アットウィキロゴ
◇???×港町の空腹ルシェです。
◇ちょっとしたネタバレアリ(ハノイに会った方はOKです)

「また…きてください…絶対に…!」
一体何度聞いたセリフだろうか? その言葉に含まれている意味は、とうに理解はしているものの、未だに自分の幼く未熟な心は揺さぶられる。
 彼女の名前は聞いたことがない。だが、『港町の空腹ルシェ』と言えば大半の冒険者は分かるであろう。(これはおそらくではあるが語尾に『ニャ』と付ける宿屋のルシェよりも認知度は高いのではないのだろうかと思う)
 道具屋を開いている彼女は行く人来る人に懇願の眼差しを向け、少しでも情が有ろうものなら、何も買わなければ彼女の潤んだ瞳に罪悪感を覚え、ついつい、いらぬ物まで買ってしまうのだ。
‥‥誤解しないでもらいたいがこの『マナ水』は必要だから買ったのだ。決して、決してあの娘に会うために着たわけではない。
話がずれたが、そんな彼女の姿は実はワザとではないかと疑う人もいる。気持ちは分かる。私も一瞬だが疑ったがその線は薄い。いや皆無だ。
 私は『アイゼン皇国』で生まれ、貴族の跡継ぎとして育った。
 だが、金や体面に執着する父母や、飢え苦しむ貧民街の現状を知り、自分の出来ることを見つける。或いは得るために冒険者の道を選んだ。
 彼女の目はあの時、私が貧民街を初めて歩いた時に出会った子供の目と同じであった。間違いない。
 無論、実験もした。ある日、『アゴート揚げ』や『はちみつうーろん』等を買って彼女に渡し、
「先日の礼だ。あげるよ」
と言ってみた。
(嘘は言っていない。以前、どうしても『パロメディ』が欲しくて、頼んでみたら後払いで一つくれたのだ)
 すると一瞬目を丸くし、おずおずと「いいの?」と如何にも涎を垂らさんばかりの顔で俺をいや、『アゴート揚げ』を見つめながら聞いてきた。‥‥俺はアゴート揚げ以下か?
 「当然だ。いいよ」と答えると嬉しそうに食べ始める。三人分の量は瞬く間になくなり、食べ終わった彼女は心底うれしそうな笑顔でこう言った。
「ごちそうさま~えへへ」
 不覚にも齢二十余でときめいてしまった。
 それ以降、一週間に一回のペースでここに来ては、それこそ、北の『ネバンプレス帝国』に始まり、『カザン共和国』、『ミロス連邦国』、果ては『サイモン村』や我が故郷『アイゼン』の名物を彼女に持ってきてあげている。今度は南の国に行ってみようと思う。


 だが、最近困ったことがあるのだ。どうも彼女の魅力に気付いたらしい馬鹿野郎がいるのだ。確か紫がかった色の髪をしたインテリらしき冒険者だった。近々告白するらしい。
 さて、ここまで永く長い話をしたのは他でも無い。これだけ話せば俺が言いたいことが分かってくれたと思う。頼む。どうか俺に協力してくれ!

【クエスト『人の恋路を邪魔する奴は‥‥』が発生しました】

【恋する男】
「君達‥‥受けてくれるのか‥‥!
 いや、すまない。こんな変なクエストを受けてくれるとは思わなかったんでな」
「報酬の1000Gは本当だ。前払いで500G渡しても良い」

【リーダーはその提案をやんわり断った】

「何? 必要ない? そうか、そうだな。君達の噂は聞いている。東大陸の帝竜を二頭も倒したそうじゃないか。更に様々なクエストをクリアしていると聞く。信用しよう」

【依頼人は椅子から立ち上がり、出口に向かう】

「依頼内容を話すにあたっては確認事項がある。ちょっと宿屋までついてきてくれ」

◇◇◇

「彼女こそ、僕のラヴを受け取ってくれるはずだ! あの無垢なる笑顔の何て素敵なことだろうか! あぁ‥‥罪深い人だ!」

【隣の部屋から聞き耳を立てないまでもハッキリと聞こえるであろう、大声で叫んでいる男を、コッソリとドアから見ている五人】

「見えるか? あれが先日言った馬鹿野郎だ。あのままだと近い内に絶対告白するだろう。依頼はそれを阻止して欲しいんだ。
 非人道的以外なら何でも良い。とにかく、何としてもアイツを食い止めてくれ」

