『…ぐわっ…ひどいなこれ』
『気持ち悪ィ…』
ハヤトたちの意識が浮上し、ゆっくりと覚醒した先には
肉片と化した死体たちが辺りに散乱した荒廃した大地
そして、赤い空
異様な空間
『…ぐぅっ』
『由衣、無理すんなよ』
『へーき。ハヤト。それよりここは…』
『ここは彼女の意識であり過去の空間。今彼女はこのどこかにいるの』
『こんな…広いとこのどこかに…?』
エダは辺りを見回してため息をつく。
見渡す限りの死体の山とたちこめる硝煙
見つかる気がしない。本当にこんな場所にスイネがいるのだろうか
『うだってても始まらないわ。探しましょう』
リエがうなだれるエダの背中を支えてあるきだす
ふみしめる土の感触はなんとも気色悪く
由衣には刺激が強いようで常に口許を押さえていた
玉置はシスイの言葉に同調するように空を仰ぐ
何かに阻まれることなく広がる空なのに、
なぜか自由がないような空
『…?』
見つめていた空の上から、何かが落下してくる
ゴミ?鳥?いや、違うあれは
『ケイイー…!?』
ドサッと死体の山に降り立った
ケイイチに皆が目を丸くする
どういうことだというようなケイイチの瞳に玉置が答えた
『見たのか』
『スイネ…虫の息だった』
『ここがどこだかはわかるか?』
『前にも一度スイネの意識に入ったことはある。
…こんな場所ではなかったけど』
『なら話は早いね。…急ぐよ?時間もあんまりないしね~』
春美はにっこりと笑って先陣を切る
その後ろ姿に見覚えのないケイイチは首を傾げたが、今はそれどころではない
歩き進めるうちに、死体の数は増していく
アースセイバーに所属する手前、抗争に巻き込まれたり
駆り出されたりすることは多々あるが
あまりにもグロテスクな光景にとうとう由衣が嘔吐した
『ぐぅ…ええっ…』
『由衣…』
『なんなんだよこれ…こんなの…こんなとこいられるかよ…気が狂いそうだ…っ』
『ケイイチ。なにかわからないのか』
ハヤトが問うと、ケイイチは神妙な顔つきで答えた
『見覚えがある…この場所』
『よかった。君が覚えててくれて。これで再生できるよ』
『…?』
春美が天高く腕を振り上げてなにか呟くと、誰かが走ってくるような土を蹴る音が響く
そこには、少年―――幼い頃のケイイチが、長い青色の髪をはためかせる少女の腕を引いて、何かから逃げるように走ってきた
。
『スイネ…?!』
『そうだよシスイくん。あれはスイネ…彼女にとってはみんなに隠したがった過去だけど、…しっかりみてあげて』
「ここまできたらもう大丈夫かな…?!いま応援を呼ぶから…」
「けいいち…」
「どうしたんですか?どこか痛みますか?」
「ねえ、わたしいいのかな、こんなのなんだか、
わたしは
ホウオウ様のものなのに…」
「あなたは物なんかじゃない!!…あなたは一人の人間だ!」
『このときの言葉は、彼女にとっては救いの言葉だった』
『なんでこんなにケイイチは逼迫してるんだ?』
『………』
玉置のその問いかけに俯いたケイイチ
ハヤトはケイイチの顔を覗き込むと唇を噛んでいた
震える拳を握りしめるその姿に
『ケイイチ?どうしたんだよ』
『……やめて、くれよ』
『ケイイチ?』
「でも、ホウオウ様はわたししか愛せないって、抱けないって、わたしはホウオウ様に抱かれるために産まれたってきいたのに」
『?!』
シスイが驚愕に目を見開く
どういうことだ、【抱かれる】…?!
『やめろ!!スイネの一番知られたくない部分を見せるな!!見るな!!』
取り乱したように錯乱するケイイチ
その目は殺意さえ帯びていて、リエは怯んだ
こんなケイイチは、ホウオウと対峙していたあの時以来だ
こころが、ふるえる
『落ち着いて、ケイイチ君、君が取り乱してどうするの』
『…お前が…!?』
『まるで、母親の悪口を言われたこどもみたいな怒り方だね』
『……っ?!』
『おとなしく見ていて』
「あなたはあなただ!」
「わたしは、わたし?」
「あなたがしたいようにしなくちゃ…でなきゃ、なんのために産まれたんだよ!」
「…!」
ぐっと景色が歪む
そこは、先ほどの荒廃した大地とはまた違い
廃ビルの立ち並ぶ無機質な町
そこに対峙する二人の女
『こんどはなんだ?!』
「…もどってきなさい、ファスネイ」
「そんな馬鹿げた話に私が乗るとでも思ってるの?」
女は、いまのスイネと、どうやらホウオウ側に産み出されたであろう人工神であった
スイネは強く神をにらみ
神はいとおしげに、そして悲しげに
彼女を見つめていた
『この記憶は…?』
『…スイネがアースセイバーに入ってからの記憶だ』
『ってことはあれは』
『スイネの母親にあたる、人工神だ』
スイネは意識を研ぎ澄まし、巨大な鎌を召喚し、対峙する
その瞳はひどく殺意の籠ったもので、皆が戦慄するほどだった
「ファスネイ…わたしの愛しい子」
「黙りなさい!…わたしは、わたしはケイイチのもの。ほかの誰のものでもないわ!」
その言葉にシスイはケイイチに振り返る
ケイイチは、苦虫を潰したような、そんな表情で唇を噛んでいた
触れられたくないであろうことであるのは明白であるが、今疑問を残したまま行動するのは無謀だ
『お前ら付き合ってんの?』
『…まさか。こっちがマナさんのこと好きなの知ってるだろ』
『…じゃあなんだよこれ』
『………』
『一方的に彼女がケイイチを愛しているだけだよ』
『え…』
シスイは目を丸くして、幻影のスイネを見つめる
スイネがケイイチを…?
いや、ありえない話ではない
彼女を闇から救いだしたのは他ならないケイイチだ
ましてや、ひとりの人間として彼女に接したのは彼だけなのだから
彼女の海
(もうすこしだ)
※加筆修正有り(2013/06/15)
最終更新:2013年06月15日 10:24