・今回エロなしです。
固有名詞一覧
・ジェリコ 本作の語り手。ルシェヒーラー。スケコマシ。
・ナムナ ルシェサムライ。このターン空気。
・ロザリー 赤毛ヒーラー。採掘特化。通称、ロザ姐さん。
・カリユ 六花亭ウェイトレス。カリユ可愛い。
(名前は公式ちびキャラトークより)
「――ってな事がありましてねぇ、いやぁ、大変でした」
「がははっ、そりゃ災難だったなルシェの兄ちゃん!」
歓楽街で身も心もすっきりしたあと、私は六花亭で食事を摂っていた。
カウンター席には、いい感じに出来上がってるオッサンが一人。
お互い顔見知りだが、酒場の常連という以上の情報は名前さえ知らない。
(まあ、こっちも名乗ってないから『ルシェの兄ちゃん』呼ばわりなワケだが)
ところで私はパッと見の外見や丁寧なしゃべり方から、
むっつりスケベだと思われがちなのだが、別に全然そういうことはなく、
「いやぁ、それがですね。アレはアレで結果的に適度な焦らしプレイになりましてねえ、
お店でしてもらったとき、実にいい感じで一本抜いてもらえました」
酒場の酔客たちとフツーに猥談をかませる程度のオープンスケベである。
「がははっ、災い転じて巫女とナースってか?!」
「……はて、ナースなら存じてますけど、ミコってなんでしょうか?」
看護士さんなら、治癒術の研修してたときに一度お相手したことがあるのだが。
「あー、知らねぇか? アイゼンの一地方で神につかえる乙女をそう呼ぶんだよ」
「聖職者の一種ですか。しかし少々マイナーすぎやしませんかね?」
「服が流行ってんだよ、服だけが。ほれ、例のモタ=ボナールの工房は知ってんだろ」
「そりゃまあ」
知らないほうがおかしい。モタ工房といったらドリス大統領をはじめとして
熱心なファンの多いハントマン向けの服飾ブランドだ。
かく言う私も何着か持っているし、ショップにはナムナが毎日のように通いつめているはずだ。
「あそこのデザイナーが趣味で作ってる奴なんだがな。紅白で、ひらひらの」
「ああ、あの紅白ですか。モノはマネキンに着せてるのを見たことあります」
「おうよ、アレが一部の『お店』で人気でな。清い物をけがす感じがイイってよ」
「シスタープレイみたいなもんですか」
「そうそう、ンな感じだ。あの服、腋がごっそりあいてるからな、
着せたまま一物を腋で挟んでしごいてもらうと、好きな奴はたまらんらしい」
「腋コキ、そういうのもあるのか!」
今度ナムナで試してみよう。
それはさておき。
我々も別に意味なく助兵衛トークを繰り広げているわけではない。
自衛の為である。
緑色の髪と獣耳をした小悪魔的ウェイトレスから自身の食事を守る為に。
「カリユさーん。エビフライまだですか?」
その小悪魔的に可愛いウェイトレスに注文品の催促をする。
注文から10分、普段だったらもう出てきてもいいはずだ。
「………………」
しかし華麗に無視なさる。
彼女はウェイトレスとしてあろう事か、目を床に向け、獣耳を意志の力でぱたりと伏せ、
視力と聴力を自ら制限することで世界のすべてを拒絶しようとしていた。
酒場にあふれる有害情報――助兵衛トークから一心に身を守っているのだ。
私たちだけではなく、六花亭のそこここで男性客が猥談を展開していた。
やむなく私はカリユに近づき、伏せたケモミミ(ふかふか)を指でつまんで持ち上げ、
「カ・リ・ユ・さ・ん」
音節ごとに区切って彼女の名を呼びかける。ついでに耳孔に息をふーっと吹きかければ、
「ひゃ、ひゃいっ!」
びくんと身体を震わせてやっと返事をかえしてきた。
念のため言っておくと、ボーっとしていたカリユの覚醒を促したかっただけで、
決して性的いたずら的な意図はない。ないったらない。
「エビフライ。出来てたら持ってきてください」
「あっ……はい、ただいま!」
カリユは持ってくるなり、またもや目を伏せ耳を伏せての自閉モードへと回帰する。
そして私のテーブルに乗せられたのは、七本のエビフライ。
――客席に七本すべてがやってくる。かつてそれは奇跡に等しい出来事だった。
このエビフライは六花亭名物……いや、カザン名物と言っても過言ではない至高の一品である。
