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六花亭に衝撃走る――
というほどでもないが、また寝てる間にエビフライを食われた常連客が突っ伏してわんわん泣いている。
いい歳した大の大人がわんわん泣いている。
キザなマスターがカキフライをサービスしてやりながら聞くことにはこうだ。
「ルシェだ。ルシェ耳が見えたと思ったら気が遠くなって、目を覚ましたらもぬけの皿だった」
わんわん。
しかし困ったことにこの六花亭、ルシェの容疑者には事欠かない。
マスターと客達の視線が、床に空いた穴にはまってジタバタしているイクラクンに向く。
「ふかふか。ボク、わるいイクラクンじゃないよ!」
諸手を上げて威嚇し、無罪を主張する。
まぁ、開店前からずっとはまっている彼女にはちょっと無理だろう。
続いて黒侍子からローストチキンを奪って勝ち名乗りを揚げているハルカラにゃん。
「ニク……」
これも違う。ハルカラにゃんは抵抗する相手からありったけの食料をもぎ取ることを至上とする肉食獣系女子だ。
たかがエビフライ一本、しかも眠る相手から奪うとは考えにくい。
カウンターでお冷やに醤油やラー油を混ぜてオリジナルカクテルを作っているナムナを見る者はいなかった。
ならば鬱姫。
鬱姫は額を打ち付けてピアノを演奏している。
そのアグレッシブなメロディに聴く者皆が涙している。
幸い、赤平さんが負傷する傍から完治させているので流血沙汰にはなっていないが。
演奏は連続3時間目に突入しており、鬱姫の躁っぷりも最高潮だ。
彼女も無理。となれば。
店内の視線が一点に集まる。
「えっ? わ、私?」
かりゆぅだ。
というか最初から皆この娘しか疑っていない。
カリユはお盆をぶんぶん振り回して否定する。
「違いますよぅ! 私今日はまだ黒侍子さんの豚角煮しか貰ってませんもん!」
「じゃあその唇の食べかすは?」
カリユは慌てて唇を擦る。
「こ、これは多分ついさっき黒侍子さんから貰った唐揚げの衣で……」
「どう思う?」
マスターがお得意様ギルドに尋ねると、システムがすかさず応じた。
「なんということだろう、犯人はまたもや可愛らしいウェイトレスだったのだ!」
「また!? またって何ですか!?」
ふかーっと耳を立てて怒るカリユだが、彼女に有利な証拠や証言は出てこなかった。

「うっうっ、酷い鬱……」
無実の罪を被ったかりゆは、ルシェ耳を垂らして鬱姫さながらの鬱オーラを店の隅で放っている。
壁に貼られた「ウェイトレスに料理を与えないこと」という貼り紙を見てポロリと涙を流す。
その周りには力尽きた鬱姫が倒れ、腹をさするハルカラにゃんが座り、イクラクンがジタバタしている。
ルシェ耳勢揃いである。
イクラクンはぽよんと穴から這い出ると、カリユの膝をなでなでして慰めた。
かりゆは撫で返して感謝の意を表すと、悲しみを怒りに変換した。
「……酷い! 酷すぎるよあの禿げ頭!」
かりゆの可愛い罵詈雑言に耳をぴこーんとさせて驚いたイクラクンは、
なだめるべくカリユの首にもふーっと抱きついた。
「こしょばいこしょばい」
ふゃはははと奇妙な笑い声でくすぐったがるカリユ可愛い。
引き剥がして「めっ」と叱ると、イクラクンは素知らぬ顔で耳を畳んだ。
そんなイクラクンをもっふり頭に乗せてかりゆはむむむと考える。
この冤罪をなんとかして晴らす必要がある。
そのためにはエビフライがどこに消えたか真実を突き止めねばならない。
しかし犯行は大胆にして狡猾。
満員の酒場で被害者にしか見られることなく、しかもその被害者もたちまち昏倒させた手練れだ。
カリユの脳内に悪夢のような光景が浮かぶ。
お客様のエビフライを50人分寄付してもらったカリユが、嬉しそうにエビフライを食べようとするたびに
謎の犯人に50回気絶させられ、1回ごとにエビフライが消えていく光景が。
「いや、まず前提の時点でマスターに叩き出されると思うよ?」
「人の夢想に侵入するのはやめようねイクラクン」
かりゆが頭の中で夢イクラクンをぺいっと外に投げ捨てると、頭上で寝ていた実イクラクンがハッと起きた。
「でも実際、どうやって犯人を見つければいいんだろ…」
肝心のハントマンは2秒でかりゆを犯人認定する有り様だ。あてにはできない。
「過去を覗いて犯行の瞬間を目撃できればなー」
「ではそうするです」
カリユの剥き出しの腹に抱き着く不届きな幼女あり。
名をファロファロちゃんという。お久しぶり。
「ファロファロちゃん、でもどうやって?」
カリユがふにっと尋ねると、ファロファロちゃんはふふんと得意気に言った。
「ルシェ耳をぴこぴこするです!」
ついに狂ったか。

