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・ネタバレはラスダン直前まで
・バロリオン大森林……このたいみんぐのとうかはぐうぜんです。

「ただいまー。うーん、やっぱり一番落ち着くのはこの家だよね」
ネバンよりカザンに帰還したその足で。
あたしは早速自分の部屋のベッドに飛び込んでごろごろし始めた。
……まあ、いいでしょこのくらい。
自堕落といわれようが、外出のあとはすぐさま自分の寝床に戻るのがあたしのよ
うな人間の習性というものだ。
留守番していたペットのミケと、あたし達の留守中ミケの面倒を見てくれてた近
所のあっちゃんに挨拶する。
ちなみにミケは裏商人から引き取ったペットの三毛猫だ。
猫はもう他のギルドに引取られたと言うところを猫がいいとごねてもらってきた
。ごめんね裏商人。

我が家の幸せに存分に浸るあたしだったが、そうしているうち
次第に幸福感はいても立ってもいられない高揚感に取って代わる。
そうだ。ドラゴンと人間との戦いも大詰めに入った。
自分も何かしなくちゃという気分にもなろうというものだ。
「とりあえずギルマスに今後の予定を聞こうかな」
勢いよく起き上がり、あたしは階段を駆け下りる。

―――――――――――――――――――――

「そろそろね、僕の堪忍袋の緒も切れようというものだよ」
何ですかいきなり。
残念だけど、先程の高揚感はこの時点でさっぱりあたしの脳裏から消え去ってい
た。
「で、何が切れそうだって?」
「ファイターとナイト君のことだ。あれ以来何の動きもない、
 その内また行動に出るかと思いきや音沙汰なしだ。堪忍袋というかしびれが切
れそうなんだよね」
おお、なるほど。
説明しよう。
うちのギルドのナイトであるところの副長(これはあだ名ね)は、同じくうちの
ギルドのファイターの
リーダー(これもあだ名)を憎からず……というかまあ好意を寄せている。
あたしとしては微笑ましい光景で別にいいんだけど、なんでももう長いことこの
状態が続いてるそうで
ギルマスはいいかげんイライラし始めているらしい。
「別にね?さっさとくっつけてしまえとかそういうことを思ってるんじゃないよ
?
 このままの状態を続けてくれたって全然構わないし、好きな人といられるなら
別に形なんて
 どうでもいいってのも分かる、ナイト君に文句をつける気はこれっぽっちもな
いんだ。
 ただね……ファイターにはそろそろお灸をすえてやるべきかなと」
「それはどうかな……?リーダーは別に悪いことしてるわけでもないし」
「違うね。昔からこういう場合には悪いのは男の方だと相場が決まってるんだ」
「うわすっごい決め付け」
「物心ついたときから徹底した女尊男卑の環境で育ってきましたが何か?
 それはともかく、やっぱどう考えてもファイターには弁護できないほどの非が
ありまくるよ。
 まず第一に……」
「……俺がなんだって?」
わーお、鴨がネギをしょってきた。……ちょっと違うか。
「来たな醤油団子。そこに座りたまえ、今お茶を入れる」
非常にいいタイミングでやってきたリーダーを、ギルマスは指一本で呼び寄せて
座らせた。

かちゃん、静かな音を立ててお茶がリーダーの目の前に置かれる。
自分の分を一口すすり、ギルマスは先程と打って変わって割と真面目に口を開い
た。
「……さて、この際君に聞いておきたい事があるんだが」
「ああ」
「君はナイト君のことをどう思ってる?」
「……どう、と言われても……どんな答えが欲しい?」
「聞かれたくないことを聞かれた顔だね……とりあえず僕は基本的に君の味方だ
からそんな顔しないでくれる?
 うん、ありがとう。
 でさ、僕の言いたいことは、たぶん聞かなくても分かってるんじゃないかな。
 ……ぶっちゃけ気付いてるよね?」
実に直球勝負だ。
その問いが発せられた瞬間、またもリーダーの顔に渋みが走る。
「う……お前なぁ………」
「ナイト君はいつでも、どこへ行くにも君について歩く。彼女が君に好意的でな
い視線を
 向けるのは見たことがないし、君に対する態度から全幅の信頼とある種の尊敬
がなくなったことも記憶にない。
 ……そんな彼女を、よもや君はただ同僚としての好意からそうしているとは思
ってはいまい?」