だが、六花亭マスター(キザ)の手を離れたときには七本だったエビフライは
客の口に届くときにはその本数を大きく減じているのが普通であった。
原因はこのルシェ娘――カリユである。
彼女はエビ大好きな上に常時はらぺこで、チップとしてエビフライを要求してきやがるのだ。
て言うか『あ、エビフライありがとう、もらうね!』と、こっちが何も言わないうちから喰らうのだ。
なんでそんなのをウェイトレスとして雇ってるんだという、根本的な疑問はさておき、
かわいいは正義なのでとがめる者も少なく、カリユは我が世の春を謳歌していた。
だが当然、客だって七本全部食いたいと言うのが本音である。
マスター(キザ)にチクったり、自前で厨房から取りに行ったりとさまざまな対策手段が講じられたが、
彼女の食欲の前に打ち破られ、数多くのエビフライ注文者たちが涙を呑んだのであった。
その連綿と続く客とカリユの戦いに終止符を打ったのが――何を隠そうこの私、ジェリコである。
今までの注文者たちは己のエビを守るのに腐心して、カリユと真っ向から戦う意思を持たなかった。
あえて言おう、愚策であったと。攻撃こそ最大の防御であったのだと。
私も常々カリユの暴虐に苦しめられてきた一人であったのだが、一つの突破口を見出したのであった。
カリユがウブな処女である事に気付いた私は、彼女が性表現への耐性を持たないであろうことに着目し、
数人の仲間達と助兵衛トークをくりひろげてみたのだ。
結果は大成功。
カリユは酒場に充満する有害情報から身を守る為に全力を尽くさねばならぬようになり、
つまみ食いという名の攻勢に移ることがほぼ不可能となったのであった。
現在では酒場の男性客ほぼすべてが、私にならっておおっぴらに猥談を行うようになり、
ここにカリユの封じ込めが実現したのであった。
「………………」
ケモ耳をぺったんとふさいで、助兵衛トークを聞いてないアピールするカリユ可愛いよカリユ。
しかし、どれほど必死に耳を伏せようとも、ルシェの優れた聴力は完全にはカットできまい。
くっくっくっ、思い知るがいいカリユ。どんどん耳年増に調教してあげるからね。
事ほど左様に食い物の恨みは恐ろしいのだ。
つまりこれは正当な復讐であって、単なるセクハラではない。断じて違う。
いや、彼女はおなかぷよぷよで常々ダイエットに頭を悩ませているというから
食事量を制限して差し上げるコレは人助けですらある。
客はエビを存分に喰らい、カリユは減量に成功し、私は猥談に赤面したカリユの艶姿を楽しむ。
まさに三方一両得の妙案であった。
この作戦、酒場の雰囲気が悪くなることを嫌う六花亭マスター(キザ)の存在が一応のネックではあるのだが、
カリユを恐れなくてすむようになった客たちが遠慮なく注文するので
売上が微増する事などが理由なのだろう。
他の女性客がいないときに限って『ま、コレはコレでカリユの薬になるか』と、黙認していただいている。
……などと過去の激闘に思いをはせつつ、私はエビフライをぱくり一口。
旨い。
ふわっとしててかりっ。
火を通し切らずエビの中心部にはあえて火の通ってない部分が残されており、
エビの甘味がまったく損なわれていないばかりか増幅されている。
道を極めた達人のみに出せる匠の技であった。
「いやー、やっぱりタンパク質の摂取はエビに限りますねえ」
エビをほおばりつつ酒場の常連氏に語りかければ、
「がははっ、そりゃぁ抜いて出しちまったモンは補充しなきゃなぁっ!」
陽気な返事が戻ってくる。
「ええ、今晩ウチの彼女に『埋め合わせ』をさせるつもりですので
じゅうぶんに溜めておきませんと」
「かーっ! 若い若い! 若いってのはいいねえっ! 昼間イッパツ抜いてるってのに、
まったくお盛んだァ、今夜もズボズ――――がっ、うががっ……」
こきゃっ、と珍妙な音がして。
常連氏の首が突然真横を向き――そのままグラリ倒れてカウンターへと突っ伏した。
「なっ、なんですっ?!」
「はーい、うごかないでねー。動くとキミも首ひねっちゃうよー?」
思わず慌てふためく私の耳に背後から、軽ぅい感じの女性の声で実に物騒な脅しがかけられたのであった。
……いや、女性だって?
