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まずは注意点を。

・今回は過去話。(カザン陥落(真OP)まで)
・けしからん表現はやっぱり少なめ。
・ルシェローグがやっぱり シ・ン・シ☆ 

【1.とりあえず、祝杯】

「ではミッション完了を祝しまして……乾杯なんだぜ!」
「かんぱぁ~い」
「かんぱーい!」
「かんぱーい」

 ギルドハウスに新たな帝竜を迎え入れた後、一行は祝杯をあげるため酒場に訪れていた。
 メルケネンスとスズリはビール、センテラとポワワはオレンジジュースを持って杯を軽くぶつけ合う。

「今日はもう無礼講! 酒飲み飯食い鋭気を養うがいい! あぁもう酔っちゃったんだぜポワワー」
「もうー? ケネくんお酒よわぁ~い」
「待て。まだ口つけてないでしょうが」

 早速ビールをテーブルに置きポワワの胸に顔を突っ込ませようとしたメルケネンスを、センテラが素早く押し留める。

「……っぷはぁ~! やっぱり疲れた身体にはこれでやんすね! マスターお代わりでやんす!」

 大ジョッキになみなみと注がれた冷えたビールを一気に飲み干し、スズリは口の周りについた泡を舐め取って幸せそうな顔で言った。
 そんな彼女の横を素早く陣取ったメルケネンスは、スズリの柔らかい頬をつつきながら言う。

「いやいやスズリ、やっぱ疲れた身体にはこの俺の愛に溢れたマッサージだぜ? 時に狼のように激しく揉みしだきそして時にはまるで春風のように絶妙なタッチで優しくとろけさせる」
「マッサージでやんすかー。あたいくすぐったがりでやんすからねぇ」
「ふふふ安心しなくすぐったいのは最初だけ数分もすればお前のそのかーいらしー笑い声が艶かしい喘ぎ声に変わりそれはめくるめくエクスタシーの世かゴフッ」

 メルケネンスの口に大ジョッキが突っ込まれた。
 センテラの手によってである。

「ほら、リーダー一気飲み一気飲み!」
「いっき~いっき~」
「いやまったくごぼごぼ乱暴でごくごくいらっしゃるぷはー。よしそれじゃ食い物の注文と行こうかね。好きなの頼むがいい」
「マスター手羽先! 焼いて塩振ったのでお願いするでござんす!」
「あたしエビフラ~イ!」
「俺女体盛り~!」
「あるわけ無いでしょそんなの!?」

 センテラのその言葉に、メルケネンスは瞳を怪しく輝かせた。

「ほほう、女体盛りをご存知ときたか! センテラも……なかなかどうしてだぜ」
「なっ……!? そ、そんなんじゃないわよ!」
「そんなんじゃない! じゃあどんなんかこのリーダーに教えていただきたく!」
「うっ……そ、それは……」
「にょたいもり~? ってなーに?」

 ポワワまで話に喰いついてきてしまい、センテラは混乱した。
 顔が真っ赤になり、目を白黒させる。
 その様子を面白そうに眺めながらメルケネンスは言った。

「はっはー、真面目なお嬢様だと思ったらなかなかこういうむっつりな一面も! 
 いやいやいいんだ恥じることは無い気にすることは無いんだぜセンテラ。むしろ隠れエ――」

 今度は空っぽの大ジョッキがメルケネンスの口に突っ込まれた。
 宴は続く。


【2.宴も闌】

「エビフライ~……えへぇ~……」
「ポワワ、エビフライ咥えたまま寝ないの」
「うぅ~……♪」
「だ、だめなんだぜぇおまえたちそんな三人同時に俺のぉ……」
「何の夢見てんのよ変態」

 酔い潰れて眠ってしまったメルケネンスに、はしゃぎ疲れて眠ってしまったポワワ。
 酒場の店員であるカリユとともに、センテラは食器を片付けていた。

「何時もありがとうね。こっちの仕事なのに」
「いいのよ。性分みたいなものだし」
「センテラどのはよく働いて気が利くでござんすよ。理想的なお嫁さんでやんすねー♪」
「スズリさん……酔ってるでしょ」
「まだまだいけるでやんすよぉ~♪」
「だーめ。アレだけ飲んだんだしそろそろ止めておいてよ? 幾らなんでも身体に悪いわ」
「了解でござんす~♪ ごちそーさまでやんすよ~♪」

 祝杯をあげるとほぼ確実に行われるメルケネンスとスズリの飲み比べ。
 二人で飲んだとは思えないほどの量を消費しているのをセンテラはしっかりと見届けている。
 スズリが酒に強いといっても流石にこれ以上の飲酒は、センテラのヒーラーとしての責任感が許さなかった。
 それは向こうもわかっているのだろう。
 スズリもあっさりとセンテラの言う事を聞き、幸せそうな笑みを浮かべ、うっとりとした様子で艶やかなため息をつく。

「お嫁さんかぁ。確かにスズリちゃんの言うとおりね~」
「もうっ、からかわないでよ」
「あはは、ごめんごめん。でもセンテラちゃん、三年前を思うと見違えるぐらい変わったね」
「そ……そう?」
「うん。すっごくいい顔で笑うようになった」

 センテラは、眠りこけているメルケネンスとポワワに視線を向けた。
 間抜けで、心底幸せそうな顔で寝こけている二人の姿を見て、思わず笑ってしまう。

「ふふっ……すっごくいい顔で、か……」


【3.出会いは路地裏】1/2

 三年前、まだフロワロが世界を覆い尽くす事のなかった時。
 カザンの路地裏にて。

「何よあんた達!? 何のつもりよ!?」
「そうカッカしなさんな。ただの勧誘だよ」
「いきなり取り囲んで路地裏に連れ込んでのどこが『ただの』なのよ!!! それに、あんた達の誘いは断ったでしょ!?」

