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注意事項
・エロ無し
・ゲーム本編との矛盾あり
・ハノイファンの方はご注意
・エンディングまでのただの帝竜討伐話なのでスルーしても無問題
・中盤以降の帝竜の名前、クエストバレ注意です
・ソウマ、ハノイ女装警報
  
登場人物

ソウマ・若サムライ。主人公。一応貴族。エリスと一夜だけ抱きあってしまう。無手から斬馬へ。
エリス・ルシェメイジ。元奴隷。ソウマに思いをよせる。無属性魔法と薬学の使い手。
リア・ルシェプリンセス。元奴隷。ソウマとエリスのサポートに回る。聖声の歌が得意。
ハノイ・ラブハンター。その決して折れることのない無敵のハートは少し見習いたい。

『おのれ……人間の分際でえぇぇぇ!』

海上より、艦帝竜ドレッドノートの怒号と弾丸が飛んでくる。
それを迎え撃つは、二人の少女……ではなく、女装した男とちゃんと元から少女の二人組。
……ようするに、女装をした私とエリスだ。
何故女装をして帝竜と死闘を繰り広げなくていけないのか?
まずは今現在、この状況に到るまでの話をするとしよう。
―――――――――――


「出発の準備はできたか?」
「はい、大丈夫です」
「船もちゃんと動くよ」
エリスを本能の赴くままに抱いてしまった日から二日後、
私達はマレアイア諸島への旅立ちの準備をしていた。
「…?ソウマ様、その刀は……」
「あぁ、これかい?母上の形見の品だ。
本来なら大切に保管すべきだが、平和を取り戻すためなら、母上も許してくれるだろう」
父上の話によると、母上もかつては凄腕の剣客だったらしい。
世界を渡り歩き、ある時は森の細胞を四枚に下ろし、ある時は双頭の魔獣の首を両方撥ね飛ばし、
ある時は巨大蟻地獄を一太刀で両断したらしい。嘘か真か確かめようがないが、
幼い私でも感じとれた『気』から察するに、恐らく事実なのだろう。
そんな母上の愛刀。名前こそ知らないが、きっとこれからの戦いの手助けになるに違いない。
しかし、そんな名刀も、扱う者の技量が伴わなければ意味がない。
故に無手を捨て、斬馬の心得を知るために忘却の海玉を入手しようと思ったわけだが……
この私の浅はかな考えには致命的な欠陥があった。
海玉を入手するだけならば、ただ店で買うだけだ。
しかし、その店に辿りつくこと……そこに到るまでの過程を失念していた。
そして、私が間違った選択をしてしまったと気付いたのは、海に出た直後だった……






「まずい!二人とも下がって!」
「………!!」
まず最初に立ち塞がった壁、それがこのローパーだ。
エリスもリアもローパーには苦く辛い記憶があり、その影響でまともに詠唱ができなかった。
つまり戦えるのは実質私一人なうえに、こいつらの毒がまたいやらしく、
体が思うように動かずに、何度も海の藻屑になるところだった……


実に数日をかけてこの近辺のローパーを根絶やしにし、さあ今度こそマレアイアに……
と思った矢先に、
「ソウマ様!波が強すぎて先に進めません!」
とエリスの声が響いた。
なるほど、確かに色合いの違う海域に入った瞬間に、船が押し戻されていた。
「南海は波が独特なの。普通の操舵術じゃ越えられない……えっと…確か……
ゼザの町で『3日で習得!南海操舵術!』の講義をやってる筈だよ」
リアの助言により、一先ず引き返して港町ゼザへ向かい、南海操舵術を覚えることに成功。
第二の壁となった、南海の独特の波を克服し、今度こそ…と意気込んだ直後、
【来た!人間だ!】
【電熱で焼いて焼き鳥だ!いや焼き人だ!】
マンボウらしからぬ過激な言葉と雷撃の使い手、マルマンボウが襲いかかってきた。
ローパーとは違い、エリスもリアも戦えるのだが、このマンボウ、レベルが高い!
これが第三の壁、南海の強敵だ。
「マンボウは産卵の際、億単位で卵を産むそうです……」
「普通のマンボウなら食べられて数が減るけど……あれは普通じゃないし……」
エリスとリアの口から出てくる、絶望的な言葉。
私達は僅か三人。
対する敵は、数億のマンボウ、数億の雷。
この世界を襲撃した竜でさえ、その兵力はせいぜい四桁止まりだと聞く。
倒しても倒しても次から次に新たな兵を繰り出されては勝ち目はない。
「さてどうしたものか……二人とも、何かいい考えはないか?」
「私、もっと頑張ります…!マンボウに動かれる前にヘヴンズプレスで駆除します!」
「マンボウに、誰が強者か骨の髄まで教えれば襲ってこないかも……」
二人の意見は異なったが、どちらにせよ共通してやらなければならないことがある。
「……やはり鍛練、か……」
答えは実に単純だった。





それから実に一月、ひたすらに修行の毎日だった。
海上の敵を薙ぎ払い、東大陸と西大陸の一部の竜を殲滅し、フロワロを踏み砕き、
町では山ほどのクエストをこなした。

そしてついに、私が一睨みするだけでマンボウが道を開けるようになった。
マンボウが退き、前方に見えるは目的地のマレアイア諸島。
長かった。実に長かった。だがそれも、もうすぐ終わる。
壁は全て乗り越えた。もう私達の行動を邪魔するものは何も残っていない。




「マレアイアに男の方は入国できません」
壁は……まだあった。
海流だの敵だのですっかり失念していたが、このマレアイアは女性だけの国。
そう、男である私は入国できないのだ!
海玉を買うだけならエリス達に任せればいいのだが、討伐ミッションの受理はそうはいかない。
『ミッションは危険が伴うため、三人以上且つ、Lv40以上の前衛職がいるギルドにのみ与える』
これがつい先日、カザンのメナス補佐官が取り決めた厄介なルールである。
これにより、ミッションを受理可能なのは『ユグドラシル』、『王者の剣』、『ラッキーズ』、
それから疾風の二つ名を持つ女性をリーダーとした正体不明のギルドぐらいである。
私達のレベルは規定の条件を満たしているが、誰か一人がいなくなった瞬間に、
ミッションの受理が不可能になる。まさに今この状態なのだ。
「まいったな……ここまで来て……」
「どうしましょう……」
「お兄ちゃん悪い人じゃないのに……これだからこの国嫌い……」
三人揃って橋の上で溜め息を吐く。
カザン英雄ギルドはその実績で男女問わず入国が許されているらしいが、
私達は名も実績もないただの一般ギルド。ほいほいと入国ができるわけがない……
と、諦めかけたその時、背後から謎の声が聞こえた。




