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くんくんくん - (2007/04/05 (木) 17:09:29) の最新版との変更点

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くんくんくん  国境に変わった出で立ちの男が一人。 烏帽子に狩衣、腰には大太刀。あまり神聖巫連盟では見かけない装いだ。 「あんた名前はなんていうの?」 国境警備の男がダルそうに尋ねる。 「有馬 信乃(ありま しの)と申します」 希望に満ち溢れた瞳。警備員のダルそうな様子は信乃の目に入らない。 「そうかい。じゃあ、このまま政庁に向かってくれ」 国民になるための最終手続きは、政庁でするという。 お礼を言って、信乃は国内に入った。 国境を抜けたとき、どこからか甘い匂いがした。 くんくん、くんくん なんとなく、匂いを追い始める。 くんくん、くんくん どれほど歩いただろう。 信乃は大きな木造の建物の前に立っていた。 そばにあった茶房<巫>で信乃はお茶と団子を頂いた。 (さっきの建物はなんだったんだろう) 気になったが、どこか厳粛な場であるように思え、中には立ち入らなかった。 (でも、いい匂いだったなあ~。けーき?いや、もっと香ばしかったなあ~) 思い出してじゅるりとなる。 ともあれ、お団子食べたら政庁に向かおう。 でも、政庁ってどこにあるんだろう。 そう思ったときだった。 「雹さん、まじで?」 「うん。仕事が増えた。新しいアイドレスを増やすことになったらしい」 説明している雹(ひょう)と呼ばれた男も、拳を握り締め、ぷるぷる震えている。 「作業が、作業がー」「うおー」 2人で言いながら叫んでいる。 迫力におされて、視線がはずせないまま固まる信乃。 なんかよくわからないが、大変らしい。 「うん?見かけない顔だな。どこからきたんだ」 信乃の視線に気づいてさちひこが話しかける。親しみやすい雰囲気だ。 「あぁっと……、にゃんにゃん共和国、から来ました」 「遠くからだな。観光か?」 「いえ、国民希望なのですが、政庁がわからなくて」 「じゃあ、俺案内するよ。そっちの仕事もやってんだ」 信乃はありがたく、お願いすることにした。 「じゃあ、雹さん、俺政庁にいってくる」 「おう、気をつけて」 雹は手を振って送り出してくれた。 さちひこに連れられて行ったのは、先ほどの大きな木造の建物。 「ここが政庁だ。こっちから入るんだぞ」 「はい」 長い木造の廊下を歩く。右へ左へ、あちこち曲がる。 きょろきょろしながら後を追う信乃。 「そういえば、名乗ってなかったな。俺はさちひこっていうんだ。さっきいたもう一人は雹さん。俺たち技族をやっている」 「技族の方だったんですか」 「よかったら、信乃さんも技族になるといいぞ」 ずいぶん歩いたところで、 「もうじき着くからな、……ん!?」 さちひこが振り返ったとき、信乃の姿はなかった。 「あれ?さちひこさん?」 気が付くと信乃はひとりだった。 (どうしよう。このまま動かないほうがいいのかなあ。それとも…) そんなときだった。 また、どこからか、甘い香りがただよってきた。 くんくん、くんくん、 気づくと信乃はにおいを追っていた。 政庁の台盤所。 今日も摂政、七比良 鸚哥(ななひら いんこ)がこもっていた。 しふぉんけーき事件から一月と少し。 週2~3回自ら作成して、時には姫巫女様とみぽりんを菓子作りに誘って、 というふうになんとか落ち着かせた。 こちらが菓子作りの主導権を握ることによって、二人を満足させながら、摂政としての仕事と我が身の安全を守る。 (もう食中毒寸前の目はごめんだからな) 思い出すと泣けてくる。 摂政とは、どこのくにでもこんな感じなんだろうか…(いや違うはずだ!) 今日は、明日製作予定のくっきーを試作していた。 生地は摂政が作ってしまい、姫巫女とみぽりんには型抜きを楽しんでもらう。 焼けたらその日の午後のおやつでお出しする予定である。 (そろそろ焼けたかな) 窯を開けると、香ばしく、甘い香りがたちこめる。 (どれ、味見) 適当にひとつ取って口に入れると、ばたーの豊かな風味が口に広がる。 「うし、完成」 視線を感じて振り返ると、香りにつられた信乃がそこに立っていた。 「………」 「………」 続く沈黙。 そのとき、きゅ~と信乃のお腹が鳴った。 「あ…」 「………、くっきー、食べますか」 「………。はい」 「なるほど、迷子ですか。たぶんさちひこさんは入国管理室にいると思いますよ。案内しましょう」 「はい。よろしくおねがいします」 ごちそうになった後、包んでもらったくっきーを手に、信乃はその男についていった。 「ここですよ。じゃあ、私はここで」 「ありがとうございました」 ぺこりとおじぎをして別れた。 「いたいた~!どこにいってたんだ」 さちひことはすぐ会えた。 ずいぶんあちこち探してくれたようだ。 息が切れている。 「ごめんなさい。気づいたらさちひこさん、いなくて」 「まあ、見つかってよかった。国境から書類届いてたんで、入国手続きしておいた」 「ありがとうございます!」 「謁見の申し込みもしたから、姫巫女さまにも会ってもらう」 「姫巫女さま?」 「神聖巫連盟の藩王さまだよ。おっと、もうじき時間だ。行こう」 謁見室手前で、さちひことは別れた。 謁見室。 取次ぎの者が、信乃を中まで案内する。 広い室内。 一段高いところにゆったりすわっていらっしゃる女性。 そして、脇でひかえるのは…。 (あ、さっきの、くっきーの人だ) くっきーの人は信乃を見てにこっと微笑む。 「姫巫女さま、本日の国民希望のものでございます」 くっきーの人が、姫巫女に説明する。 姫巫女がうなずく。 「私はこの国の摂政、七比良 鸚哥です。そしてこちらが姫巫女であらせられる」 「藻女(みずくめ)と申します。これからどうぞよろしく」 姫巫女の柔らかくも凛とした笑み。 信乃は胸が熱くなった。 「有馬 信乃です。よろしくおねがいします」 ふかぶかと頭を下げる信乃に、姫巫女が言った。 「有馬 信乃さん。あなたの入国を認めます」 こうして信乃は神聖巫連盟に迎えられたのだった。                       おしまい
くんくんくん  国境に変わった出で立ちの男が一人。 烏帽子に狩衣、腰には大太刀。あまり神聖巫連盟では見かけない装いだ。 「あんた名前はなんていうの?」 国境警備の男がダルそうに尋ねる。 「有馬 信乃(ありま しの)と申します」 希望に満ち溢れた瞳。警備員のダルそうな様子は信乃の目に入らない。 「そうかい。じゃあ、このまま政庁に向かってくれ」 国民になるための最終手続きは、政庁でするという。 お礼を言って、信乃は国内に入った。 国境を抜けたとき、どこからか甘い匂いがした。 くんくん、くんくん なんとなく、匂いを追い始める。 くんくん、くんくん どれほど歩いただろう。 信乃は大きな木造の建物の前に立っていた。 そばにあった茶房<巫>で信乃はお茶と団子を頂いた。 (さっきの建物はなんだったんだろう) 気になったが、どこか厳粛な場であるように思え、中には立ち入らなかった。 (でも、いい匂いだったなあ~。けーき?いや、もっと香ばしかったなあ~) 思い出してじゅるりとなる。 ともあれ、お団子食べたら政庁に向かおう。 でも、政庁ってどこにあるんだろう。 そう思ったときだった。 「雹さん、まじで?」 「うん。仕事が増えた。新しいアイドレスを増やすことになったらしい」 説明している雹(ひょう)と呼ばれた男も、拳を握り締め、ぷるぷる震えている。 「作業が、作業がー」「うおー」 2人で言いながら叫んでいる。 迫力におされて、視線がはずせないまま固まる信乃。 なんかよくわからないが、大変らしい。 「うん?見かけない顔だな。どこからきたんだ」 信乃の視線に気づいてさちひこが話しかける。親しみやすい雰囲気だ。 「あぁっと……、にゃんにゃん共和国、から来ました」 「遠くからだな。観光か?」 「いえ、国民希望なのですが、政庁がわからなくて」 「じゃあ、俺案内するよ。そっちの仕事もやってんだ」 信乃はありがたく、お願いすることにした。 