おかしい、マスターの指示でカリユ以外の女性が店内にいないことは確認してるのだが。
と言うか、この声どっかで聞き覚えがあるような……。
「そこのウェイトレスさんからセクハラ野郎どもの討伐依頼が出てんのよ――って、
ありゃりゃりゃ? キミ、ジェリ坊?」
「ロザ姐さんっ?!」
「ははっ、やっぱジェリ坊だ!」
余裕で知り合いだった。
赤い髪に赤い服に赤いメガネ。上から下まで赤づくめ、派手めの女性が視界内へと現れた。
そうか、ロザ姐さんなら存在に気付かなかった理由がつく。インビジビリティで気配を消していたのか。
「ね、姐さんがなんでここにっ?!」
だがネバンプレス在住のはずの姐さんが何でカザンに?
「いやー、買ったヤマに竜が沸いちゃってねー。掘るに掘れなくなっちまったのよ。
んで、借金取りからほとぼり冷ますために逃げてんだけど、
ひとまずヒーラーの技術を生かしてハントマンでもやろっかなーって。
……ところで、ジェリ坊こそなんでそんな荒事向きのカッコしてんのさ? ケンカは嫌いだったっしょ」
「いやまあ色々ありまして……て言うか坊はやめてください坊は。貴女は一応、同い年でしょう?」
「だったらキミも姐さん呼ばわりはやめなよ」
「……無理です。ロザ姐さんはなんて言うか姐さんだから」
「はっはぁ、お互い年食ったってのに、ジェリ坊は変なトコだけお子様のままかぁ」
そうかもしれない。アレから精神的にはほとんど成長できてない気がする。
ロザ姐さんとはネバンプレス大学でぶらぶらしてた時、治癒術の講義などで知り合った。
実は良いところのお嬢さんらしく、ロザリーなんちゃらと言う長ったらしい本名が
あるのだが、同級生ばかりか先輩達や教授連中までもが『ロザ姐さん』という通称で呼んでいた。
気風良し、気前良し、器量良し。そして何よりケンカが強い。
度胸もあって面倒見もいい、男前オブ男前な彼女が『姐さん』の称号を周囲から授けられたのは、
入学からわずか一ヵ月後のことだった。
生物学的な意味では東の大陸の人間なのだが、ルシェ以上にルシェらしいその性格によって、
ルシェ氏族の一員として認められているほどである。
彼女は治癒術も一応修めてはいるのだが、本来は地質学のエキスパート……いや、ぶっちゃけると山師で
最新の機材顔負けの精度で鉱脈を探し当て、何でわかるのかと訪ねると『勘』と一言だけが返ってくる。
学生時代から文字通りの意味で『一山当てて』ものすごい金額を稼いだかと思えば、
『ああ、アレ? 別のヤマ買ったら無くなっちゃった』と、ああっという間にその金を使い果たし、
気付けばすっからかんで周りに食事をたかる様な真似さえしていた……と、言うか私もたかられた。
とはいえ、その山も『当たり』だったらしく、後から豪勢なメシをおごってもらったりもしたのだが。
まさにグレートワーカー。浮き沈みの激しい人生である。
「ま、再会にかんぱーい」
「ええ、乾杯」
とりあえず、私たちは数年ぶりの再会を祝して杯を酌み交わしていた。
「んで、いきなり説教で悪いんだけどさ。ダメだよー、セクハラは。
クエストオフィスに依頼がくるとかよっぽどだよ?」
どうやらカリユは私の排除を依頼し、それを受けたのがロザ姐さんだと、そういうことらしい。
「いや、コレには事情が」
「その事情にかこつけてエロい事すんのがキミの目的でしょーが。昔っから」
「……う、そのぉ」
否定できない。昔を知ってる人間の、なんとやりづらいことか。