 周りを取り囲む男達に鋭い視線を忙しなく向けながら、センテラは怒鳴っていた。

「テラちゃん……」

 後ろにはポワワが怯えた様子で、彼女の服を強く掴んで離さない。
 男達はそんなポワワの姿を見て軽蔑の視線を向けてから、センテラに視線を移して話し始める。

「俺達はそれなりにハントマンとしての腕も立つ。あの『王者の剣』にだって負けちゃいない。……それなりの待遇は用意できるんだぜ?」
「待遇がどうとかいう問題じゃないの! ……別に大きなギルドに入らなくったって私は問題ないのよ!」
「そこのちっこいのと二人だけで十分だと?」
「……そうよ!」

 言い返すセンテラを見て男達は嘲笑する。

「知ってるんだぜ? 依頼をこなすわけでもない、せいぜいこの街から少しも離れてない場所で雑魚を狩るだけで大物を退治するわけでもない……。
 酒場に来てはそこのちっこいのに飯だけ食わしてるモグリみてぇなハントマン生活やってるのはよ」
「っ……!!!」

 センテラの顔が紅潮し、怒りに表情が歪んだ。
 男達はそれを見てもなんとも感じないらしく、小馬鹿にした調子で話を続ける。

「お前さんもハントマンの端くれなら一旗上げたいって願望ぐらい持ってるはずだ。
 そんなタダ飯食いのチビなんて放ってこっちに来いよ? 何時までくすぶってるような状況を脱出させてやろうって俺達は考えてるのに何で――」

 鈍く大きな音が裏路地に響いた。


【3.出会いは路地裏】2/2

 それは手近な場所にあった木製の樽を、センテラが思い切り蹴り飛ばした事によって生まれた音だった。
 ポワワがびくりと身体を震わせて、身を縮ませる。

「……脱出……させて、やろう?」

 歯を食いしばり、顔を真っ赤にして睨みつけているセンテラの姿を見て、男達も少々態度を改める。
 しかしその程度で、彼女の怒りが収まることは無かった。

「何よ……偉そうにッ!!! 余計なお世話よッ!!! 
 『王者の剣』にも負けちゃいない? あんた達みたいな自惚れ集団が追いつけるとでも思ってんの? 寝言は寝てから言いなさいよこの三流ッ!!!」

 一瞬にして、空気が張り詰めた。
 男達の視線は途端に冷たい物となり、センテラの背筋に悪寒が走る。

「自惚れ集団、ねぇ」
「モグリに言われちまったよ」
「どうする?」

 言いながら男達は徐々にセンテラとポワワに迫る。
 後ずさるが、袋小路になったそこに逃げ場は無い。
 戦いの心得があるといっても向こうは男であり、多数。
 ポワワを守りながらこの場を凌ぐ自信は、センテラには無かった。
 怒りに身を任せて相手を挑発するようなことを言ってしまった事をセンテラは後悔する。
 もう1~2歩も近づけば手が届く、それほどまでに追い詰められ、ポワワは恐怖でぎゅっと目を閉じて、逆にセンテラは目を見開き、男達を睨みつけていた。

「っ!?」

 その時、男達の後ろに突如新たな人の影が現れた。
 それは手に持った大きな物体を迷い無く、センテラの目の前に居た男の頭上に振り下ろす。

「むごっ!?」

 男のくぐもった声が響いた。
 それもそのはず、振り下ろされた物体は古びた壷で、男の頭は壷の中にすっぽりと納まってしまっていたのだ。
 壷を被せた張本人である新たな人の影、ルシェ族のローグはセンテラとポワワに軽くウィンクをしてみせる。
 壷を被った男とローグに気を取られていたセンテラは、周りにいた他の男達も転んで石畳に頭を打ち付けていることにようやく気づいた。
 痛みに転げまわっている男達に鋭い視線を向けて立ち、手についた土を払い落としているルシェ族のサムライの姿も見つける。

「さ、こっちだ」

 ローグがセンテラの手を、サムライがポワワの手を引き、お互いが別々のルートを使って路地裏を抜けていく。
 何が起こったのか未だに理解できていないセンテラは、ただ只管、手を引かれるがままに走っていくのだった。


【4.割と最悪な出会いでした】1/2

 わけもわからず駆け出し、辿り着いたのはカザンを出て少し行った先にある森の中だった。
 自分の息が落ち着くのを待ってくれている、目の前のローグに目を向ける。
 なかなかの優男で、微笑を浮かべている。

「あ……なたは……?」
「一部始終見てね、つい助け出したんだぜ。……迷惑だったか?」
「いや……助かったわ……ありがと……。……ポワワは……?」
「連れの可愛らしいお嬢さんか? 安心するんだぜ、俺の仲間がばっちり保護してる」
「そう……ありがと……」
「どういたしまして。美しいお嬢さん」
「……?」

 突然ローグは跪きそして――。

「っ!?」

 センテラの手の甲に口付けを交わした。

「なっなななっ――」

 センテラは口付けをされなかった手を思い切り振り上げ――。

「何すんのよーっ!?」
「へヴんっ!?」

 思い切りローグの横っ面に叩きつけた。
 きりもみ回転を加えて地面に真っ逆さまに落ちるローグ。

「はぁっ……はぁっ……!?」

 明らかに致命傷レベルの攻撃だったが、彼は一瞬で何事もなかったかのように復活し、一瞬でセンテラの前に近づき再び跪く。

「いやーこれだ、まさにこれだ。これこそ捜し求めていた人材性格痛み! 
 ……メルケネンスと申しますてなわけでお嬢さんギルド入って下さいお願いします犬とお呼び下さい」
「ひっ……!?」

