・セブンスドラゴンの世界。ドラゴンいなくなって10年後設定。
・ネタバレ、独自設定、独自解釈あり。
・眼鏡メイジ(グラスト)×ルシェ侍(ナムナ)。他にも出てきます。
・名前はちびキャラ準拠。でもこれじゃない感がひどい。
・全体的に好き勝手やってる。
ナムナはグラストが苦手であった。正直に言うならば、かなり苦手であった。
別に、ルシェでないからという理由なき理由で嫌悪しているわけではない。
ギルドのメンバーはルシェもルシェ以外も含まれていたし、メンバー同士もお互いを大切な仲間として信頼し合っている。
だからといって性格が嫌いというわけでもない。嘘つけ、と突っ込まれるだろうがこれは本当である。
グラストという人物を一言で表すならば"秀才"だ。
齢18という若さで炎属性と無属性二種の魔法を巧みに操るだけの技量を持ち、かといってそれに驕ることはせず日々修練を重ね、
他者へ接する際は柔らかい物腰と丁寧な姿勢を保ち、常に穏やかで、大声を上げる姿など戦闘中以外では見たことが無い。
豊富な知識を有しているからか本人の性格か、偏見や固定観念に囚われることもなく、老若男女二つ名外見関係無しに人と接する。
当然、チーム内外問わず、年齢性別種族も問わず、色々なところから引っ張りだこである。まさに人気者であった。
ここまでの話を聞くと、多くの人が首をかしげるだろう。いったいどこにグラストを苦手とする要素があるのかと。
どちらかというと、完璧な彼を妬んでいるのではとか、負け犬の遠吠えだとかも言いたくなるであろう。もっともな意見である。
だが、残念ながら、苦手とする理由はそれなりにあるのだ。
ナムナとて、初めて会った時から苦手意識を持っていたわけではない。むしろ、第一印象は割と良いものであった。
前述した通り、グラストは穏やかな人間である。
自他共に認めるほど男勝りで、良く言えば元気の良い、悪く言えばじゃじゃ馬と形容されるほどに女らしさの欠片もないナムナ相手でさえ、紳士的な対応を崩さなかった。
大柄で、尚且つサムライという職業の自身に対してそのような対応を取るものは少数だったので、それなりに感じていた緊張が和らいでホッとしたのと同時に、
丁寧な人間なのだと好感も持てた。仲良くやれそうだと安心した。……のだが。
一つ。思い返してみれば初期のほうから、グラストはナムナと距離を取っている。
最初のうちは違和感など感じていなかった。無視をされているでもないし、少し人見知りをするのだろうかとか、まぁ気のせいかと流していた。
しかし、チームを組んで1ヶ月も経ったのに、直接話をした回数が両手の指で足りた時、流石にこれは不自然だと思った。
加えて、その数回とてまともな話をしたとは言い難く、せいぜい、今日は良い天気だのこの料理は美味しいだの、当たり障りのないやり取りを二言三言交わした程度なのだ。
他の面々とのやり取りを見ていても、明らかに自身との差は感じられた。ナムナよりも遅く知り合ったハルカラ相手でさえ、ほんの数時間も経たないうちに喜びのハグを交わす仲である。
どう考えても自分一人との距離感があり過ぎだ。
二つ。まともにナムナの目を見ようとしない。大体目を逸らす。もしくはそっぽを向いたまま。
貴重な会話の時でさえ、ナムナがグラストの目をまっすぐ見たことはあまりないのだ。思い返してみれば、最初の時でさえそうであった。
とにかくひたすらに、目を逸らすそっぽを向くナムナの目を見ようとしない。
ナムナ自身は相手の目を見て話すことを好んでいるが、世の中にはそうでない人がいることも理解している。
決して無理強いしようとか、目が合わないヤツは碌でもないとか思っているわけではないのだが、
他の人と話をしているときは普通に相手の顔を見ている姿を見てしまうと、どうしても思うところがある。
些細なことかもしれないが、それでも積もっていけば中々気になるものである。