【依頼人はそう言うと何故か壁の方へ静かに体を向けた】

「‥‥俺にだって、本当はこんな事をしなくてもとっとと俺が告白すれば良いって事ぐらい分かっている。
 だが、俺はやっと、彼女の知人というポジションになる事が出来たんだ。それを失いたくない事は君達にも分かってくれると思う。
 だが、今度会った時、俺は告白する!
 俺も男だ。彼女の優しさにつけ込んでダラダラと先延ばしにするよりも、当たって砕かれて! サッパリとしてやる!」

【依頼人は静かにこちらへと視線を戻す】

「期間は一週間後の午前。次の土産話をするためにここに戻ってくる。それまで抑えていてくれ。頼んだぞ!
 アイゼンまで俺は一旦戻る。それまで抑えていてくれよ! では!」

◇◇◇

一日目

「さて、準備は整った! いざ、行かん! 僕のラヴを伝えるためにぃいい!」
【グィ】
「え?」
【ビターン!】
「ぐはぁ!? な、何だ? 何で僕は転んだんだ? ぐっ‥‥こんな泥だらけの格好じゃ僕のラヴの全てを伝えられないじゃないか‥‥仕方ない、今日は諦めよう‥‥だが、明日こそ必ず! 僕のラヴを! あの方にぃいい!」


二日目

「さぁ、今日こそ僕のラヴの全てを渡す! 待っててくれ‥‥僕のディスティニーぃい!」

【先回りして】

「何か‥‥買って下さい‥‥え‥‥? 私に‥‥用がある‥‥?」

【|>はい】【いいえ】

「分かりました‥‥宿屋に向かいましょう‥‥後‥‥すいませんが‥‥」

【? という様子で彼女を見る】

「食べ物を‥‥持ってませんか‥‥?」

【しばらくして‥‥】

「こんにちは。今日は貴女にお伝えしたいことがってあれ? いない‥‥どこいったんだろう‥‥はっ! さては僕のラヴをみんなの前で受けるのが恥ずかしさ故に逃げてしまったんだな! 待っててくれ! 今行くよ! 僕のディスティニーぃい!」

【この後も息のあった四人により、何とか交わし続け、時は約束の日となった】
(いやだって本当に一週間もこんな事書いてたら身が持たなうわ何する止めr)

