第三期
(1902~)
そして円熟期に入ると、再び国際テーマに回帰する。視点の技法に、劇作で得た場面の技法(一つの章が一つの場面に限定される)を加え、精緻な文体で人間の複雑な心理を見事に描写している。この時期の作品としては後期の三大傑作とされる三つの長篇がある。
『鳩の翼』(The Wings of Dove,1902)は、無垢なアメリカ娘がヨーロッパの悪を許すことで倫理的勝利を収める姿を描いた。
『大使たち』(The Ambassadors,1903)は、遊学したまま帰国しないアメリカの青年チャドを連れ戻す使命をおびてパリを訪れた55歳の男ストラザーが逆にパリに魅せられる心理を、視点の技法を駆使して描いている。
『金色の盃』(The Golden Bowl,1904)は、アメリカの富豪と娘がそれぞれ後妻と婿をヨーロッパ滞在中に得るのだが、その後妻と婿はかつて恋人同士だったという、そういった複雑な人間関係の登場人物たちを、いわくのある金色の盃を軸に描いている。
小説以外では優れた文芸評論として評価の高い『ホーソーン』(Hawthorne,1879)、自らの小説論を語った「フィクションの技法」(The Art of Fiction)を含む『評伝』(Partial Portrait,1888)、ニューヨーク版の自選集の序文である『小説の技法』(The Art of the Novel,1934)、それ以外にも書簡集や自叙伝、旅行記などが多数出版されている。
最終更新:2008年08月16日 15:13