「ラブイズワンダフォーーー!!!」
思わず耳を塞ぐ。なんとやかましい絶叫だろうか。
後ろに振り向くと、桃色の髪とメガネが特徴的な男が立っていた。
エリスと似た装備品から察するに、おそらくメイジだと思われる。
「これはディスティニー!?お城からもラブを感じ!そして目の前からもラブを感じるっ!
凄い!奇跡だ!ミラクルだ!ラブアンテナバリ7状態だ!ギュンギュンラブを受信している!
あぁ!愛って素晴らしい!そうは思いませんかそこの麗しきお嬢さん方!」
「「えっ!?いや……あの……」」
桃髪の男はその場で高速回転したかと思えば、いきなりエリスとリアに詰め寄った。
なんなんだこの妙な男は……!エリスもリアも状況が飲み込めていない。
無論私もだ。
「ああ!僕としたことがご挨拶が遅れてしまった!僕は
Holy Amorousness Noble Of Invincibility、略してHANOI、ハノイ!
自らは真実の愛を求め、愛を知らぬ人には愛の大切さを説く、孤高の愛狩人さ!」
「ホーリ…え?……ソウマ様、どのような意味ですか?」
「私もあまり自信はないが……直訳すると『無敵の神聖なる好色貴族』だな……」
Holy Amorousness Noble Of Invincibility……ハノイと名乗った男は再びその場で回転した。
何が無敵で神聖なのかはわからないし、本名かどうかも怪しいがひとつだけ確かなことがある。
好色…その意味は【やたらと異性に対していやらしく淫らな気持ちを抱くこと】だ。
つまり、あまり人として誉められたものではなく、

「名も知らない美しきお嬢さん方!僕と永遠の愛を語りまs

言葉が終わる前に私の拳がハノイを吹き飛ばし、美しき海に叩き込んでいた。




「オーケィオーケィ、謝るから許してくれたまえマイフレンド!」
「誰がフレンドだ!二人に手を出したら承知せんぞ!」
海から驚異の早さで這上がってきたハノイに念入りに釘を刺す。
「うぅ……しかし僕はへこたれない!真実の愛を見付けるその日まで!」
……この男はいつもこんな調子なのだろうか?無敵の意味はなんとなくわかった気がする。
「ところでマイフレンド、ここで知り合ったのも何かの運命だ。
僕のクエストを受けてくれないか?」
「クエスト?」
突如ハノイの口から飛び出てきたのは意外な言葉。
しかしこの好色男から感じるのは並々ならぬ熱意。さぞ大切なことなのだろう。
先程の行動は腹立たしいが、彼も人の子。困っている人を見付けたら助けるのがサムライである。
「……話してみるといい」
「おぉ!流石マイフレンド!恩にきるよ!実はね……」



「ハノイ……君に学習能力というものはないのか?」
依頼内容を聞き終えた私は溜め息をつかざるをえなかった。
ハノイのクエスト、その依頼内容をまとめると、
『お城の中に一目惚れした人がいるけど男だから入国できない。
なので女装して乗り込みたいんだけど、材料がないから持ってきて』
とのことだ。この男の手当たり次第に女性に一目惚れする癖はどうにかならないのか?
「それです!」
と、突然エリスが大きな声をあげた。
「ソウマ様も女装すれば、この国に入れます!」
「ゑ!??」
私の空耳か?今、かなり恐ろしいことを言われた気がするが……
「エ…エリス、本気で……言っているのか?」
「大丈夫ですよ!ソウマ様端整な顔だちですし、髪も凄くサラサラですし……」
「む、ありがとう…ではなく!流石に体つきでばれると思うのだが……」
「…前にお兄ちゃんに買ってもらったお洋服でごまかせないかな?」
「わ…私にあの服を着ろと!?それも君達のを!?むむむ無茶を言うな!」
「おぉ!その作戦なら僕もわざわざ道具を集めなくて済むね!
僕にも一着服を貸してくれないかな?」
「待て待て待て待て!!全員考え直せ!」





「うぅ……何故このような目に……絶対捕まるぞこれ……」
数分後、結局エリス達に押しきられ、哀れにも女装してしまった私の姿がそこにあった。
(なお、着ている服はエリスのアイゼン式の着物だ)
「ソウマ様、凄く綺麗です……」
「髪をおろしただけでこんなに印象かわるんだね……私もそうしようかな…?」
エリスとリアがそれぞれ女装した私を誉めてくれるが、あまり嬉しくないな……
それ以前にこの作戦、ばれたら不法入国罪になるのではないか?
私はどこまで罪を背負わなければならないのだろう……
「おぉう、マイフレンド!思わず僕もみとれてしまったよ!」
「やめてくれ……で、ハノイ、君も本当にこの作戦を決行するつもりか?」
「エリスさんから服の貸し出し許可も頂いたことだしね。
僕は告白の言葉を考えてから入国するよ」
そう言うとハノイはいそいそと木陰に引き込もってしまった。
残されたのは少女二人に、今から不法入国を試みる男一人。
極力目立たないように、急いで門を通らなければ、作戦は失敗である。
「い……行くぞ?」
覚悟を決め、私は一歩踏み出す。
門番のところまで、後十数メートル。
もう一歩。二歩。後数メートル。
もう一歩。二歩。三歩。後1メートル。
最後の一歩。
来た、門番だ……!


「ん?ハントマンの娘?ルシェの娘二人にアイゼンの娘一人ね。ようこそマレアイアへ!」


……あれ?


「……簡単に入国できて逆に怖いのだが……」
「やりましたねソウマ様!」
…何故か、納得がいかない。男としてのプライドだろうか?
そうだ、声を出してないからばれなかったのかもしれない!
「……二人とも、少し待っていてくれ。海玉を買ってくるから」


~道具屋アクア~
「うふふ~、いらっしゃーい。ゆっくり見ていってね~」
相手はのんびりした女性店主。まずは裏声で試してみるとしよう。
「忘却の海玉をひとついただけないかしら?(アルト)」
「はぁ~い、2000Gでーす」
ま……全く気付かれていない。ならば地声でどうだ!
「あ、あとレグフロイラも(テノール)」
「はいはい~、150Gでーす」
いや気付いてくれ!仕方がない、最大限声を低くして……
「エクスポータも頼む(バス)」
「はい~、100Gですよー」
キヅイテクダサイオネガイシマス……
「どうもでした~」

店主がニコニコと笑顔で商品の入った袋を渡してくる。
ねんがんの海玉をてにいれたぞ!
と喜びたいのだが……
「はぁ……」
私の口から出てくるのはため息のみだった……




「あ、ソウマ様、買えましたか?」
「あぁ、買えたよ……苦もなくね……」
「これで目的のひとつは達成できたね。あとはミッションの受理をすれば……」
ミッションの受理……
本来はカザンでのみ可能だが、最近では各国の上層部の者から直に受理することもできる。
この国の上層部となると、やはり女王か、噂に名高き騎士団長のどちらかだろう。
正体を気付かれるわけにはいかない。気付かれたいけど、気付かれてはいけない。
流石に謁見の間で男とばれたら、公開惨殺刑は確定だろう。
しかし道具屋の主人は騙せても、女王と騎士団長まで騙せるのか……?
私達はゆっくりと謁見の間に歩を進める……



