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登場人物
ソウマ 若サムライ。主人公。一応貴族。もういっぱいいっぱい。
エリス ルシェメイジ。ソウマに恩を感じている。過去に辛い経験有り。
ソウマ父 まさかの復活。ただ本性剥き出しで危険極まりない。

「やっと着いたな!」
「はい、父上!」
私の名前はソウマ。
アイゼン皇国出身の新人ハントマンだ。
父と共に、このハントマンの聖地、カザンにやって来た。目的は勿論、
「さぁ、早速ドラゴン共を一匹残らず狩り尽くすのだ!」
「はい、父上!」
ハントマンの存在意義とも言える、ドラゴンの殲滅だ。
ただ厳密に言うと、私と父はハントマンになった目的が微妙に異なる。
父は『帝竜』なる上位のドラゴンを打ち倒し、名声を得るために。
そして私は、世界の平和のために。……偽善者と呼ばれても構わない。
我が祖国の王、他の貴族達は言う。『ドラゴン程度で慌てるな。我が国は安全だ』と。
確かにアイゼンの騎士団は強いし、現に何度か防衛に成功している。しかし、他国はどうか?
ここに来るまでに、一面にフロワロが咲き乱れ、滅びた村や町を何度も目にした。
(今でこそ人が賑わうこのカザンの町でさえも、3年前に一度滅びている)
滅びた村や町。死んで逝く沢山の人々。残された者の悲しみ、絶望……
それを黙って見ていることなど出来る筈がない。
この世界で、私は無力でちっぽけな存在だ。
それこそ、今この瞬間竜が飛来してきたら、為す術なく食われてしまうかもしれない。
しかし、それでも、何もせずにただ世界の崩壊を眺めるよりは数段有意義だ。
貴族の生活…惰性の安息よりも、私は勇ましい死を選ぼう。
それがサムライの生き様だ。


「おい、聞いておるのか?。早く建物に入るぞ」
「は…はい、父上!」
考え事をしていてつい父の話を聞きそびれてしまった。
しかし、おそらくこの正面の建物がギルド登録を行う場所なのだろう。
しかし…ギルドか…
私の職業はサムライ。父の職業もサムライだ。残りのメンバー枠は二つである。
実に情けない話だが、我々サムライは…その…なんだ…紙装甲だ。だって上半身裸だもの。
別に露出狂ではない。サムライの武器、刀を扱うために素早い動きが要されるためだ。
とにかく、油断すれば私達は一撃昇天しかねない。残りのメンバーはやはり援護型が望ましい。
ナイトがガード、そして私がアタック…傷を負った場合の回復…ヒーラーも必須だな…
侍侍騎癒…なかなかお目にかかれないギルドになりそうだな…
「うむ。これからよろしく頼むぞ」
「きへへ…早く竜を斬り刻みてぇ…」
「ふしゅー…ふしゅー…ふごぁあ…」
「ちょっと待ったぁー!!!」
室内に私の絶叫が響きわたる。…失礼、他のハントマンの方々。
しかしこれが叫ばずにいられるだろうか?
私が熟孝している間に、父があっさりメンバーを決めてしまったのだ!しかも…
「父上!なんで残りの二人もサムライなんですか!」
そう、メンバーが侍侍侍侍になってしまったのだ!しかも二人とも父そっくりの顔である!
「何か問題あるか?」
大ありですよ。こんな脳味噌筋肉なメンバーはあり得ませんって。
しかも片方は「斬らせろ~」とか呟いているし、もう一方も鼻息が異常に荒い。
どう考えても危険だ!絶対に犯罪者のたぐいである。
「父上…流石にこのメンバーでは…回復魔法を
「回復ぅ?魔法ぅ?そんなものは軟弱者が使うものだ!
いいかっ!我々サムライの説明文をよくみろ!我々は最高の攻撃力を持っているのだぞっ!
一撃で敵を両断すれば回復の必要も無し!敵が少々固かろうが、圧倒的攻撃力の前では無意味!
我々サムライは最も優れた種、最強の職業!それが四人!これぞ至高にして究極のギルド!
我がギルドの前では全てが塵芥も同然!つまり…
(省略されました。続きを読むには侍侍侍侍で冒険してください)





とまぁ、これが僅か5時間前の出来事である。
結局私は、父に押しきられて侍侍侍侍の珍妙なメンバーで森の竜退治をする羽目になった。
そして現在、私は……
最期の時を迎えようとしていた。
何故私達じゃないのかって?
父も、あの危険なサムライ二人も、もう既にこの世にいないからだ……
三人が死に至った理由を話そう。
まず共通理由。カザンに刀が売られていなかったこと。これが致命傷だった。
我々サムライの最高の攻撃力、それは刀に大きく依存している。
はっきり言うと、サムライは刀がないと、真価を発揮できないのだ。
刀マスタリーにSP全振りした父は、その恩恵を受けることなく、食われた……
次に、やたら斬りたがっていたサムライだが、彼は居合の構えをとった直後、食われた……
(我々は基本構えなければ技が使えない。その時点で敵の先制を許す事になった)
そして、やたら鼻息の荒かったサムライは、マナ水とナマ水を間違えて、即死した……
今は亡き父上、死者をけなすのはサムライの美徳に反するが、一言言わせてください。
「あなたが死んだのは自業自得だ!」
幸いにも私は無手の心得があり、こうしてなんとか生き延びたが……
最早体力精神力共に残り僅か。回復アイテムも脱出アイテムもない。
(アイテムなぞつかってんじゃねぇ!と父に全て踏み砕かれた)
血を流し過ぎたのか、目が霞む。サムライ道とは、死ぬことと
くきゅ~……きゅぎゅる~……
……なんとも情けない。今わの際に腹を鳴らすとは。だが実際空腹だから仕方がない……
せめて死ぬ前に……おにぎりが食べたかった。そう、真っ白で、ちょうどあんな三角形の……
……おにぎり?
幻覚か?私の前方に、真っ白で、三角形のおにぎりがあった。しかも二つ。
あぁ!だがしかし!もう幻覚でも構わぬ!あのおにぎりを食べてから!死ぬ!
いただきます!
「……ん」
なんだか変わったおにぎりだな。ふかふかしていてとても心地好い……
「ふ……ぁ…ぅ…」
妙だな?おにぎりから声が聞こえた。カザン周辺のおにぎりは喋るのだろうか?
……
…………
………………
「うおわああああああああ!!?」