「大体ジェリ坊はエロい気持ちばっかり先行しててさー、いざコトとなったら
すっごい自分勝手なセックスばっかりだったよねー。どうよ、ちったぁ上手くなったの?」
「姐さん、姐さん……人目があるんでちょっとお手柔らかに頼みます」
で、その。
彼女とはヤってるヤってないで言うなら、ヤってる関係である。両手両足で数えられるぐらいの回数。
……だが『恋人だったのか』と問われれば、かなり微妙なところなのだが。
姐さんには常時7~8人の男がいて、私もまたその一人に過ぎなかったからだ。
「うっふっふっふ。キミに女扱いのイロハを教えてやったのはわたしだからねー。
師匠としちゃあ弟子のその後が気になったりするわけさァ」
彼女から教授されたテクニックの数々は実際その後の人生で大いに役立ったので、どうにも頭が上がらない。
「他にも気になる『お弟子さん』はいらっしゃるでしょうに」
「でも、テクこそイマイチだったけど、将来性をかんがみると
あの頃付き合ってた子の中じゃキミが一番だったよ」
「ああ……そりゃどうも」
今更言われても、という話ではあるのだが多少は嬉しかったり。いやぁ、男って単純だ。
「うん、アレの大きさと太さと硬さの総合力で一番だった」
「そんな基準ですかいっ!」
だけどさっき以上にいわれて嬉しい話だったり。いやぁ、男ってホンっと単純ですよね。
「んー、だけどね、コレまで300本以上喰ってきたけどさァ、
キミのは歴代でも4位に入るからそこだけは自信を持っていいと思うよ。そこだけは」
……300て。私も結構遊んでる部類に入ると思うんだが、流石にゼロ一個足りない。
「『だけ』を強調しないでください、『だけ』を……
ちなみに一位ってどんな人だったんです?」
自分以上がいると聞き、妙なところで対抗意識と好奇心が沸き起こる。
「んん、興味ある?」
「そりゃまあ」
「ジェリ坊も名前だけは知ってると思うよー……あ、でも、この話ってしてもいいのかな」
ロザ姐さんが言いよどむとは珍しい。大学の教授連中か誰かなのだろうか?
「そんなに出しづらい名前なんですか。言いたくなければ結構ですよ」
「ま、いっか。ビビってるって思われんのもシャクだし言っちゃう。
一位はね、ドリスだいとうりょ――」
「ストーォォォップ!! ロザ姐さんストーップ!!」
こんなオープンな場所で出していい名前じゃないだろ! そもそも、どういう縁でそうなったんですか!
「いやぁ、後にも先にもベッドの上で完全に小娘あつかいされたのはアレ一回だけだわね。
ホンっと凄かったわぁ、ドリスだいとうりょ――」
「喋んなつってんだろ、このヤリマン!」
……いかん、激昂するあまりつい口汚く罵ってしまった。
「違うわ。ヤリマンじゃなくて性豪って呼んでちょうだい」
そしたら姐さん、ち、ち、ち、と立てた人差し指を左右に振りながら、そんな事をおっしゃいます。
サマになってるけど妙にムカつくのは何故なんだろう。
そこに横から口を挟んできたのは、六花亭のマスター(キザ)だった。
「ぎゃぁぎゃぁ騒ぐな若造。アゴートの奴の女好きは、昔っからこの辺住んでる奴なら誰でも知ってる」
「……はぁ、そーだったんですか」
まあ、英雄色を好むっていうしなあ……。
「それと嬢ちゃんよ。ウチの店でその手の話すんなとは言わねぇけどよ、アゴートの名前を気軽に出すのは
勘弁してくれや……なんせ奴さんが雲隠れしてからもう3年になるんでな。ピリピリしてる奴も多いわけよ。