 一難去ってまた一難。
 そんな言葉がセンテラの脳裏を過ぎっていた。
 メルケネンスと名乗るこのローグにもう一度ビンタか、それとも蹴り上げを見舞うか迷っているセンテラの前に、新しく二人の人間が現れた。

「テラちゃん!」
「ポワワ!」

 ポワワと、先ほど路地裏で見たサムライだった。


【4.割と最悪な出会いでした】2/2

 サムライに手を繋いで貰っていたポワワは、センテラの姿を見るなり駆け出し、そしてしっかりと抱きついてくる。
 サムライはその光景を見てほっとした様子を見せながらも、頬に真っ赤なビンタの跡をつけているメルケネンスを見て、首をかしげた。

「リーダー、何やってるんでやんす?」
「スズリ。いやなにこの素敵なお嬢様方が是非ギルドに入りたいと」
「なっ……!? バカ言ってんじゃないわよ私はそんなことひとっことも……!?」
「まったまた顔真っ赤にしてー。周りには俺とスズリとそこのおさげの子しか居ないんだから遠慮なくデレっとしてもらっていいんだぜ」
「ワケ判らない事っ……言ってんじゃないわよーっ!!!」
「とろヴぁっ!!!」

 蹴り上げがメルケネンスの顎にクリーンヒット、きりもみ大回転真っ逆さまダイブが決まる。
 しかし先ほどと同じようにメルケネンスはほんの数秒で復活し。

「ふっ……いいキックだぜ」

 にやりと笑い真っ白な歯が輝いた。

「かっこつける所じゃないでしょ!? ……と、とにかく何なのよアンタ!? 何が目的なのよ!?」
「目的はただ一つ! ……お前さんとそのおさげの子を俺のギルドに勧誘することだぜ! 俺はギルド【レーハムナザドゥ】マスターのメルケネンス!」
「あたいはスズリでござんす」
「一ヶ月ぐらい前にできたばっかりのぴっちぴちのギルドだぜ!」
「現在ヒーラーを二人募集してるでやんす!」
「特に突っ込み属性、ツンデレ属性を兼ね備えた接近戦を得意とする女性ヒーラーおよびおさげが似合う可愛らしいヒーラーだぜ!」
「つ、つっこみぞく……? い、意味わかんないこと言ってこっち騙そうたってそうは行かないんだからね!?」
「騙す気なんてこれっぽっちもそれっぽっちも! ただただ純粋に貴女様方を我がギルドに迎え入れできればよろしくしっぽり」
「下心が思いっきり覗いてるじゃないのーっ!!!」
「とヴぃヴぁすっ!!!」

 きりもみ大回転三回目。

「元気な人でござんすねー」
「お、おかしいと思わないのそこのあなたも!? こんな変態!!!」
「いやぁ、リーダーはこういう方でござんすから」
「これぐらい元気だと俺もう大感激。ところでさっきのキックでパンツ見え――」

 四回目。

「変態っ!!! バカっ!!! 色黒っ!!! 長耳っ!!!」
「し、縞々だったんだぜ……っ☆」
「あーもうっ!!! ……ポワワ、行くわよ!!!」

 とんでもない奴に目を付けられてしまった事に心底腹を立て、センテラはポワワの手をぎゅっと握り締めその場を立ち去ろうとする。
 しかし。

「まってよテラちゃん~、この人すっごく面白いのに~」
「ポワワ……!?」

 ポワワはセンテラを引き止め、メルケネンスを指差して笑った。


【5.彼女のツボに嵌まったらしい】


「お兄さん面白いね~。すっごく早口な所とか~」
「はっはー。お褒めに預かり光栄なんだぜおさげのお嬢さん。しかし俺は面白いではなくかっこいいんだぜ」
「え~? 面白いだよぉ~」

 けらけらと笑うポワワの姿を見て、センテラは目を疑った。
 人見知りの激しい彼女が、よりにもよって誰から見ても変人であろう男に対して打ち解けているのだ。

――ポワワが……笑ってる……。

 彼女が自分以外に屈託の無い笑顔を見せているのを見るのは、センテラにとって初めてのことだった。
 それが信じられず、また目の前の男の存在が彼女の笑顔の源であるということも信じられない。
 更に彼女は、センテラにとってはとんでもない事を言い出した。

「ねーねーテラちゃん、この人達のギルド入ろうよー?」
「えぇ!?」
「……だめ?」
「……そ、そうじゃないけど……。ポワワは大丈夫なの……?」
「うん~。あたし、この人達だったら平気だよぉ~」
「ふっ、早速懐かれてしまったんだぜ。全く俺って罪深い」

 ポワワとメルケネンスの二人の間を、センテラは視線は何度も行ったりきたりする。
 そして、小さくため息をついてから答えた。

「……わかったわ。入る」
「おぉ! 美女が二人増えたんだぜ!」
「歓迎するでござんすよ!」
「ただし! ……変な事したら容赦しないわよあんた!」

 びしっとメルケネンスを指差し、センテラは厳しい口調で言い放った。
 メルケネンスはにやりと笑う。

「望む所だぜ!」
「望むなッ!!!」


【6.そんなこんなで、祝杯】1/2

 騒ぎも収まったらしいカザンに舞い戻り、四人は酒場で早速祝杯をあげる。

「というわけでついに我がギルドもメンバーが揃い本格的な活動に乗り出すわけであったりするわけで! 
 ここは一つ皆様方の親睦を深め勢いに任せて身体と身体のスキンシップも図ろうという目論見で……乾杯っ!!!」
「かんぱーい!」
「かんぱ~い」
「か、かんぱーい……」

