アットウィキロゴ
・セブンスドラゴン2020‐Ⅱ終盤
・エロなし
・「左側の部屋で」の続き
・NGは「左側の部屋で」

このSSにおける設定
アユム:『歩』。ルシェ♀。戦闘ジョブはサムライ。議事堂襲撃事件の後に新規登録された新人13班。
ミツツグ:『光継』。ルシェ♂。戦闘ジョブはアイドル。それ以外は同上。
イズミ:『和泉』。公式NPCなので説明は必要ない、はず。




0,

2021年、東京。

人類の拠点たる国会議事堂の地下2階にある、政府の特殊機関『ムラクモ』の居住区。

そこにある、人類の刃たる『ムラクモ13班』のマイルーム。……の、同じ並びにある一室。

通称『左側の部屋』。


そこに、蘇りし種族の2人と、アメリカの特殊部隊の現リーダーの女がいた。


1,

「……で、何でここにいるわけ?」

静かな室内で、アメリカの特殊部隊の……『SECT11』の女が口を開いた。
青髪を後ろで束ねた、猫のようなつり目が印象的な若い娘だった。

「「……?」」

蘇りし種族の……ルシェ族の2人はかすかに首を傾げるだけだった。
白いふわふわした獣耳をもつ少女と、浅黒い肌と尖った耳をもつ少年だった。

「どうして、って?」

ルシェの女が尋ね返す。
それに対し、SECT11の女は重ねて問うた。

「だから、ここはあたしたちSECT11の部屋でしょ?」
3日ぶりに帰ってきたマイルームを、ほとんど面識のない2人に占拠されていた女の疑問だった。

「ここは、ムラクモ居住区じゃないか?」
ルシェの男が辺りを見回しながら返した。

「俺たちは、ムラクモ13班」
「うん」
ルシェの女と視線を交わして頷き合う。

「何もおかしくない」
そうルシェの男が結論づけた。

SECT11の女が言葉に詰まった。
逆にルシェの女が問いかける。
「どうしてイズミは、ここにいるの?」

「どうしてって……」
困惑しながら、SECT11の女は答えた。

「モトコたちに、議事堂に来るように言われたのよ」
ムラクモ13班のリーダーの名前を出し、説明を続ける。

「別にあたしたちには必要なかったんだけど」
「うん」
「ショー兄が世話になろうって言うし」
「うん」
「まあ、戦力の合流って意味では理に適ってるし」
「うん」
「そ、それにモトコがどうしてもって言うから!」
「うん」
「……だからここにいるのよ」
「うん」

「……」

「……ふぅん」

ルシェの女が納得した。
それは単なる納得の声であり、非難がましい意味を持たないものであったが、

「……」

SECT11の女は、何となく居心地の悪い思いをした。


2,

「……って、いうか」

SECT11の女が思い出したように言った。

「13班なら、13班のマイルームがあるでしょ」
「ああ」
「どうしてそっちにいないのよ」
「……」

ルシェの2人の雰囲気が、変わったような気がした。

実際にはそれは、ルシェの男によく考えてから喋る癖があったために生まれた間であり、
端的に言えば、SECT11の女の気のせいであったが、

「っ……?」

ジェスチャーを交えながら絶え間なく言葉のやりとりをする、『アメリカの文化』に
慣れたSECT11の女には戸惑いを抱かせる間だった。
ルシェという種族に対して、まだ『創られた生命体』という不気味なイメージが拭えないことも一因としてある。
攻撃的に見えて、実は人見知りなところのあるSECT11の女はたじろいだ。

