあまあ。それより俺、冬也の好きな奴わかっちゃったw」
「偶然だな、俺もだ。」
鶯色さんのハヤトくん、本家様からコウスケをお借りしました。
自主規制の内容は好きに想像していただいてOKですw
- 789
:(六x・):2011/03/19(土) 02:14:54
- もう一本
麒麟と猫と狐
「シスイ先輩・・・なんか、メカっぽいものがバラバラになってます!」
「んー?うわ・・・原型とどめてないな。これを一人でやったとしたら相当な実力の持ち主だな。」
「パニッシャーですか?」
「たぶん違うな。ん?氷のかけら・・・それもこの辺一帯に」
「氷属性の能力者ですかねー。」
「冬也、ん?シスイもいるし。珍しいな。」
「凪姉こそどうしたの?って足大丈夫!?」
「ああ・・・ちょっとそこで転んだ。お気に入りの靴下台無しwドジですまんねーw」
「お大事に。うおっ!?」
「シスイ先輩、どうしたんですか?」
「さっき、すごい寒かった・・・」
「え、風邪ですか?」
「いや、冷凍庫入ったような感じが。」
「・・・」
凪姉、君は「能力者」なの?
akiyakanさんのシスイ君、そして名前のみですがスゴロクさんの「パニッシャー」をお借りしました。
壊されたメカに名前などはありません。
もちろん凪が斬りましたが本人は「警察とか呼ばれそう」との理由で隠しております。
- 790
:大黒屋:2011/03/19(土) 19:00:38
- >>(六x・)さん
どうぞ渡してやってくださいw
冬也同様自分もタイミングを見失ったものでorz
むしろ渡してくださると幸いですw
- 791
:サト:2011/03/20(日) 01:11:55
『いい感じじゃない』
『変じゃないでしょうか…』
『私が見立てたんだもの。変なわけないの。ほら、自信持って行っておいで』
『は、はい…』
カランコロンと可愛らしい音を立てて、
パタンと店のドアがしまった。
恥ずかしそうにスカートの裾を引っ張りながら
駅に向かう少女、スイネの後ろ姿を見つめるのは
店長とシスイだった
『スイネ、出掛けんだ』
『うん。なんか待ち合わせしてるっぽいよ』
『ふーん』
『何。なんか気になることでも?』
『いやなんつーかさ。スイネがあんな女の子みたいなカッコしてんのが珍しくてなぁ』
『ふーん。まぁ普段は制服だろうしね。』
『誰と出掛けるとか聞いてないんスか』
『女は秘密があるから美しいのよ』
『はぁ?』
『(頑張っておいで。スイネ)』
『…ついたー…』
駅ってここでいいんだよね。…いいんだよね?!
駅の前の時計台の前で待つ
時刻は11:00を指している
少し早いかもしれないけれど、遅刻は失礼だものね
『て、いうか…』
さっきからチラチラ見られている気がする
やっぱり、この店長のお下がりの私服がわたしに似合わないんじゃないのかしら…。
ピエロをイメージしたバルーンワンピースは少し短めだし
胸元のリボンは強烈に女の子を主張している
『…制服の方がよかったかもしれないわ…』
とたんに恥ずかしくなってうつむくと
わたしの足元にとても大きな影ができて、顔をあげるとそこには、
ダウンジャケットを羽織ったタカユキ君がいた
- 792
:サト:2011/03/20(日) 01:14:09
『(私服…)』
『おい』
『は、はい!』
『…早すぎじゃね』
『え、あの…遅れたら申し訳ないかと…それで』
『……………』
じっとわたしの足元を見つめ出したタカユキ君の視線
やっぱり似合わなかったかな…
と恥ずかしくなって手で隠そうとすると
バッと手を取られた。
ギョッとしてタカユキ君の顔を見ると
ほんのりと柔らかい笑みを浮かべて歩き出した
『(手…が、ふれて…)』
『そのスカートなら大丈夫そうだけどな』
『はいっ?!…わぶっ』
タカユキ君のダウンジャケットを頭の上に乗せられる。
キョトンとしていると、着てろと言われた
まだ少し肌寒いのに、…いいんだろうか
『バイク乗るからな。ヘルメ』
『えっ!?へ?!』
『後ろ捕まってろよ。落ちんぞ』
『きゃっ…』
タカユキ君は盛大なエンジン音を鳴らして
わたしを乗せたバイクを発進させた
なるほど、冷たい風がジャケットの隙間から入り込んでくる。
…少し、いや、かなり申し訳ない
…それから
抱きついてしまっている。彼の背中に
思っているよりも広い。
完全に腕が回りきらなくてガッチリした背中
恥ずかしくてたまらなくて、このまま振り落とされた方がいくらか気が楽だなと思った
- 793
:サト:2011/03/20(日) 01:17:00
ついたのはマンションだった
小綺麗な分譲みたいなマンションではなく
ひっそりした人気のすくないマンション
まだフラフラしている体を支えられながらエレベーターに乗り
15階建ての内の7階の突き当たりの部屋に招かれた
玄関を開けたとたんに、いつもよりも強く香る彼の匂いに
ドキリとした。
………タカユキ君の部屋?