「じゃあ、雹さん、俺政庁にいってくる」 「おう、気をつけて」 雹は手を振って送り出してくれた。 さちひこに連れられて行ったのは、先ほどの大きな木造の建物。 「ここが政庁だ。こっちから入るんだぞ」 「はい」 長い木造の廊下を歩く。右へ左へ、あちこち曲がる。 きょろきょろしながら後を追う信乃。 「そういえば、名乗ってなかったな。俺はさちひこっていうんだ。さっきいたもう一人は雹さん。俺たち技族をやっている」 「技族の方だったんですか」 「よかったら、信乃さんも技族になるといいぞ」 ずいぶん歩いたところで、 「もうじき着くからな、……ん!?」 さちひこが振り返ったとき、信乃の姿はなかった。 「あれ?さちひこさん?」 気が付くと信乃はひとりだった。 (どうしよう。このまま動かないほうがいいのかなあ。それとも…) そんなときだった。 また、どこからか、甘い香りがただよってきた。 くんくん、くんくん、 気づくと信乃はにおいを追っていた。 政庁の台盤所。 今日も摂政、七比良 鸚哥(ななひら いんこ)がこもっていた。 しふぉんけーき事件から一月と少し。 週2~3回自ら作成して、時には姫巫女様とみぽりんを菓子作りに誘って、 というふうになんとか落ち着かせた。 こちらが菓子作りの主導権を握ることによって、二人を満足させながら、摂政としての仕事と我が身の安全を守る。 (もう食中毒寸前の目はごめんだからな) 思い出すと泣けてくる。 摂政とは、どこのくにでもこんな感じなんだろうか…(いや違うはずだ!) 今日は、明日製作予定のくっきーを試作していた。 生地は摂政が作ってしまい、姫巫女とみぽりんには型抜きを楽しんでもらう。 焼けたらその日の午後のおやつでお出しする予定である。 (そろそろ焼けたかな) 窯を開けると、香ばしく、甘い香りがたちこめる。 (どれ、味見) 適当にひとつ取って口に入れると、ばたーの豊かな風味が口に広がる。 「うし、完成」 視線を感じて振り返ると、香りにつられた信乃がそこに立っていた。 「………」 「………」 続く沈黙。 そのとき、きゅ~と信乃のお腹が鳴った。 「あ…」 「………、くっきー、食べますか」 「………。はい」 「なるほど、迷子ですか。たぶんさちひこさんは入国管理室にいると思いますよ。案内しましょう」 「はい。よろしくおねがいします」 ごちそうになった後、包んでもらったくっきーを手に、信乃はその男についていった。 「ここですよ。じゃあ、私はここで」 「ありがとうございました」 ぺこりとおじぎをして別れた。 「いたいた~!どこにいってたんだ」 さちひことはすぐ会えた。 ずいぶんあちこち探してくれたようだ。 息が切れている。 「ごめんなさい。気づいたらさちひこさん、いなくて」 「まあ、見つかってよかった。国境から書類届いてたんで、入国手続きしておいた」 「ありがとうございます!」 「謁見の申し込みもしたから、姫巫女さまにも会ってもらう」 「姫巫女さま?」 「神聖巫連盟の藩王さまだよ。おっと、もうじき時間だ。行こう」 謁見室手前で、さちひことは別れた。 謁見室。 取次ぎの者が、信乃を中まで案内する。 広い室内。 一段高いところにゆったりすわっていらっしゃる女性。 そして、脇でひかえるのは…。 (あ、さっきの、くっきーの人だ) くっきーの人は信乃を見てにこっと微笑む。 「姫巫女さま、本日の国民希望のものでございます」 くっきーの人が、姫巫女に説明する。 姫巫女がうなずく。 「私はこの国の摂政、七比良 鸚哥です。そしてこちらが姫巫女であらせられる」 「藻女(みずくめ)と申します。これからどうぞよろしく」 姫巫女の柔らかくも凛とした笑み。 信乃は胸が熱くなった。 「有馬 信乃です。よろしくおねがいします」 ふかぶかと頭を下げる信乃に、姫巫女が言った。 「有馬 信乃さん。あなたの入国を認めます」 こうして信乃は神聖巫連盟に迎えられたのだった。       作・みぽりん                おしまい

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