赤く染まったストラウルの残骸の中、ひとつの廃ビルの階段を私は上っていた
いつも行動を共にしているエミは、急用ができたと告げて置いてきた
その理由は、今日聞こえて来た事が気になったから
『あ、あの…その…ある人と、約束したんです』
『え、デートの?』
『だから違いますってば!』
『な~んだ。で、誰と?』
『え、えと…』
教室で交わされたごく普通の会話
ただの恋バナならいつも通り聞き流しているんだけど、今回はちょっと勝手が違った
会話の中心人物である『ある人』は、私達の所属するホウオウグループで作られた人工生命
異常な事だらけのいかせのごれ高校だけど、こればかりは諸事情で聞き逃す事は出来ない
廃ビルの階段を上りきると、目の前は心地よい風と緋色に包まれた
だけど、別に風や景色を楽しみに来たわけじゃない
目的は、屋上のフェンスにもたれかかっている灰色の死にたがり
景色を楽しんでいたであろう彼
興味を持たぬ目で私の存在を確認すると、すぐに視線を夕焼けの方に戻した
「隣、いい?」
「構いませんよ」
彼の横に立てば、逆光で黒塗りになったコンクリートが緋色を更に引き立てている
ここは彼が最も気に入っている場所だと、何度か聞いた事がある
なるほど、普段見るそれよりはきれいで同じものとは思えない
わざわざ通う気持ちはわからないけど、素直にそれはきれいね
「この景色って、
カナミと約束した場所?」
「…なんでそれ知ってるんですか?」
「肯定と捉えてもよさそうね」
「また盗み聞きした情報ですか」
「今日教室で聞いたの。カナミが騒いでいたわ」
「カナミさんが?なんでそんなこと」
「トキコに尋問されてたの」
「ああ、そういうことですか」
「それで、あなたはあの子の事どう思ってるの?」
「別にどうとも。面白い人だとは思いますよ」
「本当にそれだけ?」
「僕からその情報を引き出して何になるんです、意味が無いでしょう」
「そうね、グループには何の利益にもならないわ。でも、私が気になるの」
「…?」
怪訝そうな顔を見せる彼
単刀直入に、今日の目的を告げた
「ウツロ、カナミのことはもう忘れなさい」
「それって強制ですか?」
「いいえ、忠告しに来たの」
「くだらないですね。付き合っていられないですよ」
「いつか不幸になるわよ」
「何のことかは分かりませんが、今よりはずっとマシですよ」
「…そう」
気付けば緋は蒼に追われ始め、漆黒のビルに身を隠している
“早く会いたいな”
ふとそんな声が聞こえてきて、あの子が近くに来た事が分かった
ここで鉢合わせるのも嫌だし、約束を叶えるには少し遅すぎる
「そろそろ帰ったら?」
「そうですね、あなたは?」
「私はもう少しここにいるわ」
「じゃあ…」
ウツロが言い終える前に、爆音と振動が下から響いた
彼は少し驚くと共に、何処か嫌な予感を感じたらしい
「誰かが暴れているのかしらね」
「さあ、ウミさんは何か聞こえたりしていないんですか」
「人の思考は伝えすぎない主義なの、でも」
「でも?」
「あの子はあなたに助けを求めているわ」
「え…!」
こうして話している間にも、爆音は続いている
下にいるのが誰なのか、予感が一致した彼は肝を冷やしたようで
「助けてあげたら?」
「っ、先に失礼します」
そう言って、階段へと駆けて行く
その後、すぐにあの子の思考は安堵に満ちた
「…何やってるのかしらね、私」
ぽつりと、誰もいない屋上で呟いた
傍から見た私の行動は、2人の邪魔をしたいのか応援したいのかわからないだろう
実際、私自身もどうすればいいのかわからなくて、でも黙っては居られなかった
あの2人が敵同士じゃなければ、素直に傍観していたのに
ウツロは、いかせのごれ高校に通い幸せそうにしているトキコとリオトを羨んでいる
でも彼らは楽しいばかりじゃなくて、沢山の辛さを抱えてきた
その最たる原因は、身分違いの想い人の存在
トキコはウスワイヤに内通している子に想われ、
ホウオウ様との二者択一に苦しんだ
リオトは能力者である一般人に想いを馳せ、その子と戦う未来を案じ悩み抜いた
彼らはそれを乗り越えようと足掻き、良い悪いは別として現状から抜け出そうとしている
それほど、身分違いの仲は辛い
では、ウツロの場合は?
彼の相手はアースセイバーの一員、トキコやリオトの相手よりも身分の壁は高いのだ
そんな中で何かしらの関係を持てば、それをグループに利用される可能性もある
そうなれば最悪の場合、殺し合う未来が訪れる事も否定はできない
死にたがりはそれを喜ぶかもしれないけど、あの子はそんなこと望まないだろう
なんで、どうしてわざわざ回避できる茨道を進もうとするの?
これ以上、誰にも彼女のような辛い思いはしてほしくないのに
「もう嫌だよ」
発した声は夜風となったそれに流されて、静かに消えた
憂いに染まりゆく緋
最終更新:2011年06月03日 21:47