森に本日二度目となる絶叫が響きわたる。
だがこれが叫ばずにいられようか?
私がおにぎりだと思って頬張ったモノ……それは
白くて、三角形で、ふわふわな、


耳!


そう、耳!その正体は倒れていたルシェの少女の耳だった!私は馬鹿か!?
いや、今はそれは置いておこう……
見たところ、このルシェの少女は足に怪我を負っている。
こんな所に放置なぞしたら、即、ドラゴンや魔物の餌食だ。
私一人ならばこの場で死を選んだものを…!こんな少女がいるとなると話が変わってくる。
どうしたものか……


A なんとか森を脱出し、このルシェの少女を近隣の町に送る。
B もう脱出無理。せめて死ぬ前に気持いいことしたい。
C とりあえずルシェの少女の怪我の応急処置をする。
D まだ幻覚が見えているフリをして、耳の感触を楽しむ。
E サムライらしく、死ぬと決めたからにはこの場で死ぬ。


→A なんとか森を脱出し、このルシェの少女を近隣の町に送る。

やはり少女一人をこんな所に置いていくわけにはいかない。
しかし脱出するにしても、まずはこの子の足の応急処置が先だろう。
しかしどうしたものか……パロの実すら持っていないぞ……

【ガサガサッ】

っ!ドラゴンか!?

「やぁ!オイラマスクナッツのナッくん!愚かな人間よ!我が血肉となれぃ!」



「うむ。これでよし」
回復量が少ない木の実も、3つ使えばパロの実と同じ効果が得られる。
木の実を刷り潰したものを患部に塗り、着物の切端を包帯代わりにして応急処置をする。
さて……応急処置はこれでいいとして、どうやってこの森を脱け出そうか……
地図も父に破かれている。現在位置も、出口もわからない。持ち物は
ナマ水半分に、スライムゼリー×2、それからボタンミート×1に、海竜の尾ひれ×3……
困った。絶望的である。とても少女を背負った状態で脱出できる気がしない。
先程のマスクナッツはともかく、ここには基本的にそれ以上の強さを誇る魔物が沢山いる。
蜂やキノコの毒にやられたらじわじわ衰弱死確定。
猪の突撃をくらったらもう歩けまい。
火の玉の炎を受ければ、ミディアムレアで食われる。
そして、あと何体いるかもわからないドラゴン……
まともに戦って生き延びるのはほぼ不可能だ。ひたすら逃げるしかない。
しかし、EX逃走も3回しか使用できないこの状況、逃げ切れるのか?


いや、逃げ切るのだ。敵に背を向けるな!と父の教えにあったが、人命がかかっている。
サムライの誇りは確かに大切だが、その誇りに巻き込んで他人を死なせてしまうことは、
絶対に間違っている。私は私が正しいと思った道を行く!
すみませぬ、今は亡き、微妙に憎き父上。これより私は……


「無様に敵に背を向けてでも!ひたすら逃げます!」



走る走る逃げる逃げるっ!!
スライムを殴り飛ばし、キノコを蹴り飛ばし、フロワロの中にいた小さい竜も踏みつけて、
後ろから追いかけてくる猪や竜から必死で逃げる!
エグゾーストゲージも残り0!それでも逃げる!
よしっ出口だ!逃げ切れ

【来た!ドラゴンだ!】

【サーペンタスがあらわれた!】
くっ…あとたった数歩だというのに!
この細い道では、一旦逃げて横をすり抜けることは不可能、そして後ろは多数の竜と魔物!
脱出するには、こいつを倒すしかない……!
即座に背負っていたルシェの少女を左腕で抱きかかえ、残る右腕で無手の構えをとる。

―――――グオオオオォォォ!!

竜が咆哮をあげ、飛び掛ってくる。

だがこの竜とは既に何度かこの森で交戦した。

故に相手の攻撃の『クセ』もわかる。

この竜の『クセ』、攻撃属性!それは『壊』属性!
竜よ、サムライは刀が無ければ何も出来ないと思うな!

