「はあ?何で俺らがそんな事、しなくちゃいけねぇんだよ」
「まあ亜樹斗、わざわざここまで来て頼みに来たんです。引き受けてやりましょう」
「えー、亜寺さんお人好し過ぎだぜ…」
最後に二人は、『最強の任侠集団』として、裏に恐れられる極道一家「
出雲寺組」の下へ来た。
「お母さんが能力者の可能性あるかもしんないしさ、百科事典さんみたいに『裏』で酷い事されてるって事もある」
「だから『裏』の情報収集を得意とする私たちに頼む、という訳ですか」
「うん」
とそこに。
「
ミユカさん、ようこそ我が組へ。そして初めまして
シグマさん」
艶のある黒い髪に澄みきった赤い瞳。
白い肌の上に纏った優美な花柄模様の着物。
そして凛と響く声。
ミユカのクラスメイトにして出雲寺組の組長、出雲寺 愛澄である。
「こんちわー、アスミン」
「お、おう」
「はい、お茶をどうぞ」
「お、ありがとー」
すると今度は慌ただしい足音と共に、別の声が聞こえてきた。
「愛姐さ~ん!!」
襖戸の奥から、お団子結びにした茶髪の小柄な少女が現れた。
前垂れを襷掛けで締め、明るいピンクの瞳には困惑の色が浮かんでいる。
「姐さんっ、給仕ならあたしがやるのに!」
「冴子、これぐらいの事なら、あなたが手を煩わせなくとも」
「そういう問題じゃないよっ。もぉ~」
冴子と呼ばれた少女が、ぷぅと頬を膨らませて怒るさまに、ミユカは思わずくすりと笑った。
それに愛澄も優しい笑みを見せる。
「ミユカさん、シグマさんの母親捜索は、責任を持って我が組の総力を挙げて行いますので、安心してくださいね」
「流石アスミン、頼りになるねー」
「ハッ、当たりめーだろ。「出雲寺組」の組長なんだからな!」
誇らしげに言う亜樹斗を見て、亜寺と冴子もまた笑みを浮かべるのだった。
「これだけ助っ人がいれば、大丈夫だね」
「ありがとう、ミユカ」
「お礼なんていいって!早く見つかるといいね」
「うん!」
『お母さん…お母さんっ!』
緑に囲まれたとある小高い丘。
そこに茶色の巻き毛の少年と、それと同じ特徴をした髪を持つ女性を肩に担いだ男と、
その者を取り囲む集団が佇んでいた。
『お前ら何だよ!お母さんをどこに連れてく気だ!』
すると女性を担いでる男は、少年の言葉を嘲笑うかの様な表情で言った。
『お前が知る必要はない』
『五月蠅い!返せっ…お母さんを返せよ!!』
少年は男に向かって突進する。
だが。
ゴッ!
『が…っ!』
少年は別の男に蹴り飛ばされ、地面に叩き付けられる。
『行くぞ』
『はっ』
少年を一瞥した後、男は女性を車についてる格子戸の荷台部屋に乗せ、車の座席に着く。
『……いで』
少年は声を絞り出して言う。
『連れて行かないで…!』
だが無情にも、その言葉は現実にならなかった。
発進した車はどんどん遠ざかっていく。
『お母さんを連れて行かないでぇ! …返せよぉ!』
車は豆粒ほどにまでなったが、それでも少年は『返せ』と言い続けた。
『俺のたった一人のお母さんを…返せ…っ!』
しゃくり声を上げて、少年は叫んだ。
『お母さぁあああああんっ!!!!』
「…ハッ!」
朝を迎えたシグマは、べットから飛び起きた。
「……夢かあ」
夢の内容を思い出し、俯くシグマ。
そして金色の瞳から涙が零れ落ちた。
「お母さん…」
その時、ドアの向こうからミユカの声が聞こえてきた。
「シグたん!起きてるー?」
「あ…お、起きてるよ!」
「今日、ご飯の後訓練あるから、遅れちゃ駄目だよー」
「う、うん」
ミユカの足音が遠退いていく。
それを聞いたシグマは、ほっと胸をなでおろす。
「……」
(これだけでも充分だよ)
(いいよ、暇過ぎて退屈していたとこだし)
(シグマさんの母親捜索は、責任を持って我が組の総力を挙げて行いますので、安心してくださいね)
(お礼なんていいって! 早く見つかるといいね)
「…皆、ありがとう」
-その頃-
「はあー…ちょっと暇だなあ」
楠原 亜音が経営する
レストランのカウンターで、
アルバイト従業員の一条寺 正人はひとり呟いていた。
「まあ、開店したばっかだし、しょうがないか」
その時、店内に一人の女性が入ってきた。
その女性は、外人の様な顔立ちをしていた。
「あ、いらっしゃいませ」
「ごめんなさい。お客じゃ、ないんです。あの…人を捜していまして」
「あ…どんな人ですか?」
「はい、息子なんですけど…」
そう言って、女性は鞄から一枚の写真を取り出す。
「この子です」
「う~ん…知りませんね…」
「そうですか…」
項垂れる女性を見て、正人は慌てて謝る。
「すいません、お役に立てずに…」
「いえ、あなたは悪くありませんよ」
「あの、良ければこの写真をくれませんか? この店には色んな人がいっぱい来るんで…」
すると、女性はさも嬉しそうな表情を浮かばせた。
「いいんですか?」
「はい」
「ありがとうございます。では私はこれで…」
そう言って、女性は店を出て行った。
と同時に、奥から店長の楠原 亜音が出てくる。
「おや、誰か来てたの?」
「あ、はい。女の外人さんが」
「外人? 珍しいねえ」
「何でも、息子さんを捜してるとか。この写真がそうです」
「へえ、どれどれ―――」
受け取った写真が視界に入った瞬間、店長は驚愕した。
「この…子は…っ!」
「姉さん?」
店長の様子に疑問を感じる正人。
だがそれを気に留めず、店長は入り口のドアを勢いよく開け、外に出る。
だが店長以外に誰もいなかった。
「一体どこに…」
店長はもう一度写真を見る。
そこには己が知っている子供によく似た、茶色い巻き毛と金色の瞳を持つ少年が写っていた。
「必ず会いに行くから…待っていて。私の息子―――ウェス」
土曜日、いかせのごれに『魔女』降り立つ―――。
最終更新:2011年05月31日 21:03