『入れよ』
『はっ、はい!』
靴を脱いで、きちんと端に寄せて揃えてリビングに入ると
そこは実に彼らしいレイアウトだった
ラックにはたくさんのCD。
立て掛けてあるのは大きなギター
(楽器のことはあまり知らないけれど、たぶん形からしてそうなのだろう)
あまりジロジロ見回すのも失礼かなと思いつつも
なぜか目が離せない
『(…タカユキ君で満ちた空間だ…)』
『まだ飯食ってないよな』
『えっ、はい』
『嫌いなもんとかあるのか』
『特には…』
『じゃあ少し待ってろ』
と言いながら台所に立って何やら調理を始めたタカユキ君に
あわてて駆け寄った
『わ、わたしもなにか手伝わせて!悪いわ!』
『…いや、いい』
『で…でも』
『食わせてやりてーから』
『えっ』
『細すぎんだろ。ちゃんとまともに食ってんのかよ』
『……!!』
実を言うと『食事をする』ことに対して執着をしないわたしは
あまり満足な食事をすることはない
わたしのつくられた本来の目的は『ホウオウの慰め』のためであり
『人間的』な行為には未だなれていない
『あまり、その、えっと』
『ほら』
『え、…おいも』
ふわりと和風の香りが鼻を掠めて
見てみると、よく煮えている肉じゃがのじゃがいもを差し出されていた
『あじみ…?』
『ん』
『……あむ』
タカユキ君から食べさせてもらう形でおいもをいただいて
狂いそうなほど恥ずかしかったけれど
そんな気持ちさえ上回ってしまうほどに
ほくほくとしつつも味のしみたじゃがいもは美味だった
『おいしい…』
『…まぁまぁか』
『あっ』
わたしに食べさせた菜箸でおいもを自分で味見して
納得したように器に入れた
それをリビングの机に置いて
てきぱきと昼食の用意をすませたタカユキ君の姿は
まるで『日本のオカン』のそれだった
- 794
:サト:2011/03/20(日) 01:19:47
『タカユキ君、お料理が上手なのね』
『真似事みたいなもんだけどな』
そう言いながらもチラチラ反応をうかがってくるタカユキ君が
なんだかいつもより可愛らしく見えた
『とってもおいしい』
『……全部食えよ』
『はいっ』
初めての『まんぷく』はとても心地のいいもので
わたしはにっこりと笑って、『ありがとうを』伝えることができた
昼食を食べ終わって、店長から頂いた菓子折りを開くと
かわいらしいヒヨコまんじゅうが入っていた
タカユキ君がいれてくれたお茶はこれまた絶品で
心なしかお互い上機嫌だ
『頭にほこりがついてんぞ』
『えっ、どこ?』
『ちげーよ左…あ、わり』
タカユキくんが身を乗り出したときに
かちゃんと音を立ててわたしの鞄が机から滑り落ちた
そして、あろうことか財布がぶちまけられて、
捨てるに捨てられなかったあのブツが
どどんとその存在をタカユキ君のおうちの床で晒されてしまった
『いっ?!あっ、えっ、これは、その』
『…ゴム』
『ち、違うのよ!わたしのじゃなくて、それはハヤトが…!』
『ハヤト…』
どんどん眉間にシワを寄せていくタカユキ君
どうしよう。引かれたのかもしれない。
それもそうか。クラスメイトの女子の財布からこんなもの出てきちゃったらな…
とりあえずハヤトは千回呪うわ
『スイネ』
『は…えっ?』
いきなりぐいぐいと引っ張られて
別の部屋につれていかれた。
そのままじっとわたしを見つめた化と思うと
苦しくなるほどのちからで抱き締められた
『た、た、タカユキ君』
『……』
『く、くるし…』
『…!』
そっと身体を離されて、タカユキ君は少しだけそっぽを向いた
数秒の沈黙の後
またわたしをしっかりと見つめると
今度は壊れ物を扱うようにそっと抱き締められた