「見切った!壊撃雲身っ!」


ゴシャリ……と鈍い音がなる。と、同時に眼前の竜が崩れ落ちた。
どうやらうまい具合に心臓を潰すことが出来たようだ。
……格好つけたことを言ったが、もしこの一撃で仕留められなかったら、
死んでいたのは私の方だ。我ながらなんて運まかせな戦いだろうか……
いや、倒せたから良しだ。今はするべきことが残っている。
事切れた竜を踏み渡り、出口に急ぐ。




「~っ!」
あぁ、太陽のなんと眩しいことか!
たった数時間しか経っていないのに、もう何年も見ていない気がする。外に出られたのだ……!
う~む……人間死ぬ気になれば意外となんとかなるものだな……
しかしまだ終わりではない。
家に帰るまでが遠足の法則と同じだ。町に辿り着くまでが戦いなのだ。
この森から近いのは……ミロスかカザンだな。
しかし、先程無理な体勢でカウンターをした影響か、右腕が何故か動かない。
これでは構えることも厳しい。今度こそ逃げる事しか出来ない。
となると、いざ戦いになった時、逃げやすいカザンの方が安全だな。
もう一息だ。全力で走ろう。




「ようこそ!ここは……大丈夫かいあんた?それに背中にしょってる子も……」
「大丈夫に見えるか?そんな質問をする暇があったら、頭のラビを取ってくれぬか……」
全力疾走して、なんとかカザンの町に辿り着くことが出来た。
しかし町に着く寸前、ラビ達の奇襲を受け、体力は風前の灯だ。
しかも、一匹が私の頭にかじりついて離れない。現在、状態異常『出血』真っ最中である。
【ドブシャッ】
あ、やばい。
今ターンが進んだのか、出血の追加ダメージを喰らった。
いかん……今のでLIFEが0になったかもしれん……
ああ……何だか……意識が遠のいて……
…………
………
……




「う……」
「よかった……気が付きましたか?」
はて……気が付いた?私はまだ生きているのか?
ああ、そうだ、確かルシェの少女を町に送ろうとしてカザンに辿り着いたはいいが、
出血で体力が底をついて、そのまま倒れたんだった。
とりあえず、まずは状況確認だ。とにかく目を開けよう。
「ん……ん?」
だんだん周りの様子がわかってきた。どうやらここは何処かの病室らしい。
そして視界の右側に映るのが……
「……おにぎり?」
しかも二つ。真っ白で三角形の。……あれ?前もこんなことを言った気がする。
いや違う!今度こそ間違えない!これはおにぎりではなく
「お、おにぎりですね?すぐに持ってきます!」
「ま、待ってくれ!今のは寝惚けただけだから大丈夫だ!」
慌ててどこかにおにぎりを探しに行く少女を、同じく慌てて引きとめる。
私がおにぎりだと幻視したものは少女の耳で。
そしてその少女こそ、私が森で救助したルシェの少女で。
どうやら無事に町まで送ることに成功したらしい。
それを思うと、自然に安堵の溜め息がでた。



こんな私でも、人を一人救うことができたのだな……

「ふぅ、君が無事でよかった。足の怪我は大丈夫か?」
「私は大丈夫です。あなたこそ大丈夫ですか……?」
「大丈夫とは?」
「全身打撲、切傷、火傷、右腕骨折に出血多量…すごい大怪我だったんですよ…?」
なんとまぁ…我ながらよく生きて町につけたものだ。まさに奇跡である。
「3日間も目を覚まさなくて…私、不安で不安で……」
……実感がわかないが、どうやら私は相当危険な状態で、
しかもこの少女は、そんな私を気遣ってくれていたらしい。感謝感激である。
「町の人から聞きました…ボロボロのあなたが、私を背負って町まで駆け込んできたって……」
「あぁ、森で倒れているのを見付けてね。ほうって置けなかったんだ」
「ごめんなさい……私なんか助けたせいで……そんな大怪我を……」
少女が涙ながらに謝ってくる。
だが実のところ、怪我の八割は救助前に既に出来ていた。決してこの子のせいではない。
「いや、私は元々死ぬつもりだった。むしろ君が倒れていたからこそ、私も生きているのだ。
それに3日間も付き添ってもらったようで…礼を言うよ。ありがとう…え~っと……」
ここまで言って私はあることに気が付く。
まだこの少女の名前を聞いていなかった。
少女もそれに気付いた様子で、慌てて自己紹介をする。
「あっ…ごめんなさい。私、エリスって言います。耳でわかるかもしれませんが、ルシェです」
少女――エリスは耳をパタパタと動かして一礼をした。むぅ……かわいい。
「エリスか…いい名だな。私はソウマ。アイゼン皇国貴ぞ…」
言い終わる前に、視界からエリスの姿が、
消えた。




何処へ?……いた!
彼女は立っていた位置から真後ろの空中にいた。そして……
「申し訳ございませんっ!!」
着地の瞬間に土下座の姿勢をとった。
【バック宙土下座】……
この世に数ある土下座の中でも、最高位、最高難易度の土下座だ。
後ろに跳ぶことで相手との距離をとり瞬時に自分が格下であると示し、
その瞬間に土下座をする電光石火、幻の謝罪技。まさかこの目で見ることができようとは……
いや感心している場合ではない。何故私がそのような大技を使われたのだろうか?
「い、いきなりどうした……?」
「申し訳ございません!貴族の方に無礼の数々を……!」
ああ、なるほど。そういうことか。
しかし私は貴族と言っても、別段凄い金や権力があるわけでもない。所詮下級貴族だ。
それに貴族だからと妙な優遇をされるほうが嫌いである。その事を伝えねば。
「そのことなら気にしなくて
「それどころか私はまだ受けた大恩のお礼もしていませんでした!」
「いやだから
「何も出来ない駄目な使用人で申し訳ございません!」
「ちょ
「どうか捨てないでください!精一杯ご奉仕しますから!」
話が通じない……というよりも、今の彼女は一種の錯乱状態だ。
そしてそれは……アイゼンの貴族に植え付けられた『恐怖』が原因だろう。
アイゼンの悪しき風習に、ルシェの差別があった。いや、極一部を除けばいまだにある。
さらには、表向きは法律で禁じられているが、その法の目を掻い潜り、
ルシェを奴隷(名目は使用人)として扱う貴族も少なくない。
この怯え方、おそらくこの少女、エリスも、相当酷い扱いを受けてきたのだろう………
まったく……同じアイゼンの人間として信じられないものだ……