そんなこととは知らず、ルシェの女が話しかける。
「ねえ、イズミ」

ルシェの女には悪意がなかったが、
横から急に話しかけられたSECT11の女はさらにたじろいだ。
ルシェの女が続ける。

「知ってる?」
「……」
「あっちの部屋には、ベッドが3つしかないんだよ?」
「……」
「それを、9人で使っているんだよ」
「……」

「こっちの部屋は、イズミが1人で使っているんだよね?」

ルシェの女は素朴に首を傾げただけだったが、
SECT11の女には、責められているように感じられた。

「……わ、分かったから!」
「ん」
「この部屋を使うんでしょ、分かったわよ」
「うん」
「……あたしにこの部屋を出て行けとか、言わないよね?」

ルシェの女は、SECT11の女がなぜそんなことを聞くのかわからなかったが、

「言わないよ?」
と答えた。
2人の女は合意した。

「……そういえば」
そこへ、ルシェの男が何かを思い出して声を上げた。

「こういう時は、最初に挨拶をしたほうがいいと思う」
「……あ」

ルシェの女が同意する。
「そうだね」
「ああ」

ルシェの2人は頷き合い、SECT11の女に向き合った。

「ムラクモの、ミツツグです。これから、よろしく、お願いします」
「アユムです、よろしくお願いします」

言い終わると、ルシェの2人は、SECT11の女をじっと見て黙った。

SECT11の女は、2人が自分の挨拶を待っているのだと気づいた。

「よ、よろしく……イズミ・サクラバよ」

SECT11の女は思った。
こいつら、よくわかんない。

ルシェの2人は、
コミュニケーションは円滑に取れたので、仲良くなれるだろうと予想した。


3,

「イズミは、モトコたちと戦ったんだよね」
ルシェの女が言った。

「そうだけど」
SECT11の女が答えた。

「強かった?」
「そりゃ、強かったに決まってるじゃない」
SECT11の女は断言し、

「……あたしたちを負かしたんだからさ」
と付け足した。

ルシェの男が言った。
「俺たちは、モトコが戦ってるのを見たことがない」
「そうなの?」
「ああ」

ルシェの男はそこで一度言葉を切り、
「あと」
「?」

「議事堂から出たことが、ない」
「……マジで?」
SECT11の女にとって衝撃的な告白をした。

「ミツツグ、今は、モトコたちの話」
「ああ」
ルシェの女が話を元に戻す。

「わたし、モトコに刀の使い方を教えてもらった」
「そのあと、俺はモトコと一緒にオーダースキルの開発をした」
「へぇ」

SECT11の女は、今初めて知った情報に得心した。
「あのあとしばらく見なかったと思ったら、そんなことしてたんだ」
「ああ」
「……」
「……」
「ということは、今はあいつ『アイドル』なワケ?」
「ああ」
「『サムライ』であんなに強かったのに……」

ルシェの女が応えた。
「ケガ、したから」
「そうなんだ」
「……」

「……もしかして、あたしたち?」

ムラクモ13班リーダーに重篤な後遺症を残した戦いの、対戦相手の女が訪ねた。

「そう、聞いた」
ルシェの男が答えた。

SECT11の女が黙った。
ルシェの2人はそれを黙ってみつめ、
静かな時が流れた。

「……やっぱり」
SECT11の女が、言った。

「憎まれてるのかな。あたしたち」

SECT11の女の脳裏に、かつてアメリカが、そして自分たちが日本に対して行った、
正義の名の下の独走と敵対行為が思い出された。
そして、
そんなSECT11の女に対してルシェの女は、

「どうして?」

と聞き返した。
なぜSECT11の女がそんな事を言うのかわからない、といった声だった。

「どうしてって……アンタ」
「?」
「こっちの指揮下に入らないで勝手したり」
「うん」
「13班にちょっかいかけて戦ったりもしたし」
「うん」
「あの、マリナって子を連れ去ったりもしたし」
「うん」
「みんなのヒーローの、モトコに後遺症まで……」

SECT11の女が、思いつくままに言葉を並べる。
しかし、それでもルシェの女は首をかしげたままだった。
ルシェの男が、言った。

「イズミは、悪いことをしたのか?」

SECT11の女は、迷いながら答える。
「それは……」
「……」
「……そのときは、正義だと信じてやったことだけど」
「そうか」

ルシェの男はそれで納得したようだった。
それが答えだと、言っているようだった。

「それなら、誰もイズミを嫌いになったりは、しないと思う」
「だからって――」

「イズミの言ってること、なんとなく分かるよ」
ルシェの女が言った。

「それでね」
「……」
「わたし、ドラゴンは全部、みんなを守るために倒すけど」
「……」
「ドラゴンがきらいとか、間違ったことをしてるとは、思わないよ」

ルシェの女が、確信を持った口調で言った。
「戦うことと、嫌いになるのは、違うと思うよ」

「……そうかな」
SECT11の女は、納得しようとするように呟いた。




4,

「あの『ハッカー』とか、凄く怖かったんだけどな……」

ぽつりと漏れた言葉を拾って、ルシェの女の耳が一度跳ねた。
「……リエ?」
「名前は分かんないけど」

ルシェの2人は顔を見合わせ、
「赤い髪で」
「上はジャージで」
「下は短いズボン」
「ゴーグルと……おさげ」

交互に知っている情報を並べ立てた。

「ああ、そいつ。リエっていうんだ」
SECT11の女が肯定した。

「リエが、こわいことをしたのか」
「そういうわけじゃなくてさ、なんていうか……」
「?」
「あんたたちから見て、そのリエって明るいやつ?」

質問の意図が分からないながらも、ルシェの2人は答えた。

「やさしいと思うよ」
「会うたびに、困ったことがないか聞いてくる」
「あんたたちにはそんな感じなのか」
SECT11の女が頷いた。

「あたしが初めて会った頃は、SECT11にビビってる感じでさ」
「うん」
「ちょっぴり舌っ足らずでガキっぽいし、ムードメーカーなのかなって思ってたワケ」
「うん」
「……あのマリナって子を賭けた決闘の時、完全に敵を見る目だった」