この、いまい?は、そう思ってはいないだろう?のいまいだ。

「ぅぐ……む……むむむ………」
リーダーが唸る。
その目をまっすぐに見ながら、ギルマスは辛抱強く待ち続ける。
そして、ついにリーダーは重い口を開いた。
「うー、あー、その、なんていうか……
 ……
 ……… 
 …………やっぱり、そうなのか…………?」
「うわ最低」
「何でだよ!?」
ギルマス、どうしてこうギルマスは真面目モードが3ターン続かないかなぁ。
もしかしてこの人にとって真面目モードはメイジズコンセント並みに労力を要す
るんだろうか。
んなわきゃあない。
……それはともかく、そっか、リーダーは気付いてたのか。
まあ、あれだけべったりなら普通の感覚をしていれば気付いて当然、かも知れな
い。
「で、話を進めてくんないかな?」
「おおそうだった。で、アート、君のほうはどう思ってるわけかな?」
「どうって、何が?」
「ああもうじれったいなあ。
 つまり、君は、君を慕って信頼の眼差しを向けてくる君の部下にも等しい女性
を、
 その信頼に付け込んでモノにしてしまおうって気は無いのかってことだよ」
「つけっ……そういう言い方するから話がこじれるんじゃ」
「それもそうか。でもどう思ってる?っていうお決まりのセリフに反応できない
スカポンタンだしなあ」
「悪かったなスカポンタンで」
「で、実際のところ君はナイト君のことをどう思っているのさ。
 自分からもあちこち連れ歩く辺りそう悪い気でもないんじゃないの?」
「何を……」
もしかしてこのままいい具合に話が進むんじゃないかと期待したんだけど、そう
はうまくいかないらしい。
以外にもリーダーが目を逸らして呟いたのは、冷めた否定の言葉だった。
「……別に、特別どうこうって訳じゃない。
 そんな風になるきっかけもなかったし、実際同僚としての付き合いでしかない
わけだし……
 とにかく、言えることは何もない」
感情の読めないその言葉は、どことなく突き放した印象をあたしに与える。
これは……ダメかな………?
と、そのとき。いつの間にか表情が読めなくなっていたのはギルマスもだった。
無表情で、静かにギルマスが立ち上がる。
「……そう」
そのままゆっくりと歩き出し、ギルマスはテーブルを迂回してリーダーに近付い
ていく。
「そうか。
 ………
 …………そこまで言うんなら、もう僕がモノにしてしまおうかな?」
「なっ!?」
がた、とテーブルが揺れた。リーダーの動揺を示す音だ。
「……いやいや待て待て待て。
 絶対お前シンシアをそんな目で見てなかっただろ、さすがに俺にもそのくらい
は分かる。
 お前ともあろう奴がそんな見え見えのトラップを張るのはやめてくれ」
これにはさすがにあたしも同感だ。一体どうしちゃったんだろう?
「ん?ああ、彼女のことじゃなくて」
「え?」
ギルマスがリーダーの後ろに回った。
……なんだろう、ギルマスが立ち上がったときはもしかして怒ってるんじゃない
かと思って
少し怖かったけど、今はそれ以上になにか嫌な予感がする。一体何を……

リーダーの後ろから、頭の両脇を通ってギルマスの腕が伸びる。
ぎゅっ。
「……あんまり素直にならない悪い子は食べちゃうよ?……君、かわいいから」
「……………………何の真似だ……………………………」
「あれぇ、これだけ長く付き合ってるのに知らなかったのかな」
その女性と見紛わんばかりの端正な顔に怪しげな薄い笑みを浮かべ、ギルマスは
耳元でささやいた。
「……僕、男の子でも女の子でも両方イケる人なんだよ」

ぷつん。
「―――――――――――――!!
 ぎゃあああああああああああああああああああああ!!?
 おまっはなっ離せえええええええええええええええええええええええええええ
ええええ!!!」

おお……命の叫びだ。魂の慟哭だ。
とりあえず洒落になってないと思う。リーダー本気で嫌がってるよ?
「とまあ冗談は抜きにして」
「冗談なのか!?冗談なのかっ!!?」
必死すぎて鬼気迫るリーダーを完全に無視し、ギルマスは話の続きを再開した。
「いいから。
 ……もし本当にそんなつもりがないなら、思わせぶりな態度は罪だと思う」
「………!!」
「ねえ。なんだか事を難しく考えすぎたりはしてない?
 僕から見てると、なんだかんだ言って君も結構ナイト君と一緒に行動しようと
したりするじゃない。
 そんなとき、どんな気持ちで君は彼女に声を掛けてるのか。それだけでいいん
だよ?」
「……俺は………」
リーダーが黙り込む。下を向いたまま、何度か同じ事を繰り返す。
「俺は……本当のところ……その………」
何度か繰り返すうち、その言葉には決意がこもってきた。
そして。
「……俺は」
「リーダー、前に受けたクエストのことなんですけど……」

………
!ああっと!!

場が凍りついた。
手紙を持ってドアノブを持ったまま停止している副長。
そちらに顔を向けて同じく停止しているリーダー。その背中から抱きついたまま
のギルマス。
「……あ」
「なっ……何してるんですかーーーーっ!!
 な、いくらなんでも男同士でそんなにくっつかなくたっていいでしょう!?
 !!まさかギルマス貴方……!?はっ離れて下さいーーーーっ……!!」
「ちょっと待った……ああもうどうして肝心なときばっかり………」