メナスの若造あたりに聞きとがめられたら、どうなるかわかったモンじゃねぇんでな」
「……ぁ、そうですね、わたしが不注意でした。すみません」
やーい怒られてやんの。しかしマスターにかかれば姐さんもまだまだ嬢ちゃん呼ばわりか。
「まあ、アゴートの奴のことだから、あんがい政務をおっぽりだしてどっかの女のところに
シケこんでるだけかもしれねえんだけどなァ」
そう言ったマスターはなんとも妙な表情を浮かべたかと思うと、厨房の奥へと戻っていった。
「まあ、キミも童貞小僧じゃあるまいし、この程度のことでイチイチ目くじら立てる物じゃないってことね」
「そーですね……」
姐さんはもーちょっと自重するべきだと思いますけどね。色々と。
「あ、童貞小僧で思い出したけど、キミの童貞切ってやったときのことおぼえてる?」
「それは絶対にほかの誰かと間違えてますっ!」
青春の思い出の一ページにかけて否定しておくが、私の初体験はロザ姐さんではない。
「んん、グリオン君あたりと勘違いしてたかなぁ」
「彼にまで手ェつけてたんですか……従兄弟と穴兄弟とか嫌すぎるんですけど」
だいたいそんな勘違いするぐらいって、いったい何人童貞切ってんですか。
「あー、そかそか、思い出したわ。ジェリ坊のはじめてって確か、近所の幼馴染の――」
「――待った、何で知ってんですか、その話」
おかしい、他人にはほとんど語ったことがないはずなんだが。
「山師の情報網を甘く見ないで。あの当時、ジェリ坊がわたし含めて4股ぐらいかけてるのは
気付いてたからさァ。ヘンな病気うつされたらヤだし、キミの女関係は一通り調べてあったのよ」
「……バ、バレてましたか」
それを知った上で私との関係を続けてたのかこの人。度量が広すぎる。
「ふふん、あったりめぇよぉ。おどろいたぁ?」
「それはもう……あの、怒ってます?」
何年も前のことを今更って気もするが、聞かずにはいられなかった。
「んー、わたしも男関係は人のコト言えなかったし、それに……」
「それに……?」
「あの頃のジェリ坊の本命ってわたしだったっしょ? それなら放置でもいいかなーって」
「な、な、な、何でそんなことまで……」
その本命だった本人に言われて、思いっきりキョドってしまうわたくし。何でそこまでわかるんだ。
「勘よ……と、言いたいトコだけど、一応根拠はあるかな」
「……はぁ」
「コレよコレ」
と、言って姐さんは自分の顔を指差して、
「……メガネ、ですか」
「そ。キミが贈ってくれた奴。見てのとーり今でも重宝してるよぉ」
それは、かつての私が姐さんの気を惹きたくて、必死になって作った奴だった。
赤が大好きな彼女のために、最高級のサンゴを調達し、細工師としての持てる技術のすべてを使って
削り出し、各部には微細な彫刻を施したものだった。
「キミが付き合ってた他の3人のコにはさ、こーゆー手作りの奴はプレゼントしてなかったっしょ。
だから、わたしが一番なんだなーって確信できた」
「その通り……完敗です」
「それにキミが他のコと付き合ってた目論見もだいたいわかってたし」
「……え?」
「よその女の子とたっぷりセックスして経験値つんでテク磨いて
『いつか姐さんをひぃひぃ言わせてやるんだ!』とか、そんなトコだったんでしょ?」
「うぅっ、ぐっ……!」
「ふっふっふ。図星だったかぁ。もー、かわいいなあ」
読心術師か、この人はっ!!