「あら、あなた達が帝竜討伐依頼を?ありがとうございます」
「ユグドラシル達は今西大陸の帝竜討伐に向かっていて頼めるギルドがなくて困っていたんだ。
敵はマレアレ神塔と辺りの海を制圧している帝竜、艦帝竜ドレッドノートだ。
塔を占拠している配下の竜は約50匹。まずは左右の塔のロナムを鳴らして……」

女王も、騎士団長も全く私の正体に気が付かずに普通に話がすすんだ。
この国……大丈夫だろうか?いや、私の国も他国をどうこう言えないが……
これではびくびくしていた私が馬鹿みたいである。
「…というわけだ。詳しい話は塔入口の部下に聞いてくれ。ところでお前達……」
突然、騎士団長の目が鋭くなった。その鋭い目が見つめるのは、私達の胸のあたり。
しまった気付かれたか……!

「小さくても気にするな!」

……本当にこの国は大丈夫なんだろうか?
(シャンドラさんの方が私より小さいじゃないですか……)
(下手したらお兄ちゃんより小さいかもね……プフッ…)
リア、それは酷いと思うぞ……
「それでは期待しているよ。え~と……」
騎士団長が言葉を詰まらせる。今度はなんだろうか……と思ったが、理由はわかる。
それは私達の呼び方、すなわちギルド名だ。
今まで旅をしてきたが、実のところ私達のギルドに名前はない。
それ以前に正式登録していないため、本来はギルドですらないのだが……
「すまない、君たちのギルド名を聞いていなかったな。なんという名だ?」

さて……どう返答したものか……




「とっておきの!スーパーメロウタイムだ!」

その時、謁見の間入り口の扉が甲高い声とともに開かれた。
この声…つい先程聞いたばかりのもの。つまり……

「美しき、僕の真実の愛の象徴たる方よ!名さえ知りませんが、僕のラブを受け取って!」
「「「「うわああああぁぁぁぁぁ!!??」」」」

ハノイの乱入、そして絶叫が響きわたる。
絶叫の主は、謁見の間にいた『全員』だった。
女王も、騎士団長も、近衛兵達も、私達も、一人残らずの絶叫。
その絶叫の破壊力も凄まじいが、真に凄まじいのは乱入者ハノイのその格好だった。
桃色の髪を後ろで結い、女性らしい髪型。問題ない。
顔には軽く化粧でもしているのか、私よりもうまい見事な女装である。
問題があるのは、その下、着ているもの!
ハノイが着ているのは……エリスの『危ない水着』だった!
以前ひょんなことから購入する羽目になってしまった、65000Gのあの『紐』である!
小柄なエリスが着ていた段階で既に限りなく際どかったこの代物を、
エリスより体格が勝る男であるハノイが着たらどうなるか?答えは単純明快。
「シャ、シャンドラ!この変質者を早くつまみ出しなさい!」
「え!?変質者!?違うよ、僕はあなたに会うために忍んでやって来た……」
「どこも忍んでいない!セティス様から離れろこの変質者!」
そう、色々はみ出てしまった完全な変質者の出来上がりである。
そのあまりにおぞましい、全裸の方がまだましな姿に近衛兵は慌てふためき、
騎士団長は逃げ回るハノイを追い掛け回し、女王は昏倒し、
上へ下への大騒ぎ、阿鼻叫喚の地獄画図と化したこの空間。
取るべき行動は……

A 騒ぎに紛れてギルド名を聞かれる前に脱出
B マイフレンドとか言われるとハノイもろとも実刑なので逃げる
C これから起こるであろう惨劇をエリスとリアに見せないためにも逃走
D ギルド名を考えてみるために外に出る

まぁ結局どれを選んでも、この空間から脱出することに変わりはない。
「それでは帝竜討伐に行ってきます!」
その言葉を最後に私達は謁見の間を後にした。




―――――――――――

そして現在、マレアレ神塔の決戦に至る。
慌てて飛び出して来たため、私の格好もそのままというわけだ。
塔にいた竜の殆んどは戦闘能力が低い幼竜と牙以外特筆する点のない暴竜だったので、
さほど殲滅に時間はかからなかったが、流石に帝竜は一筋縄ではいかない。
艦帝竜ドレッドノート……その名の通り、戦艦の様な姿と能力を有した帝竜。
主な攻撃は三種の弾丸。
単体を狙った、高速射出型の弾丸。
塔の最上階にいる私達を狙うのではなく、塔もろとも貫こうとする散弾型の弾丸。
そして発射数こそ少ないが、発射される弾そのものに自我がある、弾丸ならぬ弾竜。
これらが、海上から容赦なく塔の私達を襲う。しかし、
『ぐっ……またしても……!何故我の弾がはじかれる!?』
その弾丸の殆んどは私達に届くことはない。
ドレッドノートは知るはずもないが、私達が戦っているこの一つ下の階、
そこにはマレアイアの結界の要たる巨大なロナムがある。
そのロナムが持つのは、歌の力を増幅させる機能。今これをリアが有効活用してくれている。
灼熱の韻、堅牢の韻、月明かりの詩……
三種の歌を織り混ぜ、ロナムの力で塔全域にその力を張り巡らせることで、
私は歌の隙間を飛んできた弾竜を楽に斬れるし、弾丸の殆んどは守護の力ではじかれる。
マナで溢れたこの塔において、エリスの操る空気の盾は絶対に破られないし、弾切れもない。
そう、私達は帝竜を相手に善戦していた。
私の刀が、弾竜を一文字に切り裂く。
エリスのマナの弾丸が、敵の弾丸を撃ち落とす。
リアの歌が、私達に様々な力を与える。
傷らしい傷も負わず、一見すればこちらの圧勝にも見える。
しかしあくまで善戦止まりだった。
確かに、敵の攻撃は殆んど防げる。
ただ、防げるだけ。攻めることが出来ないでいた。
古代遺跡塔の最上階と、その真下の海…その距離はあまりにも離れすぎていた。
刀は届かない。マナの弾丸も、途中で圧縮が解けて四散してしまう。
互いに攻撃が通用しない現状。
延々と時間だけが過ぎる?いやそうではない。
こちらは人間、相手は竜。その耐久力の違いは一目瞭然。
時間が経つ程、リアは喉をいためて歌えず、エリスは詠唱ができず、私は刀を握れなくなる。
そう、このまま防いでいるだけでは、じりじりと追い込まれ、敗北する。
何らかの方法で、攻撃を当てない限り……




『ぐっ……ぐっ……』

ふと、ドレッドノートの攻撃が止む。
「弾切れ……でしょうか?」
「いや、それはありえな……!!」
言いかけて、気が付く。
ドレッドノートの全身の機関砲などが引っ込み、代わりにその口に熱が集中していることに。

『人間が海の支配者たる我をここまでてこずらせるとは……!
だがもう戯れは終わりだ!我が最強の波動砲で、塔ごとあの世に送ってくれる!!』
ドレッドノートの口に、更に熱が集中する。おそらく、この一撃に全ての力を注ぎこむつもりだ。

『波動エネルギー…40%……』

いくらリアの歌で強度の上がっている塔でも、これだけの力で攻撃されたら崩れる……!