一週間後

「ど、どうなった!?」

【ここ最近の現状を話す】

「そうか‥‥ありがとう。こんな願いを聞いてくれて‥‥俺は今から彼女に会いに行く。見たいんだったら見ても良い。君達には見る義務は無いが権利はあるからな」

【男は覚悟した顔付きになった】

「‥‥では、また会おう!」

【男はゆっくりと威厳溢れる姿で歩いていった。見ますか?】
【はい】【いいえ】

【|>はい】【いいえ】

「いらしゃいませ‥‥あ‥‥お久しぶり」
「あぁ、久しぶり‥‥元気だったか?」
 彼女――名を知らない彼にとっては彼女としか言いようがない為、彼女は『彼女』である――は、彼――くどいようだが、名を知らない彼女にとっては彼としか言いようがない為、彼は『彼』である――を見つけると、少しだけ、口元を緩ませた。
「うん‥‥それで‥‥」
「あぁ、ちゃんと持ってきたよ。今、とり出すからさ」
「‥‥うん」
 彼女は彼の言葉に少し目線を残念そうに下げる。その表情に彼は気付き、自分が何かしてしまったのだろうかと不安になった。
「どうか‥‥したか? もしかして、朝ご飯食べたばっかりだったとか?」
  その言葉に彼女は少し驚いたいや、反射して普段では絶対出さない大声を出す。
「う、ううん! あの、そうじゃなくて! あ‥‥その‥‥何でも、無い‥‥」
 そんな彼女の様子に彼は少し、苦笑いして、「‥‥そうか」と呟く。
「食べたくないなら貰ってくれるだけでも良い。コレは俺が勝手にやっていることだからな」
 彼の言葉に彼女は何か言いたそうに顔を上げたが、何も言わずにゆっくりと頷いた。
「‥‥ところで、その、最近何かあったか?」
「‥‥?」
「いや、何かいつもより元気が無いみたいだからさ」
 他の客がいたら「この子はいつも元気がないよ」と言うだろう。
 だが、長い事彼女の色々な表情を見てきた彼にとってみればいつもと違う事は大体分かるのだ。
「何も、無かったけど‥‥」
「そうか、ならいいんだ。っと、忘れてた。ほら、今日はアイゼンの『まんじゅう』というヤツだ」
「!」
 彼が取り出した『まんじゅう』という甘い匂いをした食べ物に頭上の耳をピーンと伸ばし、目はキラキラと輝き、口からは今にもよだれが垂れそうである。これで犬の尻尾が有ればちぎれんばかりに振るうだろう。
「今日はあまり、客も来ないみたいだし、後でその、一緒に‥‥食べないか?」
 恥ずかしがりながらの彼からの提案に少し意外だなと驚いたものの、すぐに彼女は首を縦に振った。
「! そ、そうか。えと、その、長旅をして直ぐに来たから汚いだろうし、体、洗ってくるよ。じゃあ、お昼にまた!」
「え? ‥‥あ、あの」
 本当は体は洗ってから来たのだが余りにものプレッシャーに彼は焦り、彼女が呼んでいるにも関わらず、凄い勢いで店を出ていった。


「‥‥えへへ」
 誰もいなくなった店で彼女は幸せそうに笑う。『まんじゅう』が美味しそうだと言うこともあるが、彼女にとってそれは二番目でしかない。
(嬉しい‥‥でも‥‥ズルいなぁ‥‥私)
【ギィ‥‥】
 そこまで考えて、店のやや古い木の扉が開く音を聞いて彼女は――こんな締まりの無い顔を誰かに見られるわけにはいかないのだ――身を引き締めた。
 そこにいた人物は冒険者にしてはやや小綺麗な姿から察するに、おそらくメイジだろう。そしてその手には可憐な花が沢山――それこそ、手に持てるかどうかというぐらいの量の花があった。
 そしてその人物は歯がキラッと光らんばかりの笑顔をした。

◇◇◇

「逃げちゃ駄目だ‥‥逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ!」
 彼はブツブツと宿屋の裏で自分自身に言い聞かせるように呟やいている。
 そんな純情な彼を四人は暖かく見守っていたのだが、そろそろ約束の昼だ。じれったくなった一人が、石ころを勢いよく彼の背中に投げつける。
「逃げちゃだっ!? ~~っ! だ、誰だ! 今、俺に向かって何かした奴は!」
 叫ぶものの当然誰も何も言わない。
「ったく‥‥ってあぁ! もう昼頃じゃないか! くそっ! こうなったら腹をくくるしか‥‥!」
 彼はようやく店へと向かった。それを追いかける四人。水をくむ女性はそれを面白そうに見ていた。

◇◇◇

 彼は店の前で立ち往生していた。その顔はさながら帝竜に初めて出会った冒険者のようだった。
(腹をくくれ! 今日こそ‥‥今日こそ告白するんだ! 彼らの協力を無駄にはしないためにも‥‥! よし、行くぞ!)「よぅ、待たせた「あぁ君のなんたる美しいことか! それこそ、他の娘に比べたら月とすっぽん! 君こそこの世で最も美しい!」
 彼は凍った。迂闊だったのだ。約束は今日の午前まで。午後にあいつが来る可能性をすっかり忘れていた。彼はそのまま何もできずにただ突っ立っていた。
「あの‥‥」
「あぁ‥‥何も言わなくても結構です! 貴女のその顔を見れば全て分かります! あぁ、貴女は罪深い人だ。そんなに私を困らせないで下さい」
 言ってることが支離滅裂だ。だが彼には何もできなかった。その男は続ける。
「きっと貴女は恥ずかしがっているのでしょう! こんな衆目の面前で恥ずかしがり屋の貴女はラヴを言うことなんて出来ない。そうでしょう!」