とにかく、エリスを落ち着かせ……
ん?なんだろうか……妙に股間が……ま……まさか……!
「ん……ふぅ…あむ……」
「――――――っ!!?」ああやっぱりか!
いつの間にやら、エリスは私の着物を脱がせ、我が愚息に舌を這わせていた。
これもおそらく、彼女の主人である貴族に無理矢理仕込まされたのだろう。
ああなんということを!許さんぞ主人よ!見つけ次第、即斬刑だ!
そして少しは自重しろ我が愚息!斬馬の構えをとるなぁ!
い…いかん!このままでは…!この場合するべきことは……


A 気持ちいいので、このまま流れに任せる。
B なんとか引き剥がして、落ち着かせる。
C 攻められるより攻めるために、押し倒す。
D ナースコールと思われるボタンを、押してみる。
E 目の前の耳を、掴んでみる。
F 突如食われた筈の父上が乱入。




→B? なんとか引き剥がして、落ち着かせる。



いかんいかん!このまま流されてはまずい!
とにかく、引き剥がさなくては!
「こ…こら……やめなさい!」
「んぅ……ん……」
しかしなかなか離れない。
女性相手では思うように押せないし、いかんせん下半身からの刺激で力も入らない……
エリスも錯乱しているが故にこの様な事をしている。
落ち着けば自ら離れてくれるかもしれないが、どうやって落ち着かせる?
……
………
こういう時に限って天の声が聞こえない。自力でどうにかしろと申すか?
どうしたらいい?どうすれば落ち着く?ルシェの女性はどうやったら落ち着く!?

いや、落ち着け私。ルシェでも女性でも、基本は『人間』に変わりない。
つまり、昔私がよく母上にしてもらった『なでなで』も通用するのではないか?
あれは大人だろうが子供だろうが、老若男女問わず心が落ち着くと聞いたことがある。
よし、早速実行だ。
「く……ほら、落ち着きなさい。私はなにもしないから……落ち着いて」
「ん………ぅ?」
押して駄目なら引くしかない。
エリスの細い体を抱き寄せ、左手で頭を撫で、右手で背中を撫でると、
少し驚いた表情をしたものの、目を細めて私の胸に頭を預けてくれた。
よし、作戦成功である。
このまま落ち着くまで、撫で続けてあげよう……





どれぐらいそうしていただろうか?
正確な時間はわからないが撫で始めてからしばらく経ったあと、エリスがゆっくりと頭をあげた。
「……落ち着けたか?」
「どうして……」
「ん?」
「どうして……優しくしてくださるのですか……?」
嗚咽を漏しながら、エリスが言葉を続ける。
「いままで生きてきて、こんな風に優しく撫でて貰ったの……初めて……です。
いままで私は……何人もの貴族の人に怒鳴られて、殴られて、お仕置きされて……
色々な『礼儀作法』を覚えさせられて…何度も…何度も何度も……………」
後半はもはや聞き取れなかったが、おおよその見当はついた。
沸き上がるのは、憎悪の感情。
誰だ、一番最初にルシェの奴隷化を認めた馬鹿者は?
誰だ、それが禁じられた後も変わらずに差別し、奴隷として扱った呆気者は?
誰だ、この子に悪逆のかぎりをつくした愚者は?
アイゼンの規律はどうした?誇りはどうした?金があれば何をしても許されるとでも?
外道共め!以前ルシェの商人がアイゼン貴族は腐っていると言っていたが、
まさにその通りである。
それなら、周りの貴族が腐りきっているのなら、たとえ私一人でも、それに抗おうではないか。
「安心しなさい……私は酷い事はしないし、君にそんな事をする輩を見つけたら、
全力で即刻排除する。約束しよう……」
「本当に……あなたみたいな貴族の人……初めてです……
……もう少しだけ……このままでいさせてください…………」
「あぁ……構わないよ」
私に出来ることは些細なことだけかもしれない。
けれど今はただ、望みどおりに撫でてあげよう。
満足するまで、いつまでも。

【キィ……】

そう思った瞬間。この部屋に来訪者が現れた。

A 医者か?……むぅ、この状況どう説明しようか……
B エリスの主人が引き取りにきたか?顔を覗かせしだい首を取ってやる。
C まさかこんなところまでドラゴンが?