『波動エネルギー…50%…』

塔が崩れたら、私達は助からないだろう。
仮に助かっても、ミッションに含まれている塔の奪還は不達成……!

『波動エネルギー…60%…』

膨大なエネルギーが収束段階に入っている。発射まであと数秒程度だろう。
……悩んでいる暇はない。このままでは敗北確定だ。

『波動エネルギー…70%…』

やるしかない。
刀をしっかりと握りしめ、

塔から飛び降りる






「おおおぉぉぉ!!!」
「ソウマ様!?」
『な、なんだと……!?』
上空からはエリスの悲鳴、下の海からはドレッドノートの焦りの声が聞こえる。
サムライである私が、まともに攻撃を当てるには接近戦以外ありえない。
波動砲の発射準備で、今は対空砲も動いていない。
ならば、その隙に、接近すればいい。
『っ……!』
さぁ、波動砲を取り止め、私の撃墜を優先するか?それとも波動砲を撃って塔を破壊するか?

その前に倒す!どんな強者も、頭をやられて無事でいられるわけがない。狙うは頭部!

渾身の力を込めて、刀をドレッドノートの頭に突き刺す。

『ぐっ…がああぁぁぁぁ!!!』
「っぅ……」

落下速度の加わった刀は、帝竜の鱗を砕き、皮を破り、肉を引き裂き、脳に確かに刺さった。
もっとも、落下の衝撃は私の腕にもかなりの負担をかけたが……
『おの…れ……人間……我…我は竜…帝竜ドレッドノート……こん…な…馬鹿な…』
痺れた腕で、もう一度刀をしっかりと握る。
帝竜の鱗が予想よりも脆いのか、刀の切味がいいのかはわからないが、
力を込めれば、更にその体を斬ることができた。
「さらばだ、艦帝竜ドレッドノート!」
突き刺した刀に力を込めて、真一文字にその頭を切り捌く。

『がっ……!!ぐ……………ぁ……………』
その言葉を最期に、帝竜ドレッドノートはその頭を力なく海に沈め、絶命した。

人間、その気になれば色々と無茶はできるものだな……
残る帝竜は三体……
帝竜も、苦戦こそすれ倒せない相手ではなくなった。
艦帝竜の亡骸の上で、次に倒すべき帝竜を考える。
次に倒すべき帝竜は……

A ネバン地方、地帝竜ジ・アースの討伐
B プレロマ地方、空帝竜インビジブルの討伐
C アイゼン地方、炎帝竜フレイムイーターの討伐
D その他雑魚竜の殲滅


→C アイゼン地方、炎帝竜フレイムイーターの討伐

地帝竜はあの『ユグドラシル』が討伐に向かっている。
空帝竜は討伐しようにも、討伐ができない。高空にいる相手にどう戦えと?
となると消去法で炎帝竜か……アイゼンに近いのもあるし、これが最善か。

「ソウマ様ー!大丈夫ですかー!?」

と、ちょうど考えが纏まったところで、エリスとリアが乗った船がやって来た。
「あんな無茶しないでください……!本当に心配したんですから……」
「お兄ちゃん、もし機関砲が飛んできたらどうするつもりだったの……?」
船に引き上げられるなり怒られた。
いや、確かに我ながら無謀だったとは思うが、あのままではジリジリと追い込まれてだな…
しかしここは謝罪すべきか……
「すまない。次は気を付けよう」
「約束ですよ…?」
「次はどこに行くの…?あと討伐報告は……?」
「アイゼン付近に潜む炎帝竜フレイムイーターを討伐する。
それと報告なんだが……正規ギルドでないことがばれる恐れがあるのと……
多分ハノイの血で染まったであろう謁間の間に入りたく無くてな……」
全てが本音である。色々な意味でマレアイアには戻れない。
仮に血染め状態でなくとも、あの水着を渡した(ハノイが選んだのだが)のが私達だと
ばれると、不法入国罪に色々おまけがついてきて厄介であるし。
それに討伐報告をせずとも、この亡骸を見れば討伐完了は伝わるだろう。
報酬金が貰えないが、金銭の為に戦っているわけではないし、それも問題ない。
今すべきことは、迅速な帝竜の討伐だ。
西大陸の地帝竜ジ・アースは『ユグドラシル』とネバンプレスの名将二人が討ち取るだろう。
ここで私達がフレイムイーターを倒せば、残る帝竜はインビジブルのみ。
そう、平和な世界は近い。もうすぐ元の世界に戻るのだ。
平和な世界を夢想しつつ、船の舵をきる。
向かうは、フレイムイーターの潜むとされるドーマ火山……!






……と決意も新たに火山に向かった筈なのだが……

「いいお湯ですねソウマ様」
「あぁ……」
「お兄ちゃん顔が赤いけどもうのぼせちゃった…?」
「あぁ……」

なんで二人と混浴するはめになっているのだろう……?

ドーマ火山のすぐ近くに構える温泉宿『ニギリオの館』
数日の船旅の疲れを取るためにここに宿泊したわけだが……
ご覧の有り様である。
確かに温泉宿で温泉に入らないのは八割を損している気がするが、混浴とは聞いていなかった。
しかも温泉はこの大きな露天風呂ひとつだけ、入浴客は私達以外にも当然いる。そしてその他の入浴客の視線がさっきから凄く痛いのだ。
(あの野郎……羨ましい……)
(くそっ!タオルとれろ……!)
(ウホッ、いい男……)
などの小声まで聞こえる。
まぁ……前後から妙齢の美少女に抱きつかれている私は明らかに周囲から浮いているだろう。
今まで何度か二人同時に抱きつかれたことはあるが、未だにこの状況は慣れない。
いやむしろ慣れることができる人物がいるなら会ってみたい。
「んっ……私も…のぼせちゃいそうです……」
後ろから蕩けた声でしなだれかかってくるエリス。うん、胸が当たっている。
「ふぁ……私も……」
前から熱っぽい声でしなだれかかってくるリア。うん、ポジションが最悪だ。

……動けないのですよ、一般客の皆さん!
二人の露骨な誘惑に負けることができたならどんなに楽か……
しかし既に一回、本能のままにエリスを抱いてしまっている私としては自制心が働く。
サムライたるもの、情事色事は婚約し、しかる後に行うべきことであって、
このような誘惑に負けてしまってはいけないのだ。平常心、平常心……
それにエリスはともかく、リアにまで劣情を抱くのは……
……いやいや、何故エリスを除外しようとしているんだ私は!?
悟りの境地はまだまだ遠そうである……