「‥‥私には‥‥好きな人がいるんです」
「えぇそれは――! え?」
「!?」
 男は大袈裟な身振りのまま凍り、彼は彼女の言葉に息を呑んだ。――もしかしたら、自分では?
 期待を抱きながら彼女の言葉を待った。
「それは‥‥どのようなお方で‥‥?」
「私の‥‥命の恩人です。私は‥‥私は彼以外、好きになることなど‥‥ありえません」
 いつもよりハッキリと静かに言う彼女にコレは彼女の本心だろうと確かに感じた。感じたが、同時にそれは『分かった』。知りたくなかったこと。そして可能性として考えていた事。
「彼は‥‥私が幼い頃、魔物から私を助けてくれたんです‥‥身体を張って‥‥」
 彼と彼女の出会いは一月前、この関係はただの彼の気紛れから始まった。
「私は彼こそが、私の命‥‥いえ、全てを捧げるべき存在だと、私は感じました」
 彼の記憶には幼い頃、魔物から誰かを助けてやった事など無い。つまり――
「だから‥‥貴方の好意は‥‥受けられません」
 ――彼女は自分を好きなどではない。
 彼は自分の足元が、瓦解したとハッキリと感じた。そして、理解した。彼女は自分に振り向かないと――。
「そうですか‥‥分かりました‥‥」
 ここまで言われては、熱い告白をした男も流石に引き下がった。
 そして出て行く途中、立ち尽くしていた彼にぶつかった。
「あぁ‥‥すまないね。今‥‥出ていくよ」
 それだけ言うと、男は背中からフロワロでも生えそうな様子で出ていった。
「‥‥!」
 彼女は先の言葉にやっと彼がいることに気づき慌てふためいた。
「あ‥‥あの‥‥!」
「あ‥‥あぁ、その、ゴメン。急用が入ってさ、お昼は一緒にできそうもないから‥‥ゴメン」
「! ま、待って‥‥!」
 彼は逃げ出すように店を出ていった。彼女が呼んでいたのが聞こえたが、今あの場所にはいたくない。ただそれだけが彼の頭に入っていた。

◇◇◇

「あぁ‥‥君達か」
 彼は夕暮れ時の海岸で呆けていた。
「すまないな、君達の協力を無駄にしてしまって‥‥これ、やるよ」

【『不器用な旅人のお守り』を手に入れた】

「それ、彼女が‥‥『食事のお礼です』って‥‥くれたんだ‥‥だけど‥‥もう、必要‥‥ないからさ‥‥」


 四人の誰もが、彼を元気づけようと様々な言葉で慰めたが、彼は静かに、無表情で言った。
「どっちみち‥‥俺は彼女に干渉し過ぎたんだと思う。たまに、そんな素振りが見えていたからさ‥‥あの時も‥‥いや、もう止めよう」
 彼は静かに立った。その目はフロワロで埋め尽くされた海を見ているようだったが、よく見ると、その瞳は何も移していないことに四人は気がつく。
「俺は少し、旅に出るよ‥‥砂漠にいると‥‥忘れられないから‥‥どっか‥‥山奥にでも行こうと思う‥‥クエストが完了した旨は伝えておくよ。世話になったな‥‥」
 彼は覚束ない足取りで立ち去っていった。
 途中、立ち止まり、誰に言うわけでもないのに、彼は誰かに語るように呟いた。
「そう言えば‥‥俺は彼女の名前も知らないんだったな‥‥ハハハ‥‥とんだ、妄想野郎だな。道化だよ‥‥ハハハ‥‥ハハハ、ハハ‥‥ハ‥‥」

【クエスト『人の恋路を邪魔する奴は‥‥』を完了した】

◇◇◇

 四人はやりきれない想いを胸に抱いたまま、とりあえず、足りなくなった道具を買い足すために道具屋へと向かった。
「あ‥‥! ‥‥いらっしゃいませ」
 先程の事もあり、四人は何だか目を合わせ辛くなったので早々と立ち去ろうと商品を手に取り、レジに置いた。すると。
「‥‥冒険者(ハントマン)ですよね‥‥?」
 彼女は急にそんなことを訪ねてきたと思ったら、驚く事を言ってきた。
「お願いです‥‥! どうか、私を‥‥私を貴方達のギルドに入れて下さい!」
 彼女の普段を知っている人からは考えられない迫力に四人は事情を聞くことにした。