ファロファロちゃんの説明によるとこうだ。
秒間数億とも言える振動で大陸間通話をも可能とするルシェ娘の特権、耳ぴこぴこ。
これによって生じる怪光線は時に時空間すら超越するという。
「マジなの?」
「夏休みの自由研究で学会にマジで認められたです」
このぴこぴこの超常的特性に友情パワーとファロ様理論を加味すれば、任意の時間に跳躍する時空の穴が開くという。
「ファロ様理論?」
「先の学会で提唱した新理論なのです。実は命名者は私ですですよ」
「だろうねぇ」
幸いにして、この場には一線級のルシェ耳ぴこぴこ使いが4人も集まっている。
4人のぴこぴこを結集すれば或いは――とのことだ。
「私とイクラクンとハルカラにゃんと鬱姫ちゃんだね」
「ござる」
「ですですよ。鬱姫さんやれるです?」
「躁!」
力尽きてもライブの熱気冷めやらぬ鬱姫は、床に顔面をめり込ませたまま垂れ耳をビビビと振動させた。
「ハルカラにゃんは?」
「ニク!」
過去の肉が食えると乗り気の様子。
「イクラちゃん!」
「ボ(略)っ!」
ふかーっと怒るイクラクンの耳の動きは速すぎて視認すらできない。
士気の高さは申し分なかった。
イクラクンを頭から落とし、犯行現場の席を4人で囲む。
カリユは厨房側だ。
空になった皿は証拠品として残してある。
被害者は床の穴にはまってジタバタしている。
「ではエビフライが消えた時間を想いながらお皿に向かって全力でピコピコするです!」
「うん!」「鬱…」「ニク!」「ふかー!」
あ、鬱姫のテンション下がった。
四者四様のとてもやわらかいルシェ耳を一斉にピコピコビビビと振動させる。
皿は振動波でたちまち微塵に砕け、破片が一点へ収束していく。
時空の穴の誕生だ。
「その調子です! もっと速く! もっと強く! もっとファロく!」
ファロファロちゃんがかりゆのお腹にぶら下がったままキリッと指示する。
だが四人は既に最大の力でピコピコしている。
過去を覗くには振動数が少し足りない。
「せめてあと一人ルシェがいれば…」
ファロファロちゃんが悔しそうに呟く。
そこに颯爽と現れるナムナ!
「ないものねだりしても仕方ないよ。私達で何とかしないと」
「左様で鬱」
「ニクニク」
「ふっかり」
「エビフライが食べれるかれないかなんだ、やってみる価値はありますぜ!」
コーンコーン。

とはいえ、どう頑張ってもこれ以上のピコピコは望めない。
ここまでか。
そう思ったとき、天井からカリユに怪光線が飛んできた!
『拝啓お姉ちゃん。こないだうちで食い散らかしたエビフライ代そろそろ払って リーコ』
という文面だ。
悪寒はピコ耳通信以上の速度でかりゆの神経を走り、筋肉を駆動させ、背後からの怪光線をひょいと避けさせる。
リーコの催促通信が、時空の穴にぶつかった。
カリユの妹のルシェ耳ピコピコ。これが弱かろうはずもない。
「ファロちゃんホール、開きますです!」
時空の穴がもにっと開き、その向こうにエビフライが一尾乗った皿が見えた。
犯行の直前だ!
皆の視線に頷き返し、カリユはその穴に頭を突っ込んだ!
勢いよく突っ込んだ頭は過去のその場所に座っていた客の頭をガツンと打ち据え、かりゆの目にも星を飛ばす。
「いたぃ」
ふにゅっと涙ぐんだカリユは、この悲しみを癒すために本能的にエビフライを発見。
さくっと捕食した。
「おいひー」
にこーっと笑顔になったカリユは、上機嫌で穴から首を抜いた。
時空の穴が閉じる。
皆がカリユの口元をじーっと見ている。
可愛く首を傾げる可愛いかりゆ可愛い。
やがて自分のやったことに気づきそのままの姿勢でだらだらと冷や汗を垂らすかりゆ可愛い。
一部始終を見ていたマスターと客も生暖かい目でカリユを眺めている。
ナムナは新作カクテルに塩を入れたのは失敗だと思った。
「……うん」
カリユはすっと目を閉じ、両手を胸の前で組み、歌うように言った。
「まさか犯人が未来からの使者だなんて思わなかったです。でも過去の私に罪はないからお仕置きは撤回ですよね?」
「なわけあるか」
「あり得ない鬱」
「サカナ」
「そうはイクラクン」
『お姉ちゃん、お金早く リーコ』
「あぅぅ」
一斉にダメ出しを食らってはさすがの打たれ強いカリユもしょんぼりせざるを得なかった。
(ところで、一連の流れの裏で自慰に耽っていた赤平さんがついに絶頂を迎えた)
皆にうっかりゆ呼ばわりされて涙ぐむカリユ可愛いよカリユ。
かりゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅ

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最終更新:2013年04月12日 20:32