「「「うっ!……ふぅ」」」

……私を睨みつけていた数人の客の声が重なった。
そして彼らのいるあたりの湯に何か白い浮遊物が……
……どうやら少なくとも彼らよりはマシなようである。






さてそれはそれとして、そもそも何故この宿に連泊しているのか?
私達は当初、帝竜フレイムイーターの討伐のためにこの地に足を運んだわけだが……
正直な話討伐は拍子抜けだった。時は三日前に遡る……



――ドーマ火山に入ってすぐ、直進しただけで目的のそれはそこにいた。
予想外極まりない。何故こんな入り口付近で堂々としているのか?
軽く調査するだけのつもりが、いきなり最終目的に辿り着いてしまった……
さて、この場合選択するべき行動はなんだろうか?
A とりあえず敵の力量を知るために軽く戦って逃げる
B 当たって砕けろ!

ここで私達が選んだ選択はAだった。
危なくなったら直ぐに退く。敵の弱点を知れたらいいと思っての行動だった。

『貴様らは……あの連中とは違うようだな。まぁいい……我が焔の前に沈むがいい!』

唸りをあげて炎帝竜フレイムイーターが翼を広げる。そして戦いが始まった……

……
…………
………………

「……どうしようかコレ?」
軽く溜め息を吐く私の手に握られるは、ほんのり熱を持つ炎帝竜の尾……
そう……勝ってしまったのだ。
確かに自動回復は厄介ではあったが、サムライの最高奥義『双つ燕』で血管を狙い斬りした結果、
一発で主要な血管の断裂に成功し、回復を遅らせることができた。
自慢気に使ってきたフレイムヴェイルもエリスのマナバレットの前には全くの無力で……
本当に、実にあっさりと炎帝竜は陥落したのだった。
本来なら喜ばしい事態なのだが、ミッション受理をする前に倒してしまったのが問題だった。
(ミッション受理前に標的を倒してしまうことはかなりの重罪。但し例外もある)
「流石にこれはまずいな……」
ピッ→A 偽装工作
直後……なんの躊躇いもなく私は行動に移っていた。
もう犯罪行為に対する私の感覚は麻痺しているのかもしれないな……
とりあえずフロワロシードを植えて表向きは帝竜が健在な様に見せることにして、
そのまま私達はそそくさと宿に戻ったのだった……







そしてその日の夜、宿の受付を済ませ、私達は二階の部屋を割り当てられた。
ちなみに、エリスもリアも一緒の一部屋だけだ。耐えろ私!
その割り当てられた部屋の扉から見て、左に数歩行ったところにある一際大きな扉。
そこにこの宿の主であるジェンジェン爺がいるらしい。
帝竜討伐が既に知られているかどうか……その探りを入れる為にここに来たわけだが……
「…!……!!」
部屋からは何故か怒鳴り声が聞こえた。
様子が気になり、扉を開けると……

「貴様っ!使用人の!ルシェの分際でこのジェン爺様に逆らうかっ!?」
「いやっ……!」

鞭をふりおろす老人と、怯えて蹲る緑髪のルシェの少女がいた。
その瞬間に全てを悟った。この宿は『そういう』宿なのだ、と。
そして考えるよりも前に、また体が先に動いた。
「やめろ!!」
抜刀からの一閃で鞭を両断する。
このまま返す刀でこの老人も斬り捨てたいが、流石に少女の前で血を見せるわけにもいかない。
「な…なんじゃお前は!」
突然の強襲者に慌てふためく老人――恐らくこの老人がジェンジェン爺だろう。
さて、いきなり斬りかかったはいいが……どうしたものか……
「何とかいったらどうじゃ!このジェン爺様にたてついて……」
己の富と名誉にしがみついた哀れな老人か……
何故こうもルシェを人として扱わない輩が多いのか理解に苦しむ。
回りくどいことはぬきで話すか。
「……単刀直入に問う」
「短刀直入じゃと!?」

ん?何故この段階で驚かれたのだろう?

「そうだ。何故この少女に鞭を……」
「…………」
「おい!聞いているのか!?」
少々声を荒げて問いつめるが、どうにも反応がない。
いや、何か小声でぶつぶつと言っているような……

――ジェン爺の脳内――

短刀直入じゃと……!?
わしの使用人の躾ぐらいでこの若僧は何を言っているんじゃ……!?
いやだが…だがしかし!この男の目は今まで数々の獲物を斬ってきた目だ……!やられる……!
それにその刀は短刀じゃなかろう!?完全に長刀の類じゃろう!?
直入……じかにいれる……あれを……わしに……
入れたら次はえぐるのが定石……あんなもので体内をえぐられたら……
死……!まごうことなき死……!完全なる死……!死んでしまう……!
たかが使用人一人のせいで、わしが……!






「……!」
私の顔を見たり、刀を見たり、自分の腹を見たり、倒れている少女を見たり……
ジェンジェン爺は落ち着きなくあちこちに視線をさまよわせる。
……これでは埒が明かないな。
「聞いているのか!?」
「ヒィィ!?ふ…ふん!運が良かったな。今日はMANAが足りないらしい。
だからわしはもう寝る!その使用人を連れてさっさと出ていかんか!」
……上から目線の高圧的な態度は気に入らないが、一応この少女を解放する気はあるらしい。
それならば今は深追いの必要もない。
「大丈夫かい?」
「う…うん……あ…ありがとう…」
廊下で少女は一礼だけして、慌てて去っていった。
傷の手当てをしてあげたかったが……仕方がないか。
しかしあのジェンジェン爺の性格からして、迫害されているのはあの少女だけではないだろう。
どうやらもう数日滞在して様子をうかがう必要性がありそうだな……



――これが三日前の出来事、そしてこの宿にわざわざ連泊している理由なわけだが……
少し違った理由でもこの宿にとどまるはめになっている。その理由が……
「ソウマ、背中流すね?」
湯桶を片手に持った緑髪のルシェの少女――アリエッタである。
ジェンジェン爺に叩かれていた、あの少女だ。
あの日彼女を助けて以来、アリエッタは色々と世話を焼いてくれるのだ。
何かを求めて助けたわけではないが、助けてくれたせめてものお礼がしたいとのことらしい。
ジェンジェン爺もあれ以来おとなしくなった様で、次の目的地に旅立とうともしたのだが、
アリエッタのたっての願いとあって断われず、ずるずると日が進み現在に到る。
どうやら本気でのぼせてしまったらしいエリスとリアを湯からあげて、
アリエッタが私を椅子に座らせ、背中を洗う。
「私はメイドだから……出来るお礼はこんなことぐらいしかないけど……」
「お礼目当てで助けたわけではない。気にすることはないよ」
「……ありがとう。でもやっぱり……ちゃんとお礼はしたいんだ……」