直に感じる体温と彼の匂いに頭がクラクラして
わたしはぎゅっと彼の服の裾を掴んだ
部屋が茜色に染まるまで
わたしは彼に抱き締められていた
この手を離さないで
(何故だかわからないけど)
(このままでいたいと感じたの)
――――――
大黒屋さんの店長
akiyakanさんのシスイくん
鶯色さんのハヤトくんと
本家からタカユキ君をお借りしました
こっぱずかしい話だなもう
- 795
:大黒屋:2011/03/20(日) 19:24:37
- このシチュエーションはやりたかった。後悔はしていない(
スゴロクさんより「火波 スザク」をお借りしました。
白と青と赤と
夕陽を容易に眺められる、高校の屋上。
そのフェンスに身を預け、スザクは夕陽を眺めていた。
「…おや、またいらしてましたか。」
後ろから声がする。
振り向くと、そこにはノルンが立っていた。
「…またお前か。」
そういうスザクは、微笑んでいた。
「お邪魔でしたか?」
「いや。夕陽を見ていただけだ。」
「…隣、よろしいですか?」
「ああ。」
スザクは、正面から少しずれた。
「…いやぁ、今日の夕陽も綺麗ですね。」
「…ああ。」
他愛もない、意味もない会話。
それでも二人には、待ち焦がれていたもの。
ある意味、施設での経験がなければ、二人はひきあってなかっただろう。
「生物兵器」同然だったからこそ。
数奇な運命がいくつもからみついたからこそ。
今こうやって並んで、夕陽を見られるのだ。
「…あのときは、ありがとうございました。」
「いや、僕もあんな乱暴な方法でしか止められなくて…。」
「ああでもしないと、止まりませんでしたよ。洗脳されていましたから。」
ホウオウを抜ける時、後ろから襲われてノア共々洗脳を受けてしまった。
そして、生物兵器としてそのまま店長達を襲ってしまったのだ。
「完全に油断してました。姉さんには頭もあがりません。」
「仕方ないだろう?不意打ちとはホウオウも汚いぜ。」
「…汚い、でしょうね。」
ノルンは小声で呟いていた。
そもそもノルンは、自分の生きる意味を探すためにホウオウを抜けた。
即ち、完全なる反対ではない。
「親」であるホウオウを悪く言われると、すこしだけ、胸が痛むのだ。
「…あっ、悪い…。」
「いえ、いいんです。僕もあの時は流石に信じられずにいましたから。」
「それで、生きる意味は…?」
「…まだ、かけらも。」
ノルンは眼を伏せた。
スザクにはそれが、あまりにもつらそうに見えたのだ。
元ホウオウ下級幹部。
しかしそのホウオウにも迫害を受けた。
ノアや店長以外に、彼に身寄りはない。
二人がいなくなれば、彼は独りだ。
――まるで、自分みたいじゃないか。
「…ノルン、抱え込まなくていい。」
「え?」
「なんかあったら直ぐ僕に言うんだ。悩みくらい聞いてあげられるし。役に立たないかもしれないけど…。」
「…いいんですか?」
ノルンは驚いたように顔を上げていた。
「当たり前だよ。お前が認めてなくても、僕は「友達」と思ってるから。」
スザクは、笑顔を見せた。
「…じゃあ、一つだけ、いいでしょうか?」
「ん?」
ノルンは、少し恥ずかしがって顔を上げた。
「僕も、スザクさんのこと、「鳥さん」って、呼んでいいですか?」
ノルンはその呼び方に、特別な意味を持たせようとしていた。
やっと見えた希望の光の一つを、確実につかみたかった。
その思いはスザクにも伝わったのだろう。
彼女は答えていた
「勿論だよ。」
- 796
:(六x・):2011/03/20(日) 21:52:13
- >大黒屋さん
お許しが出た!ありがとうございます!