SECT11の女がその時のことを思い出しながら、続けた。

「あたしは、結構誇らしい気分だったワケ」
「ああ」
「直前の帝竜との戦いで協力して、味方じゃないけど、通じ合った部分があったっていうか」
「ああ」
「で、面倒くさい話なんて全部ヌキにして、戦いで決めることになったわけよ」
「ああ」
「純粋に、バトルを楽しめると思った」
「ああ」
「モトコも、あたしたちをライバルって感じで見てくれてたと思う。もう1人も」
「アキノブだな」
「緑のフードで、ダガーを使う人?」
「そう、そいつ」
「……それで、3人目が、リエ」
SECT11の女が頷いた。

「あいつだけ、決闘って雰囲気じゃなかった」
「……」
「あたしの方がビビっちゃうくらい、『本気』だった」
「……」
「あんたたちは大らかだけどさ」
「……」
「やっぱ、あたしたちを憎んでる人はいると思うよ」

「……」

静かな部屋の中。
3人はしばし、沈黙した。

「リエは」
ルシェの男が、口を開いた。

「せんもん学校せい、だった。……って聞いた」
「?」
「1年と半年くらい前の、10:24、リエは学校にいた」
「ミツツグ」

話し始めたルシェの男の腕に、ルシェの女が触れた。
「いいの?」

ルシェの女の問いかけに、ルシェの男が答えた。
「イズミは、いいと思う」

そう答えるルシェの男をじっと見て、やがてルシェの女が頷いた。
「わかった。イズミは、いいね」
「?」

そのやりとりを訝しむSECT11の女に、ルシェの男が向き直った。

「リエのお父さんとお母さんは、ドラゴンに殺された」

「――!」
「リエのきょうだいも、友達も、先生も……みんな食べられた。ドラゴンがリエの学校に降りたから」
「……」
「リエは食べられかけて、死ぬくらいの大怪我をした」

ルシェの男が、最低限の言葉で、簡潔にまとめた。
ドラゴンは『倒す相手』であり、ドラゴンに『狩られる』概念を持たないSECT11の女が沈黙した。

「ミロクとミイナに言われた」
「……」
「リエは、誰かがドラゴンに食べられることを考えると、冷静でいられない」
「……」
「生存者を救助することにも、強いこだわりがある」

ルシェの男が、SECT11の女から視線を外した。
そして深く考え、言葉を選びながら、言った。

「マリナは捕まって、追われて、トリニトロに食べられそうになった。リエの手の届かないところで」
「――」
「リエには、SECT11がドラゴンに思えた、かもしれない」

「――――――」

SECT11の女が、細く長い息をついた。

「……ま、仕方ないよね」
平静を装いながら、SECT11の女が言った。

「それより、いいワケ? そんなプライバシー、部外者に言って」
「よくはない」
ルシェの男が答える。

「この情報は、仲間同士で助け合うために必要だから、知らされた」
「ふぅん」
「リエが、その記憶のせいで、いつもどおりの行動が取れなくなったときのために」
「まあ、そうなんだろうね」
「リエを助けてくれる、仲間にだけ、知らせる。他の人には、教えない」

「……だったら、あたしに教えちゃ――」
「イズミは仲間だから、知らせた」

SECT11の女の言葉に、ルシェの男の言葉が被った。
偶然でこそあれ、SECT11の女の言葉を否定して断言するかのようだった。

「イズミは、リエのこと、助けてくれるでしょ?」
ルシェの女が言った。

「……まあ、助けるけど」

SECT11の女は、そう言ってしまってから、ルシェの女の質問を頭の中で反芻した。
ルシェの女の質問は疑問からくる問いかけではなかったし、無知からくる盲信でもなかった。