この時の私は…そのお礼、このあと起きる出来事など……予想だにしていなかったのだ……







「よいしょ…と……」
布団にエリスとリアを寝かせ、毛布をかけてやる。
二人とものぼせたせいか、ぐっすりと眠っている。
……今夜は久しぶりに一人でゆっくりと眠れそうだ。
実はここ数日、左右から二人の抱きまくら代わりにされてろくに寝れていないのだ。
押し入れからもうひとつ布団を取りだして、私も横になる。
本当に久々の広々とした布団だ。
撫でる頭がないのが少し寂しいが、考え事をしながら眠るには一人の方が落ち着く。

艦帝竜ドレッドノートは討ち取った。
そして炎帝竜フレイムイーターも討ち取った。
『ユグドラシル』が赤帝竜、黒帝竜を討ち取り、まもなく地帝竜も討ち取るだろう。
もうすぐ……平和が訪れる。
竜の減少、地道な駆除作業のおかげでフロワロも確実に減っている。
滅びてしまった町も、ゆっくりとだが再建が始まっている。
そう、今確かに、平和な元通りの世界に向かっている。
全て終わって、元に戻ったら……エリスと一緒に暮らそう。
貴族の暮らしには戻らずに、どこかでのんびりと……
そして……

コンコン…

扉を叩く音に夢想は中断され、意識が現実に戻される。
こんな夜中に誰が?と、多少警戒しながら扉を開けると……
「ソウマ……ちょっといいかな…?」
仕事着のままのアリエッタが、申し訳なさそうに立っていた。
「アリエッタ……?どうしたんだ?」
こんな時間にわざわざ訪ねてくるからには何らかの事情があるのだろう。
扉を完全に開いてアリエッタを部屋の中に入れる。
「うん……あのね……」

アリエッタが口を開いてから、数秒静寂が訪れた。そして……
「お礼を……しに来たんだ……私に出来る、限界のお礼……」
「何を…んっ!?」
次にアリエッタの口が開かれるのと、私の口が塞がれるのは、ほぼ同時だった。
「んっ……ちゅ……」
「んぐっ!?」
アリエッタの柔らかな舌が、私の喉奥に何かを押し込んだ。
「くっ……アリエッタ…何を……っ!?」
押し込まれた何かが喉を通ると、途端に体が熱を持ち始めた。
……確認するまでもない。これは媚薬だ。それもかなり強力な……
「ごめんね……私はお金もないし、一緒に戦う力もないから……出来るのは、これぐらい……」
そういうとアリエッタは自らの服に手をかけはじめた。



「待て……アリエッタ……」
なんとかアリエッタをひきとめるが、薬のせいか思うように力が入らないし、思考まで鈍ってくる。
しかし、ここで屈するわけにはいかない。
「こういう…ことは……むやみにしてはいけない……
本来……心に決めた…大切な人と……時をわきまえて…するべきことだ……」
「真面目だね……でも、エリスとはもうしちゃったんじゃないかな……?」
「!?!?」
馬鹿な……
会って僅か数日で……よまれたというのか……
自分でも取り乱しているのがよくわかる。
そしてその反応は、肯定の証にもなってしまうことも……
「くすっ…二人と温泉入ってた時、『駄目だ駄目だ…』とか言ってたら誰でもわかるよ…?」
声に出ていたのか……!!!
穴どころかティラノザウルスの口の中に入りたい気分である……
「でも……一度きりなんでしょ?……かなり我慢してない…?」
アリエッタの指が、私の寝間着の帯をほどきにかかる。
構造上、はぎとられるのも時間の問題だ。それに薬も入っていて状況は最悪である。
「だから…代わりに私を使って楽になって……?大丈夫…私は人じゃなくて、物だから……
あなたの好きにしていいよ…?それが、私にできる精一杯のお礼……」
くっ…………!

A アリエッタのお礼を受け入れる
B エリスが目覚めて止めてくれる
C リアが目覚めて止めてくれる
D 一発逆転のアイデアに賭ける
E サトリの境地で危機脱出!
F 乱入者を誰でもいいから期待する
G 上記以外の出来事が

→B エリスが目覚めて止めてくれる


のを期待したいが……目覚めたら目覚めたで別の問題が……!
「ほら、横になって……?」
服を脱ぎ捨て、産まれたたままの姿になったアリエッタに押し倒される。
……前衛職の私が、一般人に簡単に押し倒されるのはどうなんだろうか?
いやそんなことは今はどうでもいい。この体勢は最早絶体絶命である。
「ア…アリエッタ……やめるんだ。今ならまだ間に合う……!」
「大丈夫だよ……」
「大丈夫ではない……!いや、そもそも…何が大丈夫なんだ……」
「私はそういう商品……『物』だから……気遣いはいらない……」
「そんなことはないっ……君は『物』ではない……!」
「……ありがとう………」
喋っては後退、喋っては後退を繰り返して逃走を試みたが、とうとう壁にぶつかってしまった。
アリエッタも礼を言いこそすれ、私の寝間着から手を離さずににじりよってくる。
前門のアリエッタ、後門の壁……限りなく詰みに近いこの状況。
こうなったら頭突きでこの壁を壊して、そこから隣の部屋に逃げるしか……!?
駄目だ……隣の部屋の客人に通報されるだろうな。
それ以前に頭突きで壁を破壊するという発想が馬鹿げている。
頭突きの威力など、たかが知れてい


「ななななななにをしてるんですかああぁぁぁぁ!!!」


エリスの
ロケットずつき!
こうかはばつぐんだ!

マナのそれとは異なる、実体をもった白銀の弾丸――
エリス渾身の滑空頭突きがアリエッタに炸裂した。




衝撃の光景から約1秒後、どさり……とエリスとアリエッタ、両名が床に倒れ伏す。
が、すぐさまに頭をさすりながら二人ほぼ同時に起き上がる。
おそらく、エリスのあのふわふわの耳が激突時の衝撃を拡散させたのだろう。多分。
なんにせよ、ギリギリだったが素晴らしい助け船だ。やはり私の選択は間違っていなかった!
「いたたた……いきなり頭突きって……何するの……?」
「それはこっちの台詞です!ソウマ様に何をしているんですか!?」
「何って……こういうことだよ?」
「そん…な……」
さらりと言ってみせるアリエッタと、ガクリとうなだれるエリス。
何か……凄く嫌な予感がして仕方がない……選択を間違えた、そんな予感が……
「ソウマ様……」
目に涙を溜めたエリスがこちらに顔を向けてくる。
「いや……捨てないでください……っ!」
そして、それとほぼ同時に飛び付かれ、泣き縋られた。
「え…?え……!?ど…どうしたの……!?」
突如泣き出したエリスに驚き、アリエッタが慌てふためくが、
私は落ち着いてゆっくりとエリスの頭を撫でる。