 大ジョッキになみなみと注がれたビールを、メルケネンスとスズリの二人は煽る様に飲み干す。
 そんな二人を眺めながら、センテラとポワワはリンゴジュースをちびちびと飲む。

「っくはー! 今日の酒はやけに美味いと思わないかスズリ!」
「っぷはー! いやぁまったくでやんす! 今日はなんといってもめでたい日でござんすし!」
「おーいマスターエビフライ四人分頼むぜー。……おうスズリ、今日は飲み比べは無しだぜ」
「承知してるでやんすよ。今日は二人の歓迎がメインでござんすからね」
「財布の中も心細いしな。これからお仕事こなして稼いでいくんだぜ」
「合点承知でござんす!」

 言葉を交わしお互い笑い。
 そしてメルケネンスと立ち上がり、センテラとポワワの方へ向き直った。

「改めて自己紹介させてもらおう! 俺はメルケネンス。ギルド【レーハムナザドゥ】マスターであり愛の伝道士だ!
 ちなみに歳は21! まだ色々と元気が有り余って仕方ない今日この頃ですコンゴトモヨロシク」

 何故かポーズまで決めているメルケネンスに、ポワワは瞳を輝かせる。

「愛のでんどーし? ってなぁに?」
「ふふふ知りたいかねおさげのお嬢さん、言葉で説明するのはちと面倒だからここは一つお嬢さんの身体に直接教えるほうがいや冗談なんだぜフレイル仕舞うんだぜ」
「……ったく」

 早速セクハラ紛いの事をし始めるメルケネンスに、センテラは半ば条件反射で自分の武器であるフレイルを抜き放っていた。
 ポワワからメルケネンスが離れ自分の席に戻ったのを見届けてから、センテラはフレイルを仕舞う。
 その様子を面白そうに眺めていたスズリが同じく立ち上がり、自己紹介を始める。

「それではあたいも改めて。あたいはスズリと申す者でござんす。歳は18で……取り立ててリーダーみたいな異名はないでやんすね」
「俺から捕捉するならばスズリはナイスバディの持ち主って所だぜ。身体のラインを余す所なく披露する肌に密着する黒タイツに、それを覆うのは薄い法被一枚……。更に鈴。首に鈴。これの意味するところは何か! 
 そう! 『プレゼントはア・タ・イ☆』という世の男性諸君が夢見る最高のシチュエーションを何時でも実行できるということなんだぜ!!! 何時俺にそれをしてくれるか今から胸がドキワクですハイ」
「変わった格好だね~」
「これがサムライの格好なんでござんすよ。……最初は恥ずかしかったでやんすが、慣れでやんすね。それに戦うにはこれぐらい身軽なほうがあたいは助かるんで。ともあれ、よろしくお願いするでござんす」
「うん! よろしく~! ……メルケネンスだからぁ……ケネくん! で、こっちがスズリだからぁ……スズちゃんだ~!」
「いやぁ早速愛称を貰えるなんて感激の極み。好感度もぐんぐん上昇で止まる所を知らないね全く」
「ふふ、ありがとうござんす」
「それじゃあ今度はあたし達! ね~テラちゃん!」
「え? ……あ、あぁそうね」

 突然話を振られて、それまでの会話を何気なしに眺め聞いていたセンテラは間の抜けた声を上げる。
 自己紹介の順番は譲るらしく、ポワワが嬉しそうな顔で見ているのが視界に映った。


【6.そんなこんなで、祝杯】2/2

 センテラはのろのろと椅子から立ち上がる。

「えっと……私はセンテラ。歳は15。一応ヒーラーとして足手まといにならない程度の力はある……と思うわ」
「センテラ……あぁやはりその名前の響きまでもが美しく今現在俺の色んなものが燃え上がって来た」
「水掛けるわよ」
「あぁん掛けるなら罵声で、罵声で」
「変態」
「ありがたや☆」
「………………」

 罵倒は逆効果なのが既に判っているのだが、言わずにはいられない。
 それが森の中でメルケネンスの言っていた「突っ込み属性」なのだが、センテラは気づかない。

「それじゃ~次はあたし~」
「ささ、お名前をおさげのお嬢様」
「えへへ……。あたしはね~、ポワワだよ! 歳は~……内緒! 好きなものはエビフライと、お散歩と~、可愛い物と~、テラちゃん!」
「あぁもうこの自己紹介だけで俺鼻血出そう」
「出てるわよ」
「おっと失礼紳士としたことが」

 どこから取り出したのかちり紙で鼻を押さえるメルケネンス。
 そんな彼に代わってスズリが話を受け継ぐ。

「センテラどのに、ポワワどのでやんすね。これからよろしくお願いするでござんす。何か困った事があったら何でもあたいやリーダーに相談してほしいでやんすよ」
「は~い!」
「えぇ、わかったわ」

 にっこりと笑うスズリの姿を見て、センテラは幾分か安心感を抱けていた。
 メルケネンスのような変わり者に付いていくこのサムライにも、一癖も二癖もあるのではないかと心の中では疑っていたからだ。
 どうやらそうではないらしいと気づき、センテラも表情を和らげ笑みを返す。

「鼻血増量した」
「風邪でもひいたでやんす、リーダー?」
「恋と言う病だな」
「………………」

 しかしすぐにメルケネンスの視線に気づいたため、笑みは一瞬で消え、どこか不機嫌そうな表情へ変わってしまう。
 そこで初めてメルケネンスは申し訳無さそうな表情をして見せた。