さっそく本編で渡そうと思いますww
>サトさん
スイネさんよかったね!ハヤトめなんてことをしてくれたんだ!凪さんがさっそく制裁に・・・いや、結果オーライだろうか?
本編でスイネさんお借りしましたー
本編いくよー。
ボクの一番大好きな人へ
「凪姉、今時間大丈夫?」
「ああ。どうした?」
「これ・・・」
「渡す相手が違うだろww恥ずかしくて渡せないから代わりにってか?まぁ可愛い弟分の頼みだ、何組の子だ?」
「・・・の」
「は?」
「それ、凪姉のために作ってもらったの!」
「そうだったの?あ、このNって私か。」
「いつもボクのこと守ってくれるお礼だよ。本当はあの旅行中に渡したかったんだけどね。」
「結構センスいいじゃん。ありがとな、冬也。」
「い、いえ、ボクも喜んでくれてうれしいですっ!」
爪ス^v^スノ(・△・リW
「?」
「お前、子供みたいに表情変わるのな。や、子供かw」
「むぅ」
「可愛いってことだよ。ほめてるのwwキーホルダーありがとな。また明日。」
「休み時間に電話してくるから何かと思ったらそんなくだらないことか。私、学校だと『クールでかっこいい凪様』で通ってるんで申し訳ないがそういうのはNG。じゃあなw(電話を切る」
「凪、どうしたの?」
「スイネか。親父が美少女ゲーム(一応、健全)とってきてくれってうるさくってさーwうちの親父キモオタww恥ずかしいったらありゃしないww」
「そうなんだ・・・大変ね。ん?ケータイについてるキーホルダー、前見たときはなかったよね。」
「ああ、冬也がくれたんだ。姉貴分に渡すくらいなら好きな奴にやれっての。」
「凪でしょ?」
「はい?」
「だから、冬也くんの好きな人は凪でしょ?」
「まさかww」
「そんなこと言って、冬也くんの気持ちに気づいてるんでしょ?」
「私ら姉弟みたいなもんだしww」
「それは、今の関係を壊したくないからなの?」
「っ!?よくわからんが痛いとこをつかれたような気がする!」
「冬也くんの気持ち、大切にしてあげてね。」
「んー、わかった。ところでスイネ、タカさんとはその後進展あったかい?」
「!?///」
「はは、深追いはしないさ。まあ…スイネは女の武器が使えるから大丈夫だと思うけどなw胸とか。うそです!しめないで!ww」
「もう!・・・凪って、男の子みたいね。」
「それはほめてるのか?」
「さあ、どうでしょう。」
- 797
:サト:2011/03/20(日) 23:49:04
- うおおおおおん!!!!
スイネと凪さま初共演!!
わたしの書くスイネは最近やたら挙動不審だったので
久々にミステリアスンな雰囲気を携えたところが見られて
幸せですー!
冬也くん。渡せてよかったねぇ…!!