「でも良いタイミングでジェリ坊と再会できたもんだわ」
「何がですか?」
「いま逃亡生活で男切らしててさァ。せっかくだから一発ヤろうよ」
「タバコ切らしてるのと同じ感覚で言わないでくださいよ!」
「失礼ね。タバコは吸っても身体に有害なだけだけど、
ちんこは吸ったら良性のタンパク質が摂取できるんだから」
……この女、そんなにタンパク質を摂取したいんだったら『あのね』をタイトルに冠する
同人誌シリーズでいっぺん酷い目にあってくれば良いのに。触手系とかで。
「そういやさ、精液のタンパク質組成ってエビとかの甲殻類に近いって知ってた?」
「エビ食ってるときにやめてくださいよ!!」
ダメだこのひと早く何とかしないと。
さっきまであんなに美味しかった絶品エビフライが今はもう台無しである。
「味とかさ、匂いも生のエビに近い――」
ろくでもない講釈を続けるロザ姐さんに、おもわず『ぶち殺すぞ、人間(ヒューマン)ッ!!』と、
怒鳴りつけそうになったのだが……
ごっすん。「ふぎゃっ?!」
私が大声をあげるよりも先に、いつの間にかカリユが私たちの背後に立っていて、
お盆をロザ姐さんの頭に振り下ろしていた。しかもヨコじゃなくてタテだった。
見事なまでの、おぼんチョップであった。
ケモ耳の先までぶるぶる震わせ、怒りに満ちたカリユが咆哮する。
「なんでっ……なんでセクハラ止めにきた人が一緒になってセクハラトークしてるんですかぁっ!!」
そういえばすっかり忘れていたが、姐さんの今日の仕事はカリユへのセクハラを止めに来ていたのであった。
カリユのお盆が再び猛威をふるう。
ごっすん。「みぎゃっ?!」
普段おとなしい子のこーゆー姿を見ると思う。ルシェというのはやはり戦闘民族なのだなぁ、と。
「そもそもっ、エビをっ……エビを侮辱するなぁッ!!」
ごっすん。「ひぎゃっ?!」
「エビを食べる時はねっ、誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメのにっ……!」
ごっすん。「めぎゃっ?!」
ああ、いけないいけない。姐さんの頭から煙とか出始めている。そろそろ止めねば。
「カリユさん」
「なぁにっ?! エビを冒涜するなら貴方もぶつよッ!?」
うーむ、カリユの瞳が王蟲のごとき攻撃色。対応を一手間違えれば私もごっすんの餌食だろう。
「マスターがこっち見てます。お客さんに手ェ出すのはそろそろ自重したらどうです?」
「……あうっ」
「まあ私も少々やりすぎました、すみません。こちらを差し上げますので、
とりあえずコレで手打ちということにしませんか?」
――と、食べ残しのエビフライを差し出せば、
「わぁい、ほんとにっ? ありがとうございますっ♪」
ああっという間にさくさくかりかりと音を立ててカリユの胃袋へとおさまった。
それにしてもあんな話を聞かされたあとで、よくもエビなんて食えるものだ。
……ははぁん、やっぱり彼女はガチ処女か。精液の味を知ってたらこんな真似は出来まい。
「じゃ、ゆっくりしていってね!」
しかし一発で機嫌が回復している。この子もずいぶん安上がりだなぁ。
「うぅ……頭痛がする」
「頭痛ってこういうときに使う単語でしたっけ……」
ロザ姐さんが頭を押さえながら、ゆらりと身体を起こした。
「まあ、おかげで助かったわ。お礼にキミがどれだけ成長したかみてあげる。ベッドの上で」
「……結局そっちの方向に話をもってきたいんですね」
「ありゃりゃ? ジェリ坊のクセに食いつき悪いなー。どったのよ?」
「だって私は今お付き合いしてる人いますから」
そしたら姐さん、目がまんまるな驚いた顔をして、
「どしたの、なんか悪い物でも食べたの? て言うか本物のジェリ坊? 偽者じゃないよね」
「なんですかその反応は」
「だって『バレなければ浮気じゃない』と豪語していたあのジェリ坊がだよ、
彼女がいるという程度の事で、目の前の据え膳をはねつけるなんて信じらんない」
「…………」
失礼な。と言いたいところだったが、確かにかつての私はそんな感じだったので否定できない。
「しっかし……そーなんだぁ。ふーん、へーえ、なるほどねぇ……」
「なんですか今度は……」
「そっかー、浮気が申し訳ないって思うレベルで好きなんだぁ。
愛されちゃってるなぁ、その彼女さん」