「ま、おふざけはこの程度にしてだ」
「……?」

 性格は随分と難があるようだが、外見は優男である。
 清々しい印象を持たせる笑顔を浮かべたメルケネンスを直視して、心臓の鼓動音が高くなった気がセンテラはしていた。

「レーハムナザドゥへの加入、歓迎するぜ。これから宜しくな」


7.ポワワの秘密】

「よいしょ……っと」
「ごめんね、スズリさん」
「いやいや、これぐらいどうって事無いでござんすよ」

 歓迎会も終わり、レーハムナザドゥ一行は宿へと戻っていた。
 勿論部屋は男女別で、今部屋にいるのはメルケネンスを除いた三人である。
 はしゃぎ疲れて眠ってしまったポワワをここまで背負って運んでくれたスズリは、ベッドに降ろした彼女に布団まで丁寧に掛けてくれている。

「ぐっすり眠っているでやんすね」
「よっぽど、楽しかったんだと思う。……この子があんなにはしゃいでいるのを見たの、初めて」
「底抜けに明るい印象をあたいは持ったんでござんすが……違うんで?」
「……うん」

 幸せそうな顔で眠りにつくポワワのベッドの脇にセンテラは腰を降ろし、優しくポワワの頭を撫でた。

「……えびふらぁ~……♪」
「………………」

 寝言を呟いている姿を見て、センテラの顔に自然と笑みがこぼれる。

「……この子ね、記憶が無いの」
「記憶が……?」
「うん。歳は内緒っていってたでしょ? ……本当は、わからないの。多分、10歳かもうちょっと上ぐらいだと思うんだけどね。
 ポワワって名前も私が付けてあげたの。……ポータル・セスで一人ぼっちでいた所を私が見つけてね。凄く怯えてて、落ち着かせるのに苦労した覚えがあるわ」

 泣きじゃくり、自分は誰なのかを延々問い続けていたポワワの姿が、センテラの脳裏に蘇った。

「……雛鳥」
「え?」
「今までのポワワを見ててね、雛鳥みたいだなって、よく思ってたの。
 刷り込みってあるでしょう? 最初にこの子を見つけた私だけにすごく懐いて、他の人には怖がって近づこうとしない……そんな子だったの、ポワワって」
「……そんなことがあったんでござんすね」
「だから正直驚いてる。スズリさんには悪いけど、あんな奴にあっという間に懐くなんて」

 それを聞いてスズリは面白そうに笑って見せた。

「はは……それは驚くのも無理ないでやんすよ。あたいもセンテラどのの立場だったらきっと同じように驚いているでやんす」
「でもよかったのかな、きっと。私一人だと、この子を守りきれない時もあったから。……今日のことだって」
「突然リーダーが『ちょっとあいつらに喧嘩売ろうぜ』なーんて言うから驚いたでやんすよ。行ってみてなるほどと思ったでござんすが」
「スズリさん。……ありがとう。本当に助かったわ」
「いえいえ、礼には及ばないでござんすよ?」
「……ほんとはあいつにも改めてお礼を言いたいけど、何言われるか何されるかわかったもんじゃないから、やめとく。ごめんね」
「それも大丈夫でやんすよ。……随分な変わり者でござんしょ? あの人は」

 センテラは少しだけ考える素振りを見せてから言う。

「……変人よね。ふざけてる調子だけど、時たま真面目な顔を見せたり。……なんか、掴み所無いわ」

 スズリはセンテラのその言葉を聞いて、暫く面白そうに笑って見せてから言った。

「全く同感で。……あたいも初めて出会った時は驚いたでやんすが、悪い人じゃないでござんす。ただちょっとお祭り騒ぎが好きなだけだとあたいは思うんでやんすよ」
「お祭り騒ぎ好き、ねぇ……」

 限度があるだろう、とセンテラは思うが口には出さず。
 最初に助け出してくれたときの数十秒間だけ見せた真面目なメルケネンスと、その後に曝け出したお調子者のメルケネンスの姿を頭の中で思い浮かべ、小さくため息をついた。


【8.二人で6~7本空けるとかザラ】

「……スズリさんは、どうしてこのギルドに?」
「あたいでやんすか?」

 センテラの問いに、スズリは耳をピクリと動かし、きょとんとした表情をして見せた。
 そしてすぐににかりと笑い、答える。

「酒場で一人で飲んでたときに突然飲み比べを挑まれて、それをきっかけに、でやんすね。
 ……断る理由も無いし負けたほうが酒代持ちって条件もなかなかでござんしたから、軽く受けたんでやんす。結局無理してあたいと張り合うもんだから最終的にリーダーが思いっきり酔いつぶれてしまって」
「へぇ」
「で、しょうがないから介抱してあげたんでござんすが、次の日目が覚めるなりいきなり『惚れた。ギルドに入ってくれ』って言ってきて。というか襲われたでやんす」
「お、襲われた?」
「えぇ。でも後で本気で襲うつもりはなかったというのが判ったんでござんすけど。相手は二日酔いだし手加減はしたでやんすが、軽く鳩尾に正拳尽きを入れてその場を治めて」
「………………」
「でもこのまま誘いを断ってもまたあたい一人でだらだらすることになるでござんしょ? それにあたい、酒飲み仲間が一人もできないのが悩みだったんでやんす。だれもあたいの酒のペースについてこれなくって」
「スズリさん、お酒好きなの?」
「そりゃあもう! 酒のためにあたいハントマンになったんでござんす! 強さは酒の次!」
「そ、そう……」
「それで話を元に戻すでやんすが、この人だったらあたいの酒飲み仲間になってくれるかも……って思って、ギルドに入ったんでござんすよ。いや~、予感は的中して、すっかりリーダーも今では立派な酒飲み! このギルドに入って正解でござんした♪」

