解放と酷使
冬也と凪はストラウル跡地に来ていた。
何でも冬也が、学校の宿題でいかせのごれを調べるらしく、その一環としてきたのだ。
「改めてみても、酷い荒れようだな…。」
「もう3年たつらしいからね。おっと!」
「冬也、足元気をつけろよ。足場悪いからな。」
「わかってますよ…っ!?」
「どうした、冬也?」
「…凪姉、前!」
冬也が叫んだ瞬間、眼の前から何かが飛び出し、こちらに迫って来た。
反射的に冬也を庇い、路の端に転がる。
体を起こすと、見たことのある「それ」が、ゆっくりとこちらに向き直っていた。
「『
パニッシャー』!?何でここに!」
「…っ!?」
凪は素早くあたりを見回した。
一体だけではない。6、7体のパニッシャーが囲むようになっているのだ。
「どういうこと?パニッシャーは放棄も同然で、1体ずつしか動かない筈じゃ…。」
冬也が一人呟くが、凪はそれどころではないと立ち上がった。
腰に差していたアイスブラスターを抜き取り、冬也を起こして寄り添った。
「な、凪姉…?」
「…逃げるぞ。」
わざとパニッシャー同士の隙間を狙って数発放つ。
パニッシャーがかわしたのを見計らい、冬也の手を引いてその隙間に転がり込んだ。
そして直ぐに立ち上がり、眼の前の路をひたすらに走り出した。
直ぐに反応したパニッシャーが追ってくる。
時折アイスブラスターを発射するが、一向にその差は広まらない。
「大丈夫か、冬也?」
彼女は激しく息切れする冬也を気にした。
「はぁっ…はぁ…、だ、大丈夫…。」
そう答えるが、体力的に限界が近いのだろう。
かといって、ここで止まればパニッシャーに襲われる。
仕方がない、と一言つぶやき、彼女は止まって踵を返した。
「凪姉っ!?」
「冬也!近くの建物に隠れろ!」
そういい、凪は眼の前に迫るパニッシャーに向けて数発放った。
放たれる弾をかわしながら、パニッシャーが徐々にこちらに近づいてくる。
気持ちが焦るほど、手元がぶれる。
銃弾も掠らなくなってきていた。
そして、7体ほどのパニッシャーが動き、一斉に銃を構えたのだ。
「!!」
これだけの銃弾を防ぐこともかわすこともできない。
これは、終わったか…?ああ、でも冬也をどうしよう…。
複雑な心情が渦巻く中、反射的に彼女は眼を閉じた。
その直後、耳元に銃声は届いた。
――のだが、痛みも衝撃も全く襲ってこない。
「…?」
恐る恐る顔を上げる。眼の前に誰かがたっている。
黒いコートとやや長めの髪を持った男。その姿を見るなり、後ろの冬也が叫んでいた。
「ご…獄王さん!?」
「よ、冬也。久しぶり。」
振り返って片手を上げる獄王は眼の前に傘を突き出し、パニッシャー達から二人を庇う位置に立っていた。
「…お前が、隣のクラスの…?」
「そうじゃ。会うのは初めてじゃのう。お前が凪じゃな?よろしく。」
「あ、ああ…。」
会話をしている間にも、パニッシャーからの銃弾の嵐は続く。
しかし、こちらに銃弾が届く前に傘の手前で蒸発するように消えていくのだ。
「さっきから五月蝿いのう…。」
傘を畳んで薙ぎ払い、パニッシャーとの間を広げた。
「何でこんなところに…。」
「冬也から聞かなかったかの?彼がわしの鉄槌を預かっててくれたんじゃ。」
凪は冬也を見る。冬也はすぐに頷いた。
「一度返したんだけど、諸事情でまた預かってたんだ。」
「その代わりに何かあれば駆けつけることを約束しとった。」
「そういうことか…。」
獄王はもう一度傘を開くと、しゃがんでいる冬也の近くに立てた。
「そこから絶対に動くな。ええの?」
「分かりました。」
冬也は頷き、仕舞っていた鉄槌を取り出して差しだした。
「…わかっとるのw」
獄王はそれを受け取り、立ち上がった。
「…さて、凪。」
小声で獄王は言った。
「お前も…能力者じゃろ?」
「!?なんでそれを…。」
「それはこの際どうでもいいことじゃ。重要なのはここから。」
「周りの眼を気にするな。能力を酷使し、パニッシャーを払うぞ。」
「で、でも冬也が…。」
「だから傘の下から動くなといったんじゃ。視界がおおわれるから、眼の前は見えん。」
彼は凪に笑いかけた。
「もっとも、守るのが第一じゃけどの。」
