人類は敗れた。勇者たちは倒れ、戦士たちは死んだ。
アイテルは、世界の狭間で最後の時間を待っていた。もうすぐここにも竜の手先がやってきて、彼女を殺すだろう。
だが青い髪をした少女の心に、絶望はなかった。ヒュプノスが滅び、人類とルシェ族が滅ぶ。そうであるからには、いつか竜も滅びる日が来る。
そして竜が不可避なる滅びを内包するのと同様に、自分たちもまた終焉の時を迎えようとしている。早いか、遅いか、それだけの問題。
書架が立ち並ぶ薄暗い通路の向こうから、かつり、かつりと足音が聞こえる。少女にはそれが誰だか分かった。ニアラだ。
真竜の名を冠するニアラ自らがここまで来たということは、つまり、アイテルが地上における最後の生存者だということだろう。
やがて、半ば竜、半ば人間の姿をしたニアラが、暗闇の向こうから姿を現した。
「久しぶりだな、ヒュプノス。ずいぶんとてこずらせてくれたが、そのぶん楽しませてもらった。礼を言おう」
「人間の姿を真似るなんて、趣味が悪いのね、ニアラ」
「彼らは私を大いに楽しませてくれた。最後の一人に至るまで、な。素晴らしい敵にして、最高の餌に、わずかばかりの敬意を払うにやぶさかではない」
「そんな言葉では、私の絶望は引き出せない。絶望には希望が必要だけれど、私の希望は遥か遠い日々の中にしかないのだから」
「所詮ヒュプノスとはそういうつまらん連中よ。人間やルシェのほうが食いでがあった。だが――」
ニアラの口が耳元まで大きく裂ける。鋭い牙が並んだ口が、シュウシュウと音を立てた。笑っているのだ。
「連中の絶望をたらふく食ったら、久々にヒュプノスの絶望も味わってみたくなった」
ニアラが指を鳴らす――ようなそぶりをすると、薄暗がりの奥から一人の男が姿を現した。途端に、それまで無表情だったアイテルの顔が凍りつく。
「勇者様ご一行が持っていた剣を再分解して、そのうちの一人を再構成した。さぞ会いたかっただろうと思ってな」
そこにはタケハヤの姿があった。アイテルが心を捧げた男。そして無限にも近い時間、その側に身を置きながらも、指一本触れることができなかった恋人。
「くく、喜んでいただけたようだな? 安心したまえ、彼の狂気は私の管理下にある。なにしろ私が創ったのだからな!」
「――アイテル。君なんだね? 生きていてくれたんだね? 会いたかった。本当に、本当に会いたかった」
タケハヤがうわごとのように愛の言葉を呟きながら、アイテルに近寄る。アイテルは反射的に一歩退こうとして、その場で動けなくなった。
彼がタケハヤではないことなど分かっている。そしておそらくはここに来るまでに、無数の人間を殺してきたのだろうことも分かっている。でも。でも。
とまどう彼女を前に、タケハヤは困ったような顔をして立ち止まる。
「――アイテル? もしかして、君は――俺の事を、もう愛してはいないのか……? 確かに俺は、君の愛を失うに相応しいことをした。だがそれは――」
青い髪の少女は、激しく首を横に振る。
「アイテル、君のことを愛してる。今度こそ、もう二度と離さない。二人で一緒に、静かに生きよう。これから先、俺の戦いのすべては君のためのものだ」
タケハヤとアイテルは、一歩ぶんの空間を残して向かい合った。互いに、互いの瞳を見つめあう。
アイテルは何度も口を開きかけては閉じ、開きかけては閉じ、その様子をタケハヤは静かに見守り続けた。
アイテルの手が拳を握り、開き
下唇を小さな歯が噛みしめ
何回も何回も深呼吸を繰り返し――
そして
そして、アイテルが一歩を前に踏み出し、タケハヤはその身体をしっかりと抱きしめた。
不思議と、彼女の心に絶望はなかった。もう、世界は終わったのだ。その最後の時間に、ほんの僅かな奇跡を祈って、何が悪いのだろう?