「……むぅ」
ああ、マズい。図星突かれて少々赤面しちゃってるかも。
「ははっ、そんな顔しなさんなって。ね、どんな子なの?」
言えるわけねー。
身体も性格も見るからにお子様だなんて。
「元気な子です。明るくて、一緒にいるだけで気分が晴れやかになるような」
やむなく、要点はぼかして当り障りのない回答をする。
「へー。ルシェなの、人間なの?」
「ルシェです」
「ほうほうほう、惚れたきっかけはなんなのかなー?」
「彼女――サムライでしてね。お仕事を手伝ってるうちに惹かれあっていったというか。
まあ、状況が状況だけに、吊り橋効果みたいなのもあるんでしょうけどね」
「ああ、それでキミまでハントマンのカッコなんてしてるんだ。
ところでカラダの相性は?」
聞くか。それを。
「……その、まだ最後までしてませんので」
この手の話を嘘ついても、この人の前じゃ即行バレる。正直にゲロっちゃうのが一番だろう。
「嘘ッ?! 『会ったその場でズブリ』が信条だったキミがっ?!」
「そんな信条を持ったことはありませんっ!」
とは言え、似たよーなことは5,6回やったことはあるのだが。
「まあその……経験も足りないし、カラダも硬い子なんで少しづつ慣れさせてる最中なんですよ」
「はっはぁん、まだ処女かー。大事にしちゃってんなぁ、このこのぉ!!」
姐さん、肘でぐりぐりしてくる。うーむ、むずがゆいったらない。
「いや、ははははは……」
「こりゃぁ、わたしが悪かった。キミにそんな好きなコがいるんだったら
あんな軽ぅい気持ちで『一発やらない?』なーんて持ちかけたわたしがバカだったわ」
「やれやれ、やっとわかってくれましたか……」
「うん、よーくわかったわかった――」
「――本気で落としに行かなきゃダメってことをね」
忘れていた。
女が魔物だという事を。
魔物の中でもこの女性は最強の一体だという事を。
いつの間にか私の手の甲に、姐さんの掌が重ねられていた。
「……ロ、ロザ姐さんっ?!」
「ね、あらためて聞くけど、これからわたしとセックスしない……?」
言葉の一言一言が実に蠱惑的。
その響きは甘やかに男の――私の脳を揺さぶってくる。
さっきまでのどこかとぼけた雰囲気は完全に消えうせ、
そこには熱っぽい視線で男を狙う一体の女豹がいた。
「いや、だからその、私にはっ……」
恋人がいるから。なんてセリフは既に意味がないと気付いて言い留まる。
「うふ。人のモンとわかると余計に食いたくなんのよねぇ……」
人としてそれはどうかと思うが、私もちょっとそういう傾向があるので
うっかり気持ちを理解できてしまう。
「今日は坊やにまた一つ教えたげる。罪悪感の伴うセックスってすっごく気持ち良いのよ。
……どう、試してみたくならない?」
坊や扱いされても不思議と腹が立たない。まるで二周り以上年上の女性を相手にしてるようだ。
重ねあった手の指と指が絡められ、要所は爪の先で突かれたり引っかかれたり。
それだけで、もう気持ちがいい。やはり男のカラダを熟知している。
「坊やも忘れたわけじゃないんでしょ? わたしのカラダのき・も・ち・よ・さ」
思い出してしまう。
その肉は極上。
数多くの女性と関係してきたが、未だこの人を超える身体の持ち主には出会ったことがない。
アレから数年の熟成を重ねたその身体は、まだ若さが残っていたあの頃とは
また違った味わいになっているのだろう。
「んふ……キミ、勃ちはじめてるよぉ。私とのえっち思い出しちゃったのかなぁ?」
ずい、と迫られ顔と顔の距離が近づく。
潤んだ瞳は男を誘い、軽くアルコール臭の混じった吐息が鼻腔を犯す。
そう言えば私はさっきからクチ一つきけてない。まるでヘビににらまれたカエルだ。
「それに坊やにはちゃぁんと教えたよね。女にあんまり恥かかすなって」
何も抵抗できないまま、つう、と伸びた姐さんの手が私のおとがいをねちっこく捉えて固定し、
「……ここで逃げないって事は肯定とみなすよ?」
濡れた紅い唇がゆっくりと近づいてきて――
「店ン中でサカるな、ガキども!!」
ごごごっすん。「ふぎゃっ!?」
ごごごっすん。「げふあっ!?」
上空から飛来した二枚のお盆が、私と姐さんにそれぞれ強烈な一撃を加えたのであった。
「いててててて」
「あたたたたた」
