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朱雀、共感する

「冬也ー!」
「……スザク、先輩?」

飛び出した冬也を追っかけていたら、体育館の入口にぽつんと座って所在なげにしているのを見つけた。
声をかけたら、どこかよろよろとこっちを向いた。視線の焦点が微妙にあってない。……こりゃ重症だ。

「隣、いいか?」
「は、はあ」

こう言う時に話をするなら、向かい合うより隣。これは基本の一つだ。

「……さっき、物凄い勢いで飛び出してったけど、何があったんだ?」
「………」

黙ってしまった。理由はさっき凪本人から話を聞いて予想(いや、確信だけど)はついているけど、やはり本人から聞いて見ないと始まらない。
……ま、確かにあれはショックだよな。

「言いにくいなら、無理には聞かないけど」
「………いえ、実は……」

口を開いた冬也の語った内容は、9割方僕とアオイの予想通りだった。本人としては意を決しての告白だったのに、ああもさらりとスルーされちゃ、なぁ。
しかも僕の知る限り、冬也のアプローチは今回に限らず、傍から見るとひっじょーにわかりやすい形で何度か行われている。あれで気付かない凪も凪だと思うけど、当人からすればただの「親愛」としか映らないんだろうなぁ。

「………そっか」
「もう、知らないです。凪姉なんか」

ヘソ曲げちゃった。あれだけアプローチしといて総スルー、加えて今回の一件。普通なら諦めるかどうか、ってとこだけど、

「ホントに?」
「………」

本音が透けて見えるぞ、冬也?

「………何で、伝わらないんでしょうか」
「んー………」

凪本人しか知らない事実だな、それは。ただ、予想は立てられる。

「本人からすると、冬也を見る時に『弟分』っていうフィルターがかかるんだろうな。しかもデフォルトで」
「それは………」
「加えて僕の予想だけど……凪、恋愛経験ないよな?」
「多分……そうだと」

で、初めて真っ向から好意をぶつけて来たのが冬也。ところが本人からすると、フィルターにかかったそれは家族へのそれとしか映らない。それ以外の認識がなくなる。フィルターがかかっているということにすら、本人は気付かないんだから。

「……僕の時と、似たようなものかな」
「え?」

そう。僕とトキコの関係も、最初は似たような状態だった。





「そうだな……僕は、今、とっても好きな人がいる」
「先輩も、ですか?」
「ああ。……相手に関しては、後でアオイにでも訊くと良い」
「は、はい」

最初は、トキコのことを「敵」としてしか見ていなかった。その頃は僕自身歪んでたし、それと知らず歪んだ自分を見ているようで嫌な気分だった。
ボルカノンの一件での「約束」。遠くて近い、奇妙な関係を続けるうちに変遷した想い、そして昇華された「約束」。

「ま、僕の場合はかなり事情が特殊なんだけど……先に好きになったのも、アプローチかけたのも、僕だった。最初はその事にすら気付かなかったけど、な」

シギの来訪を機にはっきりと自覚した恋心。マナの説得で固まった決意。そして、あの日。

想いの丈を真っ直ぐに打ち明けた、あの日。
僕はあの日―――いや、思えば最初から、ずっと思っていた。

トキコと一緒にいたい、と。ただ、そう思ったんだ。

「その人には……?」
「告白したよ、つい最近。まだ返事はもらってないけど」
「それは……」
「どうかな。返事が来なきゃわからない。でも、どんな答えでも、受け入れる。僕がそう決めたんだから」
「……強い、ですね、スザク先輩は」
「そうでもないよ。僕は弱い。もしフラれたら、当分立ち直れない」

そう、僕は強くなんてない。大切な誰かを失えば、容易く自身を見失ってしまう程度には。

「……俺には、とても無理です。そこまで覚悟するのは」
「……それでいいと思うな、僕は。誰だって、好きな人に拒まれるのは嫌だろ?」
「勿論です」

それでも、すべきことは一つ。

「でもな、冬也。想いは、秘めてるだけじゃ伝わらない。アプローチだけでも足りない。言葉に乗せて、伝えないと意味がないんだ」
「……わかってます。だから、言ったんです。でも、凪姉は」
「凪はこの際いい。冬也、お前はどうしたいんだ? さっきは、伝わらなかったから飛び出して来たんだろ? 凪に振り向いて欲しいんだったら、何としてもそれを伝えないとダメだ。弟分じゃない、一人の男としての、お前の気持ちを」
「………」

そうだ、伝えないと始まらない。想ってるだけじゃわからない。言葉で、文字で、ありったけの気持ちを伝えるんだ。「あなたが好きです」と。

「凪が受け入れてくれるかどうかはまた別問題だけど……こればっかりは僕にはどうしようもない。まさに本人と神のみぞ知る、ってことだ」

アオイが少しでも好転させてくれてればいいんだけど……。

「よしんば伝わったとしても、多分俄かには返事は返せないと思う。凪にしてみれば青天の霹靂だからな、まさに」

全く予想のつかない方向から自転車が突っ込んで来たようなものだろう。ただ、よく考えると僕の場合とは違う意味での壁が一つ。

(これは……さすがに僕が言う事じゃないよな)





凪が自分と冬也の関係をどう認識しているか、という問題がある。確か、僕の知ってる限りだと姉弟分、と言った単純なものだった気がするんだけど、違ったかな。
いつだったか冬也のこと「舎弟」って言ってなかったか?

(ま、こればっかりは本人の問題か。……ていうか、こういうのは本来マナの役回りだろ? 何で僕が?)

反射的に飛び出したはいいものの、実は何も考えてなかった。とりあえず自分の経験をヒントに、思いつく限りの言葉を使ってアドバイス……のようなものを送って見た。結論は至って簡単なものになってしまったけど、実際問題、冬也がショックだったのは「伝わらなかった」から。なら、そこをどうにかすれば冬也の方の問題は片付く。後は、凪だ。彼女がどう受け止め、どう考えるのか。そこからは、見守るしかない。

「明日からは、またいつも通りに過ごすことだ。多分、お前たちの関係はゆっくりとしか進まない気がするし」
「せ、先輩……」

困ったような冬也の顔に、思わず笑いが零れてしまった。何か、普段の凪の気持ちがちょっとわかる気がする。

「とにかく、僕が言えるのはそれくらいかな。何か出鱈目な話だったな」
「……いえ、ありがとうございました」
「ん。じゃあ、気をつけて」

さっと立ち上がり、簡単に別れを言って僕はその場を去った。後は本人達の問題だ。
どうか丸く収まりますように、と誰に何にか祈りつつ、アオイを迎えに行くために僕は校舎に足を向けた。


朱雀、共感する

(どうして追ったのか)
(在り方が、想いが)
(自分と彼女に重なったから)



ちなみに超余談。

「メタですがスザク先輩、顔文字はどんなのですか? 俺は

Wリ・ー・)

ですし、凪姉は

爪ス゚-゚ス

で、アオイさんは 

川'-'リ 

ですけど」
「僕? んー…… 

川゚-゚リ  

かな?」
「……そっくりですね」
「姉妹だからな」

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最終更新:2011年05月29日 01:44