そう思うと同時に、彼女は自分のささやかな絶望がニアラに食われていることを意識した。
でも、止められなかった。そこには、漠たる幸福感だけがあった。
タケハヤの手が彼女のマントを剥ぎ取り、チュニックのボタンを引きちぎって、ボディスーツのジッパーを性急にひき下ろしたときも、そこに絶望感はなかった。
彼の両手が、あまり発育のよくない胸の上をまさぐり始めると、陶然とした快感が立ち上がってくる。
気がつけばこぶりな乳房の乳首は痛いほど突き立ち、下腹部が傍目にも分かるくらいに熱と潤いを持ち始めた。
タケハヤがズボンを脱ぎ棄てる。人ならぬ力を与えられた彼は、その男性自身もまた戦闘能力に劣らぬ強暴さを見せ付けていた。
彼は青い髪の少女の腰を両手で支えると、淡い翳りの中に自身の巨大な幹をつきたてる。アイテルの両足が爪先立ちになった。まだ完全には準備ができていなかったアイテルは痛みを訴えたが、その声にはたっぷりと甘さが忍んでいる。
目じりにうっすらと涙を浮かべながら呻く少女の口を、タケハヤの唇が塞ぐ。二人は両手を互いの肩にまわし、互いの舌を貪った。唾液の糸が口の端から垂れ、胸元へと滴っていく。
くちづけを交わしたまま、タケハヤは下半身を蠕動させ始めた。身体の深奥を突かれたアイテルは、必死で彼の首にしがみつく。
ピストンは最初からハイピッチで繰り返され、かろうじてつま先でたっているアイテルの両足があっというまに痙攣しはじめる。ボディースーツが一撃ごとにずり落ちていき、やがて彼女の足元に落ちたが、そんなことはどちらの意識にもとどまらなかった。
アイテルはひたすらに身体の中を突き刺され、突き上げられ、捻られ、抉られ続ける。卑猥な音を立てながら体が上下するたびに、言葉にできない快感が彼女を支配していた。
絶頂を極めるどころの騒ぎではない――最初の絶頂は、彼と身体が繋がったその瞬間に、既に訪れていた。全身が燃えるように熱く、どこを触られても頭の中が真っ白のなりそうな快感が走る。
激しい突き上げで乳首が胸板に擦れればそれだけで達し、彼女を抱きしめる強い手が腰から背中に回ればそれだけで達した。
両足は細かく痙攣し続け、タケハヤを抱きしめる両手はガクガクと震えている。太ももには愛液がとめどもなく流れ落ち、ボディスーツをぐっしょりと湿らせていた。
アイテルの瞳が焦点を結ばなくなってしばらくして、タケハヤが思いつめたような表情で天を仰ぐ。腰の動きが激しさを増した。
「――アイテル! おお、アイテル!」
朦朧としていた少女は、愛する男の呼び声に答える。
「タケハヤ……タケハヤ……」
「アイテルっ! アイテル……っ!」
「タケハヤ……」
やがて男は動きを止め、女は唇をわななかせた。
がくり、とタケハヤの膝が崩れる。放心していたアイテルは一緒に床に倒れた。
「……タケ、ハヤ?」
彼は息をしていなかった。
「うそ……うそ、タケハヤ……やだ、やだ、やだああああっ! タケハヤっ!!」
のそりと、大きな人影が動く。
「おやおや、タケハヤ君の命数が尽きたか。やはり死んだ者を無理矢理動かすのには限界があるな」
舌なめずりしながら、ニアラが囁くように言った。アイテルは呆然とした表情のまま、床に倒れた恋人の身体を揺すっている。
「いや、いや、いや、いや、実に美味。ヒュプノスの絶望など、人間のこってりとしたまろみ、ルシェの爽やかな酸味に比べれば萎びたサラダのようだと思っていたが。
いいだろう、アイテル。もうしばらく、私のために生きるがいい。そしてその絶望を私に食わせてみよ。なに、お前が本当に絶望するのは、これからだ」
ニアラの眼が光る。と、どこからともなく、何十人ものタケハヤの姿が現れた。
「エデンを攻略するのに、一人では足りなくてな。そうれこの通り、いくらでも代わりはいる」
青い髪の少女は、呆けたような顔でタケハヤたちを見た。
「アイテル――」
「アイテル、愛しているんだ――」
「アイテル、やっと会えた――」
何十本もの手が、アイテルに伸びる。地面に四つんばいになったアイテルの口には巨大な怒張が突きこまれ、背後からは別のモノが彼女を狩り立てた。乳房を、背中を、尻を、太ももを、たくさんの手が愛撫する。
少女は、無上の快楽に悶えながら、どうして自分は気が狂わないのだろう、どうして絶望が自分を殺してしまわないのだろうと考え、
そして死にたいと思っても死ねないので――
そのうち、アイテルは考えるのをやめた。
最終更新:2013年04月19日 20:38