凪さん、あなた気づいてたのなら相当ワルねw
- 798
:スゴロク:2011/03/21(月) 01:41:48
- 久々の大人数に挑戦です。
「………ク、クッ」
「………」
夜、ストラウル跡地。
もはや事件が起こらない方が珍しいこの場所で、僕らは「それ」を待っていた。
何かが、起きる時を。
以前のブラストルの一件と似たような状況だが、今回は範囲が広い。けして狭くはない跡地の、ほぼ半分にアースセイバーが配置されている。
僕はアオイを伴って、跡地の端、人員が回らなかった部分に待機している。
こうして待っている間に、思い出す。なぜ、こんなことになったのか。
- 799
:スゴロク:2011/03/21(月) 01:42:18
- ―――アースセイバーの調査員達は、口を揃えて「跡地」の奇妙な現象を報告していた。空間の歪むような現象が、何度も起きていると。
反応そのものは一瞬なのだが、数が多い。何の規則性もなく、現れては消える、そんな感じらしい。
さらに、そこかしこからホウオウグループの使うエネルギーの反応があった。以前ほど大きくはないが、点在している上に範囲が広かった。
事態を重く見たアースセイバーは、現状で行動でき、なおかつ戦闘力のある者達を可能な限り「跡地」に送り込んだのだ。
斯く言う僕は、いつものごとくシスイからそれを聞いてここに来ていた。今度は、アオイも一緒に。
彼女にとっては初陣となるが、大丈夫だろうか。
「アオイ、大丈夫か?」
「ご心配なく、姉様。絶好調ですわ」
いつもと変わらない調子で、そう答えた。この分なら、多分大丈夫だろう。
「そうか。けど、もし危なくなったら無理はするなよ」
「はい。姉様こそ、無理はなさらず」
頷き合い、それきり会話は途切れた。お互いわかっている、本当はこんなことを話している場合ではないと。
今回は規模が大きいためか、獏也教官とシノさんでそれぞれ指揮を分担している。僕を始めとする学生組は、シノさんの指揮下だ。
『学生諸君、警戒しといて下さいよ。いつ、どこから、何が来るかわからないっすからねー』
耳に着けた補聴器型の機器から声が聞こえるが、答える余裕はない。全神経を集中していないと、不意打ちを食らう可能性があったからだ。
反対にアオイは平然と、
「ええ、わかりましたわ。ところでシノさん、反応に変化はありまして?」
などと受け答えしていた。この肝の座り方といったらどうだ。
『今の所、反応に変化は……あ、ちょっとあった。転移反応がCブロックであったっす』
「C?」
今度の警戒網は、跡地全体をブロック分けし、それぞれに少しずつ人員を配置している。
『微弱だし、一瞬だったんすけど』
「開戦が近いかも知れませんわね……」
す、と目を細め、アオイが呟く。
まさに、その時だった。
突如、シノの声が叫びに変わった。
『!! 転移反応……気をつけて、「来た」!!』
その声に、学生組が一瞬にして身構えるのが空気でわかった。
ここEブロックの僕達も、無論同様に。
その見る前で、月明かりを受ける景色が揺らぐ。波紋が起きるように、次々と、次々と。
そしてその中から現れたのは、無数の目を持つ、殺戮兵士。
「パニッシャー……!!」
スイネを二度に渡って襲ったと言う、ホウオウグループのかつての遺産。今やどちらにとっても邪魔者でしかない、弱い者を襲う機械の処刑人。
それが、見渡す限り。
「こ、れは……」
「少々、予想外ですわね」
冷や汗をかきつつ、言葉をかわす。通信機の向こうで、シノさんが指示を飛ばす。
『全員、無茶は厳禁!! 数では圧倒的に不利っす、無理だと思ったら別のブロックに合流!! 従わないと酷いっすよ!?』
珍しく切羽詰まっている。だがまあ、この状況では仕方ないだろう。
「敵は数百、味方はこの場では二人、か……!」
「姉様、ものは考えようですわ。これなら、遠慮なく暴れられます」
「……前向きだな、アオイ。だが……」
ギロリ、とパニッシャーがこちらを向く。が、それではもはや怯まない。
「それも、悪くはない。……シノさん、こちらEブロック。戦闘開始します!!」
叫び、幻龍剣を一振りして、敵に襲い掛かる。
- 800
:スゴロク:2011/03/21(月) 01:42:50