と、まあそんなわけで。
疲れきったギルマスの声を最後に、その場はうやむやになってしまったのだった
。
「とまあそんなことがあったんだけど」
「とりあえずそんな事を誰が来るか分からないリビングでするもんじゃなかろう
」
ごもっともです。
ベッドに腰掛ける姉御を見上げながらあたしはまた一枚せんべいをかじる。
「でもなぁ、なんか違うような気がするんだよなあ」
「ん?」
「あたしとしてはあれは脈アリだと思うんだけど、なんか理由があって素直にな
れない感じがするんだよね」
悪い反応ではなかった……と思う。
だけどそれがあのそっぽを向いたような返答と繋がらない。
「そうか……そーかもしれんなあ」
「ん?姉御、何か知ってんの?」
「………え、
 ……
 いや知らん、何も知らんぞ」
どう聞いても知ってますとしか聞こえません。本当にありがとうございました。
「ね、ね、何知ってんの」
「だから知らんって」
「絶対何か知ってるでしょー。教えてよ」
「知らんと言ってるだろうがしつこいな。あ、そういえば今日は注文したデヴォ
カレーアイスが……」
「嘘をつくなぁっ!」
むむむ、このままじゃ逃げられちゃう。
あたしもこの件は気になってきたのだ、ここは強硬手段も仕方ない、よね。
「姉御ー、これなーんだ」
「ん……?
 ……ひいいいいいぃぃぃぃっ!?しょっしょくっ!?」
「弁当屋名物ろぉぱぁうどんでーすっ」
「うわああああぁあぁあぁあ!何でそんなもんを、一体どこから……やめろっそ
れを私に近づけるなぁっ!!」
おーお、効果抜群。
あたしが秘密兵器を持ったその手をほんの少し動かすたび姉御は面白いように悲
鳴を上げる。
「で、姉御が知ってることを教えて欲しいんだけどなあ」
「おまっ……私を脅迫するのか!?」
「物騒なこと言わないでよ、あたしはただ姉御と一緒にうどんでもすすりながら
じっくり話を
 しようとしてるだけで、決して姉御のトラウマに付け込んで情報を強奪しよう
なんて気は全然ないんだから」
「きっ貴様……しばらくのうちにまたずいぶんと度胸がつい」
「うねうね~」
「ぎゃああああああああああ!!
 分かった!分かったからもうやめろ!!やめ、さっさとしまえええええええ!
!」