扉を勢いよく開けて飛込んできたのは……


「正解はF、お前の愛するお父さんだ~!!」
「父上ー!??」
なんと、竜に食われて死んだ筈の私の父だった。しかも無駄にテンションが高いうえ、全裸だ。
「ち…父上…生きていたので「いや死んだ」
即答ですか父上……
「だがしかし!志半ばで倒れた私は死にきれず、霊となってさまよっていたのだ!」
「私を心配してく「違う」
また即答ですか父上……というより、息子の心配以上の志とはなんだろうか?
「……聞きたいか?」
「……聞きたいです」
「私はな……」
「ゴクリ……」


「死ぬ前に若い女の子と、触手プレイや(検閲)や(規制)とか(閲覧禁止)がしたかったのだ!」


拝啓、天国の母上様
私、ソウマは人間不信に陥りそうです。なんですか(検閲)って……
「とりあえずお前の気配を追跡して来てみたら……なんだその銀髪美少女はっ!」
嫌な予感がする……
「ハァハァ……なかなかの逸材じゃないか……おじさんがいいことをしてあげようね……」
うん。
とうとう私の堪忍袋が破裂した。
つまりだ。
何が言いたいかというとだな。
「父上、今すぐ無に還ってください!」
実の父に言うのもアレだが、この人の魂は残しておくと危険だ……!
「ハハハ、何を言うか。せっかく化けてまで出てきたというのに」
「この子は……エリスは心無い人間によって身心ともに深い傷を負っているんです!
その傷をえぐる様なことは言わないで頂きたい!」
「なぬっ!……ならば尚更おじさんがそれを忘れられるくらい気持よくしてあげよう……」
駄目だ、完全にターゲッティングされている。このままでは彼女の身が危険だ。
なんとかしなくては……





エリスを抱えて部屋から脱出……駄目だ入り口はひとつだけ。
窓を割って逃げる……器物損壊+治療費踏み倒し+少女誘拐……別の意味で捕まる。
こうなったら父上を抹殺して……もう死人だ。
ど……どうすれば……
「む…?ソウマ!お前も股間から刀を出しているではないか!
さては父をさしおいて、独り占めして楽しむつもりかっ!許さん!」
あぁ!更に面倒な事になってきた!
これは錯乱した彼女が取り出したもので、私の意思とは無関係だというのに!
もっとも、この超絶変態化した父にはそんな事を言っても無駄であろうが……
「色々事情があるんです!彼女も貴族の男に抱かれる事に対して、恐怖の感情を持っています!
だから父上も素直にあきらめてください!そしてできれば今すぐ成仏していただきたい!」
「私……ソウマ様だったら……構いません……むしろ…………」

え?エリス、今なんと?

「なんだとぉ!?何故私は駄目で息子はいいのだ!?
し、しかも様づけで呼ばせて……主従プレイかっ!羨ましいぞ息子よ!
しかーし!私も諦めんぞ!この銀髪美少女は滅多に見つからない逸材だ!
要するに息子の刀と技巧が気に入ったということだろう?
ならばこの『愛染最終暴走兵器』と呼ばれた私の刀と超技巧と、どちらが優れているか勝負だ!
審査員はその銀髪美少女本人!より少女を満足させた方の勝ちだ!
そして勝った方が少女を獲得!特別に先攻はお前に譲ろう。
いざ性々堂々勝負だ!」





勝手に話を進めないでください父上。その本人の意思完全無視のルールはなんですか?
それもそれとして、彼女のさっきの発言もまたややこしさに拍車をかけていると言うか、
私なら構わないというのは、つまりそういうことなわけであべべべべべ……
……落ち着け私。とにかくこのままでは『そういう事』を彼女にしなくてはならない状況で、
そんなことしたら私も腐った貴族と同類になってしまい、約束を破ることになるわけで、
「どうしたソウマよ。やらぬなら私が先攻を貰うぞ」
でも私がこのまま何も行動しなくても、代わりに父上が襲い掛るわけで、
結局八方塞がりなのか?そうなのか?
待て待て、大事な事を忘れていた。エリスがこの意味不明な試合を拒否すればいいだけだ。
「エリス、なんとか逃げるぞ。こんな試合なぞぶはぁ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
大丈夫なわけなかろう、再び状態異常『出血』を起こしたではないか。
何故マントを脱ぐ!
何故ブラウスのボタンを外す!!
何故私の理性を斬り崩しにくる!!!
何故やる気でいる!!!!!
「はははははははやく服を着直しなさい!何を考えているんだ君は!」
「あ…そうですよね……ごめんなさい……」
そうそう。一緒に早くここからの脱出方法を考えねば……
「こんな汚れきったルシェなんて、抱く気になりませんよね……」
ちっがーーーーう!!!





「そういうことではない!君は汚れてなどいない!
それよりも早くこの場から逃げないと危険だ!」
「どうやって逃げるのですか?」
「うっ……」
「確かに私も…逃げたいです。あの人今まで見てきた貴族の人の中でも、最上級に危険です…」
すまない、それが私の父上なんだ。というより、父上が最も腐った貴族だったのか……
「あっ……ごめんなさい!お父さんの事を悪く言って……」
「いや構わない。アレは父上の形をした『何か』だ。それより、逃げたいなら、
尚更逃げる案を探さなくては!」
「入り口はひとつですし、無理です……たったひとつの方法を除いて……」
「たったひとつの方法?ならそれを試せばいい!どんな方法だ?」
「……ソウマ様が私を抱いて、その圧倒的絶技でお父さんの戦意を削いで負けを認めさせ
「却下ぁ!!!」
なんでそうなる!?そもそも圧倒的絶技ってなんだ!?
「どうしてですか……?」
「私が君を抱いても、君に辛い思いをさせることに変わりないだろう!」
「あなたならいいんです……私の命を救い、初めての優しさと温もりをくれた、あなたなら……」
「し、しかしだな……」
「やっぱり……私では駄目ですか…………?」
ぐはぁっ!!
そんな某金融CMのチワワみたいな潤んだ瞳で私を見あげないでくれ……!
猛烈な罪悪感が押し寄せてくる……!
しかし抱いてしまうことにも罪悪感が……!
ああああ私は一体どうしたら!!!