――やっぱりスズリさんもどっか、ずれてる……。

 嬉々とした表情で語るスズリを見ながら、センテラの中での彼女の評価は少しだけ変わった。


【9.何かかっこ悪いし】

「で、でもアイツ結構な変態じゃない? セクハラまがいというかセクハラ発言ばっかりだし! ……お、女としてその辺はどう思ってるの……?」
「え? ……はは、別になんとも思ってないでやんすよ? 女としては、綺麗だ、とか魅力的だ、って言われて悪い気はしないでござんす」
「そ、そうだけど……」

 センテラは目を伏せる。
 女の自分から見てもスズリの体つきは羨ましいぐらいのものだった。
 白い肌、すらりと伸びた手足、はっきりした腰の括れ。
 そして何より、大きくその存在を主張している胸。
 黒いタイツに包まれたその姿は、男にとってはなんとも悩ましいであろう姿である。

「……ね、ねぇスズリさん」
「ん?」
「……それ、ホントにサムライの服……なの?」
「そうでやんすよ? 正真正銘サムライの服でござんす」
「それって誰が決めたの……?」
「うーん、誰がといわれてもちょっと難しいでやんす。昔からの伝統ってやつでござんすね」
「そうなんだ……」

 一度見てしまうとあらゆる所を見てみたくなるのは人の常。
 下腹部の真ん中で小さく凹んでいる箇所、臍を見て更にその下へ視線を移し。
 やはりそこも肌にぴったりと密着し、ラインを露にしているのがわかった。
 そしてセンテラはそこを見てある違和感を感じる。

「す、スズリさん?」
「なんでござんしょ?」
「あの、まさか……穿いて……?」
「……? あ、下着でござんすか。胸はさらし巻いてるでやんすが、下は穿いてないでござんす」
「えぇっ!?」
「……いや、最初はあたいも穿いてたんでやんす。でも……」
「でも……?」

――まさかアイツが「ギルドマスター命令!」とか言って穿けない様にしたんじゃ……!!!

 などと思いセンテラは心の中でメルケネンスを殴る準備を始める。
 フレイルの調子は今日も絶好調。一発で仕留められる。
 心の中で素振りを始めた辺りで、スズリは少しだけ恥ずかしそうにしながら口を開いた。

「……わ、わかっちゃうじゃないでやんすか? 形が浮き出て……」
「へ?」
「それが恥ずかしいから、止めたんでござんす」
「………………」

――絶対穿いてないほうが恥ずかしいと思うわよスズリさん……!!!

 言いたいが、言えない。
 そもそも上手く説得できる自信が無い。

「……そ、そう……ごめんね、変な事聞いて」
「いえいえ、わからないことがあったら何でも聞いてほしいでやんす」
「う、うん。今日はもう無いから、寝よっか……あはは……」

 乾いた笑いを発して、センテラはお茶を濁す事にした。


【10.旅立つ者に祈りを】

「わぁ……ありがとう! これでお守りが作れるの!」
「どういたしまして。そのお守りがあれば、何が起こっても大丈夫ね」
「うん! お兄ちゃんが何時でも元気に過ごせますようにってお祈りもするんだ!」
「健気でやんすねぇ……」

 旅立つ兄のためにお守りを作りたい、という依頼を無事に終えたレーハムナザドゥ一行。
 依頼主である少女の喜ぶ姿を見て、一行は依頼達成の喜びをかみ締める。

「えっと……これ!」

 少女は、作ったばかりのお守りを差し出した。
 センテラは首をかしげる。

「……? 私達に?」
「うん! ……おにいちゃんの分と、依頼を受けてくれたハントマンさんの分も作ろうって決めてたの! ハントマンさん達の旅も、無事でありますように!」
「わぁ~。ありがとう~」
「ありがとう。大切にするわね」

 作られたばかりの真新しい、店で売っているものとは少し違う旅人のお守りを、一行は手に入れた。

「この歳にしてこの気配り。なんとも心の琴線をびんびん刺激するお嬢さんなんだぜ全く」

 そしてお約束のように出てくるメルケネンス。

「そんな賢く可愛く素敵なお嬢さんにお願いだ」
「なぁに?」
「お兄さんにぎゅーっと抱きついてくれたらそれはもう今後の旅も無病息災無事確実ってなもんで一つ――」
「……これでいいわよね……?」
「ギブギブギブタンマタンマ。入ってる入って……がっくーん☆」

 センテラの完璧ともいえるバックチョークが決まり、僅か十数秒でメルケネンスは落ちる。
 そんな様子を少女はただただ唖然とした表情で眺めるのだった。


【11.世界が狂う前兆】

 カザンから下されたミッションにより、ロラッカ森林に訪れたレーハムナザドゥ一行。
 辺りには、可憐な印象を抱かせる美しい花が咲き乱れている。

「うーむ、こりゃ一体なんだ」
「きれ~だね~」
「でも、何か嫌な感じもするわ」
「同感でやんす。……あんまり触らないほうがよさそうでやんすね」
「だな。見た事無い化け物……ドラゴンだったっけな? そんなのも居るらしいし、あまり変なことはしないほうがよさそうだぜ」

 襲い掛かる化け物を軽く蹴散らしながら、一行は最奥へと向かう。
 メルケネンスやスズリは勿論だが、ヒーラーであるポワワとセンテラの二人も果敢に前へ出て敵を打ち倒す。
 ギルド加入まで二人で頑張ってきただけあって、戦闘能力は決してメルケネンスやスズリに劣るものではない。
 メルケネンスが満足そうに頷きながら言った。