◇◇◇

 質素ながらも一通りの家具が揃った一軒家。四人は彼女を落ち着かせた後、彼女の自宅へ送り、今に至る。
「‥‥すいません‥‥取り乱してしまって‥‥」
 彼女は頭上の耳を垂らした。一人が彼女に説明を頼んだ。もう一人は彼女の耳をにやけながら見て、隣の仲間に小突かれた。
「実は‥‥私、失恋してしまったのです」
 彼女は静かに語り出した。

◆◆◆

 私は‥‥アイゼン皇国の出身で‥‥幼い頃、ある貴族の使用人として雇われました。
 私の主人は、その、乱暴で‥‥私はストレス発散の為、様々な事をされてきて‥‥ヒドい時は寒い日に‥‥いえ、これは‥‥関係なかったですね。
 九つになった頃、私は‥‥買い物に行く途中にある貴族と、出会いました。
 彼は‥‥その時、十ぐらいだったと思います。薄汚れた私と違って‥‥凛々しく、綺麗な‥‥そう、綺麗としか私には言い表せない‥‥。
 そんな彼に私は、その‥‥あの‥‥一目惚れを‥‥した、のです‥‥。
 ‥‥身分が違うことは分かっていました。使用人と貴族何て、お伽話じゃない限り、無理だって事は‥‥。
 それでも、私は‥‥私は彼と‥‥一緒になりたかったんです。
 例え‥‥彼に妻が出来ても‥‥彼の下で働けたらどんなに幸せでしょうか‥‥。そう、夢見たこともありました。
 そんなある日、主人は‥‥野盗に襲われて‥‥亡くなりました。
 私は解雇され‥‥その、運良く、身寄りのない老夫婦の養子となり‥‥今、ここにいます。
 そして最近‥‥その貴族の方が、何故かこの近くまで来ていて‥‥しかもたまにですが、私に会いに来てくれていたのです。 それからは‥‥毎日が幸せでした。辛い日も彼がまた来てくれるなら、そう思えば、私は頑張れた‥‥。
 しかし、今日‥‥来てくれた彼に対して、私は、‥‥傷つけてしまった。
 多分‥‥もう会いに来てくれないと思います。いつもなら、私に一言、交わしてから帰りますから‥‥。
 私‥‥彼に謝らなきゃいけないんです。彼が私を嫌っていてもいい‥‥。せめて‥‥別れてしまうならせめて‥‥! 彼に‥‥謝罪と‥‥お礼の言葉を言いたいんです‥‥。
 お願いです。私を‥‥貴方達のギルドに連れていって下さい。彼は冒険者で、色々な場所を行き来すると聞いています。貴方達に付いていけば‥‥ここで待っているよりも、彼に会える可能性は高い‥‥そう考えています。
 ‥‥帝竜を倒したギルドだと、私は風の噂で聞きました。老若男女、分け隔てなく、接していて、信用あるギルドだとも‥‥貴方達がそうなんですよね‥‥?
 私には‥‥大した物なんてありません。お金も、ほんのちょっとしか‥‥。
 ですが、どうか‥‥どうか私の願いを‥‥叶えて下さい‥‥お願いです‥‥もう一度だけでもいい‥‥彼に‥‥会いたいんです‥‥! お願い‥‥!

【クエスト『貴方に会った、その日から‥‥』が発生しました】

「貴方達は‥‥」
 彼女にクエストを受理した旨を伝えると顔を綻ばせ微笑んだ。
「受けてくれたんですか‥‥? あ、ありがとうございます‥‥! では、今準備して来るので‥‥」
 四人の内の一人はふと、この店はどうするのかと彼女に尋ねる。
「それは大丈夫です‥‥義姉さんが暇そうらしいので」
 それだけ言うと、彼女は自宅へと向かっていった。

◇◇◇

「ふーん、アンタ達があの有名な? もっとこう、妖怪みたいな奴だと思っていたけど、へー。
 あ、そうだ! ねぇ帝竜ってどんなの!? やっぱり厳つくて、怖がった?
 カザンには沢山の冒険者(ハントマン)がいるって本当?
 ミロスの女王様ってどんなんだった?
 メイドって隠しジョブなの?
 あ、他にさぁ!」
 彼女の義姉はまるでリアクトが常時発動したかのように、ずっと俺のターン状態だった。
「あの‥‥義姉さん‥‥?」
「あぁ! もう急に冒険者になるなんて最初は私も吃驚したけど、事情が事情だから仕方ないとして、お姉ちゃんは可愛い妹が心配何だからね! 辛くなったら帰ってきてよ?
 あ、お土産は何でも良いわよ? あ、でもちゃんと『彼』は捕まえてくんだからね!