A 女の子にここまで言われて、やらない方が失礼である。望み通りに優しく抱く。
B 新たなる乱入者を期待する。
C 絶対抱かない。窓を叩き割って犯罪者になってでも逃亡を試みる。
D なんとか父上の撃退方法を見付けて、撃退する。
E もういっそのこと父上と一緒に3P
F 父上はいきなり襲いかかってきた!




→C 絶対抱かない。窓を叩き割って犯罪者になってでも逃亡を試みる。



やはり私には……無理だ……!
「すまない…エリス。私には……君を抱くことはできない……」
「そう……ですか……」
エリスの耳がへにゃりと垂れてしまった。あぁ、そんな悲しそうな顔をしないでくれ……
「わかってくれ……父上はどうあっても君を襲うに決まっている!
今の私にできることは……!」
「え!?」
あの森でエリスを助け、凶悪な竜から逃げ切ったときのように。
もう一度、もう一度だけでいい。
今このとき、再びエリスを助け、極悪な目の前の魔物から逃げ切る力を……!
「エリス、しっかり捕まって!」

【ガシャーン!!】

窓を体当たりで叩き割り、外に逃げることに成功……
「ソ、ソウマ様!ここ、三階です!」
「なにぃ!?」

【ドベッチャ!!】

ふぐぉぉ……!なんて微妙な高さ!死にはしないが結構痛い……
「なんだ!?デキル医院の窓が!」
「飛び降り自殺か!?」
「女の子抱えてる!誘拐よ!誘拐よ!」
「しかも上半身裸の変態だ!」
い…いかん!このままでは父上以前にカザン治安維持部隊に確保されてしまう!
「ぐ…ぅ…逃げるぞ!」
「は、はい!」
「あ!上半身裸の変態の誘拐犯が逃げるわよ!」
「捕まえろ!」

【シュタッ!】

「こらソウマぁ!勝負から逃げるつもりかこの腰抜めがぁ!逃がさんぞぉ!その少女を渡せぃ!」

「「「もっと危ない変態だーーーー!!!!」」」


後ろから町民の絶叫がきこえる。
町民の皆さま、実に申し訳ない。しばらく父上の足止めをお願いします。
その間に私は
逃げる!





68 名前:選択の結末[3] 投稿日:2009/04/03(金) 21:00:19 ID:EVPh3FhE
「つぅ……なんとか振りきったようだな……」
「ソウマ様……傷が……」
あの後ひたすら走り続け、名も無き小洞に身を潜めることに成功した。
しかしいずれはこの場所も気付かれるだろう。このままでは……
「すまないな……私と関わったばっかりに、こんな危険な目にあわせてしまって……」
「そんな!ソウマ様が助けてくださらなかったら、私は竜のエサでした!」
「……その様づけはどうにかならないか?呼び捨てで構わぬよ」
「駄目です。恩人にそのような無礼は……!これから精一杯仕えさせていただきます!」
待て待て待て待て待て。まさかエンドレスにこのやりとりが続くのか?
私も理性を保つのに限界があるというのに……
「あ、いえ、今度はそういう意味じゃありません!
ソウマ様は……ハントマンなんですよね?世界中の竜を狩り尽すお仕事をしている……
肉体奉仕が駄目なら、そちらのお仕事を精一杯手伝わせていただきます」
待て待て待て待て待て。それも違った意味で待て。
確かに私はハントマンだが、それの手伝い!?
こんな華奢で、吹けば飛んでしまいそうな小さな体で、あの巨大な竜と!?
剣を持たせたら、その重さで腕が折れてしまうのではないかと思う程のこの細い腕で戦うと!?
そそそそんな危ないこと、させるわけにはいかない!断じて!!
「き、気持ちは嬉しいが、危険「マナバレット!!」
空気……いや、周囲のマナが圧縮される独特の響音、その直後には壁に大きな風穴が空いていた。
こ……これは……
「どうですか?」
自信満々と言わんばかりに耳をパタパタと動かしながら、エリスが微笑んだ。
それは、出会ってから初めて見た、彼女の笑顔だった。


「私、こう見えてもメイジなんです。
……もっとも、ちゃんとした魔法学校には通えなかったから、独学で習得したものですけどね」
「す…凄いな……確かに今の威力なら竜にも十分対抗できる……」
「えへへ…初めて褒められました……それに私、薬学もかじっているんです。
ですから、決してお荷物になったりしません!どうかソウマ様の旅のお手伝いを……!」
エリスはわかっていないようだが、先程のマナバレット、
その威力は私の無手時の拳2~3発に匹敵するうえ、魔法故に堅い亀にも有効だ。
…………

私 の 方 が お 荷 物 じゃ な い か !
……刀が手に入り次第、斬馬に切り替えよう……
しかしいくら高威力でも、こんな少女を危険に晒すわけにも……
「しかしだな……君もまだ若いんだ。いつ死ぬかわからない危険な旅には……」
「ソウマ様だってお若いじゃないですか!
それに私は、ソウマ様の助けになれるなら、死んでも本望です!」
エリスの蒼い瞳が私を真っ直ぐに見据える。
今言ったことは嘘偽りのない、彼女の本心、希望なのだろう。
そして、それを蔑ろにすることは、彼女への侮辱にもなる……
「……わかった。私の旅の同行を認めよう」
「本当ですか!」
「ただし!!」
「?」
「私なんかのために命を粗末にするな!君に降り懸る災厄は全て私が斬り伏せる!
だから君は決して無茶をしないで、生きることを優先すること!これが条件だ。わかったね?」
「は、はい!一生懸命頑張ります!」
旅の同行を許可されたのが余程嬉しいのか、エリスの耳がかつてない程パタパタと動く。
うむ、やはりエリスは笑っているほうが似合っている
「もしマナが切れても、前衛にでて杖で相手をボコボコにしますね!」
のはいいが、話本当に聞いていたのかな…………