エリスと出会い、初めて会話した時も、取り乱した彼女はこの言葉を口にした。
『捨てないで』……あの時と同じ言葉。
エリスの幼少期、筆舌に尽し難い過酷な境遇、奴隷としての生活を表した言葉。
どんなに悪逆無道、この上なく冷酷な主であっても彼女は捨てられる事を恐れたらしい。
幼い自分がいきなり外に放り出されては、生きのびていくことが不可能だから……
それもあっただろう。しかし、本当の理由は違うように思える。
エリスは……独りになるのが怖いのだろう。
どんな仕打ち、虐待以上に、孤独になることが、何よりも……
先程、エリスの目に私とアリエッタはどう映っただろう?
服がはだけている私と、服を着ていないアリエッタ。
暗い室内、そしてこの時刻である。
……何も知らない者が見たら、『私が』アリエッタに夜伽を命じたように見えるだろう。
これまでに何度かエリスのその手の話を断っていた私が、
会ったばかりの使用人の少女にはそれを平気で行う……
誤解ではあるが、エリスはそれを見て自分が『捨てられた』と思ったのだろう。
そんなことは、ないというのに……
「エリス……落ち着いて……大丈夫だから……」
「うっ…ぁぁ……」
未だ泣き続けるエリスの頭を、こちらも撫で続ける。
ただただ、撫で続ける。






しばらく撫でて、ようやくエリスは落ち着いてきた。
「……落ち着いたか?」
「ひっく……ソウマ様…やっぱり……胸が大きい人の方が…いいんですか……?
だから……アリエッタさんの方を……」
「いや「ごめんね……悪いのは私の方……」」
私の言葉よりも早く、アリエッタがエリスに頭を下げる。
服もいつの間にか元通りに着こなし、そしてここに到るまでの経緯をエリスに説明してくれた。


「本当……ですか?」
「うん…押し掛けたのは私の方。……これ以外、お礼の方法がわからなくてさ……」
「でも!助けてくれたお礼を体で払うのは間違っています!」
「いやエリス……君も最初私に同じことをしただろう……?」
思わずツッコミを入れると、エリスは顔を赤くしてうつむいてしまった。
しかし、ツッコミはしたが、二人は決して悪くない。
そもそもの発端、諸悪の根元は、そんな礼の仕方を教えた者達なのだから……
「それじゃ二人とも…本当にごめんね……お礼は別の方法考えるから……」
そう言ってアリエッタは部屋から出ていこうとするが、扉を開けたところで立ち止まった。
「ね、ソウマ、今夜はエリスと一緒に寝てあげなよ。…その方がきっと落ち着くだろうし…さ」
どこか寂しげな声でそう言い残し、今度こそアリエッタは部屋から出ていった。
「……ごめんなさい」
それを見送るエリスも、小さな声でそう呟いた。
が、すぐに私側に向きなおし、正座をして私の眼を見てきた。
「ソウマ様……また取り乱してしまいましたが……
本当によろしいのですか……?私は……ご迷惑なだけなんじゃ……ん!?」
言い終える前に、その小さな唇を塞いでやる。
……普段の私なら、多分とらない行動だろう。
アリエッタに飲まされた薬の影響か、先程のエリスの悲痛な叫びの影響かはわからないが……
ただ、そうしたかった。
しかしそんなに時間はかけずに、エリスを解放する。
「そんなことはない……エリス、あの日、約束しただろう?……君を独りにすることはない」
「!!……はい!」
嬉しそうに、私の大好きな笑顔でエリスが私の胸まで飛込んでくる。
再びその頭を撫でながら、二人で布団に潜り込む。
が、
「それじゃ、おやすみエリス。いい夢を」
「おやすみなさいソウマ様……」
夜に男女がひとつの布団に潜り込んでも、私は『昨夜はお楽しみでしたね』のイベントは起こさない。
これはけじめであるし、さっきアリエッタにそう言って直後でもあるし。
……
…………
正直に言うとかなり我慢しているのだけれども。私だって聖人ではないし。
アリエッタのあの薬、効果持続時間はわからないが、かなり厄介な置き土産である。
すぐ横で、早くも安らかな寝息をたてて微笑んでいるエリスを見ると……非常に危ない。
「……まいったな」
小声で愚痴をこぼすが、状況は変わらない。
しかもしっかりと腕を背中に回されているので動くことさえままならない。
……これは今夜は眠れそうにない。
頭の中で気分を限りなく盛り下げる映像を何度も再生する。とにかく、別の事を考えねば。
そんな状態で、夜が更けていった。





「だ……大丈夫ですかソウマ様?顔色が真っ青ですが……」
「だ……大丈夫だ……」
結局一睡もできず、過去の父上の酒宴での醜態などを思いだし続けたら吐き気までしてきた。
……子は親に似るというが、私もいつかああなってしまうのだろうか……?
「スー…スー…」
リアはまだ寝息をたてているが…昨夜のやりとりなどを聞かれてはいないだろうか……?
確認のしようがないが……聞かれていないと思う。多分……
「おはよう!朝ごはん持ってきたよ」
と、そこに朝食を持ったアリエッタがやってきた。
「ん?確か注文はまだしていない筈だが……」
「……これは昨夜のせめてものお詫び。タダでいいよ。あ、あとね……」
何かを思い出したように、エプロンのポケットの中を探すアリエッタ。
そして出てきたのは……
「これ…!今朝の新聞なんだけど…『帝竜ジ・アース討伐される』…だってさ!折角だから読むね。
西大陸を制圧していた地帝竜ジ・アースが昨晩、ユグドラシルとネバン連合軍に討伐された。
先日、謎のギルドによって艦敵竜ドレッドノートも討伐されており、
残る帝竜は炎帝竜フレイムイーター、空帝竜インビジブルの二体のみとなった。
帝竜最強とされているキングは既に討伐され、残る帝竜も僅かな今、
平和な未来は限りなく近いと言っても過言ではないだろう。
また、艦帝竜を討伐したギルドの正体は未だ謎のままだが、いくつか情報が入っている。
一人は、鬼のような形相で竜を粉々に切り刻むという、恐ろしいサムライ。
一人は、銀髪の魔術師で、そのマナの弾丸は正確に敵の眉間を貫くという。
最後の一人は、帝竜の砲撃を完全に防ぐ程の防壁歌を操るという、驚異の歌姫。
この三名に対し、カザンのメナス補佐官は便宜上、以下の仮称で呼ぶことを決定した。
サムライ『殺戮の凶刃』・魔術師『魔銀の狙撃手』・歌姫『戦慄の旋律者』
この謎の三名の情報提供者には大統領府から特別金が……あれ?二人ともどうしたの?」
「い…いや…なんでもない……」
「もうすぐ平和になるんだってさ!いいニュースだよね」
「そ…そう…ですね……」
ぎこちない笑顔を浮かべた後で、エリスと顔を見合わせる。
……確かに、帝竜討伐はいいニュースだ。だが……後ろにあった余計な文。これがまずい。
どう考えてもその『謎の三名』は私達であって、しかも恐ろしく脚色されている。
さらには妙な二つ名までつけられる始末。しかも害を為す敵のような名前である。
特に私の『殺戮の凶刃』なんて、どう聞いても人間を死の淵に沈めるFOEの様な名前である。
カザンのメナス補佐官……この酷いネーミングセンスの持ち主を、私は一生忘れないだろう。
そして、私達の情報提供者には特別金が出る……これは…捕まえる気なのだろうか?
「ほら!折角のいいニュースなんだし、ご飯もきっと美味しいと思うよ。リアも起こさないと…」
「す…すまない」
まあ確かに、後ろを気にしなければいいニュースである。
わざわざ持ってきてくれたアリエッタの為にも、ここは美味しく朝食を頂くことにしよう。
そう思った、その時
外が、空が、暗くなった。