「しかし何時見てもヒーラーが前に出て敵を殴り倒す様はいい」
「……そう?」
「だってお前考えてみろよ、ひらひらドレスにカーディガン。片やおさげで超愛らしい美少女に、ヘッドドレスまで装着しちょっと強気で男勝りっぽくでもそこが素敵! 
 な美少女が後方で支援じゃなくて前に出て敵を勇猛果敢に打ち倒す。もうこれだけで俺はエビフライ3皿はいけるね。断言する」
「えへへ~、褒められた~」
「……褒めてるの、それ」
「……リーダー」

 スズリが何時に無く真剣な表情で、前方を見つめている。
 何気なしにその方向へ視線を向けたメルケネンスは、二人の兵士の姿を見つけた。

「ん? ……お、先に調査に来てた兵士達だな。いっちょ挨拶でも……?」

 言いかけて、止める。

「う……へへ……ははは……あああ……」
「ぐ……うぅ……!!!」

 二人の兵士の様子は異常なものだった。
 片や涎をだらだらと垂れ流し、不気味に笑い。
 片や脂汗を掻き、苦しみ悶えている。

「ちょ、ちょっとどうしたのよ!?」
「あは、ははは……ひひ……」
「毒でも貰ったか? ポワゾルなら……」
「ち……ちが、う……。この花は変だ……突然、現れて……こんな……ぐ……あぁぁ……!!!」

 暫く兵士達の様子を見ていたセンテラとポワワだが、どちらも力なく首を振る。
 苦しむ兵士を助ける手段が、今は無いことを嫌でも思い知らされたのだ。
 メルケネンスは、更に森の奥を睨みつける。

「……スズリ、わかるよな」
「勿論でやんす。……とんでもない奴がこの先に居る」
「この妙な花もきっとそいつが原因だと俺は思うんだがどうよ」
「……きっとそうだと思うわ」
「早くやっつけて、兵士さんたち助けよぉ……?」

 苦しむ兵士達の方を何度も振り返りながら、センテラとポワワは言った。

「決まりだな。行くぜ」

 行く手を遮るかのように群生する花を散らしながら、一行は奥へと進んでいく。


【12.はぢめてのドラゴン】

 そして異様な気配を発する場所へ辿り付いた一行は、驚愕する。

「……おいおい何だあれ」
「あれが……ドラゴンでやんすか……!?」

 まるで巨大な蜥蜴に翼が生えたようなフォルムの生物が、小さな広場に咲き乱れる花の中心に鎮座している。
 刃のようにも見える翼、細長く鋭い尻尾、鋭く巨大な牙。
 そして、血走った黄色い瞳。
 今まで戦ってきた連中とは明らかに雰囲気の違うその生物に、一行は思わず足を止めた。

「あの時の熊なんか可愛く見えるじゃない……!」
「すっごく強そう~……」
「うーむ。がむしゃらに突っ込んでも、負けるな」
「でも、今倒さないとあの兵士達が……!」
「勿論そうだぜ。少し待ってくれ。何とか工夫してアイツを……」

 メルケネンスは静かに目を閉じて、長考の構えに入る。
 まるで別人のように思えるその姿を見て、黙っていればいい男を地で行く存在なのだとセンテラは確信する。
 暫くしてメルケネンスは小さく声を上げて、センテラとポワワのほうへ向き直った。

「アレしか無いぜ」
「アレって……アレ?」
「あぁ。長期戦にはぴったりだろ?」
「でも……上手くできるかなぁ~……?」
「通用するのかしら……」
「効くさ。あれだって形はあんなんだが生物に違いは無いだろ。多分。……大丈夫、お前達ならできるぜ」

 極自然にメルケネンスは笑って見せた。
 この緊迫した状況での彼の笑みは、いくらかの緊張を解す手助けとなる。
 センテラとポワワは、顔を見合わせ、そして同時に頷いた。

「……わかった。やってみる」
「うん……あたしも頑張る」
「それでこそだぜ。いいかスズリ……かくかくしかじかでへのへのもへじでだ」
「ふむふむ。……あぁなるほど。……了解でござんす!」
「というわけでスズリにも伝達完了」
「え、あれで判るのスズリさん!?」
「ばっちりでやんすよ?」
「すご~い」
「細かい突っ込みは後だぜ。俺達がひきつけるからその間に何とか頼む」

 強大な敵に勝利を収めるには自分達にかかっている。
 それをメルケネンスの言葉でセンテラとポワワは再認識して、もう一度頷いて見せた。


【13.実際のプレイでも毒とカウンターは強かった】

「仕掛けるんだぜ!」
「でやぁぁぁっ!!!」

 全速力でメルケネンスとスズリは駆け出し、真正面からドラゴンに対して攻撃を仕掛けた。
 ドラゴンが迎え撃とうと構える前に、短剣と拳による攻撃が決まる。
 ドラゴンは怒りに打ち震えた咆哮を上げ、血走った目つきで二人を睨むと、低空飛行を行いながら翼や鋭い尻尾で攻撃を始める。
 狙いが正確で、早い攻撃に二人はいくつもかすり傷を作る。

「思ったより早いな!」
「でも退くわけにはいかないでやんす!」
「なぁにこんなのは……当たらなければだぜ!」

 息がぴったりと合った動きで、二人は縦横無尽に駆け回りドラゴンを混乱させている。
 時たま挑発のように攻撃を入れる二人のおかげで、ドラゴンの注意は完全にセンテラとポワワから離れた。
 彼女達に背を向けたのだ。
 ドラゴンが完全に背中を向けたのを確認し、センテラとポワワは精神を集中させる。
 頭の中で思い描くのは、花。