 後、朝ご飯はちゃんと食べんのよ? 体も洗いなさいね? 嫁入り前なんだから顔とかに傷をつけちゃ駄目なんだからね! 他に――」

◇◇◇

 それから知らない人にホイホイついてっちゃ駄目よ? きっとソイツはのんけだって食っちゃうんだから!
 耳をピクピクさせちゃ駄目よ? 男はみんな獣耳に弱いんだから!
 あ、それから「えと‥‥義姉さん?」
「え? 何?」
「冒険者の方々が‥‥」
 義姉が彼女の目線の方へと目をやると、四人は地面に絵を描いたり、しりとりをしたりしていた。
「あ、ごめんなさいね~てへ☆」
「‥‥」
 義姉は漸く話を終えて、彼女は簡単な鎧などを付けて四人に準備完了を伝える。
「じゃあ‥‥行ってきます。義姉さん」
「うん、いってらしゃい。あ、最後に一つだけ良い?」
「‥‥?」
 義姉は彼女に近づくと、しっかりと彼女を抱きしめ、彼女だけに聞こえるよう、静かに呟いた。
「気をつけてね。私はずっと‥‥待ってるから」
「‥‥うん、分かったよ‥‥お姉ちゃん」


◇◇◇

「はぁ~、あの子がまさか旅に出るなんて思いもしなかったな~」
 一人いなくなった家の中で義姉は呟いた。
「ま、恋心にはかなわないからしょうがないんだけどね」
 パリッと、煎餅を食べながら、義姉はまた呟いた。
「‥‥淋しいなぁ」
 ズズッと、煎餅を食べた後冷茶を飲み、ほぅと溜め息を吐く。
「でも、ま、可愛い妹の為だからね☆」
 ギィと木の椅子から立ち上がり、店へと向かう。
「さて、お仕事お仕事! いっちょ、一肌脱ぎますか!」

◇◇◇


「どうでした‥‥? 義姉さんは」
 四人は苦笑いしながら元気な人だと、当たり障り無い感想を述べた。
「そうですね、でも‥‥正直、義姉さんは五月蝿いと思ったでしょう」
 三人はまた苦笑いし、まぁねと一人が答えて、隣の一人がソイツの足を思い切り踏んだ。
「私も‥‥そう思います‥‥。
 私、喋るの苦手ですから‥‥いつも、義姉さんが一方的に喋るんです」
 彼女は微笑みながら語る。
「五月蝿いと思った日もありました。喧嘩した日もありました。‥‥でも」
 彼女は目線を下に向け、ゆっくりと喋る。
「私‥‥義姉さんの‥‥お姉ちゃんの‥‥『妹』、なん、です‥‥血は、繋がって、なかった、けど‥‥『妹』、なんです‥‥」
 彼女は瞳に涙を溜め、肩を震わせ、途切れ途切れ喋る。
「コレは、私のワガママです。それでも‥‥お姉ちゃんは笑って見送ってくれました。
 ‥‥私は戦う事はできません‥‥貴方達の荷物になることは分かっています。
 でも私は‥‥私はどんな事があっても、お姉ちゃんを悲しませたくないんです。
 だから‥‥もう一つ、私のワガママを聞いて下さい」
 彼女は涙を拭い、四人に向いて、頭を下げ、静かにハッキリと喋る。

「私は私のできることをします。なので‥‥私を守って下さい。私は‥‥死ねないんです。お願いします。私のワガママ‥‥聞いてくれますか?」
 四人は一瞬、それぞれ顔を見合わせ、再び彼女を見て、当然と答えた。
「‥‥ありがとう」
 彼女は柔らかに笑い、そこにいた四人共、彼が惚れた理由を何となく察した。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年04月28日 21:59