「で、何を知ってんの?例えばリーダーには恋人を作れない理由があるとか」
「別にそんなことは……ただ、その……昔の彼女が同じ職場にいては恋人も作り
づらかろうというだけだ」
………
おさらい。
ウチのギルドには女性が四人いる。
このうちあたしと副長は話の流れ的にも違うよね。
姫ちゃんも年齢が合わない。
となると残るのは、
「………ええええええぇぇぇぇぇぇっっ!!?」
驚愕の声を上げながら、あたしは羞恥の色に染まって視線を逸らす姉御をまじま
じと見る。
だって、ねえ?言われてみればありえない話じゃないけど、でも。
「だから話したくなかったんだ……大体、付き合ってたっていってもお前の想像
してるようなのじゃなくてな?
 なんというか、状況からして特殊だったし、一人だけじゃないし、子供だった
が故の過ちというかその」
「ちょっと待って。今聞き流せない単語があったんだけど。
 ……一人だけじゃなかったって何?」
「!」
「そう言ったよね?」
「あああああああもう………
 くそ、なんでこんなことに……全部あいつのせいだ……」
「姉御?」
「なあ、これは別にいいだろう?そもそもアートが自分の気持ちに素直になれて
いないとしたら、って
 話だったじゃないか。脱線もいいところだと思うぞ」
「ま、それはそーなんだけどさ。さすがにここで切られたらあたし気になって
 これからの人間関係に支障が出そうなんだけど」
「…………はぁ。
 ……
 ………昔、あるところに仲のいい幼馴染の三人組がいた」
「え」
おお、これはもしかして語ってくれるんだろうか。
あたしは心して聞き漏らさないように耳を傾ける。
「その内二人は男の子で、一人は女の子だ。
 三人はいつも仲良く遊んでいたが、やがて歳月を経るうち三人の関係にも微妙
な変化が現われてきた」
「ふむふむ」
「で、ある日のことだ。その二人の男の子のうち片方が、女の子に好意を打ち明
けて交際を求めた」
「おお!」
「女の子は戸惑ったが、とりあえず考える時間がほしいといった。
 ……で、そうこうしてる間に、そのことを知らないもう一人の男の子も女の子
に告白した」
「おおぉっ!」
「それにも考えさせてくれと返事をし、女の子は考えた。
 二人は真剣だ。
 自分は二人のことが同じくらいに好きで、とても片方を選ぶことなどできない
。
 どうしよう。
 ……で、現在の姿からは想像できないんだが当時気弱な少女だったその子は」
「ほんとに想像できない……!」
ごすっ。
「その子ははっきりと決断することができず、悩みに悩み、煮詰まりに煮詰まり
、
 煮詰まりすぎて逆にとんでもない方向に結論を出してしまった。
 ……なあこれほんとに言わなきゃダメか?」
「うん……聞かせて欲しいな」
「女の子は二人を集め、両方から告白されたことを正直に言った。
 そして、戸惑う二人に向けて自分の結論を言った……『二人いっしょじゃ、ダ
メ?』」
ぶっ……ちょ、さすがにその展開は。
「それはまた……聞き様によってはとんでもなく大胆なことを……」
「うるさい、百も承知だ……
 まあ、そんなわけで三人での恋人もどきごっこが始まっわけだ。
 それも年月が経つうちに自然消滅していったわけだが」
「消滅しちゃったの?」
「まあ、結局のところ無理があったということだな。お互い子供だったし。
 それに二人なら独占欲云々というものがあるが、三人だと超然とした愛情にし
かならん。
 そもそも長持ちするはずがなかったんだな」
「なるほどねー。……ってか、それってなんかリーダーとギルマス可哀想な気が
……」
「むぐっ……向こうはそうも思ってないだろうが確かに……だが他に考え付かな
かったわけで」
「はいはい」
「まあ……そういうわけでな。もしあの件のせいであいつが縛られるとしたらそ
んなことはあってはならない。
 この件であいつを見守ってやるのは私の義務……みたいに思う。今夜辺りつっ
ついてみるか」
「がんばってー」
そんなわけで、夜。
あたしはそっと窓を開け、屋根のふちに手を掛けた。
んなことしなくてもこの家には屋根裏部屋ってもんがあって、そこからでればい
いんだろうけど
そんなことしたら今屋根の上にいる人たちにモロばれだ。音を立てないように、
しかし渾身の力で這い上がる。
そうして這い上がった屋根の向こう側に、リーダー達はいた。
「やっほーアート、昼の続きを……って、サクハもいたのか」
ギルマスの声。
「なんだか興味深いことになってるようだからな。私も話を聞かねばならんと思
って」
「ほんっとにお前らは……友達思いなんだかお節介なんだか」
三人がしゃべる。ちなみにあたしがここにいるのは当然、野次馬だからだ。
我ながらしつこいとは思うが、この一件はとても気になって気になって仕方がな
いのだ。
「でー、まあ昼の続きだから単刀直入に行くけど、ナイト君に慕われてて実際ど
うなのさ」
「私もそこが聞きたい。お前の正直なところをだ。
 ……まあ、若い頃のあれがあるとしゃべりづらいかもしれん、が、そこは
 若さゆえのなんとやらだ。あの頃のことは、もう、気にしないで言ってくれ。
 ……どうなんだ?少なくとも否定的な感情ではないんだろう?」
「簡っ単に言うよな……分かったよ、言うよ。
 俺は、その、正直に言って……」
沈黙。
あたしも、そして他の二人も、じっと耳を澄ましているのが分かる。
「……
 ………その、まんざらでもないかな、と思う」
「言いやがったなコンチクショウ!!弱装マナバレット!」
「鎧通し!!」
「何故にっ!?」
……いや、そりゃまずいよリーダー。もっとこう呪い殺されないような言いかた
しなきゃ、ねえ?
「何故にだと!?何故にと言ったか!?お前って奴はあああぁぁぁ!!」
「わっ、わっ、なんだか分からんがすまん!俺の言動に不相応なところがあった
のは分かったから!」
「あーーまったく。ふう、ちょっと落ち着こう……
 少なくとも、君が不埒な意味で『まんざらでもない』なんて言葉を使う男じゃ
ないのは分かってる。
 逆に言えば君がそんなことまで言えるってことは……割とマジだね?」
「うぐ」
そうなのかな?あたしにはよく分からない。
姉御も同じ気持ちだったようで、腑に落ちない、といった表情だ。
「そう……か?私にはどうも」
「まんざらでもないって事は、つまり一緒にいていい気分だってことだよ?
 これが『好意が持てる』とかだったらそれは逆に基準を満たした同僚でしかな
い」
なるほど、そういうもんなのか。
「……というのが僕の見解だが、どう?間違ってる?」
ギルマスがリーダーの顔を覗き込む。
「うー……自分でも言葉にしてみて初めて分かったが……結構恥ずかしいことな
んだな」
「ってことは大体その通りか」
「あ……ああ……たぶん」
ついに、リーダーは肯定の意を表した。
あとの二人がまずはこれでひと段落といったようにため息をつきながら天を見上
げる。
「ふーーー……やっとここまできたか」
「長かったなぁ」
「長かったって、お前ら」
「で、どうすんの?」
「どうすんのって……」
「別に強制はしないんだけどね?どうせならお付き合いを申し込んでみたらって
ことだよ」
「どうせなら、だと?こいつは散々ナイトを待たせてるんだ、一刻も早く焚き付
けるべきじゃないのか?」
「まあまあまあ……気持ちをはっきりしないのはよくないけど、そのことについ
て
 どっちが悪いとかは決めちゃダメだよ。どっちもいろいろ考えてて今までかか
っちゃったんだしさ。
 でも、アート。サクハのいったことも事実だ。君が彼女に好意を抱いてて、
 なおかつ何の障害もないなら僕は交際を申し込むことをお勧めするよ」
そのギルマスの優しげな問いかけに、リーダーはこれまでよりは素直な、だけど
困ったような反応を返した。
「うーん……いやその、言いたいことは分かるんだが……しかし……」
「なんだ、まだ何かあるのか?つくづく面倒くさいやつめ」
「分かってたことでしょ」
「まあな。ほれ、ここまで来たらもう一緒だ、言ってしまえ」
「ああ、その」
「その?」
「その……
 ……俺なんかで、いいんだろうか?」
「……居合スイッチ」
「メイジズコンセント」
「わあああまたかよ!?」
……
不覚にも泣けてきた。なんて救いようのない。
「おまっえはっ……」
姉御の声が震える。
「なに一つしか歳の違わん成人女性に女子生徒に恋してしまった教師のような感
情を抱いてるんだっ!!
 アホか!!いっぺん豆腐の角に頭をぶつけろ!」
「サクハ、言い過ぎ、言い過ぎ」
「しかしだな、このトーヘンボクは一体」
「彼女は……俺が連れてきたんだ」
「……え?」
わめき散らす姉御がピタリと止まった。
とたんに静かになった場の中で、リーダーは淡々と話し続ける。
「彼女は……故郷にいた。そこで暮らして、働いて、生きていこうと思っていた
んだ。
 そこへ俺が現れて、彼女を引っ張り込んで、とうとうこんなとこまで連れて来
てしまった」
「それは……違うだろう。大体それじゃ、お前はナイトのついてこようとした決
断を侮辱するような」
「分かってる。分かってるよ、彼女が自分でついてきたんだって事は。
 でも、それでも俺は責任を感じずにはいられない。ここまで連れてきた以上、
俺は
 彼女が幸せになれるようにするべきだと思う。……その相手が俺だとは、俺は
胸を張って言えない」
……ああ、大人ってのは難しいんだ。
寂しげに言うリーダーを、姉御とギルマスは、何ともいえずに見下ろしていた。
「本っ当に、バカだなお前は」
「そうか」
「まったくねぇ……」
「……いいか、これだけは言っておくぞ。……後悔だけはしないようにしろ。
 後悔ってのは、取り返しがつかないから後悔なんだ」
「分かった……心に留めとくよ」