頭を押さえつつ上体を起こせば、そこにはお盆を構えたマスターが。
どうやらカリユのお盆チョップはマスター直伝らしい。
「助かった……」
私はといえば、空気クラッシュしてくれたマスターにただただ感謝するばかりである。
「お前らもうちょっと場所考えろ」
「ひっどぉぉい、マスター。あとちょっとでこの子落とせたのにぃ」
流石は姐さん。この状態のマスターに口答えするとか度胸がありすぎる。
「あのな、嬢ちゃん。まわり見てみろよ。お前ら二人が面白すぎるから、
客どもが見入っちまって、酒は飲まねぇ、つまみは食わねぇ、こっちはさっきから商売上がったりだ」
マスターに言われて気付けば、四方八方の周囲の席から視線がぐさぐさ突き刺さっていた。
「あ、見物料をもらったほうがよかったかな?」
しかしその視線をものともせず、姐さんはマイペースに言葉をつむぐ。
「バカ言え。こっちがカネもらいたいぐらいだ――だいたい、そういうことは上でやれ上で」
しかしマスターは上層(つまり宿屋・六剣亭だ)を指差して……
「おい、ルシェの若造。お前上に部屋とってただろ。嬢ちゃん連れてってやんな」
「と、止めてくれないんですかっ?!」
ダメだ。私の味方が誰もいない。
「止めるかよ。何で俺がそんな野暮をしなきゃならん。だいたい嬢ちゃんも言ってたが女に恥をかかすな」
そこからの姐さんの行動は迅速だった。
「んじゃっ、コレ、おもちかえりさせてもらっちゃいまーす♪」
姐さんはがっしり私の腕をホールドして立ち上がる。
「ロ、ロザ姐さんっ?!」
振りほどけない。腕の力が強すぎる。
いつぞやのナムナの一件以来、少々トレーニングしてはいるのだが、
同じヒーラーとは言え鉱山で鍛えたロザ姐さんと、元々がもやしっ子の私では地力の違いがありすぎる。
「マスター、コレお会計ねっ、足りる?」
「ふん。足りるというか……余るな」
言って姐さんが取り出したのは、金のインゴットだった。こんなん持ってるならそっから借金返せよ。
「じゃ、余った分は今日の迷惑代ってことで、周りの皆におごらせてちょうだい」
姐さんはこーゆーところがホンっと男前なんだよなぁ……。
「毎度あり――おう、客ども! 嬢ちゃんのおごりだ、飲んで、食え!!」
周囲の席から歓声が湧き起こる。たちまちのうちに宴会が始まった。
酒場から宿の方へずりずり引っ張られながら、私は一つため息をついた。
「どうした若人! こーんなきれいかわいい女の子とえっちできるってのにテンション低いぞー!」
貴女はテンション高すぎだ。
『きれいかわいい』に関しては異論はないが、『女の子』と言うには賞味期限をすぎてるんじゃないかと思うが、それを口にしない程度の分別は私にだってある。だいたい言ったら頭蓋骨ヘコまされるぐらいの目にはあう。
「……自分の無力を噛み締めてたんですよ」
「まーまーまーまー、元気だしなよっ。あっちのほうが元気になってくれないと私もちょっち困るしっ!
――ま、どんな状態からでも勃たせる自信があるけどね。例え死体からでも」
怖いんだかいやらしいんだかカッコいいんだか。
「よーし、おねーさん、ジェリ坊が元気出るように、ツンデレサービスしちゃうぞぉ」
「……もう勝手にしてください」
「べっ、別にアンタの気持ちなんてどうでもいいんだからねっ、アンタの身体だけが目的なんだからねっ!!」
「それは100パーセント本音ですよねっ?!!」
「あはははははは」
まったくなんて人だ。
どうやらもうどうしようもないらしい、私も腹をくくる必要があるようだ。
「あのー、姐さん、一つだけお願いが……」
「んん、なぁに?」
「今日はこれからパイズリとか頼んじゃってもよろしいんでしょうか」
「おっけーおっけー、おねーさん頑張ってはさんじゃうぞっ♪」
ああ、ナムナ。どうか無力な私を許して欲しい。
どうしようもないから。本心じゃないんだ。本心じゃないんだけど、
これから他の女性と関係を持ってしまう私を許して欲しい。
――だけど、どうせだから。ついでだから。
たまにはナムナの身体では試せないプレイを試みたいと考えるのも別に間違ってはいないよね?
♂♀
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最終更新:2013年05月04日 23:44