「……とにかく無茶はしないでくれ。それでは、あらためて、
これからよろしく、エリス」
「こちらこそ、不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」
……妙な違和感を感じるのは何故だろう?いや、これは悪寒……?
エリスの言葉が発せられた直後……
『あの』感覚が再び私を襲う。
絶対的な力と残虐性を持つ、死の象徴の接近……!
この洞窟のフロワロは既に払われていたからもういない?
それは大きな落とし穴。そこの『主』を先に倒した場合、フロワロだけが無くなる……!
つまりまだ奴らが残っていても、なんら不思議ではないのだ……!
こんな小さな洞窟に強敵は出ない?
それは人間の希望、推論にすぎない。奴らのほんの気まぐれですぐに崩れ去る脆い理だ……!
全身から嫌な汗が出る。
今の私の体力は全快時のせいぜい半分だ。
この強大な威圧感は、以前倒した海竜の比ではない。倒せるのか……!?
「ソウマ様……?」
「エリス、気を付けろ……!」
いくらエリスの魔法が強くとも、彼女は恐らく実戦経験が無い。
そんな子に、いきなりこんな強大な敵と戦わせるわけにはいかない……
どこからくる……?
私が勝つには、一撃で雲身を決めるしかない。
どの攻撃属性?もし魔法主体だったら?その場合は通常攻撃で仕留めるしかない……!
私達に向けられている殺意と憎悪の感情がさらに色濃くなった。すぐ近くにいる……!
何処だ……!
……………しまった!!!
「まずい!エリス、後ろだ!!!」
「えっ……!?」

振り向いたエリスの体に、容赦なく太い腕が襲いかかった……


【来た!ドラゴンだ!】



「と見せかけてぇ……!」
「何!?」


【来た!父上だ!】


「とうとう見つけたぞぉ!!」
「なっ……!?父上!?」
現れたのはドラゴン……ではなく、それ以上にタチの悪い父上だった。
馬鹿な……!今のは竜が持つ威圧感のはず!
父上の怨念は強大な竜の力にさえ匹敵するというのか……!
いや、今はそんなことはどうでもいい!
「っ父上!エリスから手を離してください!」
「だが断る!こんな逸材、手放すわけがないだろう!」
そう言いながら、父上のごつごつした手がエリスの体を縦横無尽に這いずりまわった。
「やっ……ぁ!やめてくださ……」
「ハァハァ……胸はまだ発展途上か…しかしこの容姿だけで十二分におつりが
「は・な・せ・と……言っているでしょうがあっ!!!」
「ぐぼぁ!?」
考えるより先に体が動いた。だが、見るに耐えない醜悪な実の父を見たら誰でも殴るだろう?
【クリティカルヒット!父上に156のダメージ!】
……妙なナレーションが聞こえた気がするが、どうやらうまい具合に拳が入ったらしい。
鼻血を噴き出して飛んで行く父上を無視して、エリスを素早く私の後ろに避難させる。
「すまない……私の不注意で……エリス、しばらく私の後ろに隠れていてくれ」
「な…殴ったな!?実の父親を!妻にも殴られたことないのに!」
「殴られてはいないけど、代わりに夜に鞭で滅多打ちにされてましたよね!?
幼い私は、あの時の母上の凄まじい怒りが理解不能だったが、今なら理解できる!
今の手つき、一度や二度ではない!父上、一体どれ程の娘に手を出したのですか!」
「お前は今まで食った米粒の数を覚え「マナバレット!!」





え?





先程壁に風穴をあけたマナの弾丸が、今度は父上の顔面を正確に狙撃した。
【クリティカルヒット!父上に324のダメージ!】
「エ…エリス?」
「はっ!?ごごごめんなさい!怖くてつい……」
「いや、あの人には当然の報いだから構わぬが……顔を狙うとは結構大胆だな……」
合計ダメージ480は、LF増加装備で固めたレベル100のナイトでも、即死だ。
悪霊でもサムライの父上が耐えきれるダメージではない。(頭を撃たれた時点で即死確定だが)
とにかくこれで父上も成仏?した。めでたしめでたし……
「ぬぐああぁぁ!いきなり何をする!?」
なんでまだ生きている!?
「まさかいきなり人の顔を狙撃するとは……ちょっとオイタがすぎるんじゃないか嬢ちゃ「いやぁっ!マナバレット!!」

再びマナの弾丸が父上の顔面を直撃した。
う~ん……エリスって思ったよりも結構過激な一面があるなぁ……
「だから人の話を最後まで聞かんかぁ!!
そんないけない子にはお仕置きをせんとなぁ……」
そしてこの人は不死身か!
……とよくよく考えればもう死んでいるからか!
ま…まずい……!攻撃が効かないうえ、父上はやる気満々だ…!
「そこを退けソウマ!」
「誰が退くものか!1000回殴り飛ばしてでも、これ以上エリスに手出しはさせません!」
「無駄ぁ!私のLIFEは65535で固定だ!お前の拳でも、その娘の魔法でも絶対に倒せん!」
「ぐっ……!」
「さぁ…いでよ我が愛刀『大盤若』!!」
股間の刀をすでに斬馬構え状態にして、父上が吠える。
このままではエリスが……ど…どうすれば……!

