カザンを襲撃した帝竜を、誰かが倒したあの日からどれ程経ちましたか……。
それでも全てのドラゴンを撃退した訳ではなく、ハントマン達はそれぞれ竜退治に遠征に行く者や、
街にフロワロが蔓延らないようフロワロ刈りに精を出す者がいる。
斯く言う自分もハントマンな訳ですが、ヒーラーを生業としている分外より内での方が忙しい。
ドラゴンが来る前からイカス治療院で手伝いをしているけれど、以前よりも怪我人や病人が目に見えて増えている。
稀に息絶えた人も運ばれて来ますが、そういう時は黄色い影が音もなく近付いてきて。
「あら、イキのいい死体じゃない、ねぇカガミくん、ちょっとこれ貸してくれないかしら」
目敏くかっ攫いに来る、それに活きって……。
「貸しませんよ、何する気ですかスゥさん、いいから貴女はクゥさんと用意をしてきて下さい」
貴女のやり方は遊びが過ぎるんですよ、大事な患者を持って行かせられません、
なので付いてきた青いのと一緒に早々に捌けさせる。
「失礼を、それで施術はどの位ですか?
全快だとその分高く付きますけど、起こすだけなら安く済みますよ」
そうして様々な人達の治療をしていたある日の事──。
「鑑、明日から出る、用意をしておけ」
「はい? なんです唐突に」
広場で休憩中、鏨さんが突然現れ淡々と話し始める。
聞けば何やら遠出の用で旅路のケアに私が必要だとか。
まあこれは、ギルドに籍を置く際の要件ですからいいとして、気掛かりなのは二人の事……。
連れていくかどうか悩んでいると、そこに件の黄色い三つ編みと青いルシェ耳を見付けて。
「スゥさん、クゥさん、ちょっといいですか」
手を招いて二人を呼び寄せ、事情を伝える。
「──と言う訳でこれから数日、鏨さんとネバンプレスまで行って来ますので、二人には留守を頼みますね」
「え-」
間髪入れずに揃って非難の声が上がる。
「え、じゃあ来るんですか? ……別に私は構いませんけど」
「行かないわよ」「いかない」
早ぇよ。
……気を取り直して話を続ける事にして。
「まぁそうですね、大陸を渡るわけですから結構危ないでしょうし、その方がいいかもしれませんね」
するとスゥさんは何やら少し考える素振りを見せ。
「やっぱり行くわ」
よく解らないが意思を変更する。
「ん? 来るんですか」
「色々と見たいものもあるし」
「つれてけ」
続いてクゥさんも気が変わったようだ、何故に?
「だ、そうですが……」
今のやりとりを見ていたであろう鏨さんに承諾を伺う。
「……俺は別に構わん、兎に角明日出立だ」
そんな返事が帰ってきた、あ、言う事言ったら行くんですね。
……まあ、二人が近くにいても遠くにいても不安な事に変わりは無いんですよね。
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……そしてその道中、鏨さんが船にて飛び魚の群れに噛まれてあっさりと出血死した。
──最初の仕事が傷の治療よりも先に蘇生ってのはどうかと思いますよ。
そんなこんなで西大陸に着いてすぐの港町、ゼザでまた準備を整えて、そこから砂漠を渡る事に。
ヨーバー大滑砂では細いの二人をそれぞれ担いで渡る途中、自分が先導してドラゴンその他から必死に隠れようとしているのに、
後ろで半端ない殺気を放っているのは何故ですか鏨さん!?