ルシェの2人は、諸々の事情を踏まえたうえで、自分たちの意思でSECT11の女を仲間だと判断したのだ。
そしてSECT11の女は、それに応えたことになる。

「……」

SECT11の女は、自分がルシェの2人と、
『私たちは助け合う仲間です』というこっぱずかしい宣言をしたのに等しいことに気づいた。

「イズミが言うとおり、SECT11を嫌いな人は、いるかもしれないと思った」
ルシェの男が口を開いた。

「それでも、みんなイズミを助ける。イズミがリエを助けるように」
「わたしたちも、今は弱いけど」

ルシェの女が言った。
「イズミを助けるからね」

「え、ええと……」
突然の照れくさい空気に困惑するSECT11の女に、

「あと、リエはイズミを嫌いじゃない」
「え?」
ルシェの男が声をかけた。

「イズミ、この前、エレベーターに乗ろうとしてリエに会った?」
ルシェの女が引き取って言った。

「会ったけど……」
「乗らないで、そこから離れた?」
「……まあ、気まずかったし」

「この前会った時、リエ、すごく『がくがく』してたよ」
「イズミに避けられてる、って相談してきた」

「……先に言いなよ、それ」

SECT11の女が、脱力しながら言った。
ルシェの2人が揃って首をかしげる。

「……ま、ありがとね」

それは二重の意味を含んだ感謝だったが、
ルシェの2人にはうまく伝わらなかった。


5,

「そういえばさぁ」
テーブルに腰掛けている、SECT11の女が言った。

「あんたたち、子供がどうこう言ってたけど……」
「ん」

椅子に座る、ルシェの男が応えた。
「今、ルシェは3人しかいない」
「ふんふん」
「俺たちは、ルシェを未来に残したい」
「うん」

ベッドに座る、ルシェの女が言った。
「わたしと」
「うん」
「ミツツグで」
「うん」
「子供を作ろうかなって」
「……」


「……将来的に」
「……そ、そうなんだ……」

挑発的なファッションに見えて、実のところ初心なSECT11の女は困惑しながら納得した。

「えっと、その」
SECT11の女が続けて口を開く。

「つまり、2人はステディなわけ?」
「……すてでぃ?」
ルシェの2人が首をかしげた。

「あ、日本語じゃないと通じないか」
「……」
「えっと、つまり将来を誓ってる……伴侶なわけ?」
「……はんりょ?」
「ダメだこりゃ」
SECT11の女が呆れたように言った。

「なんで伴侶がわからないのよ? 日本語でしょ」
「まだ、勉強、途中だから」
「あーもう……なんかわかる言葉ないかな」

『恋人』という言葉を口にするのが恥ずかしいSECT11の女が、
頭をかきながら伝わりそうな言葉を探す。

「パートナー、ならわかる?」
「それならわかるよ」
ルシェの女が頷いた。

「子供を作るパートナーだよね? わたしとミツツグは、パートナーになるね」
「ああ、うん……」

それは結局SECT11の女が聞きたいことの答えにはなっていなかったが、
面倒くさくなったSECT11の女は質問をやめた。
無論納得したわけではなく、イライラと頭をかく。

「……」

ふと、SECT11の女の胸中に悪戯心が芽生えた。

「でもさぁ」
ちょっとした憂さ晴らしを決意して、SECT11の女が口を開いた。

「あんたたちって、同じとこで、ほとんど一緒に生まれたんでしょ?」
「そうだな」
「研究室の、右側の部屋だよ」
「46日前に俺が生まれて、その次の日にアユムが生まれた」
ルシェの2人が答える。

「でさ、それって兄妹みたいなもんじゃないの?」
「ん」
ルシェの男が首をかしげた。

「そうだな……マリナと俺とアユムは、研究室で同じところから生まれてるな」
「ミロクとミイナも、わたしたちはムラクモから生まれた家族って言ってた」
「そうだな」
ルシェの男が頷いた。

「俺とアユムは、兄妹に近いと思う」
そして質問の意図を窺うルシェの二人に、SECT11の女も頷いた。

「でしょ? で、」
意地の悪い笑みを浮かべながらSECT11の女が聞いた。

「あんた、妹相手に勃つワケ?」

「……たつ?」
「……たつ?」
ルシェの2人が顔を見合わせた。

「……」
ルシェの男が、椅子から起立した。

「立った」
「………………」

SECT11の女は頭を抱えた。
大人ぶって下世話なアメリカンジョークを飛ばしたことを心底後悔した。

「た、勃つっていうのはそういうことじゃなくて」
「?」
「~~っ……」

顔を紅潮させながら、SECT11の女は歯噛みした。
「勃つっていうのは……」
「いうのは?」

「……ちょっと、耳貸して」

同性であるルシェの女を選んで、SECT11の女は耳打ちした。
しようとした。

「ん……あれ?」
「イズミ、耳はこっち」
頭の側面を探すSECT11の女に、ルシェの女は自分の頭頂部を指さした。

「ああ、そうだった」
「……」
「……アメリカンジョークよ」
「そう?」

SECT11の女は、ルシェの女に耳打ちした。

「……」
「……」
耳打ちが終わった。


「………………………………」


ルシェの女が、苦虫を1ダースほど噛み潰したような顔になった。
初めて見る表情に、ルシェの男が驚愕するほどの顔だった。

「イズミ」
ルシェの女が、言った。

「セクハラ、きらい」

「……」
「……」

「ちょっと待てーーーっ!!」
SECT11の女が爆発した。

「聞く気、ない」
「聞け! 聞きなさいよ!」
「やだ」
「な、なんであれがセクハラなのよ!? あんたたちは……」
「絶対、セクハラ」
「そうだけど! そうだけど! あんたたち散々子作りがどうとか言っといてどの口が……っ!!」
「お、落ち着け」
珍しく狼狽した表情を見せる、ルシェの男が止めに入った。