――――――――――――――――――――

まあ、その、なんだ。
人間大事なのは、気持ちの切り替えだよね。
とりあえずリーダーと副長の件はあたしにはどうにもならないということが分か
った。
なら、あたしは自分に出来ることをするだけだ。
「うひゃー、なんか、すごい地形変わってない?」
「気をつけて、敵も完全に様変わりしてるよ」
ここはバロリオン大森林。
あのあと当初の何かしなくちゃという気持ちを思い出したあたしは、とりあえず
そこにいたリーダー、
彼、姫ちゃんをかき集めて冒険に出ることにした。
で、やってきたのがここ。
町の人からなんだか最近異変が起きたようだと噂を聞いてはいたが、まさかここ
までとは思わなかった。
「うーん……クエストで頼まれたのは上質な木材だよね?」
「そうだけど……これじゃまるで別のダンジョンだね。同じように手に入るかど
うか」
「とりあえず地形の確認が最優先だな。この辺に……無いか?」
あたし達はそろって辺りを見回し、それを探す。
あった。
フロワロの茂みに隠れて、赤く塗られた木の箱が一つ置いてある。
あたしは皆に声をかけ、その密封性の高い蓋を押し開けた。
「あったあった、地図見つけたよ」
後進のために書き残された冒険者の地図は、あたし達にとって泉やポータルと同
じくらいありがたいものだ。
あたしは早速その地図を書き写し始める。地形や通れるところはもちろん、
ドラゴンの生息数や行動範囲が事細かに書かれているそれをトレースしていく。


と、そこであたしはちょっとした違和感に気付いた。
「……リーダー、これ、王者の剣が作った地図じゃない」
「ん?どれ、見せてくれ……本当だな。この紋章は……?」
「ああ、それはミロスの騎士団の紋章ですね」
ミロスの出身である彼が、地図を覗き込んで教えてくれた。
それを聞いたリーダーの眉間に怪訝な色が浮かぶ。
「ミロスの騎士団……?
 おかしい、少数で動くハントマンならともかく一国の軍隊がいるにしてはここ
は静か過ぎる。
 ミロスの騎士団はたしか防衛と生存に重点を置いていたと思うんだが、先生。
 それでも少数で地図を作るような未開の地に潜るなんてことはあるのか?」
「それは……聞いたことがありませんね」
「となればもう任務を終えて帰ったのか、それにしては……ん?なんだ?」
裾を引っ張る姫ちゃんに視線が落ち、次いでその視線は姫ちゃんが指差す木立の
向こうへと向いた。
そこにいたのは……
「ドラゴン?」
大型のドラゴンが、茂みの向こうからこちらの様子を伺っている。
だけど不思議なことに、そのドラゴンはいつまで経っても襲い掛かってこようと
はしなかった。
……まるで、何かを恐れて木立の中に隠れているように。
「リーダー」
「ああ、何かやばいな。
 情報も何も無しにやってきたのは大失敗どころか迂闊すぎたかもしれない。
 ここはさっさと引き上げた方がよさそうだ」
「賛成です、出直しましょう」
危険を感じ、あたし達はもと来た道を引き返すことにする。
周囲を警戒しながら、あたしは一歩踏み出した。

そのときだった。
地面を突き破り、無数の巨大な刃があたし達の足元から続けざまに突き出して現
われたのは。

――――――――――――――――――――

「ニアラ、ニアラ、ニアラ、ニアラ、
 ヘイズ、ヘイズ、ヘイズ、ヘイズ………」
「お前は何を呪文のように縁起でもない名前を連呼しているんだ」
カザン郊外のギルド『ピースメーカー』のギルドホーム。
そのリビングでサムライに話しかけられ、メイジの青年が顔を上げる。
「ああ、魔法の詠唱の改良をちょっとね。
 『ニアラ』と『ヘイズ』は僕達が知る限り唯一の、ドラゴンが自分で名乗った
『竜の名前』だ。
 名前には特別な意味があるからね、こういった言葉は強力な触媒になりやすい
んだ。
 だからちょっとこの名前を使って詠唱を改良できないかなー、と」
「ふぅん」
「ところで、皆はどこだい?
 さっき大統領府に行って僕達が西大陸に行ってる間の事を色々聞いてきたんだ
けど、
 帰ったらみんないなくて」
「ナイトはいるが、それ以外は皆出かけたぞ。カエラの奴がもう居ても立っても
いられないようでな」
「そう、残念。皆にも話しておきたいことがあったんだけど」
「帰ってからにするしかあるまい。で、どんなことを聞いてきた?」
「まず、これからの活動について。基本的には大物が現われたからといって慌て
たりせず、
 これまで通りにしていること。ただしミッションへの参加はこれまでより求め
られるので注意すること。
 ……あと、バロリオン大森林には絶対近付かないこと。もうじき封鎖されて許
可された者以外は
 入れなくなるけど、今は人手が足りないので十分に……」
「ちょっと待て!」
「うん?」
「今、バロリオン大森林と言ったか?」
「言ったけど……」
「――あいつらが出かけていったのは、まさにそのバロリオン大森林だ――」
「……
 ばっ――!なんてことだ!?
 あそこは今、ヘイズに完全に制圧されて人間の入れる場所じゃないんだ!!
 国土防衛に乗り出したミロス騎士団も壊滅的な打撃を受けて撤退したんだ、
 今やあそこはヘイズの防衛システムが徘徊する死の森で、取り残された者たち
の救出すら困難な状況なのに!!」
「っ―――!!」
バネ仕掛けのごとくリビングを飛び出し、サムライは階段の下で叫んだ。
「シンシアーーーっ!!!
 バロリオン大森林に行くぞ、今すぐだ!!アートたちが危ない!!!」
「っ」
ばんっ!
驚くほど早く階段を駆け下りてきたナイトの顔には、ただただ慄然とした表情が
浮かんでいた。