窓を開けて、暗くなった空を慌てて見やる。
雲は一切ない快晴の天気の筈なのに、何故か空は淀んでいた。
そしてその空の一点に見えるは紅い星。
いや違う。凄まじい速度でこの星に飛来する『何か』だ。
それは、見る見る大きくなり、そして北の大地に突き刺さった。


その瞬間、衝撃が走った。
着弾点である北の大地も、今いるこの東大陸も、恐らく離れた西大陸も……
この星そのものが、衝撃に揺れた。
揺れが収まり、ここからでも視認できる紅い『何か』をもう一度見る。
それはまるで、フロワロの様な紅と紫を基調にした色で。
それはまるで、生きているかの如く怪しくうごめいていて。
それはまるで、開花する華の様に大きく広がって。


そして


声が聞こえた


『おはよう…エデンの諸君』


低く、響き渡る声で、あの紅い『何か』の上から


世界中を絶望させるような、そんな声で告げられる言葉


帝竜が減り、人が平和な未来に望みを持ったばかりだというのに……

まるでそれを嘲笑うかの様に……

今まで世界中で頑張ってきた人の思いを無に帰す様に……

それは突然、なんの前置きもなく現れた……

『我はグレイトフルセブンスがNo3…真竜ニアラ。その名において、この星の全てを喰らう!!』

その日、新たな災厄『真竜』の声は、確かに世界に恐怖をもたらした。






真竜の襲来から、一夜が明けた。
「……」
「……」
「……」
私も、エリスも、リアも……無言であった。
「おはよう……朝ごはん…持ってきたよ……」
そしてアリエッタも……必死に笑顔を作ろうとしているが…無理をしているのがよくわかる。
原因はおそらく、真竜ニアラと、昨日の夕方の号外新聞だ。
その内容は……あまりに惨いものだった。
突如来襲してきた真竜ニアラに対し、プレロマは秘密兵器『千人砲』で攻撃。
撃破には到らなかったものの、深手を負わせることには成功した……
この記事だけを見れば、もう一発千人砲を使えば倒せる!……そう思うだろう。
しかし、千人砲にはある犠牲が伴っていた。人の…千人の命である。故に千人砲。
今回千人砲の人柱となったのは、全てがネバンプレスの住人……ルシェだった。
しかし彼らは、無理矢理ではなく、自らの意思でそれを希望したという。
誇り高きルシェの魂は、次の世代の者に受け継がれると言って、躊躇いもなく……
そしてそれだけの犠牲を払っても真竜ニアラは倒せなかった。
喰らった攻撃を吸収し、以後無効化する能力と驚異の再生能力。これが真竜ニアラの力。
この能力のせいで千人砲はもう二度と通用しないうえ、早くしないとその傷まで癒えてしまう。
そのうえ、問題はまだあった。
「……これ、いいかな?」
「うん……」
すっかり元気を無くしたアリエッタから新聞を受けとる。
たった一日で、こんなに変わってしまうとはな……
そして新聞の内容も、一日で大きく変わってしまった。
一面を飾るのは『装真竜ヘイズ』による被害状況。
装真竜ヘイズ……
千人砲の砲撃で動けないニアラの代わりに人間の『刈り入れ』を任されたニアラとは別の真竜。
そのヘイズは拠点としてミロス付近のバロリオン大森林を選び、そして……虐殺を始めた。
新聞の一面、被害状況…犠牲者の数は……はかりしれなかった。
ミロス第二、三、五、六、八騎士団は一人残らず死亡。
せめて遺体の回収だけでも…と向かった14のヒーラーギルドも一切行方がしれない。
千人砲の犠牲になった者の敵討ちにと飛び出したルシェ騎士団も未だ帰らない。
真竜を討伐し、名をあげようとして壊滅した一般ギルドもかなりの数だ。

たった一日、たった二体新たな竜が来ただけで、人間と竜の力関係は再び逆転してしまった。

そして今度は……
三年もの猶予は……
間違いなく存在しない。
このままでは一月と待たずに……人間は滅びるだろう。







アリエッタが持ってきた朝食も、美味だが喉を通らない。
千人砲で散ったルシェ、人々の心に恐怖を植え付けたニアラ、そして今も人を刈るヘイズ……
それらに対する思いが、部屋の空気を重くする。

コンコンコン……

「…?誰だ?」
その空気を一時的に破ったのは扉のノック音。
しかしアリエッタはここにいる。一体誰が…?
などと考えているうちに扉が開いた。

「はぁ…はぁ…この中に…ハントマンの方はいらっしゃいますか!?」

息を切らして現れたのは深緑髪の若い男だった。見しらぬ顔である。
確かに私達はハントマンではあるが、何故いきなり私達の部屋を訪ねてくるのか…?
「何故ハントマンを探しているのだ?」
とりあえず、まずは自分達の正体を隠して、相手の出方をうかがってみる。
「申し遅れました……私はノワリー。プレロマ学士長代行です。
現在真竜ヘイズ並びに真竜ニアラ討伐のために各地に散らばっているハントマン……
ギルドに、カザンに集まるよう招集をかけているんです。あなた達は…ハントマンの方ですか?」
「……っ」
返答に困った。
予想外の人物の来訪で驚いたのもあるが、問題なのは話の内容。
真竜ニアラと真竜ヘイズの討伐……確かにそう聞こえた。
絶望のどん底にたたき付けられ、殆んどあきらめていた人類に、
まだこんなことを考える人が残っていたとは……
私は……


A 滅びてなるものか。誘いにのり、三人でカザンに向かう。
B あがいても手遅れだ。残り少ない時をエリスと過ごす。
C プレロマは千人砲を使った国で信用ならない。独自で真竜対策をたてる。
D エリスとリアの心の傷が心配だ。一人でカザンに向かう。

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最終更新:2013年05月04日 23:26