三つ。ナムナを避ける。取り合えず避ける。本当に避ける。
これも最初のうちはあまり気にしていなかったが、グラストは、ナムナとの接触をひたすらに避けるのである。
話を早々に切り上げられたり、誰かと話していてもナムナが声をかけた途端さっさとその場を離れたり、
本を読んだりしていてもナムナが近付くとすぐにどこかへ行ってしまったりと、どんなに能天気に考えても避けられているとしか思えないのだ。
それでもめげずに関わろうとしてみたのだけれど、ナムナが声をかけたことで、
グラストとあまり話せなかった…と落ち込んでいる声を聞くことが増えてしまってからは、それ以上強引にいくこともはばかられるようになった。
流石に耐え切れなくなって、何度か、腹立たせるようなことをしてしまったのかと、
もし不満があるようであれば言ってくれと直球をぶつけてみたりもしたのだが、
なにもない不満など無い仲間として信頼している、の一点張りで、とりつくしまもないのだ。
嫌いだとか、ここが腹立つとか、気に食わないとか。
直接伝えてくれればナムナもやりようがあるのだけれど、
なにもないと言われるばかりであんな行動をとられては、もう、どうすればいいのかも分からない。お手上げだ。
結局、ナムナのほうも自然とグラストを避けるようになり、今となっては挨拶と戦闘時のやりとりのみが主な接点である。
ハントマンとしても人としても、中々出会えないであろう良い人物であるだけに、
薄っぺらい関わりしか出来ないことが寂しいところであった。
「……なるほど」
ナムナが説明を終えると、静かに聞いていたケイトは呆れ交じりの溜め息をついた。
現在、ギルド"クラフター"のギルドハウスにはナムナとケイトの二人しかいない。
クエストだのなんだので全員出払っているのだ。
残された二人はいつも通り軽く手合わせをしていたのだが、ケイト曰く普段のキレの良さが無いとのことで
早々に切り上げられ、ナムナの自室で相談をしていたのである。相談内容は、もちろん、グラストのことだ。
「最初のうちは、気のせいかとも思ってたんだけどさ。さすがに三か月もこのままだと…ちょっと、ね」
「そうだな。ナムナがそう思うのも無理はない」
「……やっぱり、あたいが嫌なことしちゃったのかな」
「そうとは限らないと思うが」
「ええー…?」
どういうこっちゃ、と口をへの字にしたナムナだが、ケイトは落ち着いたままだ。
「私の予想が合っているかは不明だが…グラストを見ていると、負の理由でナムナを避けているようには思えないんだ」
「どういうことだい?」
「相手のことを嫌っていなくとも、相手との関わりを避けてしまう場面は存在するからな」
「グラストのはそれだってこと?」
「確信は持てないが」
慎重な言葉とは裏腹に、ケイトの顔は妙な自信に満ちている。
しかしながら、彼女が何の意図を持ってそういうのかは分からない。思わず首を傾げてしまう。
「あまり心配するな。メンバー同士がぎくしゃくするのは避けたいし、
そうでなくともナムナは大切な友人だ。出来得る限り協力するよ」
「……ん、ありがとね」
そう言って微笑んだケイトの笑顔に、僅かばかり、心が軽くなった。
それが、三日ほど前の話。そして現在。
「というわけだから、ナムナ、グラスト。二人で行ってきてくれ」
「……えっ?」
ナムナは、ケイトに頼った自分自身を全力で殴りたい気分になっていた。
事の次第はケイトが引き受けてきたとあるクエストである。
依頼主は姫と付き人の二人組。曰く、トドワ山岳を超えたいんだけど二人じゃ不安だから護衛を、とのこと。
その内容自体は全く問題ない。戦慣れしていない人間が護衛を雇うのはよくある話だ。しかし。しかしだ。
思いっきり避けられてる相手と(姫と付き人はいるとはいえ)二人っきりで仕事してこいって…!