「よく分からないけど……」
2人の女の反応を見ながら、恐る恐るルシェの男が言う。

「子供を作るのは、いやらしい話じゃない……と思うぞ」
「イズミ」
ルシェの女が、SECT11の女を見つめて、きっぱりと言った。

「心が汚れてる」

「……」
SECT11の女はその場にへたりこんだ。

「……なんでよぉ」

「アユム」
「なに、ミツツグ?」
「……なんでもない」

「ちょ、ちょっと待って……あんたたち、子供ってどこから来るか知ってるの?」
「……」
「……」
「……性交すると、お母さんのお腹の中にできるんだよね?」
「それがOKなら、なんであたしのはセクハラなのよ……」
「イズミ、落ち着け」
「ショー兄、あたしもうやだ……」

SECT11の女が立ち直るのは、この日の夕方を過ぎてからだった。


6,

「ただいま」
部屋に戻ってきた、SECT11の女が言った。

「おかえり」
「おかえり」
部屋の中にいた、ルシェの2人が応えた。

「戻ってくるとき、SKYとかいう不良グループに絡まれちゃった」

SECT11の女はルシェの2人に話しかけながら椅子に座った。
腰から提げた愛刀を脱きながら、つい先ほどの出来事を語って聞かせる。

「喧嘩売られたわけじゃないんだけど、やっぱ13班って人気なんだね」
「……」
「いろいろ13班のこと聞かれたりしてさぁ………………ん?」

SECT11の女が怪訝な顔をした。

「……」
「……」
ルシェの2人の様子が、いつもと違った。
互いに顔を見合わせては、チラチラとSECT11の女の方を見てくる。
どことなくおどおどした雰囲気があった。

「……」
SECT11の女は自分の荷物や私物を確認した。
特に悪戯されたような形跡はなかった。

「……ふむ」
SECT11の女はルシェの2人に向き直った。

「ちょっと、あんたたち」
「!」
「なんか言いたいことあんじゃないの? ……イタズラでもした?」
「……してない」
「あっそ、そいつは結構」

SECT11の女はおもむろに椅子から立ち上がった。
ベッドに座る2人へと歩み寄り、その場にしゃがむ。

「で? あたしの方を見るってことは、なんか聞きたいことでもあるんでしょ」
「……」
「……」
「……あ、」
「あの、イズミ」

意を決したように、ルシェの2人が口を開いた。
「相談が、あるんだけど」


3人は椅子へ場所を移し、テーブルを囲んだ。

「で、相談ってのは?」
SECT11の女が言う。
つんけんしているが、頼られてどことなく嬉しそうな雰囲気が漏れ出していた。

「あのね」
ルシェの女が切り出した。

「ルシェ族の、存続のことなんだけど」
「……そうなんだ」
SECT11の女に漂っていた雰囲気が、一瞬で萎んだ。
つい先日のトラウマがえぐり返されていた。

「そ、その話……あたしじゃないとダメ?」
「聞くのは、イヤ?」
「イヤじゃないけどさ」

「研究室で、相談したんだ」
ルシェの男が言った。

「ルシェ族は、数が少なすぎる。俺たちが子供を作っても、すぐに絶滅する」
「その打開法を相談したわけだ」
「みんな頭がいいから、どうすればいいかわかるかもしれないと思った」
「ま、あんたたちの製造元だもんね。 妥当な判断じゃないの?」

ルシェの男が話を続ける。
「それで、マツドにも聞いてみたんだ」
「左側の研究室の、奥にいる人」
「あのマッドなやつ?」
「うん」
「道徳的に問題ない方法で、ルシェを残せないか相談した」
「……で?」
「そうしたら、いい考えがあるって」
「へぇ」

SECT11の女は素直に感心した。
わざわざ『道徳的に問題ない方法で』と念押しされるかの研究者に呆れはしたが、
その上でこの2人の心配事をあっさりと解決するとはさすがムラクモの研究機関だとも思った。

「そりゃ、よかったじゃない」
「……」
「いいことだと思うけど……何が心配なワケ?」
「道徳的かもだけど」
「?」
「人道的じゃないかもしれない……」
「は!?」

SECT11の女は嫌な予感がした。
風の噂で聞いた、かの研究者のマッドサイエンティストぶりを思い出した。

「ち、ちなみに」
「……」
「どんな手段なワケ?」

「……ドラゴンクロニクルの技術を使うって」

SECT11の女はマイルームを飛び出した。


ドラゴンクロニクル。
それは竜を竜たらしめる設計図。
それは竜を竜へと進化せしめた真理の断片。
一年前の大戦で、竜を分解し、人を人竜へと変え、
1匹の災厄と1人の英雄を生み出した禁忌の技術。