- Cブロック。
「うおおぉぉおおおぉ!!」
咆哮と共にガトリングガンを掃射する聖。空気圧の弾丸で一体一体仕留めて行く蒼。そして、レーザーで薙ぎ払いにかかる光一。
撃破状況は悪くなかったが、いかんせん数が多すぎる。倒しても倒しても次が襲来し、まるで終わりを見せない。
「くそ、こいつら何体いやがるんだ!!」
「聖さん、喋ってる暇ないです!!」
蒼も叫びつつ、空気弾を連射する。しかし、向こうは仮にも兵器。圧が下がってはかすり傷程度にしかならず、逆に向こうも攻勢をかけて来た。
一斉に、手にしたマシンガンを掃射する。
「くぉのぉぉぉぉぉ!!」
全方位からの射撃に対し、蒼が動いた。自分たちのまわりの空気を一気に濃度を上げることで硬くし、防御壁としたのだ。その裏から、
「行けぇぇっ!」
光一が打ち上げたレーザーで、確実に破壊していく。しかし、数は一向に減る気配を見せない。この戦況は、膠着しつつあった。
Aブロック。
こちらに配置されていたのは、アラタ、錬太郎、ジミーの三人だった。防御に関してはまさに鉄壁というべき二人と、射線に関わらず任意の場所を攻撃できるジミー。この組み合わせは、ことこのような状況において、最大の効果を発揮していた。あえて建物を背にすることで、防御する方向を絞り、効率を上げていたのだ。
と、
「うわっ、グレネードか!?」
「任せろ、アラタ」
マシンガンやライフルが効かないと理解してか、今度はハンドグレネードが放物線を描いて飛んできた。爆風でアラタの「盾」を貫こうという算段だったようだが、錬太郎が動いた。一睨みした瞬間、グレネードの全てがふっ、と消え失せた。彼の能力「四次元の入り口」は、任意の物体を別の次元に呑み込んでしまうと言う極めつけに強力なものだ。爆発諸共呑み込まれた爆弾は、何の被害も齎さすことはなく。
さらに、その後ろからジミーが躍り出る。
「そぉれっ!!」
爆音、そして熱風。「ダイナマイトキャノン」が炸裂し、迫っていたパニッシャーがまとめて吹き飛んだ。彼女の能力は、こういう対多数戦闘で最大の力を発揮する。
とはいえ、撃破した端から次が現れ、まるでわんこそば状態だ。
「あー、キリがないわねー!」
「そうは言っても、退けはしないよ」
「だな。いつまで粘れるかわからんが、今は戦うしかない」
「はーいはいっ。全く、なんなのこの数! これだからホウオウグループは!!」
苛立ち混じりの叫びとともに、再びの広範囲爆破。ジミーの奮戦で、このブロックは俄然、優勢だった。
Bブロック。
シスイ・ハヤト・修斗の三人が配置されたこの地点は、Aブロック以上に優勢だった。なぜならば、
「……――――!!!!」
ハヤトの「音の悪夢」がものを言っていたからだ。二人を後ろに下げ、収束音波砲を最小限の威力で放つ。それを、シスイが「天子麒麟」で増幅することで元の威力を保つというコンビネーションだった。時折飛来するグレネードは、修斗がロープで絡め取っては投げ返し、反撃していた。
しかし、こちらもやはり数が減らない。
「やれやれ、これは骨が折れそうだな」
今しがた七つまとめて返した修斗がロープを戻し、ため息をつく。
「銃器の類を撃って来る前に破壊出来てるからいいけど、長引くと持たないか……」
冷静に状況を判断しつつ、手近な一体にロープを巻きつけ、発射寸前だったマシンガンを逆方向に向けて同志討ちさせる。直接攻撃力に欠ける修斗にとっては、これが最大の方法だった。
一方のハヤトとシスイも、
「大丈夫か、ハヤト?」
「おう、まだまだ行けるぜ」
わずかに疲労を見せつつも、余裕を残していた。シスイは素手で戦うのが信条のため、武器を持っていない。そのため、このような兵器相手、しかも多数との戦いでは圧倒的に不利に陥る。それを解消すべく、ハヤトの支援に回されたのである。彼の音による攻撃は、とにかく消耗が激しい。しかし、抑え目の攻撃を「天子麒麟」で増幅すれば、最小の消耗で最大の効果を得ることが出来るはず。
そういう判断にも基づいていた。
とはいえ、いつまでも続くものではない。
修斗が危惧したように、消耗が極まれば攻撃の手はなくなる。そうなれば終わりだ。
(タイミングを測らないとな……)
最終更新:2011年05月24日 20:39