心の中で悲鳴を上げたナムナの一方で、グラストも困った顔をしていた。
「…お言葉ですが、ケイト。護衛というのであれば、もう少し人数が必要ではありませんか?」
「問題ない。どうやら、それなりに腕に覚えはあるお方のようでな。二人、と指定してきたのはあちらだ」
「……そうですか」
「ちょ、ちょっと待っておくれよ。それなら、ケイトとケビンとか、グラストとハルカラとかのがいいんじゃないのかい?」
このまま押し切られては非常に気まずい。
そう思って、ナイトとヒーラーの堅実コンビや、メイジとファイターの高火力コンビを提案してみたナムナだったが。
「あちらはローグとプリンセスだ。回復はできるから、連携がとりやすいサムライと、
もう一人は知識が豊富な人物をと希望されている。私たちのギルドに、グラスト以上に物を知っている人間はいないだろう」
「……分かったよ」
よどみなくすらすらと答えられ、結局、了承することになってしまった。
「えーと…プリンセスとローグの二人組、だっけか?」
「はい。待ち合わせ場所はここで合っているはずなのですが…」
二日後、ナムナとグラストはミロスの正門前にいた。
依頼主であるローグ、プリンセスの二人を待っているのだ。
「準備もあるだろうしな。のんびり待ってようか」
「そうですね」
待っているのだが、気まずい。
普段に比べたら驚くほどの言葉を交わしているとはいえ、先ほどから、
ナムナが話しかけてグラストが一言二言答えるという形式は変わっていない。
視線も合わないし。今も通りに目を向けたままだし。目を合わせるのすら嫌ってのかこの野郎。
ここのところ、ずっと抱え続けている不安や不満が限界に近付いているのを感じて、ナムナは長めに息をはいた。
自分がグラストと良い関係を作れていないことと、今回のクエストは関係無い。
私情に駆られて妙なポカをしないように、と心の中で気合を入れていたところで、
「…あ。あの人たちのようですね」
通りの向こうから仕事の依頼者たちがやって来た。
プリンセスのルシェの少女はモモメノ、ローグの青年はヤックと名乗った。
今回の山越えの目的は、二人の故郷であるトドワ山岳の麓の村へ里帰り、らしい。
「へえ、じゃ、あんたたちは幼馴染ってやつなのかい?」
「ああ。どっかのギルドに入ることも考えたんだけど、どーも二人旅に慣れちまってさ」
「で、ちょっと厳しい時はこうやってハントマンを雇ってるのか。それはそれで楽しそうだねぇ」
「…うん…」
ナムナの言葉に、ヤックとモモメノは顔を見合わせて楽しそうに笑った。
濃い青の長い髪を二つに縛って紫色のドレスを着たモモメノと、淡い桃色の髪以外は黒一色な服を着たヤックの組み合わせを見た時は、
自分の胃の安否が不安になったナムナだったが、彼女の心配は――少なくとも依頼人二人に対しては――杞憂であった。
二人とも、戦闘面では四人で行動するなら全く問題が無い技量を持っているし、今まで接してきた感じでは人好きのする正直な人間だ。
特にヤックは気さくで話しやすく、どことなく馬が合う感じがする。モモメノも、内気ではあるようだが懸命に頑張っているのが伝わってくる。
うん。やっぱり外見だけで人を判断するのはよくない。
「もう少し休憩を取ったら先へ進みましょうか。この調子だと、今日中に山頂辺りまで行けるかもしれません」
「おうよ。モモメノ、絶景見るためにがんばろうなー」
「うん。がんばる…」
にこにこと笑顔を交わす二人を見ていると、なんだか微笑ましい気分が伝染してきて、知らずのうちにナムナの頬も緩んでいた。
ふと視線をずらすと、グラストも同じように優しい笑顔で二人を見つめている。
こっちの方が本当の姿なんだよなぁ、と何とも言えない気分で眺めていると、ナムナの視線に気づいたのかこちらを見て、
「っ……!」
何故か顔を赤らめる。
反応が不思議で首をかしげたら、何やら一層赤くなって、視線を逸らしかけて、ハッとなって、もう一度ナムナと視線を合わせ、
「…そ、ろそろ、さきに、進みましょう、か」
ひじょーにぎこちない様子ではあるものの、恥ずかしそうに笑いかけてきた。
「…そうだね。そうしようか」
そんなグラストの様子に、何故か、不思議と、どことなく、
今までナムナの中にたまっていたもやもやが晴れていって、自然と笑顔を返せたのだった。
