今日は派遣先でのお仕事もお休み
警察での出来事を報告しに、ジンはウスワイヤに来ていた
そうしていると、誰かが走っているような足音が聞こえてきた
どうしたのかな、と思ってその方向へ行ってみると、きょろきょろとあたりを見回す
ハヤトの姿が
ジンが声をかけると、手を振りながら駆け寄ってきた
「探し物か何かですか?」
「ああ、でっかい犬が迷い込んだんだよ」
「犬、ですか」
「ゴールデンレトリバーなんだけど、見てねえ?」
「いや、基地内では
リュウ君しか見てないです」
「そっか、あいつどこ行ったかな」
そう言ってまたあたりを見回すハヤト
彼は気付いていないが、先ほどの会話をしてからジンが少しそわそわしている
口角が緩むのを隠しているような、そんな落ち着きの無さだ
「あの、ハヤトさん」
「お?」
「その子、もし見つかったら…」
「きゃああああああああああ!!」
ジンの言葉を遮るように、女性の悲鳴が廊下に響いた
「あの声って、たしかコノカの…?」
2人は花のような少女の姿を思い浮かべ、どこか嫌な予感を感じた
「行きましょう!」
「ああ」
お互いの顔を見合わせると、悲鳴が聞こえて来た方へと駆けて行った
2人が駆けつけると、仰向けで薔薇の花びらまみれになっているコノカがいて
その上にはハヤトが探していたゴールデンレトリバーが乗っかっている
懐いているのだろう、犬はシッポをぶんぶんと振り回してじゃれついている
本当なら犬も見つかり一件落着なのだが、この場合そうはいかない
コノカは、悪夢を手に入れた時のトラウマで犬が大の苦手なのだ
おかげで彼女は目一杯に涙を浮かべ石化していて、意識を保っていること自体が奇跡なほどだ
うかつに手を出せばどう暴れるかも分からず、また逃げ出してしまうかもしれない
「ほら、こっちおいで」
どうしようか思案していると、不意に男の声が聞こえてきた
男は犬と彼女のそばに近づくと、犬に手を差し伸べた
それを見た犬は彼女と男を交互に見ると、ゆっくりと男の元へ向かった
「良い子だね」
男はそう言うと犬を抱き上げ、頭をなでた
犬はその事に上機嫌で、お返しと言わんばかりに男の顔を舐め回している
「大丈夫ですか?コノカさん」
彼女はその光景を茫然と眺めていたが、声をかけられた事で正気に戻ったのか
声にならない悲鳴を上げて逃げ去ってしまった
「タマちゃん」
「シズルさん」
ハヤトとジンが呼ぶと、男は少し落ち込んだ様子で笑顔を作った
「犬捕まえてくれてありがとな」
「いえ…この子、どうしたんですか?」
「なんかの手違いで迷い込んじまったみたいでな、探してたんだよ」
「そうだったんですか」
「あの、シズルさん?」
「うん?」
もふっ
「このこ、さわってもいいですか?」
そう言いながらも、ジンの手は玉置の腕の中の犬におかれていて
彼は目をらんらんと輝かせながらその感触を楽しんでいる
「良いですよ?と言っても…」
「言う前からさわってるよな?」
その声も今の彼に届いているのか、生返事をしながら一心不乱に犬を触り続けている
触られる事に喜んでいるように、犬もジンの手に頬ずりをしたり、舐めたりしている
ハヤトはその行動を見ながら、呆れたように自分も犬の頭に手を置いた
それは野良犬とは思えないほどふかふかしていて、しばらくその感触を楽しんでいた
もふもふ
(コノカさん、大丈夫かなあ…)
腕の中で幸せそうにしている大型犬を眺めながら、玉置は先ほどの少女を心配した
追いかけたくとも、この状態では叶わぬ願いだったが
「わっくすぐったいよ」
「お前懐かれてんなあ」
犬と戯れている少年達が、今だけ少し恨めしく感じた
最終更新:2011年06月01日 01:44