SECT11の女は研究室へ飛び込んだ。

「何考えてんだコラぁァァーーーっ!!」

扉を蹴り破る勢いで入室した乱入者に、事情を知らない研究員たちが戦々恐々とする。

「なんだい、騒がしいね?」
「あいつらに聞いたわよ、どういうつもり!?」
一番奥のモニター前で、マッドな研究員が呆れたように振り返った。
その男へ向かって、SECT11の女が猛然と歩を進める。

「落ち着いてくれ、どの件だかわからないよ。 ……心当たりが多くてね」
「~~っ!」
SECT11の女はイライラしながらも、心を落ち着かせようと大きく息を吐いた。

「……ルシェの2人をそそのかして、ドラゴンクロニクルを使おうとしてるって聞いた」
「ああ、その件か」
研究員の男はあっさりと肯定した。

「その件って、あんた……!」
「だから落ち着いて。見たところ、一部情報の誤伝達があるようだ」
「?」
「ドラゴンクロニクルに『用いられている技術』を使うとは言ったが、『そのもの』を使う気はないよ」
「……もうちょっと、詳しく説明しなさい」

研究室のドアがそっと開いた。
「イズミ」
「いる?」

置いてけぼりにされたルシェの2人が、研究室へ入ってくる。



7,


当事者が揃ったところで、研究者の男は説明を始めた。

「当面の問題は、ルシェの個体数が少なく、今後の存続に不安があることだ」
「うん」
「もちろんオスとメスがいれば子供は作れるが」
研究者が続ける。

「元が3人ではかなり危険なレベルでの近親交配を繰り返さない限り、十分な個体数には達し得ない」
「もうちょっとオブラートに包みなさいよ」
「……道徳的にも遺伝子疾患的にも、この道は避けたいところだ」
「ああ」
「やはり、元のルシェの人数自体をどうにか増やす必要がある」
3人がそれぞれに相槌を打つ中、研究者の男はさらに続ける。

「製造はされたが、まだ目覚めていないルシェクローンを起こすというのが一番手っ取り早いが……」
「が?」
「それでもまだ足りない。データだけあって、まだ製造されていないクローンを加えても尚だ」
「そんなレベルか……」

SECT11の女が頭を押さえた。
しかし、ふとあることに気付き、研究者の男に問い返す。

「そういえばさ、ドラゴンクロニクルの技術の話はどこへ行ったワケ?」
「そう、それこそがこの問題を打破するキーだ」

研究者の男がモニターへ向き直った。
手元で何らかの操作をすると、画面をいっぱいに埋め尽くすデータの羅列が現れる。
区切りも改行もなく、ただただ文字と記号がどこまでも続いていた。

「何度も言うが、使うのはドラゴンクロニクルではなくそこに使われている技術だ」
「……これは?」
「エメルが持参した、ルシェ族のデータ集だよ」
「俺たちの、材料」
「そうだ。とは言っても、1人のルシェを再現するのに足る、完全に近いデータは数える程しか見つからない」
「……」
「ほとんどは、足りない部分を修復するのにしか使えない断片ばかりだ」
「その『完全に近いデータ』の数が、生み出せるルシェの人数そのものなワケね」
「その通り。これだけのデータがあっても、活用できたのはほんの数%だった。だが――」

研究者の男が画面を切り替える。
そこにはやはりデータの羅列が写っていた。
しかし、今写っているデータは明らかに意味のある、踊るような文字列を形成している。
その様子はなにかの図形のようにも見えた。

「これは何? なんか、凄そうなモノに見えるけど」
「それほど目新しいものじゃないさ。1年前、竜の検体からドラゴンクロニクルを作り出したように――」
「!」
「先ほどのデータから、これを作り出した。『ルシェ・クロニクル』とでも呼ぼうか」
「ルシェクロニクル……」
「これを用いれば、人間の因子にルシェの因子を潜在的に付け加えることができる」

その名前を繰り返したSECT11の女が、不意に声を上げた。
「ちょ、ちょっと……人間をルシェに改造しようってワケ!?」
「そこまではしないし、できないな」

青くなったSECT11の女に、研究者の男がさらりと答える。
ドラゴンクロニクルのときは保有していたドラゴン検体を人体に分解・融合させることで
肉体を急激に変質させることができたが、ルシェにはそんな検体が存在しないからだった。

「肉体が変化するようなことはないだろうが、ルシェとの間に子を作ることくらいはできるようになるはずだ」
研究者の男はそう言い、

「まあ、適合率が良ければ数年かけて外見の変化くらいはあるかもしれないがね」
「やっぱ改造じゃない!」
そう付け足した。

「っていうか、そんな人体実験みたいなの……誰が受けるの? 被験者の確保は?」
「……話は変わるが」
「変えるな!?」

研究者の男はお構いなしに説明を始めた。
「SKYという少年グループがいるだろう?」
「?」
「彼らの多くは、後ろ暗い活動をしていた頃のムラクモの被験者なんだ」
「聞いてる。道理で異能力者が多いわけよね」
「最近になって、その反動で体に変調をきたす子も多くてね。彼らの治療も研究班の仕事なわけだが」
「……ん?」
「まあ、体質改善の一環としてね。ルシェクロニクルを使っちゃおうかと」