――――――――――――――――――――

「くそ……もっと、遠くに……」
朱い森の中、ファイターは傷だらけの足を引きずり、悲鳴を上げる全身に鞭打っ
て進む。
両脇には昏倒した仲間達。
意識のない人間を三人抱えて歩くというのはこんなにも辛い。
突然現われた巨大な剣の集合体との戦闘は熾烈を極めた。
圧倒的な機動性と隠密製、そして感情のかけらも見当たらない無機質な殺意。
しかし、本当の恐怖は満身創痍になりながらも恐るべき排除兵器を撃退した直後
にやってきた。
「くっ」
それを思い出し、ファイターは思わず呻いた。
死体。
無数の肉塊。
数多の轢殺死体で形作られ、なお新たな犠牲者を取り込んで膨れ上がるおぞまし
い姿。
何十何百という虐殺の上に成り立った死の権化を前に、彼らはまともに抗うこと
すらできなかった。
「くそ、下手すれば今頃全員あいつの一部に……そうならなかっただけマシなの
か」
苦しげに呟きながら気配を探る。
「追撃範囲から出た……か?」
五感を研ぎ澄まし、慎重に状況を見極める。安全な場所まで逃げ切ったのなら、
一刻も早く仲間達を蘇生したい。
あの巨大な存在感が近くにはいないとファイターが判断した瞬間だった。
木々の間の茂みを掻き分け、小型の魔物たちが一斉に飛び出してくる。
「!ちっ、何でこんなときに……」
仲間達を下ろし、背負っていた巨大な片刃剣を抜き放つ。
魔物達を見据え、ファイターは決然と立ち上がった。

そして、唸り声。
「!!」
木々の向こうから、木々の枝葉をへし折り、草花を踏みしめる音が近付いてくる
。
ドラゴンだ。
恐れる存在が近くにおらず、ボロボロになった獲物を察知して、辛抱できなくな
った竜がやってくる。
「なんで……こんなときに………っ!!」
焦りと憤りの極地に雑言を吐き捨て、ファイターは思考をフル回転させた。
どう行動するのが最適なのか。
ドラゴン到達までの時間。
敵は五体。
攻撃か。
蘇生か。
逃走か。
それぞれのリスクを天秤にかけ、今、最も高い確率で生き残れる方法を選ぶ。
「……これしか、ないな」
ゆらり、と殺気が立ち上る。
「キリングリアクト」
ぼそりと呟き、ファイターは神経を極限まで張り詰めさせた。
原始的な闘争本能が解き放たれ、死を恐れる裏返しの殺意が満ち溢れる。
次の瞬間、不退転の覚悟と共にファイターは敵の中へと突撃した。
「……………一っっっ匹!!」
真っ正面に振り下ろした大剣が、目の前にいた魔物を真っ二つに叩き割る。

【action+1!】

それでも止まらずにすぐさま次の敵へ向かうファイターの肩を魔物の毒針がかす
った。
「二匹っ!!」
一直線に薙ぎ払った斬撃が空中に浮かぶ魔物の胴を寸断する。

【action+1!】

そのまま後ろへと身体をひねり、ファイターは体当たりしてくる魔物へと剣を降
りぬいた。
「三匹ーーーっ……!」
寸前で軌道を替え、斬撃を避けようとする魔物を、その切っ先が引っ掛けた。

【action+1!】

千切れ飛ぶ魔物に目もくれず、更に次の獲物を求めてファイターは振り返った。
その腹に蛇の魔物が放つ尻尾の一撃がめり込む。
「っぐ……」
くぐもった声を上げるファイターが次にしたのは、剣を振り上げることだった。
「……四匹」
容赦も躊躇も無く振り下ろされた鉄の刃は、魔物を身動きすらさせずに叩き潰し
た。

【action+1!】

「……っ」
残るはあと一匹。
集中力の限界に達することで可能になった連続行動の、その最後の力を振り絞っ
て
ファイターは最後の一匹に襲い掛かった。
「これで……」
思い切り踏み込みながら、必殺の斬撃が敵へ滑る。
「ラストだーーーーーーーっ!!!」
全ての力を一撃に込めて、ファイターは最後の一体に向けて大剣を振り下ろす。