もう少しで山頂、という所で一行は野宿の準備を始めた。
日が落ちきるにはまだ時間があったが、暗くなる前に寝床を確保するのは基本中の基本だ。
「いやー、野宿の準備とかするとさ、やっぱ、ハントマン! って感じがあるよなー」
「安全な場所で寝れるに越したことはないけどね」
「そりゃオレだって寝袋よりはベッドが好きだぞ?でもこう、なんつーか…こう…」
「あはは、いいよいいよ。あんたの言いたいこともなんとなく分かるよ」
「おっ、やっぱりそうか!」
軽口を叩きながら手を動かす。
「…ナムナたちは、なんで、ハントマンになったの…?」
「んー…あたいは、もっと強いヤツと戦いたかったからだね。国も落ち着いたから良い機会だと思ってさ」
「おお、さすが、豪気だな! おまえはどうなんだ?」
「私ですか?…そうですね…自分の持つ知識を、誰かのために使えたらと思ったのもありますが…」
グラストらしい理由だ、と思いながら耳を傾けていると、少し間を置いて恥ずかしげな声が聞こえてきた。
「…色々なものをこの身で体験したい、というのが一番の理由です。あまり胸を張っては言えませんけれど」
「……どうして? すてきなのに」
「はは、ありがとうございます。…あなた方は、どうしてハントマンに?」
グラストの問いに、ヤックとモモメノは楽しそうに顔を見合わせる。本当に仲が良い。
「ありがちなんだけどさ、オレたちは"英雄"に憧れてハントマンになったんだ」
「ああ、なるほど」
「よく分かるよ。あたいも、あの人たちのこと尊敬してる」
「…うん。すごいよね」
ハントマンの間で"英雄"といえば、十年前の竜災害の時に全ての国の先頭に立って戦い、
七の帝竜と真竜を倒してエデンを救ったギルドのことだ。
直接会って話したことは無いが、ハントマンにとって、"英雄王ドリス=アゴート"と彼に導かれた"英雄"たちは、
絶対的な憧れの的であり、同時に、いつか追いつき追い越してやると思う目標でもある。
ヤックたちが彼らに憧れてハントマンになったというのも納得だ。
「実はさ、オレたち、会ったことがあるんだ」
「え?……会ったって、まさか、"英雄"に!?」
思わず大声を出すと、ヤックとモモメノはにこりと笑って頷いた。なんということだ。
「もう何年も前のことなんだけどさ。モモメノのお袋さんの病気を治すために、ゼンダ竹林で採れる特別な薬草が必要だった。
でも、村の人間じゃ、あそこのマモノには敵いっこない。あわや泣き寝入りかって時に現れたのが…」
「…"英雄"だったと?」
未だ驚きを隠せない様子のグラストに、再び二人の動きが同期する。
「つっても、そん時は必死で、どこの誰とか考えてなかったんだけどな。
お袋さんが元気になったあとに教えてもらって、そりゃあたまげたもんだよ」
「へえぇ…!」
「わたし、お礼言えなかったから…いつか会えたら、ちゃんとお礼しようって」
「…なるほど。それで、ハントマンになったんですね」
「そーゆーこと。今はまだ弱いけど、もっともっと強くなって、いつか絶対礼を言うんだ。それが、オレたちの目標!」
「うん…!」
それから、ナムナたち四人は"英雄"話に花を咲かせた。
どんなメンバーだったのか、どのような武器を使っていたのか、メンバーの職業はなんだったのか、など。
ヤックとモモメノの記憶も曖昧ではあったが、グラストとナムナの好奇心を満たし、想像力を働かせるには十分だった。
今になって、あの時の自分たちは興奮しすぎていたかもしれない、とナムナは思う。
一応安全な一角を確保したとはいえ、ナムナたちがいたのは街中ではなく、
いつどこから敵が飛び出してくるか分からないフィールドだ。慎重になってなりすぎることはなかったのに。
一言で言うと、不意を打たれたのだ。
日が落ちきる前に食事をしてしまおうと四人が僅かに離れたところを襲われた。
敵の気配を感じて振り返るのと、マッドライオンがナムナを弾き飛ばしたのはほとんど同時だった。
反射的に腕で体を庇ったのと、攻撃に合わせて地面を蹴ったおかげで腕の傷こそ大したことはなかったが、
「っ、ナムナさんっ!」
「うわぁぁぁああああっ!?」
そこまで広くない登山道から、暗い山の中へと転げ落ちる羽目になってしまった。
最終更新:2013年09月19日 20:03