「……アホかぁぁぁーーーッ!!」

SECT11の女の怒号が木霊した。

「イズミに相談したかったのが、それだ」
「マツドはいいって言うけど、本当にいいのかなって……」
「いいワケないでしょ!? こいつクレイジーだわ!」
「いいじゃないか。SKYの猫娘が本当のネコミミになるんだよ?」
「ガチムチのリーダー代行が本当のドワーフになっちゃうでしょ!」

熱くなりすぎている、と感じたSECT11の女が深呼吸をする。

「ナビの2人もルシェ耳になるよ?」
「それはっ……可愛いかもしれないけど」
「……」
「いや、そういう問題じゃないから!」
SECT11の女が冷静さを取り戻したのを見て、研究者の男も椅子に座り直した。

「冗談はともかく、これが最も人道的に、ルシェを存続させる方法だ」
「そうかもしれないけど」
「……ドラゴンたちは、宇宙にいる。今回を凌いでも、これからも地球は狙われ続けるだろう」
研究者の男が真面目な様子で語り続ける。

「オリハルコンを作れる、ルシェの能力を絶やすわけにはいかない。絶対にだ」
「……」
「それにこの研究は、これからの人類全体の課題を解決する糸口でもある」
「どういうこと?」
「人類の中でドラゴンに対抗できるのは、ほんの一握りの素質を持ったものだけだ。自衛隊も頑張ってはいるがね」
「ふむ」
「他の人類は、ドラゴンに怯え、一方的に狩られ、守り耐えしのぐことしかできない。この現状を変えたい」
SECT11の女の脳裏に、ルシェの2人から聞いた『ハッカー』の女の過去が蘇った。

「誰もが、努力次第でA級以上の能力を開花させられる世界。それを我々は渇望している」
「……」
「無理に力を植え付けるのではダメなことは実証済みだ。力の因子を植え、ゆっくりと適合させ……」
「……」
「後の世代で発現させる。それが可能かどうかが、この研究で見えるはずだ。新たなルシェの誕生という形で」

SECT11の女が息をついた。
もう、怒りや焦りは見えなかった。

「もちろん被験者には十分な説明をするし、上の許可も取る。それに……」
「分かった」
「うん?」
「とりあえず、真面目にやってるってのは分かったわよ。マッドだけどね」
SECT11の女が、ルシェの2人に向き合った。

「あんたたちの相談だけど……」
「うん」
「あたしには、こいつのやってることがいいか悪いか判断できない」
「そっか」
「でも、思ったよりはマトモだった。少なくともあたしは反対しないよ」
「そっか」
ルシェの2人にの周りに、柔らかい空気が漂った。

「むしろ、問題なのはあんたたちじゃないの?」
「?」
SECT11の女が軽口を叩いた。

「ここまでしてもらって肝心のあんたたちの仲がダメになりました、じゃ示しが付かないからね」
「……わたしがミツツグを嫌いになったり、ミツツグがわたしを嫌いになったり、ってこと?」
「そ。そーならないように仲良くやんなさいよ?」
「努力する」

それを聞いた研究者の男が、SECT11の女に聞いた。
「この子たちの仲はあまり芳しくないのかい?」
「そういうわけじゃなさそうだけど……」
「うん?」
「こいつら、恋愛感情ってものが理解できてなさそうだし」
「ふむ……」

研究者の男が考え込んだ。
「ところで君たち」
「?」
「もし、君たちそれぞれが別の相手と子供を作ったほうがルシェの存続に有益だとしたらどうする?」
「はぁ!?」
SECT11の女が驚愕の声を上げた。


8,

「ちょ、ちょっとあんた、いきなり何言いだすのよ!?」
SECT11の女が研究者の男に食ってかかった。

「いや、なに。ルシェクロニクルを使った人間がいても――」
研究者の男が特に動じた様子もなく応える。

「――結局は純粋なルシェの血がなければ、新たなルシェは生まれないわけだ」
「……?」
「よく考えればルシェ同士でくっついて、ルシェ因子を持つ人間を遊ばせておくなんてもったいないと思ってね?」
「だからってそんな、家畜みたいな……!」
「この子らの数が少なすぎる以上、不慮の事態で存続可能人数のラインを下回る危険は常に付きまとう」
研究者の男は、冷静に言った。

「ルシェの存続を一刻も早く確かなものにするため」
「……」
「ルシェの、ひいては人類の未来にとっても決して不真面目な考えではないと思うんだが……」
「……」
「君たちはどう思うかな?」
問いかけられたルシェの2人が顔を上げた。
そして、