そりゃあクゥさん担いで貰ってますけれども、そんなに怒らないで下さい、気付かれますって。
で、何はともあれ無事に流砂を渡り切った矢先、今度は大蠍に石化させられてるわ。
孔雀に惑わされて三人掛かりでやっと正気に戻したりと……。
──なんだこれ、怪我よりも蘇生回数のが多いじゃねぇか。
私らを守る為なのかも知れませんが、いや、この人がそんな事考えるとはとても……。
まあ暴れ馬二頭を伸して手懐けていたのは凄かったですけど、そのお陰で移動が結構楽に。
等と色々あったが、ネバンプレスに着いた早々。
「ぐぁっ!!」
「カガミ君、ちょっといい?」
後ろ髪を思い切り引かれてスゥさんに呼び止められる、話を聞くとクゥさんと二人で行動がしたいと言うので、
城壁の外に出ない事を始め、……言い出したらキリがないが、諸々を条件に送り出す。
──大丈夫ですかね、面倒事を起こさないで下さいよ……。
一人も嫌ですし、私はクエストオフィスへ行くと言う鏨さんに付いて行きますか。
──しかしネバンプレスには初めて来たけれど、殆どが石造りの建物で堅固な印象を受けるな、
それに雪も結構積もるほどに寒い中子供たちが外で遊び、家々の前には様々な表情の雪だるまが立っている、
治安は良い方なんですね。
そんな事を思いつつ後に続いてクエストオフィスに入ると、旅するメイドの人を見掛け。
「どうも、お久し振りです、ゼザ以来……ですか」
気さくに声を掛ける、でも貴女、私達より後にゼザを出た筈じゃ……。
「あら、貴男は、色々な所で逢うものですね、
……これも何かの縁ですし、とっておきの技を教えて差し上げますわ」
「取って置き……ですか」
「とりあえず、建物の中では実演出来ないので、外に行きましょうか」
メイドさんに連れられて、湖の近くに来た所で。
「この辺りなら、被害は出ませんわね」
彼女はそう呟いて振り返り、どこから取り出したのか麺棒で素振りをしてから。
「さあ、危ないので一回しかやりませんよ、よく見ていてくださいね」
メイドさんは肩慣らしを終えると、その麺棒の端を両手で持ち半身に構え説明を始める。
「先ず、楽に構えて体全体に流れるマナや気を意識してください」
その正面に立っていると、段々後頭部辺りにチリチリとした感覚や、下腹の辺りに重い感触が顕れる。
──うわぁ、構えてるだけなのになにこのプレッシャー。
なので正面から離れて見る事にする、…………まだ何もしていないのに疲労感が。
「あら、そこからでいいんですか? ……それでは次に、直接打ち込む部分に意識を集中させてください、
私の場合これですね、でもそれだけじゃいけませんよ、ちゃんと体の方も維持していてくださいね、……行きますよ!!」
その途端メイドさんは天高く跳び上がり、数秒後光の尾を残しながら高速で降りてくる。
そして地面に激突して……。
ドゴォォォォォォ!!!!
物凄い轟音や衝撃と共に地面が割れ、空高く土柱が立ち上る。
そしてその土煙の中からメイドさんが現われて。
「これがアースブレイカーです、こう……、アースがブレイクなんです、コツとしては、
……ないですね、集中を途切れさせなければ出来ると思います、さ、どうぞ」
どうぞって、……取り敢えず見様見真似でやってみますか。
足を肩幅に開き、一対の旋根に改造したウォーハンマーを構え、マナを練る。
次に打ち込む部分、旋根を意識し回転させ、速度が乗ってきた所で跳躍して……振り下ろす。
結果は旋根の先が少し地面に埋まる位で、先程の様な威力はない、そもそもこれは重さで埋まった感じがある。
「まあ、始めはそんなところですわね、自分のやりやすい動きを見つければいずれ完成しますわ、
それでは失礼しますね」
そう言って、メイドさんは去っていく、て言うかあの中から土埃が殆ど付く事なく出て来てたんですね……。
埃まみれの自分と見比べて、改めて彼女の実力に驚嘆する。
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それから数刻、森に入って何度か試行を繰り返し、一休みしていた時。
「ん? 何か……」
後ろから何かが来るような感じがして、振り返り目を凝らすとライノがこちらへ向かって来るのが見えた。
「おぉ、マズイな」
息を殺し、身を隠せそうな木の影に身を潜める。
そのままやり過ごせればいいのですが……。
しかし、ライノは通り過ぎず、歩みを止めて草を食み始めた。
「…………」
──何故そこで止まる、おっかねえなおい……。
恐る恐る様子を窺い、まだ自分には気付いていない様子を見て、一息つく。
「大丈夫そうですね、なら気付かれる前に離れないと」
言うが早いかその場から走り出す、あれは嗅覚や聴覚が良い方だから早いとこ行かないと……。
急ぎながらも細心の注意を払いつつ森の外へと駆ける。
森から出たところで後ろを確認する、ライノは……いない、逃げ切れたみたいですね。
