一通り作業を終え、ふと大きな木の根元に目を見やると、
ちょうどシズルが村の少女にヘアピンをプレゼントしている所だった。
胸がチクンと痛むのと同時にあの無邪気に喜ぶ少女が羨ましく思えてしまう。
つい見とれてしまったのがまずかった。
ゴンと鈍い音と同時に足に衝撃が走る。
「○★△☆…っ…!?」
『Oh…タマキに見惚れて金槌落とすとかもう末期じゃねぇか…ぷくくっ』
痛みに悶えながら見上げると、含み笑いをするソウジが立っていた。
『Fum…これが上目づかいってやつか?これはまた…』
「ソウジ…また脳天かち割ってほしいの?」
『ははっさすがに同じ攻撃を二度くらわねぇぜ』
金槌が虚空を切る、実に残念でならない。
『あのヘアピン確か…あぁ!銃を乱射された時のやつだ!』
「銃?話がみえてこないんだけれど…」
『いやぁ、前にあれを見かけた時、恋人へのプレゼントかい?って茶かしたらさぁ』
「……それはソウジがわるい」
『なんでだよ!ロゼ、まさかあの子に妬いてたりとかしてないよな?まぁそんな事は…』
「ば、ばっかじゃないの?!妬くわけないじゃない!!」
『へいへーい!そんなに怒るなよロゼ、おーい』
「ちーがーいーますーっ! ただ救急箱取りに行くだけよ!」
『はぁ、やれやれ…素直じゃないなぁ』
その場を立ち去るように歩きだしてふと自分の髪に触れる。
…とてもじゃないがピンを止めるほど長くはない。
髪が少しでも長かったら?
もしかしたら、
もし、
も
_______________
「……っあ!ぐっ…」
背中に痺れと熱さがこみ上げる。
どうやらショックで気を失っていたらしい。
身体を起こそうとすると背中からじわりと血が溢れるのを感じる。
そしてふと横を見やるとそこには。
「…ソウジ……」
うつ伏せになり、横たわる彼の姿がそこにはあった。
胸にぽっかりと空いた空間が彼の即死を語っている。
彼の見開いた目にはもう、光は宿っていない。
本当はあの時、シズルがあの化け物に殺されかけた時、私が飛び出すはずだった。
それは
ホウオウグループの一員としてあるまじき行動だった。
無意識に彼を、シズルを助けたいと思ってしまった。
なのに、駆け出そうとした身体をソウジに押し返されて、その次の瞬間には。
「ばか…本当にばかじゃないの…なんで助けたのよ…」
彼の私に対する思いを知らないわけじゃなかった。
「人の事、言えないじゃない……何が末期よ…」
胸に十字を切り、そっと彼の瞳を閉じさせる。
そして一通り辺りを見渡せば少し離れた所に、鳥の、あの化け物の死体に目が止まる。
同時にそれがシズルでない事に安堵する。
その死体に近づき、ふと気付く。
見覚えのあるヘアピンを髪に留めていた。
「あなた…」
アルバート=シュタインは
『人間と動物を組み合わせた新たなる人類』という論文に妙な執着心があった。
それは自分の掲げた物を否定されたという為か。
それとも人類の進化について真剣な為かは定かでない。
ホウオウグループの本部で見かけた時も彼の我欲が強すぎて気分が悪かった。
最近では何の報告もなく、こんな辺境で慈善活動に着手しているものだから、
裏切りではないか、実はスパイじゃないかという根も葉もない噂がたっていた。
それを見極め、裁きを下す為にも偵察にて来いと命じられて今に至る。
私はいつまでもここにはいられない。
もうすぐ『迎え』が来る。
ここに来て、かけがえのない友達ができた。
初恋もした。
でも、もう終わらせないと…。
変わり果てた少女の髪をひと撫でした後、まっすぐ通路の奥へと歩き出す。
そうして慣れた手つきで銃を装填させ、隠し持っていたナイフを確認する。
まずシズルを見つけたら真っ先に眠らせよう。
彼にこんな私を見せたくない。
いくら本気を出せない状況だったとはいえ、実験体がまだいたら確実に殺さないと。
じゃないとホウオウグループに連れられて、ひどい実験材料にされかねない。
ここで死んだ方がきっと…彼らの為だ。
証拠隠滅に火を放たないと、それに軍組織の記憶の改竄もまたしないと…。
あぁ、もうこんな事を考えているだけで、頭の中がぐちゃぐちゃになりそう。
こんな気持ちになった事なんて今までなかったのに。
溢れる涙を拭う時間も惜しい。
『とある侵入者のお話』
「アルバート=シュタイン…あなたを恨みます」
最終更新:2011年06月05日 00:15