「ベノム!」
「べのむ~!」

 見るからに毒々しい花がドラゴンの足元から突如現れた。
 名も無き小洞に現れた凶暴な熊を仕留めるときに初めて使った毒の術、ベノム。
 その威力は、戦いに敗れ命からがら逃げ出すハントマンが続出してしまったような相手をいとも簡単に仕留めてしまうほどだった。 
 それをまたここで、再びドラゴン相手に仕掛けたのだ。
 突然の事にドラゴンは戸惑った様子を見せて、そして花から噴射された毒の霧をまともに吸い込んでしまう。

「効いた~!」
「これでOK!」

 ドラゴンは苦しげな鳴き声をあげながらも、目の前に居るメルケネンスとスズリへ攻撃を続けている。
 しかしそれはもう、攻撃としては些か甘い物に変わっていた。
 毒の苦しみで狙いが緩慢になったそれは、メルケネンスにとっては容易く回避できるものであり、スズリにとっては絶好の攻撃チャンスだった。
 スズリは拳を構え。

「ハッ!!!」

 攻撃を軽く弾き、明後日の方向へ翼を振らせる。

「タァッ!!!」

 そして無防備になったドラゴンの腹に拳を叩き込んだ。

「ナイスだスズリ!」

 たまらず翼をはためかせ空へ逃げようとするドラゴンへ、メルケネンスが駆ける。
 高く飛び上がり、ドラゴンの翼を切り裂き、地面に着地すると同時に再び駆け、脚の腱を切り裂く。
 バランスを崩し、地面に倒れるドラゴン。
 毒も十分回っているのか、もがき苦しむだけで最早敵意を向けることなど忘れてしまっているようだった。
 だんだんとドラゴンから力が抜け、もがく動作も弱弱しいものへと変わっていく。
 ――そして、数分の経過の後に、ドラゴンはその動きを止めた。


【14.嵐の前の】

「倒せた……?」
「……みたいでやんすね」
「ごめんねぇ~……」
「うーむ、まさかこうもあっさりと。毒は偉大だぜ」

 一行は武器を収め、距離はしっかりと保ちながらドラゴンの死体をじっと見つめる。
 その時、突如ドラゴンの身体を眩い光が包み込んだ。

「っ……なに!?」
「光!?」
「わ~」
「うおっまぶしっ」

 その眩い輝きに一行は視線を腕で覆い隠す。
 暫くして光が収まったのを感じ取り、恐る恐る腕を退けた一行が見たものは。

「あれ~……ドラゴンさん、居なくなっちゃった~……?」
「消えた……?」
「花も全部消えてるでやんす」

 まるで最初からそこには何も無かったように広がる、静かな森の広場だった。
 咲き乱れていた花も、ドラゴンも消え、明るい空が顔をのぞかせている。

「……うーむ、よくわからないがとりあえず解決だな。さっきの兵士をカザンに送り届けて報告して、ちと早いがその足で祝杯と参りましょうかね諸君」
「了解でござんす!」
「あの人達、大丈夫だといいんだけど……」
「いこ~!」

 苦しんでいた兵士のもとへ急ぎ歩く一行。

「………………」

 その途中、メルケネンスはふと歩みを止め、上空を見上げる。
 晴れ渡る青い空は何時も通りそこにあるが、メルケネンスは怪訝な表情を見せる。

「なんか……不安になる青に見えるんだぜ」
「リーダー! 早くー!」
「置いていくわよー!」
「ケネくーん!」

 しかしその表情も、仲間達の声が掛けられた事で消える。

「おぉぅ、今行きますともマイハニー達。やれやれモテる男は辛いね、はっはー」

 気のせいだ、そう自分に言い聞かせながら、何時もの軽口を叩きながらメルケネンスも森を後にするのだった。


【15.現実】

 これは夢だと誰もが思った。
 これは嘘だと誰もが思った。


 どこを見ても、あの不思議な花が咲き乱れていた。
 どこを見ても、暗く赤い空に沢山の黒いシルエットが乱れ飛んでいた。


 奇跡が起こると誰もが思った。
 英雄の存在があるからこそ誰もが希望を捨てなかった。


 大統領が剣を掲げ、兵士達が声を張り上げ。
 英雄達が、空を睨む。


 これは夢だと誰もが思った。
 これは嘘だと誰もが思った。


 カザンは、墜ちた。

こんばんは。
最近やっとトンボの驚異に触れてレハナザの面々も大苦戦です。
このメンツで裏ボスも倒したいところです。呆けさせずに真正面からのガチバトルで。

なんだか面白そうなので由来を投下させていただきます。
基本思いつきで考えているため具体的なモデルは存在しなかったりしますけど……。

【メルケネンス】
ポワワが彼につける愛称を「ケネくん」とするのは、彼の名前が出来る前に決まっていたため
ケネの二文字が入る名前に、としたらこうなりました。

【センテラ】
同じくポワワがつける愛称「テラちゃん」から発展させこの名前に。
センテラオイルなるものが存在するのを知ったのはつい昨日。
思いつきでつけると後でびっくりするのは私にとってはよくあること。

【スズリ】
侍だし和風っぽく、と考えるまもなく書道道具に目がいき。
硯からそのまま取りました。

【ポワワ】
キャラグラに対して私が持つイメージから。
ぽわぽわっとした感じしませんか。

【レーハムナザドゥ】
文字を入れ替えてみると二つの単語になります。
もちろん名付けたのはメルケネンス。

以上です。
裏ダンジョン挑戦中のため執筆がスローになっています……申し訳ない。
それでは、失礼します。 

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最終更新:2013年05月04日 22:58