そこで気が弛んだのか、誰かにぶつかり押し倒してしまう。
その際触れた部位に女性らしき事に気付き後ろに飛び退く。
「うわぁ!! ごめんなさい、失礼しまし……っ!?」
言葉を失った私の前に居たのは……。
鳥人種だった。
──今度はハーピーか! 思いっきり見つかりましたし距離が近い、しくじったな……どうする。
「────────!!」
手を考えている内に、一際高い声でハーピーが鳴く、すると相手の速度が目に見えて速くなった。
まずいな、逃げられない……か。
腰に提げている旋根を取り様子を窺う、ハーピーは高速で旋回し、一体なのに全然逃げ道がない。
待っていても埒が開かない、しかし相手の機動が速すぎて手の出しようが無い……。
もうあれか、アレだ、カウンターで叩けば撃退出来るかもしれない、教えてもらったあの技ならなんとかなるだろう。
半ば自棄だが守備に重点を置いて構え、教えを反芻する、……速いな、目で追うのがやっとじゃないか。
たまに円周から外れて襲撃してくるのをギリギリ往なしてはいるが、意識を得物に集中させる程の余裕が無い、
半端な攻撃は躱されるだろうし、一矢報いるには……。
その時ふとメイドさんの言葉を思い出した。
──自分のやりやすい動きを見つければいずれ完成しますわ──
やりやすい動き……確かにあの時もこいつに気を流すのはしっくりこなかった、
でも、日頃の治療でマナの扱い自体は慣れている。
なら、無理に腕のその先に送らないで、拳で直接打ち込むのはどうだろう。
試してみるか……。
襲撃の頃合いに合わせ、旋根を投げ付ける。
当然躱されたが、まあこれは当たれば僥倖と言う程度のモノだ、
必要なのはそれを躱すためにスピードを落としたところを全力で殴り飛ばす事。
注意を逸らしたその頭部に拳を……打ち噛ます。
「──入った、……けどなんか違う、まあ結果オーライだ」
ハーピーが態勢を崩した隙に逃げられるだろうと気配を薄め、先ほど投げた旋根の方へ拾いに走りそのまま一目散に駆け出した。
安全を確認し、ネバンまで戻る途中、一連の出来事を考察する。
──あの技ならハーピーくらいは倒せた筈、また失敗ですか、
それに毎回旋根投げる訳にも行きませんし、どうしたものでしょうね。
そこはメイドさんの言っていた「やりやすい動き」にも関係がありますし、う-む……。
ネバンに戻ってからも、数日頭を捻り続けて、とある改良案を閃いた……。
そして。
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一人別行動中の鏨さんを見付け、事情を話し少し付き合ってもらう事に。
「貴男なら防げるでしょうけど、念のため気を付けて下さいね」
首肯で返事が返ってくる、それを見て少し離れて構え、意識を集中し一点にマナを集める。
「じゃあ、行きますよ」
構えを解き一気に距離を詰め、間合いに入った所で旋根を大きく振り被り……。
∧_∧ アースブレイカー!
_( ´Д`)
/ ) ドゴォォォ _ /
∩ / ,イ 、 ノ/ ―= ̄ `ヽ, _
| | / / | ( 〈 ∵. ・( 〈__ > ゛ 、_
| | | | ヽ ー=- ̄ ̄=_、 (/ , ´ノ \
| | | | `iー__=―_ ;, / / /
| |ニ(!、) =_二__ ̄_=;, / / ,'
∪ / / / /| |
/ / !、_/ / 〉
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ヽ、_ヽ
「あっ……」
──あれ? 入っ……た。
「ごふっ……」
人がくの字型に折れ曲がり夥しい量の血を吐く、慌てて着物の襟を掴んで支えるものの無惨に崩れ落ちる。
「たっ、鏨さん! あ-これは不味いな」
抱き起こして容体を見るが、既に事切れていた。
「…………さてと、蘇生蘇生」
・ ・ ・
「いやすみません、真逆入るとは思いませんでしたよ、取り敢えず治療はしましたので、有難う御座いました」
直ぐに蘇生し、何事も無かったかの様に振る舞う。
鏨さんは起き上がって血を拭い、余り気にしていない様子で私の頭に右手を置く、
この人能く能く人の頭撫でま痛い痛い痛い。
「がぁああああああああ」
頭蓋が割れる程に圧搾される、砂漠の時と似た気圧される感覚と、指の隙間から見える鏨さんの瞳孔が閉じ……切っ……て…………。
雪に顔面を叩きつけられる。
意識が切れる寸での所で解放された様だ。
朦朧とする意識の中鏨さんの後ろ姿を見送り。
「……許してくれたんですかね、危なかったな」
かなり命の危険を感じましたよ。
一先ず技も完成しましたし、後は安定して出せる様になればですね。
……今日はこれ位でやめにしてもう休みましょう。
【EARTH BREAKER・終】
最終更新:2013年04月19日 20:59