A あきらめる
B ギブアップ

どっちも駄目に決まっているだろう!


その時、エリスが私の前に歩みでた。


「な、何をしている!危険だ!」
「ふふん、やはりこの『大盤若』の魅力に耐えられなかったか?」
しかし私達の言葉が聞こえているのか否か、エリスは不思議そうな表情で父上を見据えた。
「大盤若……ですか?」
「そうとも!この私の超絶テクを見せてあげよう……!」
「……」
エリス無言で父上を見据えていたかと思うと、今度は私の方を見据えた。
「エリス……?」
そして……
「ソウマ様を、『魔剣オウディル』として……」
「は?」
彼女の口から飛び出たのは理解不能な言葉だった。
続けて父上に向きなおり……
「あなたのは、ショートソード……いや………」
そこでエリスは言葉を止め、一呼吸する。そして再び一言。


「つまようじですね」


フッ…と溜め息まじりに彼女の口から飛び出た言葉は、やはり理解不能だった。
が、しかし……
その理解不能、意味不明な言葉が発せられた瞬間、
『何か』が砕け散る音を、私は確かに聞いた。







気が付くと、いつの間にか父上はいなくなっていた。

「何故父上はいなくなったのだ……?それもそうだがエリス、先程の言葉の意味はなんだ……?」
「そのままの意味ですよ?」


父上が何故か消えたあと、私達は新たなギルド作成のためにカザンに引き返した。
ところが、だ。
「いたぞ!さっきの変態だ!」
「捕まえろ」!
治療院脱出の際に顔をしっかりと覚えられたらしく、カザンで指名手配をくらっていた。
しかも、クエストではなくミッションでだ。
『謎の変態達を捕まえよ! 報酬2500G』
……結構な金額である。
とにかく、そのミッションによりカザンに近寄ることが出来ず、
仕方がなく『無名』のギルドとしてエリスと二人っきりの旅をすることになった。
ヒーラーもナイトもいないかなり危険な旅だが、エリスが何故か嬉しそうな顔をするので、
悪い気はしない。
あの時、森でエリスを助けなかったらどうなっていたのだろう?
あの時、エリスになすがままにされていたら、どうなっていたのだろう?
あの時、窓を割って脱出しなかったら、どうなっていたのだろう?
いや……今更過去を振り返っても、今は変わらないし、私はこの選択を悔いていない。
「ソウマ様?」
「ん?おぉ…すまないな。少し考え事をしていた。何かあったのか?」
「その…宿屋が混雑しているようで、一部屋しかとれなくて……」
ただ、この二人旅には大きな問題があった。
「そうか。なら私は外の木にでももたれかかって寝るとしよう」
「えぇ!?駄目ですよ!」
「ほらほらお兄さん、恋人を困らせたり風邪ひかせたら大変だろ?一緒に寝たらどうだい?」
「おおお女将!!なななな何を言っている!?」
これで何度目だろうか?このやりとりは……
どうにも私達二人は恋人同士に見えるらしく、宿側が余計なおせっかいをしてくるのだ。
しかも今回はかなりストレートだ。
「女将、さすがにそれは……」
なんとか弁明を試みるが、ここまで言ったところで、エリスが涙目になってしまう。

「そうですよね……使用人と貴族の身分「違う違う!そうではなくてだな……!」
慌ててエリスを落ち着かせるが、やはりここで宿屋の女将の容赦ない言葉がとんでくる。
「おやおや、サムライが女の子泣かせていいのかい?」
「うぐっ……わ…わかった……一緒の部屋で寝よう……」
毎度毎度その言葉で折れる私は馬鹿かもしれない。



「ちょっと待て。なんだこのベッドサイズは……!」
「なにしろ田舎の村だからねぇ。それじゃごゆっくり~」
「こ、こら女将!」
今までのどの宿屋のものより小さいベッド。
これで一緒に寝ろと!?




「ん……さすがにせまいですね……」
「…………」
夜。就寝時間。地獄の拷問。もはや喋ることも厳しい。
こんなベッドに二人も入り込んだら、その体は密着も密着、超密着状態となる。
すなわち、
エリスの髪の甘い香りも、柔らかな胸の感触も、可愛く動く耳も、全てがわかってしまう。
そんな極限状況、私の理性もガタガタである。
もういっそこのまま崩壊……
「はっ!?駄目だ駄目だ……そんなこと!エリスは……」
「ソウマ様…私なら構いません…むしろお願ケフンケフン……」
「駄目なものは駄目だ!……こういうのはもっと順序を守ってだな……」
「……順序?」
しまった………なんたる失言!
「な、なんでもない!早く寝なさい!こ、こら抱きつかない!」
「ソウマ様……大好きです!」
「~~~っ!!」
はたして私はこんな調子でどこまで自分を抑えられるのだろうか?
明日かそれとも来年か?
それは誰にも、私にもわからない。
ただひとつわかるのは、私達の竜退治の旅はまだ始まったばかりということ。
そして竜以前に己の理性と戦う必要があるということだ。
さあ、明日も早い。
今は暫し思考を止め、寝ることにしよう………



ぐっすり寝れるかどうかは怪しいが………

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最終更新:2013年05月04日 22:59