その瞬間に、肩口の痺れが牙をむいた。

【miss!】
「しまっ……」

咆哮。
異変に振り返る魔物を踏み潰し、最悪の脅威が戦場に突入する。
オオオオオオォォォォォォ!!
【来た!ドラゴンだ!】
ファイターの中で何かが切れる。
「……舐めるなあああぁぁぁっ!!!」
逆上の咆哮。
衝動のままに喚き散らし、一人と一体が激突した。
斬り裂く大剣をものともせず巨大なドラゴンがその牙でファイターを襲う。
「げふ……!!」
至近距離でドラゴンとファイターの目が合った。
「……う」
限界に達してガクガクと震える身体を押さえつけ、ファイターが何か叫ぼうと口
を開く。
もう一度、巨大な牙が鎧の上からファイターを喰い締めた。
「ぐ……あ、あ、
 ……っ、
 かませ犬にも、意地はあるんだぁぁッ!!!」
血を吐くような叫びと共に大剣が横薙ぎに払われる。
重い一撃が、ドラゴンの顎に深い傷を刻んでその動きを鈍らせた。
ドラゴンが吼える。
「っ!」
よろめく足を踏みしめ、ファイターは距離をとって血濡れのままドラゴンと正対
した。
数秒の間、一人と一体の間に沈黙が流れる。
そしてまた何の前触れもなく、一人と一体は同時に地を蹴った。
「うおおおおおおおっ!!」
激突。
重い頭突きを叩き込んだドラゴンは、怪訝そうに目の前の人間を見た。
最後の逆襲として手痛い一撃も想定していたが、この人間は今何もしてこなかっ
た。
否。
輝く結晶が、放物線を描いてファイターの倒れ伏す仲間へ……カエラの下へと、
飛んでいく。
「後は……頼む」
ヒュプノ結晶がまばゆい光を放つのを見ながら、ファイターの意識は闇へと沈ん
でいった。

――――――――――――――――――――

「どこだ!どこにいる!?」
「リーダー!カエラさん!アルフレッドさんっ!!返事を、返事をしてください
っ!」
三人の冒険者達が仲間を呼びながら森の中を進んでゆく。
「くそ、どこにいるんだ……?頼むから無事でいてくれよ……」
「皆、どこですか……」
「泣くんじゃない!悪いほうに考えてもどうにもならんぞ、下手すれば私たちも
危ないんだ、気を引き締めろ!!」
「すっ、すいま……」
「大丈夫だ。そう簡単に死ぬようなメンバーじゃない、遅くなりさえしなければ
……」
がさり。
そのとき、木立が揺れた。
反射的に戦闘態勢を取る冒険者達の前に、それは現われる。
「ふーっ……!ふーっ……!!」
「カっ……」
「カエラっ!?」
必死の形相を貼り付けて、カエラは震える足を踏み出した。
右腕でヒーラーを引きずり、左腕で背中のファイターを支え、喰いしばった歯に
はプリンセスの服の襟が噛み締められている。
「……っ」
三人が駆け寄ると共に、プリンセスの身体が地面に落ちた。
「大丈夫か!?何があった!?」
「怪我は!?今治療します……!」
「あたしは、大丈夫……それより、リーダーを………!!」
そういってカエラが背中から下ろしたファイターを見て、三人は一斉に息を呑ん
だ。
満身創痍、などといったものではない。彼は死に瀕していた。
体中のいたるところが傷だらけ、そしてなにより体力を使い切った身体からは驚
くほど生気が抜け切っている。
「……あ、あ……!!」
ナイトが蒼白になりながら絶句した。
「あたし達、皆、やられて……リーダーが一人で戦って、あたしを蘇生して、で
も……
 もう、回復、できなくて……薬がなく、て……!」
「分かった、分かったから」
カエラが泣きそうになりながら話す横で、ナイトがファイターの傍らに跪く。
「リーダー……!しっかりしてください、お願いですから、ねえ!!」
「……う………」
切羽詰った呼びかけに、ファイターの目がゆっくりと開いた。
焦点の合わない瞳が辛うじてナイトの姿を捉える。
「シンシア……か……?」
「リーダー!」
目の前にいる相手が自分の知っている相手であることを理解し、ファイターは苦
しげに言葉をつなぐ。
呼吸するたびに異音が混じった。
「心配掛けて、すまない。ちょっと、しくじった……」
「何言ってるんですか!とにかく、治療しますから少し待って……」
そう言ってナイトは立ち上がろうとする。

その腕を、傷だらけのファイターの手が掴んで引き止めた。
「待て……」
「……?リーダー?」
「聞いてくれないか……
 これまでにも……いろいろヤバイ目にはあったが……今回は、ダメかもしれな
いんだ」
「……!!何を言ってるんですか!?そんなこと、冗談でも」
「シンシア」
「っ」
「俺は……卑怯者だ。本当は、気付いてたんだ」
「リーダー、何を、……!」
ファイターの手がナイトの頬に触れる。
血色のいい頬が固まりかけた血のこびりつく手で撫でられて赤黒く汚れた。
「シンシアがついて来てくれるって言ったときから、ずっと、気付いてた。
 嬉しかった。嬉しかったけど……不安だったんだ。、
 だから、気付いてたのにずっと、知らない振りをしてた。臆病で、何も言えな
くて」
「……!!」
「シンシアが一緒にいてくれると嬉しかった。
 そのくせ表面では気付かない振りをして、シンシアを無視し続けて……
 最低なんだ。口では偉そうなことを言いながら、心の中では何回もシンシアを
汚してた」
「……リーダー」
「……ヴィクター、サクハ、お前達に言ったのは、たぶん、嘘だったんだ。
 本当は、あの頃みたいに終わってしまうのが怖くて、シンシアが好意を寄せて
くれてる
 今の状況が心地よくて、だから、今のまま、ずっと俺だけを見ていて欲しかっ
ただけなんだ。
 俺は、俺は、世界一の卑怯者だ………!!」
「アート」
「あ……リーダー、そんな……!」
「本当に、すまなかった……
 はは、取り返しがつかないから後悔なんだ、か……本当にその通りだよ。
 こんなことなら、もっと早く言ってしまえばよかったんだ。
 自分のエゴでここまで引っ張っておいて、こんなときに言うなんて、本当に最
悪だよな」
「リーダー、それなら、死なないでください!!
 卑怯じゃないですか!!悪いと思ってるなら責任を取って下さい!
 ……私のこと、捨てないって言ったじゃないですか……!
 あなたが死んだら、私は、私は………!!」
「ああ……そう、だなシンシア。もし、生きられたら……俺に、幸せにさせて欲
しい。
 できるかどうか分からないけど、頑張るから、だから……くそ、目が見えなく
なってきた……
 悔しいな……こんなとこで、死にたくなんて、ない、のに…………」
「……
 リーダー?リーダー!?」
「ぅ……」
それっきり、ファイターの意識は再び失われた。
後には今にも命の灯が尽きようとする危機的な状況が残る。
「あ、そんな、そんな……」

