北朝鮮陸軍は恐るべき数の火砲(10,000門以上)をDMZ沿いに配置しており、韓国の首都ソウルは常にその脅威に晒されてきた。これに対し韓国軍と在韓米軍はM109自走砲などを装備してきたが、北朝鮮の170~240mmクラスの大口径自走砲には射程、威力ともに劣った。この状況を打破するために配備が始まったのが、MLRSと国産のK9自走砲である。K9は長大な射程と高い射撃速度、良好な機動性を持って戦場を制圧する新型自走砲として韓国国内で開発された。1980年代に陸軍から出された新型自走砲の要求を受け、ADD(Agency for Defense Development:国防科学研究所)と三星テックウィン社が1989年7月から共同で開発を行い、1995年1月に最初の試作車輌が完成して1996年6月に射撃テストを実施、1998年12月に国防部が正式な量産契約を締結した。当初三星テックウィンは装甲パネルの溶接技術が劣っていたため、開発困難と考えたADDが現代重工(既にK1戦車を生産していた)に車体の開発を指示したが、三星テックウィンは面子から独自の技術開発に固持し、計画が遅れたという。1997年の経済危機を受けてK9の量産は中止されるかと思われたが、陸軍の強硬な主張によって本格的な量産が1999年から始まり、M110 203mm自走榴弾砲の後継として第5軍団の第5砲兵旅団や第6軍団の第6砲兵旅団、第7軍団の第7砲兵旅団などの軍団直轄砲兵に配備されている。また東部戦線の要である第11機械化歩兵師団の自走砲連隊にも、特別に1個大隊のK9が配備されている。一部の海兵隊にも配備が始まっているようだ。愛称は「雷鳴(サンダー/Thunder)」。初期の国産化率は70%程度だったが、現在は80%以上まで達しているという。取得初年度(1999年)の価格は1輌約37億ウォンで、計477輌が生産される予定。2007年3月21日の発表によれば、18輌の追加生産が決定されたという。
K9が装備する砲は、韓国WIA社とADDが開発した52口径の155mm榴弾砲である。K9は高度に自動化された火器管制装置と自動装填装置を有しており、本部のBTCS(Battalion Tactical Command System:砲兵射撃統制システム)からデータ・リンクで目標射撃諸元を得て、陣地進入から僅か60秒(停止状態からは30秒)で射撃を開始する事ができる。最大連続射撃速度は毎分6発、長時間に渡る場合の連続射撃速度は毎分2発である。K9は優れた火器管制装置により、1輌がバースト射撃(15秒に3発発射)した砲弾を同時に着弾させるToT(Time on Target)機能も有している。K9中隊の構成は6輌から成っており、中隊全車による一斉バースト射撃は相当な威力を発揮する。ToTは重要目標の破壊に威力を発揮する。最大射程距離はADDが開発したK9用RAP弾(Rocket Assisted Projectil/ロケット推進砲弾)を使用すると50km以上にも達する。但しRAP弾は通常砲弾と比べて炸薬量が少なく、命中精度も若干低くなる。M107HE弾(高性能榴弾)の場合の射程距離は30km、K307ERFB弾(Extend Range Full Bore:低抵抗砲弾)の場合は40kmだ。豊山弾薬社が開発したK310 DP-ICM(Dual-Purpose Improved Conventional Munition:多目的改良型通常弾薬)は対機甲・対人両方に効果のある多目的砲弾で、内部に88個の成形炸薬子弾を内蔵しており、極めて広範囲を制圧する事ができる。射程距離は約36km。精密砲撃に重要な自車の位置標定のために、K9はGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)と高度な慣性利用の位置・傾斜角測定システムを備えている。
【2009.06.25追記】
オーストラリアの新型自走榴弾砲調達計画にPzH2000を提案していたドイツのKMW社が「知的所有権やリスク共有などの問題で折り合いが付かなかった」として、この計画からの撤退を表明した。KMW社はイギリスのBAEシステムズ社と組んでPzH2000 18輌を提案していた。KMW社の撤退により、この計画に参加を表明しているのはK9を提案している韓国の三星テックウィン社(米レイセオン社と共同)だけとなった。
(Forecast International via Defense-Aerospace.com/Kojii.net)
▼一斉射撃を行なうK9自走砲中隊
▼砲を最大仰角まで上げたK9自走砲
▼悪路を走破するK9。機動性は高い。
▼K9自走砲後部
▼K9自走砲内部
▼K9に搭載されてるMTU製881Ka-500ディーゼルエンジン(1,000hp)
▼K9自走砲動画(大隊規模での一斉射撃、砲弾・装薬の自動装填、K10による自動給弾など)
▼トルコに輸出されたK9(T-155 FIRTINA)
【参考資料】
Asia & Pacific Defence Forum
PowerCorea
朝鮮日報
中央日報
Kojii.net
Defense-Aerospace