「じゃあ、それがいいね」
「ああ」
ルシェの2人は、あっさりと言った。

「……えっ? ちょっ……」
SECT11の女が困惑する。

「イズミ」
ルシェの男が言った。

「普通の人間から見て……俺たちはおかしいのかな」
「っ……」
「イズミがおかしいと思ってるのは、なんとなくわかる」
「……おかしいよ……」
ルシェの男が続ける。

「俺たちは……そういう、『普通』を持っていないから」
「――」
「俺たちは俺たちの材料と、製造理由だけでできてる。……でも、ひとつだけ」
「――」
「ルシェの血を残してあげたいと思ったことだけは、『俺たちの意思』だから」
「……ごめん、あたしにはわかんないよ」
「そうか」

「……」
SECT11の女は椅子にぽつんと座っていた。
すぐそばにルシェの2人や研究者の男がいるにも関わらず、孤独に見えた。

「……あんたたちは、別にお互いが好きってわけじゃないんだもんね」
SECT11の女が言った。

「……」
ルシェの男が、口を開いた。

「もし、子供を作る相手に何の制約もないなら」
「……」
「俺はアユムがいい」

ルシェの女の耳が、ぴくんと跳ねた。

「『誰よりも』『一番』アユムがいいとかじゃなくて――」
「……」
「『アユムが』いい」
「……」
「だけど、『ルシェを存在させる意思』がなければ、俺もアユムも生まれなかったから」
「……」
「俺が生まれたことも、アユムが生まれてくれたことも、ムラクモのみんなに会えたことも、大切にしたいから」

ルシェの男が、言った。
「だから――」

ルシェの男がそこまで言って止まった。
ルシェの男が、自分の左の袖を見た。

ルシェの女が服の袖を、きゅ、と握っていた。

「……わたしも」

ルシェの女が言った。

ルシェの男の、どの発言に対する言葉なのか、SECT11の女には判断できなかった。

「……」
SECT11の女は黙っていた。

古代、アトランティスのルシェ族は、星の存続と引き換えに消えた。
そんな話を、思い出していた。

ルシェ族とて大事なものは大事なものだと感じる。
しかし、その『大事にしかた』が、人間とは違ったのではないか。
そんな事を、ぼんやりと考えていた。

「……ねぇ」
「うん?」
SECT11の女が研究者の男に話しかけた。

「こいつらが別々になることが、こいつらにとっての最善なんだよね」
SECT11の女が、自分を納得させるように言った。

「そうなるね」
研究者の男がそう言い、

「それで子供が作れるという前提なら」
そう付け足した。

「……」
「……」

「……は?」

SECT11の女が、ぞっとするほど冷たい声をあげた。

「いや、言っただろう? ルシェの因子が発現するのは後の世代だって」
「……」
「ルシェとの間に子供を作れる性質が発現するのも、早くて次の世代だよ」
「……じゃあ、なんであんなことを?」
底冷えのするような声で、SECT11の女が質問した。

「……まあ、この子たちがあまり仲良さそうではないというから」
「……」
「もしうまくいかなくても気にすることはないよ、と」
「……」
「そう言いたかっただけでね」
「……」
「この子たちが子供を作ってくれるならそれに越したことはないんだよ?」

「……紛らわしいことを言うな、この××××野郎ッ!!」
SECT11の女が、アメリカ仕込みの『検閲に引っかかってしまう言葉』で罵倒した。

「……つまり、やっぱりわたしとミツツグで子供を作ればいいの?」
ルシェの女が聞いた。

「そうなんだってさ! よかったね、せいぜい仲良くしなさい!」
「うん」
SECT11の女が投げやりに、乱暴に答えを返す。

「……だって、ミツツグ」
「ああ」
人間2人の騒動には頓着せず、変わらない様子でルシェの2人が会話した。

ただ、ルシェの女が握った服の袖は、そのままだった。

「ほんと、こいつらは……生まれてくるルシェも、みんなこんなのなの?」
「そうでもないんじゃないかな」
研究者の男が言った。

「『種族のための結婚なんていやだ!』とか、そんなことを言う子だっているだろう?」
「……それが普通の反応だって認識はあるんだね」
「イズミ」
ルシェの女が、SECT11の女を読んだ。

「相談に乗ってくれて、ありがとう」
「別に。何もしてないでしょ」
「……でも、お礼、言いたい気がしたから」

SECT11の女が、気付かれないように視界の端で下の方を盗み見る。
ルシェの女の手はまだ服の袖を握っていた。

「――ま、どういたしまして」


9,

「あれー? チームメイト、この部屋にいるって言ってたのになあ……」

同時刻。
無人となった『左側の部屋』で、新たな13班メンバーの男が呟いた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2015年10月06日 21:11