――――――――――――――――――――

「……死なせるものか」
ようやく効果を発揮し始めたヒュプノ結晶を前に、ギルマスが立ち上がる。
「アルフレッド、起きてくれ。今すぐだ」
「う、ぐ……?」
やっと昏倒状態から復帰した彼はすぐに辺りを見渡して状況を判断しようと立ち
上がった。
やや遅れて姫ちゃんもも回復し、立ち上がる。
そんな彼に、ギルマスは黙ってリーダーを指差して見せた。
「!リーダー!?」
「頼む、どんな手を使ってもいい。ミロスに着くまで、彼をもたせてくれ」
「はっ、はい!薬剤は!?」
「ここにある」
治療を開始する彼を見ながら、ギルマスはこれまでに無い真剣な口調で語り始め
る。
「見ての通りだ。できるだけ早くここを脱出し、ミロスへ行かなければならない
。全員の力を貸してくれ」
あたしは、そして全員がうなずいた。
「よし、じゃ早速行こ……」
そういってあたしは踏み出そうとした。
……あれ?
気がつけば地面に倒れている。
「カエラ!?」
リーダーに全力で光を注ぎ込みながら彼が声を掛けてきた。
そっか。さすがに無理が過ぎて、あたしの体も限界を超えたんだ。
……冗談じゃない。
「アルフレッド」
「大丈……」
「立たせて。ううん、『戦えるようにして』」
「……」
倒れ伏したまま真っ直ぐに彼の目を見つめる。
いつもの彼ならあたしに無理をせず休むように言うだろう。
「……腕を出して」
彼は一本の薬剤をあたしの腕に注射した。分かってくれてる、いい判断だね。大
好き。
「あとで、指一本も動かせなくなるからね」
「分かってる」
ガクガクとあたしは立ち上がる。
「エクスポータは?」
「入り口になど戻ってられない、直接森をぶち抜いてミロスの方向に向かう」
「できるのか?」
「やるだけだ」
言うが早いか、ギルマスは魔法の詠唱を開始した。
宝珠が揺れ、マナが編みこまれて複雑に光る。
「詠唱、フレイム……
 敵の名は『ヘイズ』。屠れ、『ヘイズ』の血を受けし子らを焼き尽くせ!往け
、汝の名は我が紅炎の僕なり!!」
火花が散った、と思う間もなく木々の壁が吹き飛んだ。
真竜の力を受けて変異した木々があっという間に炎に包まれ、焼け朽ちていく。
「応急処置終わりました!後はマナが続く限り注ぎ込んでもたせるほかありませ
ん!」
「マナだろうが魂の半分だろうがくれてやる!なんとしても持たせてくれ!」
「ナイト、アートを背負え。できるか?」
「ぐすっ……はい、できます。やってみせます」
「準備はいいね……さあ、行くぞ!!」
そうしてあたし達は、決死の進軍を開始した。

――――――――――――――――――――

知らない天井。

「……」

うわぁ、あんなこと言って生き残っちまった。

それがまず最初にファイターの思ったことだった。
「ここは……」
頭を動かし、辺りを見回す。と、すぐそばにファイターの寝ているベッドにもた
れながら眠っている
ナイトの寝顔が目に入ってきて、彼は生きててよかった、と感想を撤回した。
「……ん」
わずかな振動を感じ取ったのか、ナイトが眠りから覚める。
寝ぼけまなこのまま、ナイトはファイターに挨拶した。
「……おはようございます」
「おはよう」
「……」
「……」
沈黙が流れる。重苦しさのない、ありふれた沈黙が。
「……あの、リーダー」
「ああ」
沈黙を破って、ナイトが口を開いた。その目はせわしなく泳ぎ、頬が紅潮するの
を抑えられない。
それを見たファイターもまた、そわそわと落ち着きなくし始めた。
「あの、その」
「……」
「ですから、あの」
「……」

「……気を失われる前に言われたこと、本当ですか……?」


――――――――――――――――――――

残念ながら、あたしはこの先を聞くことができなかった。
なぜなら、中の様子を確かめもせずおかゆを持ったあたしが病室に飛び込んでし
まったからだ。
まあ、とりあえず書けることはもう一つある。

現在、リーダーと副長は清く正しいお付き合いを継続している。

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最終更新:2013年05月04日 23:22