その様子に暫く凪は黙っていたが、やがて静かにうなづき、右手にアイスブレードを作り出した。
「成程、氷系の能力者か。幾分寒さにも強そうじゃな…。」
獄王は独り言を呟きながら、鉄槌をしかと握った。
「んでこっちは、機械兵相手なら…6、いや、5割で十分じゃな。」
途端に持ち手から紫色の炎が上がりだした。
「!?」
「…『解放:第一形態』!」
炎は鉄槌全体を覆い、徐々に膨れ上がってくる。
右手を持ち上げ、水平に振う。
風になびく様に炎ははがれ、3周り程に大きく変化した鉄槌が姿を現した。
「…ん。久しぶりでこれなら上出来かの。」
「獄王、そんな武器で大丈夫か?向こうは遠距離攻撃仕掛けてくるし…。」
「大丈夫じゃ、問題ない。わしにはこの位が丁度いい。」
さてそれよりも、と彼は話を切り上げた。
「突撃する心構えはできとるな?」
「ああ。いつでも。」
「よし、なら…。」
「…いくぞ。」
二人同時に蹴りだす。
凪はアイスブレードを水平に振り、3体のパニッシャーに斬りかかった。
しかし、装甲には僅かに傷が入るばかり。
「堅っ…!」
何度も剣を振うが、装甲に入った傷は数えるほどしかない。
1体が振るう剣をかわし、後ろに下がった。
「なんだよあいつ、装甲堅すぎる…っ。」
小さく呟き、前方に出た獄王を見た。
長い柄を振りまわし的確に打撃を加えていくが、こちらも損傷は極僅からしい。
「獄王、これは…。」
「パニッシャーが暴れとるだけじゃない。絶対誰かの意思が関わってきとる。でなきゃこんなに装甲は堅く出来ん。」
「じゃあ、どうするんだよ…。」
「…止むをえんのう。」
獄王はもう一度前にたった。
「凪、お前、寒いのは大丈夫か?」
「え?ああ。ある程度なら…。」
「そうか。なら念のためこれを着ておいてくれ。」
獄王は自らのコートを脱ぎ、凪に放った。
「わしが動きを止めるから、関節部を狙ってまとめて斬りつけるんじゃ。ええの?」
「あ、ああ…。」
「念のため言っておくが、常識外の寒さになる。できるだけ早く片付けんと、お前が凍死するからの。」
「一か八かの命がけ真剣勝負ってか…。」
獄王は両手に鉄槌を握った。
鉄部に光る青い記号が浮かび上がった。
「…『召喚:頞部陀』!」
鉄槌を振り上げ、彼は思い切り地面に叩きつけた。
ガラスが割れるような音が響き、灰色の空に一瞬にして水色と白が混ざり込んだ。
周囲の温度が一気に下がり、水蒸気が一気に凍りだしたのだ。
一瞬にして氷と化した水蒸気はあたりに霜と雪となり敷き詰められる。
風も一気に強くなり、寒さに強いはずの凪もこの時ばかりは身震いした。
そしてその霜は、パニッシャーの関節部にも例外なく張られたのだ。
自由を失った機械たちがぎしぎしと音を立てて唸る。
「今じゃ、凪!!」
獄王が叫ぶと同時に、凪は関節部のコードを余すことなく切り裂いた。
鉄片と化したパニッシャーを見送り、すぐに獄王はその「寒さ」を消し去った。
「大怪我がなかったようで何よりじゃ。」
鉄槌を戻し冬也に渡しながら、笑顔で獄王は二人に言った。
「ありがとな、獄王。一人じゃ危なかったかもしれない。」
「ええんじゃ。約束やったしの。さて…。」
獄王は傘を受け取り、パニッシャーの破片を見た。
「人為的に何ものかがこいつを操っていたとなると、無差別である可能性は低いじゃろうな。」
その言葉に、凪も冬也も驚いた。
「そんな、じゃあ僕か凪姉のどちらかが狙われたってことですか!?」
「…。」
獄王は破片を見つめたまま言った。
「狙われたとするならば、冬也か、凪か…。」
一度言葉を切り、獄王は俯いた。
「…わし、か。」
「「え?」」
「…いや、何でもない。」
「それじゃ、わしはこの辺で。二人とも気をつけるんじゃぞ。」
数分後、暫く跡地をウロウロした後に獄王が切り出した。
「また何かあったらすぐ来るけの。それじゃ!」
獄王は片手を上げて振ると、傘を差した。
まきおこった強い風に乗り、飛んでいく獄王を見送りながら、凪と冬也は呟いていた。
「狙われていたって、僕らじゃない可能性があるってこと…?」
「獄王…あんた一体、何者なんだ?過去に、何があったっていうんだ?」
最終更新:2011年05月31日 21:25